原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼ

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アニポケ8話あたりのお話。例の如く長かったので2つに分けました。
読みやすさのためちょっと改行を意識したりタグを使ってみたりしたよ。
色んな書き方を試してみたい。

※途中ホラー演出注意


5.リーリエ、タマゴ係になる(1)

 昼休みを告げるスクールの鐘が鳴った。

 

「うーん……」

 

 みんながそれぞれ弁当を取り出す中、不安そうな顔をしながら唸るリーリエの目の前には白いポケモンのタマゴがあった。

 ついさっき校長室でナリヤ・オーキド校長から渡されたそれが、今リーリエの机の上に置かれている。

 

 ラナキラマウンテンで見つかったタマゴと、サトシがカントーのオーキド・ユキナリ博士から頼まれて持ってきたというタマゴ。この2つをそれぞれクラスのみんなと校長が育てて孵化させる。というのが今日の午前中の授業だった。

 

 昼はみんなで世話すればいいけれど、夜は誰かが家にタマゴを持ち帰る必要がある。

 そこでみんなで相談した結果、ポケモンに触れないリーリエがポケモンに慣れるために夜は世話をすることになったのだった。

 

「リーリエ、何か心配事?」

 

 タマゴとにらめっこしているリーリエに気づいてミヅキが近づいてきた。

 

「さっきは勢いでできるって言っちゃいましたけど……実際のところわたしにできるんでしょうか……タマゴすら触れないのに……」

 

「いやーリーリエなら大丈夫でしょ」

 

「そうでしょうか……」

 

「うんうん」

 

 ミヅキは軽く笑みを浮かべてそう言った。悩んでいる人にみんなして寄り添ってもリーリエは余計気負うだけな気がしたので、適当にそう言うことにした。

 

 詳しくは誰も知らないけれど、リーリエはとある事情からポケモンに触ることができない。ポケモンのタマゴであってもそれは変わらないらしい。

 

「リーリエってクラスの誰よりもポケモンの知識あるし……タマゴの知識だってそうじゃん? それにポケモンに触れなかったとしても、ポケモンのこと大好きだし。だからみんなリーリエに安心して任せられるんだよ」

 

「はい、もちろんポケモンのことはスキです! えっと……観察対象として!」

 

「観察対象ね~……」

 

 いじっぱりだなあ。触れないけどスキでいいじゃんね。とミヅキは思う。リーリエは自分の感情に何かと理由をつけることが多い。論理的結論として、という言葉もよく聞く。

 

 ミヅキも席に戻って弁当を開けると、ついこの間めでたくミヅキの家の居候になったヤトウモリが肩にぴょんと乗っかってきた。

 

「おぶっ」

 

 おもわず変な声が出る。ずしりと肩が重くなりなんともミヅキはげんなりした気分になった。まるで辞書を肩に乗っけているような感じ。

 

「ヤトウモリ、いきなり肩乗るのやめてよね……重い……」

 

『シュウウ』

 

「はあ……はい、お昼のオボンの実」

 

 ミヅキが嫌そうな顔で呟いてもヤトウモリはどこ吹く風だ。居候になって態度がでかくなったのは気のせいだろうか。なんか舐められてる気がする。それを見てマオがくすりと笑う。

 

「ふふ、ミヅキとヤトウモリ、もうすっかりパートナーみたいだね」

 

「そうかなぁ? なんかすごいないがしろにされてる気がする……」

 

 ミヅキはジト目でヤトウモリをちらりと見る。

 ヤトウモリというと、気にすることもなく肩に乗っかったままボリボリとオボンの実を食べていた。

 

 ため息をつくと、ミヅキは隣の席で弁当を一心不乱に食べているサトシを見た。そういえばサトシはいつもピカチュウを肩に乗せてたっけ。

 

「ねえ、サトシって平気でピカチュウ肩に乗せてるけど重くないの?」

 

「え? そんなこと考えたことなかったな~……なあピカチュウ」

 

 床でポケモンフードを食べているピカチュウは『ピカ?』と何を言ってるのかよく分からないといったふうに鳴いた。

 

「ああ~はい。サトシに聞いたわたくしがわるうございましたよ」

 

 ミヅキはやれやれとオーバーに両手を広げた。授業で分かったことだけれど、サトシの身体能力はミヅキと天と地ほどの差があるので全く参考にならない。

 

 都会育ちのミヅキは体力も身体能力もない。なんならマーマネより体力ないかもしれない。となんとなく心の中で思っている。

 

