原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼちゃん

6 / 18
6.リーリエ、タマゴ係になる(2)

 外を羽ばたいているバタフリーにつられてみんなでバルコニーに出ると、いつの間にか館の中庭にはたくさんのポケモンが集まってきていた。

 

「うおおおお! めっちゃポケモンいる~!」

「おー、すごい」

「あ、モンメンもいるよ! アマカジ!」

『マッジィ!』

 

 サトシとそれを見るなり手すりから身体を乗り出して感動していた。マオもくさタイプのポケモンを見つけてはしゃいでいる。ミヅキとしてはぶっちゃけ大げさだと思うのだが、2人はとにかくポケモンを見ると何でも楽しいらしい。

 

(あ~、でもわたしってこういうとこちょっとノリが悪いのかも)

 

 ヤトウモリと一緒に過ごすようになったとはいえ、まだそこまでヤトウモリ以外のポケモンに対する強い興味を持てていないのも事実。ミヅキがポケモンをより好きになるのはもう少しだけ時間がかかるようだ。

 

 そして庭のさらに奥にある、よく見覚えのあるものにサトシは気づいた。それを見ると心がウズウズする。

 

「あー! バトルフィールドだ! すげえ!」

「手入れはきちんとしておりますので、すぐにお使い頂けますよ」

「ほんとですか!? リーリエん家ってほんと凄いな~! 毎日バトルできちゃうじゃん!」

「エヘヘ……わたくしがポケモンを持ってないので、スタッフの方たちが使うだけになってはいるんですけどね」

 

 バトルができる。その事実に興奮し始めたサトシはミヅキの方を見た。ミヅキはなんだか嫌な予感がした。

 

「よっしゃあ! ミヅキ、バトルしようぜ!」

「ええ!?」

「だってミヅキもヤトウモリがいるじゃん! やろうぜバトル!」

「あ~……わたしはいいかな……ヤトウモリも病み上がりだしまだそんな無理させられないしさ」

「えー!? つまんないの……」

 

 ミヅキが苦笑いしながらサトシに答えると、サトシはひどくがっかりした様子だった。

 

 ミヅキはポケモンバトルをしたことがない。それにヤトウモリは保護しているだけのポケモン。まだ無理させられないとは言ったが、モンスターボールで捕まえていない以上、たとえ万全でもミヅキはヤトウモリにバトルさせる気がなかった。ボロボロになったヤトウモリを初めて見た日のことが頭にちらつく。

 

「それならサトシ、心配いりません。ジェイムズはこの館のスタッフでも1、2を争う腕前なんですよ!」

「ええ、ポケモンバトルには多少の心得がございます。僭越ながら、わたくしで宜しければお相手させていただきますよ!」

「そうなんですか!? よっしゃあ! ジェイムズさん、よろしくお願いします!」

 

 話はまとまったようだ。サトシのバトルの相手をしなくてよくなりミヅキはホッと胸をなで下ろす。

 

「お、じゃあわたしは観戦しようかな! バトル見るのは楽しいし」

 

 ミヅキはポケモンバトルを見ることは好きだった。テレビでポケベース中継を見るのと同じようなものだ。観戦専、というやつである。

 

 そしてタマゴの世話をするのでこの部屋から観戦していますね。というリーリエだけを部屋に残して、みんなは外のバトルフィールドへと向かった。

 

 その中で、ミヅキの後ろをついて歩くヤトウモリがほんの少し寂しそうな視線を自分に向けていたことにミヅキは気づかなかった。

 

 

 

 

 

▼ ▲ ▼

 

 

 

 

「それじゃあサトシ対ジェイムズさん! 1体1のバトルを始めまーす!」

『マジマッジィ!』

 

 サトシとジェイムズがバトルフィールドに立つと、マオが元気よく審判に立候補した。抱き上げているアマカジも楽しみなようで、上機嫌に頭のへたをグルグルと回転させていた。

 

「本気でお願いします! ジェイムズさん!」

「お手柔らかにおねがいしますぞ! サトシさん!」

 

 ミヅキはフィールド横に併設されているベンチでヤトウモリと一緒にバトルが始まるのを待っていた。ピカチュウが戦う気満々だったけれど、サトシはモクローにバトルさせたかったらしく、カバンの中で眠っていたモクローを取りだした。

