原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼちゃん

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4.ヤトウモリとの出会い(2)

 カキに現在の状況をスクールで聞いたククイ博士は、2人でヤトウモリがいる場所まで小走りで向かっていた。

 

「連れて行こうとしても頑なにその場所から動かないポケモンか……」

「はい、みんなでどうにかしてポケモンセンターに連れて行こうと思ったんですけど……どうしても暴れて元の場所に戻るんです」

 

 ククイ博士が難しそうに呟くと、カキは疲れたようにそう答えた。試しにバクガメスがガッチリ抱えて連れて行こうとしたら、本気で暴れられてしっぺがえしを受けたのだった。

 

「あの、博士。さっき見て何となく変だなと思ったんですけど……あのヤトウモリ、本当に森に住んでたんですか? もともとそこに住んでたら、普通森の中に入ってそう簡単に見つけられなかった気が」

 

 カキはほんの少しためらってからそう言った。本来ならククイ博士が現場に着いてから言うべきことだとも思ったけれど、カキとしてはみんなに聞こえないようにこっそり聞きたかったことでもある。

 

「確かにな……」

 

 博士は言葉少なめにそう言う。多分あのポケモンがヤトウモリでなければ、カキもそこまで気にしなかっただろう。でもアーカラ島に住んでいるカキだからこそ気づく違和感があった。

 

「まあ、とにかくヤトウモリの様子を見に行こう。話はそれからだな」

「はい、博士」

 

 2人で頷きあって道を走る。

 しばらくするとクラスのみんなが集まっている背中が見えた。サトシとジョーイさんもすでに到着していたようだった。

 

「みんな、遅れてすまない。ジョーイさんもありがとうございます。それで……ヤトウモリは?」

「それが、そこでずっと動かないままです……」

 

 ミヅキが困ったように視線でヤトウモリの方を示した。森と道を分ける木の柵のそばにずっと這った状態で座り込んでいる。なるほどな、と呟くと次に博士はジョーイさんに質問をした。

 

「ジョーイさん、お聞きしたいんですが……あのヤトウモリはオスですか?」

「ええ、あの子はオスね」

「そうですか……」

「あの、ククイ博士……あの子はやっぱり」

「ええ」

 

 ジョーイさんと博士はお互い何かを察したように悲しみが混じったような険しい顔をした。そして博士はクラスの皆の方へ向き直ると「みんな、ちょっとこっちに来てくれるか?」とヤトウモリから少し離れた場所にみんなを誘導した。

 

「博士、何か分かったんですか?」

 

 サトシが確信めいた表情をしてそう聞くと、博士は神妙な顔をして話し始めた。

 

「もしかするとあのヤトウモリは……トレーナーから捨てられたポケモンなのかもしれない」

『えっ!?』

 

 その言葉にサトシとカキを除いたクラスメイトがびっくりした表情になる。

 

「やっぱり……そうなんですか?」

「えっ、カキもわかるの!?」

 

 みんなが驚く中、怒りが入り交じった表情でそう言ったのはカキだった。マーマネが心底意外そうに聞き返す。

 

「ああ、アーカラ島だと割と有名なんだが……ヤトウモリ……特にオスは、トレーナーから捨てられやすいポケモンなんだ。うちの近くの街でも一時期問題になったことがある。本当に許せない」

「なんでそんなこと……」

 

 ミヅキが呟くと、それに答えるようにロトムが説明を始めた。 

 

『ピピッ、もしかするとこれが原因かもしれないロト。“ヤトウモリのオスは メスの ほぼ いいなり。 獲った エサも ほとんど 貢ぐので 栄養不足で 進化 できない 遺伝子を 持つ”』

 

「そう、ロトムの言うとおりヤトウモリのオスは進化できない。だから……そのことを知らずに育てた心ないトレーナーから逃がされてしまうこともある。生息地じゃないミヅキの家の近くにいて、衰弱していたのもそのせいかもしれない。環境が変わりすぎて自分で餌を取れなかったんじゃないか」

 

 今日の授業で博士が言った通り、ヤトウモリは基本的に火山の岩場に住むポケモンだ。森はあのヤトウモリが過ごすには難しい環境だったのだろう。と博士はあたりを付けた。

 