『およそヤトウモリの体重は4.8kg、ピカチュウの体重は6.0kgロト。当たり前のようにピカチュウを毎日肩とか頭に乗せてるサトシの身体能力は特筆すべきものがあるロト』

 

「ピカチュウの方が重いんかい……ホントどうなってるのサトシ?」

 

「うーん……わかんない!」

 

 肩どころか頭に乗せてるのはヤバイとミヅキは思う。サトシみたいに色んな地方を旅するとそんなカイリキーみたいな身体能力が手に入るのだろうか。

 

 そんなふうに考えながらなんとなく納得できない顔でミヅキは今日の弁当を食べ始めた。

 

 

…………

 

 

 そして午後の授業が終わり、放課後。

 

 今日はタマゴを触れないリーリエの付き添いとして、この後予定のないサトシとミヅキが家までタマゴを運ぶことになった。特にヤトウモリの怪我が完治した今、ミヅキは放課後やることがなくてめっちゃヒマだった。

 

 3人で車に乗り、ハウオリシティを抜けてしばらくすると森の中に入る。

 

「リーリエん家って、あとどれくらい?」

 

「もううちの敷地に入っていますよ」

 

「え、敷地?」

 

「家の中ってことだよ~」

 

「ええええ! リーリエの家ってこんなに広いの!?」

 

 リーリエの家まで車に乗り、広大な敷地に入った途端にサトシは仰天した。その反応にリーリエはすこしだけ照れくさそうだった。

 

「その反応わかる……わたしも前来た時びっくりしたし」

 

『リーリエの家は本当にお金持ちロト』

 

 サトシが一通りびっくりしていると、やがて大きな館の前で車が止まった。その前ではぴっちりとしたスーツを着こなした初老の男性が出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ。リーリエお嬢様、ミヅキさんもよくいらっしゃいました」

 

「ただいま、ジェイムズ!」

 

「ジェイムズさん、おじゃまします! あ、こっちは居候のヤトウモリです」

 

 ミヅキは『ミヅキにアローラっぽい服を着せる会』で既にリーリエの家に来たことがあったので、ジェイムズとは面識があった。

 

「こちらはクラスメイトのサトシくんと、パートナーのピカチュウ、そしてロトム図鑑よ」

 

「いらっしゃいませ。サトシさん。当屋敷の執事をしております、ジェイムズと申します」

 

「おじゃまします!」

 

『ピーカァ!』

 

『よロトしく!』

 

 3人が元気よく挨拶する。

 

「大変申し訳ないのですが……ポケモンのヤトウモリ様とピカチュウ様は中庭にてお待ち頂けますでしょうか」

 

「えっ?」とサトシが意外そうな反応をした。

 

 それを見て、あ、そっか。とミヅキは思い出した。リーリエはポケモンに触れないので館の中にはポケモンは入れないのだ。前女子4人で来た時もスイレンのアシマリとマオのアマカジは中庭で遊んでいた。しかし今日はジェイムズの言葉をリーリエが遮った。

 

「いいのよジェイムズ! 今日はみんなわたしのために来てくれたのだから!」

 

「さようでございますか……では、こちらへ」

 

「いいのリーリエ?」

 

「いいんです! みんなからタマゴを預かったのですから。わたしも頑張らなければいけません!」

 

 リーリエはサトシとミヅキに両手でガッツポーズを見せた。タマゴの世話をちゃんとできるようになる。その決意でリーリエは燃えていた。

 

「その意気だぜリーリエ!」

 

「そうそう! リーリエなら大丈夫」

 

「はい!」

 

 サトシとミヅキとリーリエはそう言って3人で笑い合った。

 

 そしてみんなで館の2階に上がりリーリエの部屋に入ると、まず驚いたのはサトシだった。

 

「リーリエの部屋、広ッ!!」

 

「えへへ……」

 

 ミヅキは例のごとくこの部屋にも前入ったことがあるので驚きはなかったけれど、わたしの部屋の何倍あるかな~。となんとなく考えていた。

 

「えっと……どこに置くといいかしら。ちょっと待っててくださいね」

 

 リーリエはすぐに棚から分厚い本を取り出してポケモンのタマゴの世話の仕方について調べ始めた。リーリエのこういう所がサトシもミヅキもすごいと思っている。

 ジェイムズもそんなリーリエのことを暖かい瞳で見守っていた。

 

 リーリエはもともと勉強好きなのもあるけれど、ポケモンに関しては特に妥協を許さない。

 

