原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話 作:きなかぼちゃん
評価に色がついたよー! 正直かなりニッチな作品だと思ってたので見てくれる方が増えてちょーうれしーよー! ありがとうございます!
「ホヘホンハンヘーヒレーヒュ?」
「ポケモンパンケーキレースね。あ、ごめん食べながら話さなくていいから。ミヅキちゃん、興味ない?」
金曜日。
毎週末の楽しみとしてミヅキが放課後にハウオリの人気店でパンケーキに食らいついていると、メイドのような仕立てをしたピンク色のフリフリの制服を着た女性店員が声をかけてきた。
彼女の名前はノアという。ノアはこのパンケーキ屋の看板娘である。
そしてミヅキは何度も通っているおかげで既に顔と名前を覚えられてしまっている。
そして今、ノアはにっこりと笑みを浮かべながら大きなポスターを胸の前で掲げてミヅキに見せつけていた。そこにはパンケーキを何枚も重ねた皿を持っているキメキメ顔のノアとライチュウが写っている。
(すっごい気合い入れて撮ったなこの写真……)
『ライラーイ』
ノアの背後からそのライチュウがひょっこりと顔を出した。
ライチュウはノアのパートナーポケモンで、このパンケーキ屋の従業員でもある。カントーのライチュウとは違うやや丸っこい輪郭をしていて、常に尻尾に乗ってフワフワ浮いているのでミヅキは最初見たとき驚いた覚えがあった。こういう地方によって見た目が違うポケモンのことをリージョンフォームという、ということをこの前スクールで習ったばかりだ。
ミヅキは今口の中に入っているふわふわなケーキをモニュモニュと頬を膨らませて咀嚼すると、ようやくといった風に口を開けた。
「えっと……そのパンケーキレースなるものはいったい何レースで……?」
「パンケーキレースよ!」
「?????」
パンケーキレース is 何?
▼ ▲ ▼
ノアの説明によると、ポケモンパンケーキレースとはトレーナーとポケモンが協力して10枚重ねのパンケーキを運びながら競争する謎のレースである。しかもこのレース、テレビでもアローラ中に生中継していてアローラではかなり有名なイベントだった。
「……わかりましたけど、なんでパンケーキ運びながらレースするんですか?」
「うーんそれよく聞かれるんだけど、どうして始まったのか謎なのよね……アローラにパンケーキを広めたい人たちが始めた、とかいう話もあるけど、ちゃんとした資料が残ってるわけでもないのよ」
由来すら謎の祭りである。うーんどうしよう、やめとこうかな。とミヅキが言おうとすると、
「ちなみに優勝者にはパンケーキの無料年間パスポートがもらえるわよ」
「よしやろう優勝しよう」
「おっ、いいね~食いついてきたわね~」
『シュウゥ!?』
あまりの変わり身の速さにヤトウモリがビビってミヅキの顔を見る。出場するということは自分がパンケーキを運ばなければならない。身体をすくめて「嫌だ」とアピールするが、スイーツハンターと化したミヅキはヤトウモリの前で手を合わせた。
「ヤトウモリお願いっ!! パンケーキ!! 食べたい!! 山盛り!! 沢山!! 無料!!」
語彙力を失ったミヅキはひたすらヤトウモリの前で拝んでいた。そもそも出場してもそんな簡単に優勝できるものか。埒があかないのでヤトウモリはやれやれと頷く。このままだとこの女は自分を無理矢理引っ張ってでも出場するだろう。
ヤトウモリがミヅキの家で暮らし始めてからそこそこ経ったが、とにかくこの女は買い食いが多い。美味しそうだと思ったらマラサダだのアイスだのをすぐ買い食いしている。
「ちなみに去年優勝したのは私! 前年度の優勝者コンビが次の年のポスターになるの」
『ライライ!』
ライチュウがドヤ顔をした。優勝できるもんならやってみなという挑発的な表情。
「え、パンケーキ屋の看板娘が最強とかズルすぎません? っていうかノアさんがパンケーキ食べ放題になってもあんま意味ない……」
パンケーキ屋がパンケーキ無料パスポート貰って一体どうするのだ。その疑問に対してノアはごく当たり前のように答えた。
「そーでもないわよ? ポスターに載せてもらえるからウチの宣伝にもなるし……よそのパンケーキ屋の雰囲気とか集客の調査とかタダでできるもの」
「うわっめっちゃ嫌がられそう」