「ああやってひたすら動かずに待っているのも、捨てられたポケモンによくあるケースの1つだ。うまく逃がせずに、すぐ戻ってくると騙してそのままいなくなる。本当に、やりきれないことだけどな……」

 

 ククイ博士は遠目でヤトウモリを見つめながら苦虫を噛みつぶしたような顔をした。

 

「ってことは、あのヤトウモリは進化できないからってトレーナーに見捨てられちゃったってこと!?」

「ひどい……! ひどすぎます!」

「そんなのってないよ……」

 

 マオが信じられないという風に声を上げると、リーリエとスイレンが憤ったように続けて言う。ミヅキはちらりと遠目でヤトウモリの方を見た。こちらに目線を移すこともなく、道の先をずっと見つめていた。

 

「じゃあ、ヤトウモリはこれからどうなるの……?」

 

 もしトレーナーから見捨てられたのが正しいのなら、永久にここでひたすら帰ってくるのを待ち続けることになるのだろうか。それを想像してミヅキは胸が締め付けられる思いがした。

 

「怪我を治して、どうにかして野生に返すことになるだろう。いつヤトウモリの気持ちが変わるかはわからないが……」

「なら、わたしが世話します! ヤトウモリがここを離れたくないなら家も近いし、気が済むまでここに通って世話するから! いいでしょ? 博士!」

 

 ミヅキは無意識に口から言葉が出ていた。かつてないくらい必死に博士に頼みこむその表情は真剣だった。ヤトウモリを放っておけない。助けてあげたい。たまたま出会っただけの怪我をしたポケモンに何でこんなに心を動かされるのだろう。ミヅキは自分自身驚いていた。

 

 ヤトウモリが目を覚ました後は側にいてあげて? それはミヅキにしかできないこと。

 スイレンがそう言っていたことを思い出す。きっとこれがポケモンのためにわたしが今できることなのだ。

 

「ああ、わかった。でも必ず普段通りスクールには通うこと。お母さんにちゃんと事情を説明して心配させないこと。それが条件だ。できるか?」

「はい!」

 

 ククイ博士は諭すように言った。それに対してミヅキは力強く頷いた。

 

「ミヅキ、ファイトだよ!」

「わたしたちも手伝います」

「当然! もし何かあったら言って! わたし近所だから」

 

 女子3人が次々にミヅキに声を掛けた。

 

「もちろん俺たちも頼れよな! な、サトシ、マーマネ」

「おう! 当然だろ?」

「ま、まあミヅキ1人じゃ頼りないからね」

 

 マーマネが仕方ないなという風にそう言うと、マオがジト目でマーマネを睨んだ。

 

「……マーマネェ? 一言多い」

「うっ……ご、ごめん」

 

 怒っているわけではないけれど、マーマネのひねくれた部分に突っ込みを入れるのはマオであることが多い。マオはクラスの中でも皆が仲良くやれるように気を遣ってくれている。これはまだ付き合いの浅いサトシとミヅキもなんとなく分かっていた。

 

「アハハ……でもマーマネの言うとおりやっぱ1人だと不安だし。ありがとう、みんな」

 

 ミヅキはくすりと笑いながらそう言う。言いたいことをちゃんと言えるのはそれだけ仲良くなれたということかもしれない。

 

「それなら、私からもお願いしようかしら。ミヅキちゃん、毎朝スクールに行く前にポケモンセンターにヤトウモリの様子を報告して欲しいの。そうしてもらえると、こちらとしても助かるわ。もちろん薬が必要なときはこちらで用意するから」

「わかりました。ジョーイさん!」

 

 こうしてミヅキは毎日スクールに行く前にヤトウモリに朝ご飯のきのみをあげて、ポケモンセンターに報告してからスクールに行くことになった。もちろん帰りも同じようにご飯をあげてから家に帰る。

 

 

…………

 

 

 それから数日が経った。

 

「みんな、また明日ー!」

 

 ポケモンスクールの教室。いつも通り終業の鐘が鳴ると、ミヅキはすぐに荷物をまとめてバタバタと教室を出て行った。すでにおなじみになったその光景に、みんなも特に驚きも無く挨拶を返す。

 

「ミヅキ、毎日頑張ってますね」

「うんうん。何もできることがないから、せめて気が済んで野生に帰れるまで、ヤトウモリのことを見守ってあげるんだーって言ってたけど……そんなことなくて、それはミヅキにしかできないことだよね」

 