 

「頼むぜモクロー!」

『ホロロ!』

 

「そちらはモクローですか……ではこちらはこのポケモンです! オドリドリ!」

『クルルルー!』

 

 ジェイムズはボールから黄色い鳥のポケモンを出した。オドリドリ、ミヅキはまだ見たことがないポケモンだった。なんかもこもこしててかわいいなあ。ちらりとサトシを見ると同じような反応をしていた。

 

「オドリドリ? 初めて見るポケモン……」

『オドリドリ、ぱちぱちスタイル。ダンスポケモン。でんき・ひこうタイプ。羽毛を擦り合わせて電気を作る。踊るように敵に近づき、攻撃する。ちなみにオドリドリは島ごとに生えている花のミツを吸うことでタイプが変わるロト』

 

 すかさずロトムがサトシに図鑑の説明をする。こういうところ見るとほんとロトム図鑑って便利だなあ。とミヅキは思った。普通のポケモン図鑑以上のことを説明してくれる。たまにいらんこと言うけど。

 

「このオドリドリはメレメレ島特有のやまぶきのミツを吸ってでんき・ひこうタイプになった姿です」

「へぇ~! そんなポケモンがいるんだ! ほんと面白いなアローラって! モクロー、初めてのポケモンバトル頑張ろうな!」

 

 モクローはやる気十分でサトシの周りを飛び回っていた。そうか、初めてのバトルだからピカチュウじゃなくてモクローを選んだんだ。ミヅキは納得した。これがポケモントレーナーかあ。

 

「それじゃあいくよー! バトル、開始っ!」

 

 マオが元気よく手を上から下に振りかざし、オドリドリとモクローのバトルが始まった。

 

 

 かに見えた。

 

 

 ジェイムズとサトシが指示をしようとした瞬間、突如フィールドの奥の植え込みの影から2つの網が高速で飛来し、オドリドリとモクローをぎっちりと拘束した。2匹は何が起こったか分からず網の中でもごもごと抵抗している。

 

「モクロー!?」

「オドリドリ!? 一体なにごとです!」

 

 

 

 

「一体なにごとです! と言われたら」

 

「聞かせてあげよう、我らが名を」

 

 

花顔柳腰・羞月閉花

 

儚きこの世に咲く一輪の悪の華!

 

 

「ムサシ!」

 

 

飛竜乗雲・英姿颯爽

 

切なきこの世に一矢報いる悪の使徒!

 

 

「コジロウ!」

 

 

一蓮托生・連帯責任

 

親しき仲にも小判輝く悪の星!

 

 

「ニャースでニャース!」

 

 

「「ロケット団、参上!!」」

 

「なのニャ!」「ソーッナンス!」

 

 

 

 

 

「ロケット団! 何しに来たんだよ! ここ人ん家だぞ! オドリドリとモクローを返せ!」

 

 ロケット団とはクラスの皆はもう何度か遭遇している。サトシがいつものように突っ込むと、3人はゲラゲラと笑い出した。

 

「なーに言ってんだ! 人の家だろうがなんだろうがお構いなく奪う、それが俺たちロケット団だぞ?」

「見張ってたらあんたたちが高級車でどこか行くのが見えたから付けてきたのよ! まさか白ジャリガールの家がこんな豪邸だなんてね! 狙い通り珍しいポケモンも手に入ったし~!」

『しかも今日は人数が少ない分チャンスニャ。あの黄色ジャリボーイの電撃には痛い目にあったからニャ』

 

 ロケット団はマーマネに痛い目に遭わされたことがある。つまりそいつがいないということは自分たちが有利だということだ。

 

「そうそう。ジャリボーイと緑ジャリガールと……そこの地味ジャリガールだけだもの! つまり敵はジャリボーイただ1人……今日はあんたのピカチュウごとこの家のポケモン全部頂いていくわよ!」

 

 地味ジャリガール、その言葉が自分を指していることをミヅキは察した。バカにされているのに気づいて、反射的に口から言葉が出る。

 

「は? 地味ジャリガールって何よ!」

「うっさいわね! 地味なのを地味って言って何が悪いわけぇ? あんた特徴無いのよ! っていうか反応するあたり地味って自覚はあるわけねぇ~」

「うぐぐ……」

 

 煽り倒してくるムサシにミヅキはムカついた。たしかにわたしは皆に比べたら特徴無いかもしれないけどさあ!

