原作女の子主人公(ミヅキ)がアニポケ世界のスクールに入学して自分の夢を探す話   作:きなかぼちゃん

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9.ポケモントレーナー

 ポケモントレーナーはどうしてポケモンを闘わせるんだろう。

 ポケモンはどうして闘うんだろう。

 

 そんなことを、ずっと考えていた。

 

 

 

 9.ポケモントレーナー

 

 

 

 その日の放課後。ポケモンスクールの土のグラウンドには、ククイ博士を含むクラスのみんなが集まっていた。そしてその目線は、戦闘態勢になって向かい合うピカチュウとヤトウモリ、そしてその後ろにいるサトシとミヅキに注がれている。

 

「ミヅキ、急にバトルしたいなんてどうしたんだろう?」

「うんうん。朝から雰囲気ぜんぜん違った、いつもと。なんか、緊張してたっていうか……」

 

 マオとスイレンは顔を見合わせた。朝スクールに来るなり突然サトシにポケモンバトルを申し込んだミヅキの雰囲気は、まるで何か決意を秘めたかのようにピリピリとしていたのだった。そして前々からミヅキとバトルをしたがっていたサトシは、瞳を煌めかせてその挑戦を受けた。

 

「だよなあ。昨日用事があるってすぐ帰ってたが、何かあったのか?」

「何があったのかはわからないが、ミヅキにとってサトシとのこのバトルは重要な意味を持つのかもしれないな」

 

 ククイ博士が呟くと、リーリエは前にミヅキがサトシとのバトルを嫌がっていたことを思い出した。少なくとも、何かしら大きな心境の変化があったのは確かなんだろう。

 

「ミヅキはもともと、ポケモンバトルにあまり積極的ではありませんでした。それなのにバトルを自分から申し込むということは、何か思うところがあったのかもしれません……」

『コン……?』

 

 神妙な顔をして話すリーリエに「どうしたの?」と言いたげにシロンは首を傾げた。リーリエはそんなシロンの頭を優しく撫でた。

 

 野生のヤトウモリに襲われたあの時、ヒーローのようにマオといっしょに自分とシロンを助けてくれたミヅキ。シロンも無事に産まれてきてくれていたかどうかわからない。ミヅキの心境が変化した理由はリーリエには推し量れなかったけれど、それでもミヅキがポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出そうと勇気を出していることはわかる。

 

(ミヅキ……がんばって! サトシと闘うことが、ミヅキのポケモントレーナーとしての第一歩なのですね)

 

 リーリエはフィールドに立つミヅキとヤトウモリを見ながら、両手を膝の上で合わせてただ祈った。

 

「ミヅキ! いいバトルにしような!」

「うん。サトシも手加減なしで来てね!」

『えっ、ミヅキ大丈夫ロト!? はじめてのトレーナー戦で手加減なしは無謀すぎるロト!』

「だいじょーぶだよ。ロトムも見てて!」

『うーん、そこまで言うならわかったロト……』

 

 ミヅキはワクワクした表情のサトシを見ると、その腕に付けられたZリングに視線をずらした。そこには黄色に輝くデンキZがはまっている。

 

 それはつい先日、サトシがメレメレ島のしまキング・ハラの大試練を突破した証だった。みんなに試練でゲットしたノーマルZとデンキZを嬉しそうに見せるサトシを見て、やっぱりサトシは凄いトレーナーなんだなあと感じたことを思い出す。

 

 手加減なし。サトシがその言葉をどう受け取るかはわからないが、スパーキングギガボルトを使ってくる可能性もミヅキはもちろん考えている。

 

(……啖呵切ったはいいけど、わたしはヤトウモリのワザを2つしか知らない。ひのことスモッグ。それ以外に使えるワザがあるのかな? ピカチュウが使えるのは10まんボルト、でんこうせっか、アイアンテール、エレキボール。今までのカキとのバトルで見たとおりなら、最初はたぶん10まんボルトかでんこうせっかで切り込んでくる。それがわかってれば瞬殺で終わることはないはず)