「アハハ、もちろんそこは怒られない程度にやってるわよ。ハウオリのスイーツ店はただでさえ競争が激しいからね。恥も外聞も捨てた争いを制してこそトップを取れるってワケ。ミヅキちゃんもスイーツはしごしてるならなんとなく分かるんじゃない?」
確かにアローラ最大の都市であるハウオリシティには無数のスイーツ店が存在する。さらに観光客が多いアローラだからこそ、ご当地スイーツのアローラパンケーキの競争は常に激しくどの店もしのぎを削っているのだった。日々ハウオリでスイーツの新規開拓を続けるミヅキにはなんとなくそれは理解できた。
「なにこの甘いのに甘くない闇深な世界」
「ということで、無料パスポートが欲しければこのラスボスを倒してごらんなさい。パンケーキレースの世界は甘くはないわよ?」
ノアはそう言ってミヅキにウインクした。ミヅキが垣間見たのはひどくブラックな大人の世界だった。パンケーキに載ってる生クリームはこんなにホワイトなのにいったいどうして。
▼ ▲ ▼
「「ノアさん! よろしくお願いします!」」
『よロトしく!』
「はい、みんなよろしくね!」
次の日の昼下がり。
ラスボスもといノアは焚き付けた手前、なんだかんだパンケーキレースのコツについてミヅキに指導してくれることになった。そして何故かそこには元気よく挨拶するサトシとマーマネとロトムもいた。
「……ところでなんでサトシとマーマネもいるの?」
「オレも昨日たまたまノアさんに参加しないかって誘われちゃってさ!」
『マオも参加するらしいロト』
「僕はサトシが練習するっていうから飛び入り参加! 優勝狙ってるからね!」
「なるほど……マーマネも無料パスポート狙いってわけか~」
「あったりー! 負けないよミヅキ!」
「わたしこそ! ……って言いたいところだけど目の前のラスボスにまず勝たないと」
「ラスボス? ああそっか、去年はノアさんがぶっちぎりで優勝したらしいからね」
どうやらサトシとマーマネも賞品の無料パスポートに釣られたらしい。
ミヅキにノアのパンケーキ屋のことを教えたのはマーマネである。そのマーマネがパンケーキレースに参加するのは当然であった。ミヅキはスイーツが好きなマーマネに何度もせがんで、ハウオリの美味しいスイーツ店をいくつか教えて貰うことに成功していた。
「はい、注目! おしゃべりはその辺にして練習しましょうか!」
ノアが手をパンと叩くと、ライチュウが10枚重ねのパンケーキを載せた皿を順番に配った。ポケモンたちの前だけではなく、サトシとミヅキとマーマネにも。
3人は首を傾げた。これポケモンがパンケーキ運ぶレースじゃなかったっけ?
怪訝そうな顔をする3人を見てノアはおかしそうにくすりと笑った。
「あなたたちも走るのよ?」
「「「えっ?」」」
▼ ▲ ▼
「いや~えらい目にあった……」
「まさか僕たちも走らされるなんてね……そういえばトレーナーもパンケーキ運ばなきゃいけないレースだって忘れてたよ」
「え~? 2人ともそんな疲れたのか? オレはなんともないけど」
「「サトシの運動神経と比べないで!」」
「ええ……?」
やや疲労感の残る顔でミヅキとマーマネはサトシに突っ込んだ。3人の横を歩くポケモンたちもサトシと同じく大して疲れていない。サトシの体力はポケモン並みなので比べられたら困る。
ラスボスによるパンケーキレースの練習は本格的だった。ピカチュウもヤトウモリもトゲデマルも器用だったので、ポケモンたちは比較的早くパンケーキ運びのコツを覚えていた。問題は人間2人の方である。
運動神経のいいサトシはともかく、クラスの中でもワースト1、2を争う運動神経しかないミヅキとマーマネはうまくパンケーキを運べず何度も床にぶちまけていた。そのせいで、ついさっきまで「優勝する!」と言っていたのに2人とも既に半分くらい諦め気分だった。
「あ、そういえば2人ともこれからどうする?」
『ちなみにちょうど16時を回ったところロト』
ミヅキがふと聞くと、ロトムが先回りして今の時刻を答えた。16時。まだ夕方というほどでもないけれど、だいたい遊ぶときはみんな17時頃には家に帰るので何かするには微妙な時間である。
「うーんオレは特に用事無いから家でパンケーキレースの練習しようかなあ」
「ボクも特に予定はないけど……疲れたから帰りたい気もする~」
それを聞いて「それならさ」とミヅキはサトシとマーマネの前に回り込んで言った。