 リーリエとマオから見て今のミヅキはとっても生き生きとしているように見えた。怪我したポケモンを看病するという理由とはいえ、一生懸命に頑張っている友達を応援するのは2人にとって嬉しいことだった。

 

「あ! そうだ……今日ミヅキにオボンの実分けてあげようと思ってたのに忘れてた……」

『マッジィ』

 

 マオは突然それを思い出してがっくり肩を落とした。アマカジがそれを慰める。ミヅキは毎日ヤトウモリ用のきのみを用意しているので差し入れにしようと思っていたのだ。せっかく家から持ってきたのになあ。するとそれに気づいたスイレンが声を掛けた。

 

「マオちゃん、それならわたしが届けに行くよ。ミヅキと帰り道同じだから、ついでに」

「えっホント? ありがとう~! スイレン、流石あたしの親友!」

「マオちゃん大げさすぎ……でもヤトウモリのこと気になってたし、丁度よかったかも」

 

 スイレンが苦笑しながらそう言うと、サトシが2人に声を掛けた。

 

「あ、スイレン。それなら俺もついていくよ! 俺も近所だしさ」

「うん、いっしょに行こ! サトシ!」

『アオッ!』『ピカピ!』

 

 2人の足下でアシマリとピカチュウも嬉しそうに鳴いた。モクローは寝ていた。

 

 サトシとスイレンはミヅキの家の近くに住んでいるご近所さんでもある。といっても田舎基準なので実際のところは割と距離があるけれど。ちなみにスクールへの距離はミヅキ、サトシ、スイレンの順に遠い。

 

「わたしも行きたいんだけど家の手伝いがね……ハァ」

「俺もだ……こういう時になると家の手伝いがちょっと面倒に感じるよ……」

 

 マオとカキがため息をつきながら言う。ヤトウモリのことが気になるのは皆同じだ。

 

「あ、雨降ってきた」

 

 マーマネが気づいたようにそう言った。みんなが外に目をやると小雨が降り始めている。今日は一日中曇り空だったけれど、雨予報ではなかったのでみんな傘を持ってきていなかった。

 

「えー? 今日の朝のテレビでは雨降るって言ってなかったんだけどなあ。傘持ってきてないよ」

『ピカチュ……』

 

 ずぶ濡れになるのを想像してサトシとピカチュウはげんなりしたような顔をした。

 

「まあ僕は持ってきてるけどね! 僕の作った天気予報プラグラムはテレビより正確なのさ」

『モキュキュ!』

 

 どんなもんだいと誇らしげな顔をしながらマーマネは言った。トゲデマルはよくわかってないけれどマーマネが嬉しそうなのでその場で機嫌良く飛び跳ねる。原理は説明されても理解できないけれど、マーマネの作るプログラムはすごいというのはみんな知っている。

 

「かがくのちからってスゲー! ほんとマーマネってすごいよな」

「ま、まあね」

 

 マーマネが満更でもないように言う。

 

「サトシ、雨強くなる前に行こ! うちの傘貸すから」

「あ、おう! みんなじゃあな!」

 

 きのみの入った手提げ袋を手にして教室の出口からスイレンとアシマリが急かすようにサトシを呼ぶと、サトシとピカチュウもそれについて教室を出ていった。

 

「2人ともきのみお願いね~!」

「俺たちも降られる前に早めに帰るか」

「そうだねえ。カキはリザードンに乗らなきゃだし飛んでる間にずぶ濡れになるかもよ」

 

 マオがスイレンとサトシの背中に声をかける。カキとマーマネはそう言うと帰る支度を始めた。

 

「あ、そういえばカキのリザードンって雨の日はどうしてるんですか? 尻尾の炎とか大丈夫なんでしょうか」

 

 リーリエが思いついたように言う。今までさほど気にしたことがなかったけれど、そういえば、と気づくと気になることだった。カキは毎日リザードンに乗ってスクールと家を行き来している。そしてリザードンの尻尾の炎は水に浸かったりして消えると死んでしまうと言われていた。

 

「大丈夫だ。俺のリザードンの炎はヴェラの火口のように常に燃えさかっているからな。雨程度じゃびくともしないぜ。雨の日の配達だってへっちゃらだ」

「やっぱりカキとリザードンはすごいです!」

「伊達に毎日特訓してないね!」

 