 

「おいロケット団! ミヅキをいじめるな!」

「ミヅキは地味なんかじゃない!」

 

 サトシとマオが聞き捨てならぬと言い返した。その優しさにミヅキはちょっと泣いた。

 

「はいはい……ジャリ達がキャンキャンと。ミミッキュ! やっちゃって!」

『ク……カカッ!』

 

 ミミッキュはボールから出ると、形容しがたい地獄めいた鳴き声を出した。

 その不気味さに思わずマオとミヅキは後ずさる。

 ムサシのミミッキュはみんな何度か見たことがあったが、ピカチュウにも比類するレベルの強敵である。

 

『マジィ!』

『シュウウ!』

 

 マオとミヅキを守るようにアマカジとヤトウモリはそれぞれミミッキュに立ちはだかったが、その威圧感にやや怯んでいる。2対1でもおそらく勝てない。それほどにミミッキュのレベルは高かった。

 

 だが、このミミッキュには1つ大きな欠点がある。

 

「ミミッキュ、シャドーボール!」

 

 ムサシが指示すると、ミミッキュは命令通りシャドーボールをぶっ放した。

 

 アマカジとヤトウモリの方向ではなく……ピカチュウがいる場所へ。

 

『ピカピ!?』

「ピカチュウ!」

 

 すこし離れた場所にいたピカチュウはそれをすんでの所で避ける。

 

「ちょっとミミッキュ! 先に弱っちい奴をやっつけるのよ!」

『クカカ……!』

 

 ムサシは命令違反をしたミミッキュに怒るが反省する気配がない。

 

「ミミッキュはピカチュウしか狙わないからなぁ……」

『またこのパターンかニャ……』

『ソー……ナンスッ……』

 

 コジロウとニャースとソーナンスはあちゃーと頭を抱える。

 このミミッキュ唯一の欠点はピカチュウ絶対殺すマンであることだった。

 理由はわからないがピカチュウがいるかぎりトレーナーのムサシが何を言おうとミミッキュはピカチュウしか狙わない。

 

「まあいいわ……そっちのポケモンはザコみたいだし、ミミッキュ! 先にピカチュウをやっちゃいなさい!」

 

 とはいえ、ムサシはミミッキュの強さは信頼していた。たとえ3対1でかかってこようとミミッキュにとって問題になるのはピカチュウだけだろう。

 

『クカカッ!』

『ピカァ……』

 

 ピカチュウとミミッキュはにらみ合う。どうしよう、隙を見てミミッキュを攻撃するか? でもわたしはヤトウモリのワザも知らない。ミヅキが迷っていたその時。

 

 

「きゃああああああ!!!!」

 

 

 館の方から悲鳴が聞こえた。

 それはまごうことなくリーリエの声だ。

 

「「「リーリエ!?」」」

「リーリエお嬢様!?」

 

 一瞬みんながリーリエの部屋の方へ視線を向ける。その時をムサシは見逃さなかった。

 

「おっとよそ見してるんじゃないわよ! ミミッキュ! ウッドハンマー!」

『クカカッ!』

「しまった! ピカチュウよけろ!」

 

 サトシの指示も間に合わず、ミミッキュはその隙を見逃さずピカチュウを容赦なく尻尾でぶん殴った。衝撃でピカチュウが吹き飛ばされる。

 

『ピィ!?』

「ピカチュウ! 大丈夫か!?」

 

 ピカチュウは体勢を立て直し、両耳と尻尾に気合いを入れて逆立たせた。まだまだいける。サトシは「よし!」とピカチュウを鼓舞した。

 

「ロケット団! おまえ達の相手はオレだ! ミヅキとマオはリーリエの所へ! ロトムも頼む!」

「う、うん!」

「わかった! サトシも気をつけて!」

『分かったロト!』

「何~? うちらより向こうの方が気になるっての? ずいぶん余裕ですこと」

「俺たちも舐められたもんだな~」

『そうニャ、今や敵はピカチュウだけニャ。ミミッキュと共に今日こそジャリボーイに勝つニャ! とはいえこいつと一緒に戦うのは怖いけどニャ……』

 