「2人を連れて行きたいところがあるんだ」
▼ ▲ ▼
サトシとマーマネはミヅキに先導されてショッピングエリアを抜けた先の自然公園に来ていた。マーマネはすでに歩き疲れている。
「ミヅキ、行きたい場所って公園だったの? ていうか僕そろそろ疲れてきたんだけど……」
「いいからいいから。あ! いた!」
目当ての人がミヅキの声に反応してこちらを見た。
ミヅキが顔を向けた先にいたのは、大きな木の下でいつも通り絵を描いているマツリカだった。
「マツリカさん! アローラ!」
「おぉ、ミヅキ。アローラアローラ! えっと、後ろの2人は?」
「スクールのクラスメイトです。たまたま今日は3人で一緒だったから、一緒に来ちゃいました。あの……忙しかったですか?」
「ううん、そんなことないよ」
マツリカは柔らかく笑った。マツリカは全体的にほのぼのとした雰囲気を纏っていて、話していてもどこか安心するような女の子だ。年上の友達ができたことがなんだか嬉しく、ミヅキはハウオリに遊びに来るときはよくマツリカの元へ立ち寄るようになっていた。
「よかった~。サトシ、マーマネ、ロトム。この人は画家のマツリカさん! すっごい綺麗な絵を描いてるひとなんだよ! 1回みんなにもマツリカさんの絵見て欲しいなって思ってて」
「おぉ、わたし、画家のマツリカ。はじめまして。この子はパートナーのアブリボン」
『りぼぼぼん♪』
アブリボンがくるくると嬉しそうにサトシとマーマネの周りを飛び回った。友達が新しい友達を連れてきて機嫌がいいようだ。
「「はじめまして!」」
『初めましてロト!』
サトシとマーマネとロトムはマツリカに挨拶をすると、順番に自分の名前を名乗った。
「ロトム図鑑? そんなのあるんだ。おもしろいね」
『お目が高いロト! ポケデックスフォルムはロトムトレンドの先端をひた走る最新のフォルムロト』
「おぉ、おぉ、最新」
「あれ、これもしかして……メテノの夜空?」
マツリカとロトムが話していると、マーマネがイーゼルに飾られている1枚の絵を覗き込みながら呟いた。それを聞いてマツリカは嬉しそうな表情になる。
マツリカは口下手で、そこまで会話が上手いタイプではない。だから自然と絵を通して人とコミュニケーションを取るようになった。初めて出会った人に自分の絵に興味を持ってもらえると、自分の思いが通じたような気がしてマツリカは何より嬉しかった。
「うん、とても綺麗だった。ホクラニ岳でこれを描いた時の夜空。沢山の色のメテノが浮かんでいて。マーマネくんも夜空が好き?」
ホクラニ岳はウラウラ島の2つある山のうちの1つだ。
「夜空っていうか……僕、宇宙が好きなんだ!」
「おぉ、宇宙!」
「僕のいとこがホクラニ岳の天文台で働いてて。何度も行ったことあるよ! そこで望遠鏡で空の向こう側を見ると、いつも考えるんだ。宇宙って一体どうなってるんだろうって。まだまだ誰も知らないようなことが、いっぱいあるんだろうなって思うとすっごくワクワクするんだ!」
ミヅキはこんな風に夢中に話すマーマネを初めて見た気がした。サトシだけじゃなくて、マーマネにも夢中になっているものがあるのだ。もちろんカキも、マオも、スイレンも、リーリエも、自分だけのキラキラしたものを持っている。
わたしはどうだろう。そういうものを見つけられるだろうか。
「なあ、ところでメテノって何?」
「サトシ、そこは空気を読もう」
スコンとミヅキは軽くサトシの頭をチョップした。ミヅキも何となく気になっていたけれどそういう雰囲気じゃなかったので聞かなかった。
『僕にお任せロト! メテノ、ながれぼしポケモン。もともと オゾン層に 棲んでおり 身体の 殻が 重くなると 地上に 向かって 落ちてくる。夜空から 降ってくる メテノと 出会える スポットは 限られていて アローラは 貴重な そのひとつ』
サトシの言葉に反応して説明したがりのロトムが流暢に図鑑説明文を読み上げた。
「へぇー! ながれぼしポケモンか! 面白いポケモンだな~!」
「ちなみにメテノのコアには7種類の色があるんだ。たくさんのメテノが空に浮かんでる景色は、この絵みたいにすっごい綺麗なんだよ?」
ミヅキはメテノの夜空の絵を覗き込んだ。七色に光る星が夜空に輝いている。確かにこの絵の元になった景色があるのならすごくロマンチックだろうな。想像するとふわりと胸が高鳴った。