 

 初めて自分から申し込むポケモンバトルに心がどきどきする中で、それでもミヅキの脳は高速で思考していた。ミヅキ自身はあずかり知らぬところだが、バトル直前の緊張の中、初心者にも関わらず冷静に自分と相手について分析できる時点でミヅキにはポケモントレーナーとして確かな才能があった。

 

 そしていま、ミヅキの才能に気づいているのは以前リーリエの家でいっしょに闘ったマオと、それを見ていたリーリエだけだ。

 

「ミヅキ……」

 

 マオはあの時の闘いを思い出していた。

 

 初めてのバトルでヤトウモリに十分な指示を出すだけでなく、バトル中に機転を利かせてマオとアマカジにも作戦を伝えてみせた。アマカジとパートナーになって長く、バトルの経験もあるマオですらアマカジを見るので精一杯だったのにもかかわらずだ。

 

「ねえリーリエ。あの時は野生のヤトウモリを追い払えたのと、リーリエがシロンのタマゴに触れてホッとしたからあんまり考えなかったんだけど……ミヅキってさ、たぶんバトルの才能? みたいなの、ありそうだよね」

「はい、きっとミヅキはポケモンバトルの才能があります」

「でさ……勝てると思う? サトシとピカチュウに」

「正直、難しいと思います……。サトシにはZワザがありますから。いくらミヅキに才能があるといっても、ミヅキはまだトレーナー相手のバトルをしたことがありません」

「そうだよね……」

 

 マオは心配そうに目を細めた。いくら才能があったとしても初心者がサトシと闘うのは分が悪い。しかも手加減無しでやってほしいという。マオはミヅキがこてんぱんにされて自信を失ってしまうのではないかと心配だったのだ。

 

 一方リーリエはバトルフィールドに立つミヅキの表情を見た。顔は緊張で強ばっていたけれど、それでも瞳の奥には冷静さがあるように見える。

 

 リーリエはどきりとした。自分の言ったことは、ミヅキに対して失礼かもしれないと思ったのだ。いまのミヅキは、あの時野生のヤトウモリと闘っていた時と同じ、勝ちをたぐり寄せようとする強い意思を秘めた目をしていたから……。

 

 それなら、わたしたちはミヅキのことを信じて応援するだけ!

 

「マオ、ミヅキはきっと……勝つつもりでいます。だからわたしたちもミヅキとヤトウモリをいっぱい応援しましょう!」

「……うん、そうだね! もちろんサトシもピカチュウも!」

「はい!」

 

 相手が強者だからといって胸を借りる。なんて思っていない。バトルをするからには本気で勝ちにいく。それがポケモントレーナーに必要なあり方の1つだ。既にミヅキはそれを持ち得ていた。

 

「よし! 2人とも準備はいいか? 勝負は1対1、ピカチュウとヤトウモリどちらかが戦闘不能になったらその時点で終了だ」

「「はい!」」

 

 審判に名乗り出たククイ博士に、サトシとミヅキは元気よく声を返した。

 

「いい返事だ!」

 

 ククイ博士は満足そうにうなずく。その表情は落ち着いていたけれど、内心は目の前の2人、特にミヅキが初めてのトレーナー戦を通して何を感じ取れるか、楽しみで仕方がなかった。

 

(いい顔をしてるぜ、ミヅキ。初めてするトレーナーとのポケモンバトル。そのありったけのゼンリョクをサトシとピカチュウにぶつけるんだ!)

 

「よし―――それでは、バトル開始!」

 

 

 

ポケモントレーナーのサトシ が しょうぶをしかけてきた!