「今調べたんですが柔らかい場所のほうがいいようですね……えーっと……ソファだとちょっと硬いから、クッションでいいかしら」

 

 そう言うとリーリエはふかふかなクッションをいくつかソファの上に置いた。

 

「うん、これがよさそうです! サトシ、ここにタマゴをお願いします!」

 

「おう!」

 

 サトシがクッションの上にタマゴを置くと、タマゴは気持ちよさそうにころんと揺れた。それを見てサトシはニッコリと笑った。

 

「気に入ったって!」

 

「ええ!? サトシ分かるの?」

 

「わかんない! でもなんとなくそう思った!」

 

「ズコー」

 

 ミヅキが聞くとサトシは確信めいた口調でそう言った。

 ミヅキは思わずずっこけた。わかんないと言いつつかなり自信があるらしい。

 

 でもサトシのポケモンをまっすぐに信じる気持ちのようなものは、なんとなくミヅキもリーリエも信じたくなる。ポケモンが関わるとサトシの言葉にはそんな不思議な力がある。

 

「なんていうか……ほんとサトシらしいとしか言えないね」

 

「ふふ、そうですね。サトシにそう言われると、不思議とわたしもそう思います」

 

 やがて3人で喋っていると扉が開き、メイドさんがガラガラとサービスワゴンを運んできた。その上にはケーキのように山盛りにされたピンク色のマカロンが存在感を放っている。鼻をくすぐるような甘い香りがした。

 

「ロズレイティーとお菓子をお持ちしました」

 

「「お菓子山盛り~!!」」

 

 ミヅキとサトシは運ばれてきたマカロンの山とロズレイティーに目を輝かせた。

 

 ミヅキはスイーツが大好きである。マカロン・パンケーキ・マラサダなんでもござれ。

 アローラの雰囲気に慣れるのには時間がかかったけれど、アローラのスイーツに関してはすぐに適応していた。

 

「「いただきまーす!」」

 

 サトシとミヅキは席に着くと勢いよくマカロンを食べ始める。事件が起きたのはそれからすぐだった。

 ものすごいスピードでマカロンを食べ続けるサトシがミヅキの座ってる側の部分に手を付けた。

 

「マカロンサイッコー!! あーサトシ食べ過ぎ!! こっち側わたしの分なんだけど!?」

 

「フガフガフガ」

 

「なーにがフガガだ! わたしのマカロン返せ!」

 

「ムゴゴゴゴ」

 

「言ってるそばから新しいのを取るなー!」

 

『ピカァ……』『シュゥ……』

 

 ピカチュウとヤトウモリは呆れたように食い意地を張っているサトシとミヅキを見ていた。ジェイムズとメイドさんも何とも言えない顔をしている。

 

「アハハ……さぁ、ピカチュウとヤトウモリの分はこちらにありますよ」

 

 マカロンを奪い合う2人のやり取りを見ながらピカチュウとヤトウモリの分の皿を用意して、リーリエはくすりと笑った。

 ミヅキがここまでスイーツ好きだとは思わなかったので、リーリエとしては意外な一面を見たような気がして面白かったのである。

 

 そしてあっという間に大皿に山のように盛りつけられたマカロンがなくなり、後には満足そうなサトシと未練がありそうな顔をしたミヅキが残った。

 

「ごちそうさまでした……あー……わたしのマカロン~」

 

「俺もごちそうさまでした! ミヅキだっていっぱい食べたじゃん」

 

「へえ〜? でサトシはその何倍食べたわけ?」

 

「うっ、だからごめんって……」

 

「べーっだ! ……まあいいけどさぁ〜」

 

 ミヅキは頬を膨らませながら仕方なさそうに言う。そもそもリーリエが用意してくれたものだしとやかくは言えない。でも美味しかったなぁ……。

 

『ミヅキ、お菓子食べすぎると太るロト』

 

「えっ? ちょっと聞こえなかったんだけどロトム何か言った?」

 

 にっこりととびっきりの笑みを浮かべてミヅキはロトムの方を見た。次はない。

 

『……怒りを検知。何でもないロト』

 

 女性に「お菓子」「食べすぎ」「太る」というワードを言ってはいけない。データアップデートロト。と心の中でロトムは唱えた。

 

「な、リーリエ、せっかくだしポケモンを触る練習してみないか?」

 

「えっ?」

 

 ロトムが沈黙した後、サトシが突然思いついたかのように言った。

 