「言われてみるとめっちゃ気になってきた……」
「オレもオレも! メテノ見てみたいぜ~!」
「メテノが落ちてくる時期になったらサトシとミヅキも連れてってあげるよ!」
マツリカは楽しそうに話す3人に向けて、両手の親指と人差し指を合わせて四角を作った。そしてそれを片目で覗き込むと、
「友達、かな」
そう呟いてふふっと笑った。次描く絵のモチーフが決まった。
そして、話している時にふとミヅキはここに来たもうひとつの目的を思い出してはっとした。
「あれ、そういえばマツリカさん、サトシとはじめましてってことは……」
「おぉ、ピカチュウの少年……前会ったトレーナーさんとは似てる。でもサトシくんとは違う人だった」
「なんだぁ……もしかして2人とも会ったことあると思ったんだけどな~」
「え? ミヅキどういうこと?」
「ええっと、こういうこと」
サトシがよくわからなさそうに声をあげた。マツリカはその疑問に答えるようにキャンバスに描かれた1枚の絵を取り出した。前にミヅキが見たクチバシティの港で佇む少年とピカチュウの絵だ。それを3人は観察するように覗き込む。
「え、これオレとピカチュウ?」
「やっぱ似てるよね。後ろ姿だけど」
「たしかに……あ、僕、世界には同じような顔をした人が3人はいるんだって聞いたことあるよ」
だからサトシに似ててピカチュウを連れてる人だっていてもおかしくないという話だ。今確認されているポケモンの種類など2000に満たない。と思えば可能性はある気がした。
サトシはふと以前出会った茶髪のライバルのことを思い出した。自分と似たような雰囲気で、ピカチュウをパートナーにするどころか他の手持ちも似通っていた少年。今彼はどこで何をしているのだろう。旅をしているのかな。それとも自分のように学校に通ってたりして。
「そういえばヒロシのやつ元気かなあ」
「え、サトシの友達?」
「あ、うん。カントーのポケモンリーグで戦ったライバルなんだけど。オレと同じでピカチュウがパートナーだったヤツでさ! なーんかオレに結構雰囲気似てたんだよな……」
「え!? サトシってポケモンリーグに出たことあるのぉ!?」
マーマネがびっくりしてサトシに聞き返した。あまりにも何気なく言う上に初耳なのでついオーバーなリアクションになる。
「あ、そっか。そういえば言ってなかったけど、結構何回もポケモンリーグ出てるんだぜ? オレ。優勝はまだできてないけどさ」
「それでもすごいって! だってだって、ポケモンリーグって出るには、ポケモンジムでバッジ8個集めないと参加できないんでしょ?」
「そうそう。だからホント色んな街旅したよな~。な、ピカチュウ」
『ピッカァ!』
ミヅキは懐かしげな顔をするサトシの横顔を見た。雨の日にヤトウモリの世話を手伝いに来てくれた時のことを思い出す。サトシは子供っぽいところもあるけれど、たまに自分たちよりずっと沢山の経験をしてきた大人のように見えることがあった。
『りぼぼぼん♪』
『ピカ?』
突然アブリボンがピカチュウの頭の上にふわりと乗って、キラキラと羽を振動させ始める。不思議な動きにみんながぽかんとした顔をしていると、やがてマツリカが口を開いた。
「『楽しい、サトシとの旅、今までも、これからもずっと』」
「え、マツリカさん?」
脈絡のない読み上げるような言葉だった。その意図がわからず、サトシがマツリカに聞き返した。
「ピカチュウ、きっとサトシくんにそう言ってる。アブリボンが教えてくれた」
『アブリボンは人やポケモンの心を読み取る力があるロト』
「へえ〜……ってことはマツリカさんはポケモンの声がわかるんですか!?」
サトシが食い気味に聞くと、マツリカはなんとも困ったような、どう言えばいいのかわからないような表情をしながら所在なくアブリボンの頭を撫でた。
「うーん……どうかな。でもアブリボンと過ごしてるうちに、アブリボンがなんて思ってるかなんとなく分かるようになったんだよね」
「マツリカさん、僕、トゲデマルが思ってることも聞きたい!」
「うん。いいよ!」
次にマーマネが立候補した。ポケモンと会話できない以上、パートナーが何を考えて自分と一緒にいるのかは誰しもが一度は考えることだった。
アブリボンがピカチュウからトゲデマルの頭に飛び乗り、再びキラキラと羽を動かし始めた。楽器を奏でるような心地よい旋律が辺りに広がる。