 そしてただジェイムズとサトシだけがロケット団の前に戻った。

 

「ジェイムズさんも!」

「いいえ、私のパートナーが囚われたままサトシさん1人にこの場をお任せするわけにはいきません。オドリドリ! まだやれますな!?」

『クルル!』

 

 力強いジェイムズの声に、オドリドリは網の中で呼応した。サトシはジェイムズの表情をちらりと見る。その表情は青ざめ、不安に彩られているのを隠し切れていない。

 

 当然だ。リーリエのことが心配で仕方がないのだ。本来なら真っ先にリーリエの元に駆けつけたいのは執事であるジェイムズだろう。なのにオドリドリとサトシのためにこの場にあえて残っている。

 

 その気持ちは話さずともサトシに伝わってきた。

 だからこそ早くオドリドリとモクローを救出しなければならない。

 

「ジェイムズさん! 行きます!」

「はい、サトシさん!」

 

 2人の目線が合った。小さく頷き合う。

 

「捕まった状態で何ができるってんのよ! ミミッキュ、シャドーボール!」

『ウオオオオ! ニャーのみだれひっかきを喰らうニャ!』

 

「ピカチュウ! 10まんボルト!」

「捕らえれば何も出来ないとでもお思いですかな!? オドリドリ、フラフラダンス!」

 

 戦いが始まった。

 

 

 

 

 

▼ ▲ ▼

 

 

 

 

 

「「リーリエ!」」

「マオ! ミヅキ!」

 

 ミヅキとマオがリーリエの部屋の扉を乱暴に開けると、リーリエが必死の表情でタマゴを抱きかかえて守っていた。そしてその先には獰猛な表情で舌なめずりをしている見慣れたポケモンがいた。

 

『ヤトォ……』

「え! ヤトウモリ!?」

 

 マオは今にもリーリエとタマゴに襲いかからんとするヤトウモリとミヅキのヤトウモリを交互に見た。間違ってない。2匹いる。

 

「あいつもしかしてタマゴ狙ってるの!?」

「リーリエから離れてよ! アマカジ、こうそくスピン!」

『マッジィ!』

 

 アマカジが高速回転しながらヤトウモリに突っ込む。

 対して敵のヤトウモリは巧みに尻尾を鞭のようにしならせると、

 

『ヤットォ!』

『マジカ!?』

 

 尻尾で綺麗にアマカジを打ち返した。回転していたぶんアマカジの打ち返されるスピードが増幅され、勢いよく壁に打ち付けられる。マオが悲鳴を上げた。

 

「アマカジ!?」

『マッ……ジィ!』

 

 アマカジはダメージを負ったもののなんとか起き上がった。いつもなら一撃で戦闘不能になっていたかもしれない。なんとしてもリーリエとタマゴを守りたい一心だった。

 

『シュウウ! シュウ!』

 

 それを見てミヅキのヤトウモリが必死の形相でミヅキに語りかけた。

 何を言いたいのか考えなくても分かった。バトルしろ、そう言っている。こいつはやる気だ。

 

 ミヅキもバトルをしたことがないとか言っている場合じゃなかった。覚悟を決めろ! ミヅキは自分の頬を両手でパンと叩いた。

 

「あーもう! ロトム、ヤトウモリって何のワザが使えるの!?」

『ビビビ、ヤトウモリはどく・ほのおタイプ! 代表的なワザはスモッグ、ひのこ、ロト!』

「ありがと!」

 

 ミヅキは腹をくくった。

 こうなりゃやけくそだ。バトルなんかしたことないけど、見よう見まねで何とかするしかない!