 リーリエとマオがそう言うとカキは苦笑した。

 

「まあ、リザードンは島キングだったじいちゃんのパートナーだからな……。俺ってよりはじいちゃんが偉大だったのさ」

 

 カキのリザードンはかつて島キングだった祖父のパートナーポケモンだ。今では一戦を退きライドポケモンとして実家の作っているモーモーミルクを毎日一緒に配達しているが、バトルの実力はまだ衰えを知らない。カキとバクガメスはそんなかつての祖父とリザードンのコンビに少しでも近づけるよう毎日特訓を欠かさないのだ。

 

「あ! 雨ちょっと強くなってきたよ。みんな早く帰ろ!」

 

 マオが外をちらりと見て慌てたように言う。傘を持ってきているマーマネや車で帰るリーリエ、気合いでなんとかしそうなカキに対してマオは傘がないので走って帰らなければいけない。

 

 そうしてその日は教室でみんな「また明日」と言い合ってお開きとなった。

 

 

…………

 

 

 帰り途中に雨が降ってきたので、ミヅキは一度家に傘を取りに戻ってからいつもの場所へ行った。何の変哲も無い森のそばの道。

 そこで相変わらずヤトウモリは道の先から何か来ないかをただ見ていた。雨が降っても森に隠れることもなく、身体が雨に濡れても気にすることもない。

 

「あなた、ほのおタイプでしょ? 雨の中そんなところにいたら風邪引いちゃうよ……」

『シュウウ……』

 

 ヤトウモリはちらりとミヅキの方を一瞥すると、静かに唸り声のような返事をした。

 ミヅキにはポケモンの言葉はわからない。だから自分もやりたいことをすることにした。

 

 ミヅキはヤトウモリの後ろにしゃがんで、自分の傘の下にヤトウモリを入れた。逃げることはなかったけれど、ヤトウモリはただただずっと誰も歩いてこない道の先を見つめていた。ここはリリィタウンの外れ。家もなければお店もほとんどないから、人通りもほとんどない。拾ってもらえる可能性が低い場所でポケモンを捨てたのは、せめて野生に帰って欲しいということなのだろうか。

 

 ミヅキは思う。

 

 こんなにずっと待っているほどに懐いてたのに、どうして……?

 

 あれから数日経った。でも結果は同じだ。

 あなたの待っている誰かは、たぶんもう帰ってこない。そんな残酷な言葉が頭に浮かんでは消し去る。そんなことは言えない。あんまりすぎる。いったい誰がどうしたらこのポケモンの心を救えるのだろう?

 

「おーいミヅキー!」

「あ、サトシ、スイレン……来てくれたの?」

 

 ミヅキがしばらくしゃがんでそのまま考え事をしていると、上から声をかけられた。サトシとスイレンが傘をさしてそこにいた。

 

「うん、わたしたち家近いから。これ差し入れ。マオから!」

 

 スイレンが手提げ袋をミヅキに渡した。中にはいくつかオボンの実が入っている。マオからヤトウモリとミヅキへの差し入れだった。

 

「ありがとう! ほらヤトウモリ、オボンの実あげる」

 

 そう言ってミヅキはオボンの実をヤトウモリの前に置いた。だいぶ警戒心も薄れたのか、ヤトウモリは素直にそれを口に運ぶ。

 

「お、ヤトウモリ、だいぶミヅキに慣れてきたみたいだな!」

「うんうん、すごい素直!」

 

 サトシとスイレンがにっこり笑ってそう言う。毎日世話したかいがあったのか、ちょっぴりミヅキはヤトウモリとの距離が近づいたような気がして嬉しかった。

 

「2人ともありがとね。雨降ってるのに」

「気にすんなよミヅキ! 俺も昔さ、今のヤトウモリに似てるヒトカゲに会ったことがあるんだ。だから、放っておけなくてさ」

「えっ、サトシも?」

 

 ミヅキとスイレンが意外そうにサトシの顔を見る。2人ともサトシが沢山の地方を旅して色んなポケモンと触れ合ったことがあるというのはなんとなくわかっているけれど、その全てを知っているわけではない。

 

『ゲットしたポケモンに『迎えに行くから』なんて嘘をついたら、死ぬまでお前を待ち続けるんだぞ!』

 

 かつて一緒に旅をしていたタケシが心ないトレーナーに言っていたことをサトシはよく覚えている。このヤトウモリも同じようなことを言われたのだろうか?