「あ、確かにポケモンで練習すれば、ポケモンには触れなくてもタマゴには触れるようになるかも」

 

「なるほど……それは確かに一理あります。論理的結論として」

 

 最初にハードルを上げておいて後を楽にする作戦である。ミヅキとリーリエはなるほどと思った。いやでもサトシそこまで考えてるのかなあ、という言葉は胸の中にしまっておく。

 

 ということでピカチュウ、モクロー、ロトムをサービスカートの上に乗せてリーリエがポケモンに触れるか試してみたが、触ろうとすると狙ったようにみんな動き出すのでリーリエがびっくりして叫ぶだけで逆効果だった。

 

「ううっ……やっぱりだめでした……」

 

「まあまあ……たぶんヤトウモリは動かないから最後に試してみてよ」

 

 そう言ってミヅキはリーリエを慰めながらヤトウモリをカートの上に置いた。ヤトウモリはリーリエに興味なさそうなフリをしながら丸まってじっとしている。

 

 ヤトウモリは割と空気を読んでいるようだった。わたしと過ごす時もこのくらい空気読んでくれません? となんとなくミヅキは突っ込みたくなった。

 

 リーリエの震える手がヤトウモリの背中に近づく。サトシとミヅキとジェイムズがドキドキしながら息を飲んだ。

 

 

 残り10センチ。

 

 

 残り5センチ。

 

 

 残り3センチ。

 

 

 残り1センチ。

 

 

 もうすこし! あとすこし!

 

 ヤトウモリは相変わらず自分を見ていない。

 

 見ていないなら大丈夫。こわくない。

 

 

 こわくない?

 

 こわくないよ。

 

 「思い出してはいけない」

 

 そう、わたしを、みて、いる。

 

 なにかが。むかって、きて。

 

 わたしの、あたまの、なか。

 

 「近づくな」

 

 うかんで、つれて?

 

 どこに?

 

 「近づくな!」

 

 いっしょに? どこに? いくの?

 

 ここじゃない、どこか。

 

 「やめろ」

 

 わたしは、あなた。

 

 

 

 「やめておけ!」

 

 

 

 あな、た、は、わ、たし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ね え …… い っ しょ に いこ う ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ白い■■がわたしのあたまにはいってきてきもちがわるいきもちいいきもちわるいきもちわるいきもちわるいあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ縺阪b縺。縺�>蠢�慍濶ッ縺�%縺ョ縺セ縺セ縺ゥ縺�↓縺九↑繧翫◆縺�

 

 

 

 

 

 

 ブツン

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時リーリエの全身にぞわりと悪寒が走った。思考全てが自分自身に警報を鳴らした。

 

 

 ダメ!!!

 

 

 それを思い出してはダメ!!!

 

 

「ああああ! やっぱりだめ! だめですう!」

 

「「リーリエ!?」」

 

 リーリエはバチンと弾かれたようにその場から飛び退いた。頬を汗が伝う。さっきまでとは違う尋常じゃない様子にジェイムズが駆け寄る。

 

「リーリエお嬢様!?」

 

「だ、大丈夫よジェイムズ。ただ驚いちゃっただけ」

 

「しかしすごい汗を、あまり無理をなさらずに……」

 

「ご、ごめんリーリエ! ヤトウモリなんかしちゃったかな……」

 

 ミヅキも慌ててへたり込むリーリエに駆け寄った。ヤトウモリもびっくりした様子でリーリエを見ている。

 

 リーリエは努めて元気な声でミヅキに答えた。

 

「いえ……そんなことは! ちょっとわたくしが焦って無理をしすぎたのかもしれません……」

 

 よくわからなかったが、ほんの一瞬リーリエはあのままヤトウモリに触れたら何か自分にとって致命的な何かが起こってしまうような気がした。

 

 ただ、確かに怖かったけれど、恐ろしくはなかった。何かに対して無理やり蓋をされたようなそんな奇妙な感覚。リーリエにはその気持ちを言葉にできなかった。そして今まで通り何事もなかったかのように、不思議と、不自然なほどにリーリエの胸の動悸はあっという間に正常に戻っていく。

 

 なんだったのだろう。リーリエは今の違和感をあっという間に心から手放してしまった。

 

「ですがすごい進歩しました! ヤトウモリにあと少しで触れそうなところまでいきましたから!」

 

 リーリエはグッと拳を握った。その顔にはもはやさっきの動揺はなく、達成感に満ち溢れていた。

 

「よかった……ってことでいいの? かな……?」

 