 

「えっーと、ヤトウモリ、ひのこ!」

『シュウウ!』

『ヤトォ!』

 

 2匹のヤトウモリは同時にひのこを撃ちだし相殺する。その衝撃でボン! と部屋の中で小さな爆発音が起きた。充満する煙。一瞬の間、煙を突き抜けて敵のヤトウモリが突っ込んでくる。

 

 しまった、と思った時にはもう遅い。ミヅキのヤトウモリはさっきのアマカジのように、鞭のような尻尾で打ち据えられ吹き飛ばされる。

 

『ウウ!』

「ッ! ヤトウモリ!」

 

「アマカジ! あまいかおり!」

 

 アマカジがあまいかおりを出して敵のヤトウモリをぐらりと幻惑させる。だがその効果も一瞬。追撃から逃れる程度の効果しかない。すぐに表情を元に戻して相手はこちらを見据えた。

 

 どうする。

 

「……ヤトウモリ! スモッグであいつの視界を遮って!」

『シュ!』

 

 ミヅキのヤトウモリは黒い煙を吐き出し、一面を煙幕のように覆う。

 ミヅキの選択は時間稼ぎだった。とにかく今はリーリエとタマゴを安全なところに避難させなければ。ミヅキは声を張り上げた。

 

「リーリエ逃げて! こっちに!」

「は、はい!」

 

 リーリエは鼻と口を押さえながら、タマゴを抱えてよたよたと一目散にミヅキとマオの背中に隠れた。身体はずっと震えていたが、2人が来てくれたおかげでなんとか足だけは動いてくれたのだ。

 

 敵のヤトウモリの方からはスモッグのきつい臭いに混ざって、ほのかなあまいかおりが漂っていた。見えなくてもなんとなくそこにいるのがわかる。ミヅキは思いついた。

 

「マオ、わたしが攻撃したらアマカジで香りの方に突っ込んで!」

「う、うん!」

  

 有無を言わさぬミヅキの様子に一瞬戸惑ったが、マオは頷いて答えた。

 やがて煙が晴れる。相手のヤトウモリはカパッと口を開けた。デジャブ。その攻撃はわかる。ミヅキは迷わず命令した。

 

「ヤトウモリ、もう一度ひのこ!」

『シュウ!』

『ヤトォ!』

 

 さっきと同じように同時にひのこが撃ち出され、着弾。ボン。小さい爆発。煙でお互いの姿が揺れる。

 

 狙い通り。ミヅキは叫んだ。

 

「マオ! 今!」

「うん! アマカジ! 香りの元にこうそくスピン!」

『マッ……ジィィィィィ!!』

 

 ゼンリョクを振り絞ってアマカジは駆けた。アマカジにとって自分が発した香りの有りかなど容易にわかる。擬似的なえんまくの中で、渾身のこうそくスピンが敵のヤトウモリに直撃した。

 

『ヤトォォォォ!』

 

 敵のヤトウモリは勢いよく吹き飛ばされ、バルコニーの手すりに背中から激突した。それを追い込むようにミヅキのヤトウモリとアマカジはバルコニーに飛び出して威嚇する。

 

『シュウウ! シュウ!』

『マジ! マッジィ!』

 

 これ以上近づくな。

 分が悪いと感じた敵のヤトウモリは、すぐに脱兎のごとくその場から飛び降り、森の方に姿を消した。

 

 

「「やっ……たの……?」」

 

 

 一瞬の静寂の後、ミヅキとマオは2人して気の抜けた声を出した。なんだか心がフワフワしている。しかしマオはすぐ思い出したように叫んだ。

 

「そうだ、サトシとジェイムズさんは!?」

「あ!!」

 

 

『なんなのこの感じ~~~~!?』

 

 

 3人がバトルフィールドの方を見ると、そこにはキテルグマに連れ去られてヤトウモリと同じく森へ高速で消えるロケット団たちがいた。どうやら向こうも無事追い払えたらしかった。

 

 

 

 

 

▼ ▲ ▼

 

 

 

 

 

 やがてサトシとジェイムズが部屋に駆け込んできた。捕まっていたモクローとオドリドリも一緒だ。

 

「リーリエお嬢様! ご無事ですか!?」

「ジェイムズ! わたくしは大丈夫! 野生のポケモンにタマゴを取られそうになってしまったのだけど、マオとミヅキが助けてくれたから……!」

「本来なら執事の私めが一番に駆けつけなければならかったにも関わらず……私はオドリドリを助けるのを優先してお嬢様の危機にはせ参じることが出来ませなんだ……本当に、本当に申し訳ございません」

 

 ジェイムズとオドリドリは沈痛な顔をしてリーリエに頭を下げた。

 リーリエはそんな2人を元気づけるように笑顔で笑った。

 

「謝らないでジェイムズ。そんなオドリドリを大切にするあなたのことが、わたくしは大好きなんですから!」

「ウウッ……お嬢様ァァァァァ!」

 