 

「うん、ヒトカゲもさ、こんな風に雨の日でもずっと誰かを待ってたんだ。弱って尻尾の火も消えそうで……でもそれから仲間と一緒にヒトカゲを助けて、色々あって俺の仲間になってくれたんだ」

「初耳。いまどうしてるの? そのヒトカゲ」

 

 その先が気になるようでスイレンがそう聞いた。

 

「今はリザードンに進化して……修行中でさ。たまに駆けつけてくれるんだけど会う度に強くなってるから本当にすごいんだぜ! 俺もあいつに相応しいトレーナーになれるようにもっともっと強くなりたいって思ってる」

『ピッカァ!』

 

 サトシが感慨深げにそう言うと、ピカチュウも力強く鳴いた。

 サトシはかつての自分とヒトカゲのように、どうにかミヅキとヤトウモリが一緒に生きていくところを見たいと思っていた。

 

 サトシは本当に眩しい。ポケモントレーナーというのはこういう人のことを言うのだろうか。ミヅキはそう思った。

 

「すごいね、サトシは。わたし、何がこの子にとって一番いいのかわからないんだ。何もできないから、こうやって見ていることしかできなくてさ……」

「ミヅキ……」

「この子を引き取ることがいいことなのかもわからない。まだ待ってる誰が帰ってくることを信じてるのに、諦めろなんて言えないから。だめだね……わたし、やっぱり自信がないんだ」

 

 わかりやすく悪いトレーナーに捨てられたとかなら割り切れるのかもしれないけど、そうでなかったとしたら? 何か事情があってヤトウモリをここに置いていくしかなかったとしたら……。そもそも引き取ったところでわたしはヤトウモリに対して責任を負えるのか? そんな考えがぐるぐると頭を巡っていて、なにも答えが出てこないのだった。

 

「ミヅキ、やってみなきゃわかんない。だろ?」

「えっ……」

 

 それは前にミヅキが「自分にポケモンを育てられるのか」と言ったときにサトシから掛けられた言葉だった。サトシの瞳はミヅキを一直線に射貫いていた。サトシは一欠片の疑いもなくミヅキがヤトウモリを育てられることを信じている。

 

「だってミヅキ、ヤトウモリのこと気に掛けてずっと世話してたじゃん! 自信持てって!」

「そうだよ! みんなすごいって思ってるんだよ? ヤトウモリのこと一生懸命お世話してるミヅキのこと!」

 

 今日も雨の日なのにわざわざヤトウモリが雨に濡れないように見守っている。ちょっと気になる、くらいではそんなことはできない。

 

「そう、なのかな」

「そうだよ! もっと自信持った方がいい! ミヅキは!」

 

 スイレンはあえて強い口調で言った。

 ミヅキはポケモンを持っていないことに負い目のようなものを感じているのか、どこかみんなより自信が無いように見えるときがあった。これはポケモンに触れないリーリエにも同じような事が言えるのだけれど、女子4人で過ごすことが多いのでスイレンはよりミヅキのそんな感情を察知していた。

 

 自信。持っていいのかな。できるのかな。わたしに……。

 

 スイレンの言葉に後押しされるようにして、ドキドキしながらミヅキはヤトウモリの正面に回って顔を見据えた。ちらりとスイレンとサトシの方を見やる。2人は力強く「うん」と頷いた。

 

「……ヤトウモリ、あなたが誰かを待ち続けてるのはわかってる。でも、ずっとそこで待ってるわけにもいかないでしょ?」

 

 そう言うと、ヤトウモリとミヅキの目が合った。緊張で言葉に詰まる。一度深呼吸して、ミヅキは落ち着いて自分の考えていることを話した。

 

「私の家、ここのすぐ近くだから……だからさ、それまでわたしと一緒にいてみない? あなたが待ってるその人とまた出会えるまで」

 

 どれくらい経っただろう。

 ヤトウモリはしばらく悩むような素振りを見せたが、やがて首をコクリと縦に振った。

 

 こうしてこの日からミヅキの家には新しい居候が1匹増えたのである。

 




ヤトウモリ♂が捨てられやすいポケモンっていうのは完全に独自設定。ミラクル交換で中途半端に育てられたヤトウモリが良く回ってきたんだよなあ……
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