 ミヅキはサトシとリーリエの顔を交互に見ながらそう言った。喜んでいいのか心配したほうがいいのかよくわからなかったので歯切れが悪い。今のリーリエの様子はなんだかちぐはぐで、ミヅキにはすこしだけ気持ち悪さが残った。

 

「その……リーリエごめんな? 俺があんなこと言ったから無理させちゃって。ジェイムズさん、ごめんなさい!」

 

「うん、やっぱり無理に触ろうとするのはよくなかったよね……わたしもごめんなさい……」

 

 今のリーリエは大丈夫そうだったが、ついさっきがあまりに尋常じゃなかったのでサトシとミヅキは2人に頭を下げた。

 

「2人とも、そんな……頭をあげてください!」

 

「そうですとも。リーリエお嬢様がポケモンに再び触れるよう後押ししてくださったお2人になんら恥ずべきところはございません。ご学友としてリーリエお嬢様を支えていただいていること、この館の者一同、本当に感謝しております」

 

 それは気を使っているわけではなく紛れもないジェイムズの本音だった。リーリエは館に帰ってくるといつもクラスメイトのことを楽しくジェイムズに話す。もちろんサトシのことも、ミヅキのことも。

 お嬢様には沢山の素晴らしい友達がいる。その事実だけでジェイムズの心は喜びに満ち溢れている。

 

「支えてるだなんてそんな、わたしなんてリーリエに助けられてばっかですよ!」

 

「そうそう、俺もリーリエに難しい勉強いつも教えてもらってるしさ」

 

 ミヅキは自分の着ている服を見た。このカラフルな服をもらってからミヅキのアローラでの生活が初めて彩られたのだ。そしてそのきっかけを作ってくれたのはリーリエだった。

 

「2人とも、そんなこと……」

 

 ない、とリーリエが言おうとすると、ミヅキがそれを遮った。

 

「だからさ、リーリエも遠慮なくわたしたちに頼ってよ! わたしたちだってリーリエに頼ってるんだから。あ、今日はちょっと失敗しちゃったけど……」

 

「おう! みんなでリーリエがタマゴやポケモンに触れるようになるようにゼンリョクでてだすけするぜ!」

 

 2人がそう言うと、部屋の入り口の方から拗ねたような、楽しそうな聴き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ちょっとぉ〜3人でなにいい話してるの?」

 

「え、マオ?」

 

 そこにはアマカジを腕に抱いたマオがいた。リーリエが意外そうに声をあげる。

 

「マオ、家の手伝いじゃなかったの?」

 

「アハハ……それが、リーリエが心配で急いでで終わらせてきちゃった」

 

「へへ、そういう優しいとこ、ほんとマオらしいよな」

 

 サトシはニカッと笑った。するとマオは若干謙遜したように言う。

 

「優しいだなんて……アハハ、ただおせっかいなだけかも。あ、リーリエ、タマゴはどうしたの?」

 

「あちらのソファです! 柔らかいクッションの上に置いてあげたら、嬉しいってお返事してくれたんですよ!」

 

「え、タマゴがしゃべった!?」

 

「あ、違うんです。サトシがタマゴがそう言ってるって。サトシが言うとわたしもなんだかその通りだと思っちゃうんですよね」

 

 リーリエはすこし恥ずかしそうにそう言った。それに対してマオは笑うことはなかった。マオもそういうサトシらしい言動に覚えがある。

 

「ああ〜なるほどね。ま、それがサトシらしさだよね!」

 

「うんうん」

 

「わかります!」

 

 マオとミヅキとリーリエは3人して深く頷いた。

 

「俺らしいってなんだよ〜」

 

 自分のいないところで自分の噂をされているような気分になり、サトシは若干居心地が悪かった。

 

「褒めてるんだけどね〜」

 

「ですよね〜」

 

「ね〜」

 

女子3人はそんなサトシの様子を見ながらくすくすと笑った。

 

「ううっ、リーリエお嬢様がこんな素晴らしい御学友に囲まれているとは、このジェイムズ、感動しておりますううう」

 

 すると子供たちのやりとりに感動したジェイムズが泣き出してしまった。リーリエが頬を赤くして止めに入る。

 

「ちょ、ちょっとジェイムズ!」

 

「アハハ、ちょっと大げさかな……」

 

 マオとサトシとミヅキは揃って苦笑いした。

 バルコニーの外ではバタフリーがぱたぱたと穏やかに羽ばたいていた。

 

 

 


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