 ジェイムズは泣いた。今日2回目の号泣である。

 

「アハハ……ほんとよく泣く人だよね……ジェイムズさん」

「そだね……」

 

 マオとミヅキが苦笑しながら言った。

 

「あ、リーリエ……それ!!」

 

 するとサトシがびっくりしたようにリーリエを指さす。正確にはリーリエが抱いているタマゴのことをである。

 

「え……えっ!? ええええ!? わたくし……触れてます! タマゴに! 触れてますっ!」

 

 リーリエは今までタマゴを守るのに必死で、今の自分自身の状況にびっくりしていた。今まで自分がタマゴを抱いていたことに気づかなかったのだ。

 

 それを見てマオがほんの少し目を潤ませた。マオはおそらくクラスのみんなの中で一番リーリエがポケモンに触れないことをを心配していた。ずっと見守ってきたので感動もひとしおだった。これではジェイムズさんのことを笑えないじゃないか。

 

「リーリエ……やったね! よかったよお!」

「リーリエ、やったな!」

「うんうん! リーリエおめでと!」

「ウウッ……お嬢様……本当にようございました!」

 

 みんなが次々にリーリエを祝福する。

 そしてピカチュウがリーリエのもとに飛び込んで頬ずりした。

 

『ピッカァ!』

 

 みんなが「あ」と言ってぴたりと空気が止まる。

 その時だった。

 

「ひ……」

 

「ひゃああああああああああ!!!!!」

 

 リーリエが絶叫した。まだポケモンに触るのは早かったようである。それを見てマオが苦笑した。

 

『ピカァ……』

「アハハ……ポケモンはまだダメみたいだね」

「でも一歩前進したし、そのうち絶対触れるようになるよ!」

「明日みんなに見せてびっくりさせてやろうぜ!」

 

「はい……! マオ、ミヅキ、サトシ、ジェイムズ……みんな、本当にありがとう……!」

 

 そう言ってリーリエは花のように笑った。

 きっといつかまた皆と一緒にポケモンと触れ合える日が来ることを願って。

 

 

 

 

 

▼ ▲ ▼

 

 

 

 

 

「あ、ジェイムズさん! 今からバトルの続きしませんか!? モクローとオドリドリで!」

「勿論いいですとも、サトシ様。先程中断した分、本気でお手合わせいたしましょう」

 

 いい雰囲気だったのもつかの間、サトシは再びバトルモードになりジェイムズに勝負を申し込んでいた。ジェイムズも満更でもない様子だ。

 

「いや~サトシはぶれないね~知ってたけど」

「当然だろ? トレーナーが出会ったらまずバトルだぜ!」

「まあ目と目が合ったら……っていうけどね……」

 

 ミヅキはげんなりした。さっきロケット団とバトルしたばっかじゃん。戦闘民族の考えにはまだミヅキはついていけない。

 すると横からマオがニヤニヤしながらサトシに話しかけた。

 

「あ、そういえばサトシ~、さっきのミヅキすごかったんだよ? ヤトウモリとあたしにすごい格好良く指示出してくれてさ! 初めてのバトルなのに! ね、リーリエ」

「はい! 先程のミヅキはすっごくかっこよかったです!」

「え、ホントに!? すげえじゃんミヅキ! やっぱりバトルしようぜ!」

「ちょっとみんな……大げさだよ……それにサトシはジェイムズさんとバトルするのが先でしょ」

 

 さっきのはただただリーリエとタマゴを守るのに必死だっただけだ。正直今も何がどうして勝てたのかよく分かっていない。あれが、ポケモンバトル……?

 

 さっきのバトルの感覚を思い出すと。ミヅキはなんだか心がぞわぞわした。

 楽しかった? それとも怖かった? わからない。

 その感情の正体をミヅキはまだ理解できなかった。

 

 ただ心がここではないどこかへ行ってしまうような、ふわふわした、そんな感覚。

 

 ミヅキはちらりとヤトウモリの方を見た。その表情は心なしか機嫌が良さそうに見えた。

 

 うーんまあ、ヤトウモリが満足そうだしなんでもいいか。

 そして面倒くさくなったミヅキは自分の感情の正体を探ることをやめた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。