「うんうん。『楽しい、楽しい、大好き……』だって。トゲデマル、マーマネへの純粋な気持ちで溢れてる。きみたち、いいパートナー」
「ほんと!? トゲデマル〜!」
『モキュキュ!』
それを聞いたマーマネは笑顔でトゲデマルと抱き合っていた。クラスメイトの立場から見ても2人は仲良しだったから、そりゃそうだよね、と微笑ましい視線でサトシとミヅキはマーマネとトゲデマルのことを見ていた。
「ミヅキもやってみる?」
「えっ?」
しばらくぼーっとみんなの会話を眺めていたミヅキはマツリカに突然名前を呼ばれてすこしドキリとした。
「ミヅキもやってみようぜ!」
「うんうん、ポケモンが何思ってるかって気になるじゃん」
サトシとマーマネは好奇心いっぱいの顔でミヅキの方を見た。
ヤトウモリが何を思っているのか? ミヅキは気になってはいた。ミヅキはヤトウモリと顔を見合わせる。あくまでミヅキとヤトウモリは「元のトレーナーが帰ってくるまで一緒にいる」関係だった。そもそも帰ってくる可能性も殆どない気がしたし、ミヅキが一方的にそう決めただけなのでヤトウモリがどう思っているかわからないけれど。
そう考えると少しだけ心が寂しくなる。もしかしてわたしはちゃんとヤトウモリのトレーナーになりたいのか。目の前にいるのは自分なのに、ヤトウモリの目にはここにいない誰かが写っているとしたらそれを知るのはなんとなく怖い。
「いや……わたしはやめとく!」
そしてミヅキは反射的にそう口走っていた。もう少しだけ何も考えずにこのままの関係でいたい。そんな気がした。
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ポケモンパンケーキレース当日。優勝者はまさかのナリヤ・オーキド校長であった。2位はサトシとノアの同着。健闘を称え合うピカチュウとライチュウを見ながら、ミヅキはため息をついた。
「やっぱりラスボスは強かったな〜」
「ラスボスどうこうの話じゃなかったでしょ。僕ら序盤ですぐ脱落したじゃん」
「まあ、わたしの方がマーマネよりは進んだけどね〜!」
「進んだって大して変わんないじゃん。引き分けだよ引き分け!」
「ふうん? じゃあ来年はもっとマーマネに差をつけて完全勝利してあげるよ」
「へぇ〜? ミヅキこそ僕に負けて泣いても知らないよ?」
そう言い合うミヅキとマーマネはそれぞれトレーナーがパンケーキを持って走る序盤にずっこけて失格になった。ミヅキはマーマネより少しだけリードして失格になったので、それをネタにマーマネに勝ち誇るなど低レベルな争いをしていた。争いは同じレベルの間でしか発生しない。
ヤトウモリとトゲデマルはなんとも呆れていた。ポケモンにパンケーキをバトンタッチする前に失格になったので、2匹は何もしないまま敗退した。ただのくたびれ損である。
そして休み明けの日、ポケモンスクールの教室の中、みんなの前でリーリエの世話していたタマゴが無事孵った。名前をシロン。白い美しい毛並みをしたリージョンフォームのロコンだった。
リーリエはまだシロンには触れなかったが、それでもシロンは自分からリーリエのモンスターボールに入ったりで既に懐かれていた。タマゴの頃から育てていたのだから当然かもしれない。心配しなくても2人はじきにいいパートナーになるだろうと誰が見ても思う。
じゃあ、わたしたちは?
ミヅキはヤトウモリの表情を見た。それはいつも通り落ち着いた表情で、ミヅキが心の中で知りたいと思っている何かをうかがい知ることはできなかった。
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放課後、ミヅキはヤトウモリと一緒にハウオリシティの自然公園に向かった。ここに行く理由はマツリカに会う以外にない。
なんとなく心が浮ついていて、足が勝手に動いている。昨日は反射的に断ってしまったことを改めてお願いしにいくのだ。
幸運にもマツリカは昨日と同じようにいつもの木の下にいた。ミヅキはほっと胸をなで下ろした。マツリカもいつも同じ場所で絵を描いているわけではないので、会いたいときに空振りに終わるときもある。
「マツリカさん、ヤトウモリの思ってること、教えてください!」
この日、ミヅキは心の中でポケモントレーナーになることを決めたのである。