 

 

 

 先に動いたのはサトシだ。

 

「いくぜピカチュウ、でんこうせっかだ!」

『ピカピカァ!』

 

 文字通りの速度でピカチュウがヤトウモリに迫った。

 ミヅキの瞳が瞬く。来た。これは想定済み。

 

「ヤトウモリ、地面にスモッグ! 身を隠して!」

 

 距離を詰めて攪乱して速攻で優位を取るのがサトシとピカチュウの基本戦術! それならば詰められる前に自分の姿を隠してしまえばいい。

 

「甘いぜミヅキ! 見えなくてもこれなら関係ない! 10まんボルト!」

「ッ、ヤトウモリ! 煙から抜け出して!」

『シュウウ!』

 

 ヤトウモリはすんでの所で10まんボルトの直撃から逃れた。その目の前で、スモッグの煙幕を覆うほどの電撃が炸裂する。喰らったら一撃で戦闘不能になる威力。身を隠すのは無意味か。ヤトウモリとミヅキに冷や汗が伝うが、怯んでいる暇はない。

 

「そのままひのこ!」

「エレキボール!」

 

 ワザ同士が衝突した。小規模な爆風がデコイとなり漂い、ピカチュウとヤトウモリの間の壁となる。そして。

 

「でんこうせっかで突っ込め! そのままアイアンテール!」

 

 その向こう側からサトシの迷いなき指示が響いた。

 

『ピッ……カァ!』

『シュウッ!?』

 

 ヤトウモリの胴を重い衝撃が襲った。

 小爆発の煙幕を槍のように突き抜けたピカチュウはそのまま硬化した尻尾でヤトウモリの身体をなぎ払ったのだ。たまらずミヅキは吹き飛ばされたヤトウモリに叫ぶ。

 

「ヤトウモリ、大丈夫!?」

『シュウウ……!』

「まだやれるね!」

 

 ミヅキとヤトウモリは目を合わせて頷く。サトシは指示がとにかく早い。その場その場で戦術を変え作戦を最適化している。これがポケモントレーナーかとミヅキは舌を巻いた。

 

「さすがピカチュウ。スピードがすごいのはわかってたけど、ワザも凄いパワーだね……!」

「そうだろ? オレとピカチュウはずっと一緒に旅してきたんだ」

「手加減しないでって言ったこと、後悔してないよ! まだバトルは始まったばかりなんだから」

 

 口ではそう言うがミヅキは内心焦っていた。額にじっとりと汗が伝う。

 

(でんこうせっかからのアイアンテールは速すぎて避けられないしスモッグも間に合わない! それなら受け止める!? どうやって? ヤトウモリはそれを受け止めるワザを持ってない。それじゃ近づかれた時点で詰み!)

 

「ヤトウモリ、ひのこ!」

「もう一度エレキボールだ!」

 

(いや、もしかして……わたしが知らないだけだとしたら?)

 

 炎と雷が絡み合いお互いのワザが爆散するのを見ながら、ミヅキはひらめいた。

 

 そもそもヤトウモリはトカゲ型のポケモンであり、俊敏な身体能力と鋭い爪を持つ。見た目からしたら近接攻撃ができないわけがない。ついこの間シロンのタマゴを狙ってきた野生のヤトウモリだって、尻尾を器用に使って攻撃していた。それなら。

 

「ピカチュウ、でんこうせっかでもう一度突っ込め!」

「ヤトウモリ受け止めてッ!」

 

 ガキン! 重い鉄と鉄がかみ合うような音が響いた。ミヅキはヤトウモリを信じて目を閉じなかった。そしてヤトウモリの爪が発光しピカチュウのアイアンテールを受け止めたのを、見た。

 

『ビビビッ! あれはひっかく攻撃ロト! ヤトウモリのワザ、ひのこ、スモッグ、ひっかく。データアップロードロト!』

「そうか、ひっかくか! ミヅキ、うまくピカチュウの近接攻撃を誘って、知らなかったワザを引き出したな」

 

 ククイ博士が感心したかのように言うと、マーマネが意外そうな顔をした。隣のカキは博士の説明に納得しているように頷く。

 

「え、知らなかったの? ミヅキ」

「だろうな、そうじゃなきゃ『受け止めて』なんて言わないだろ」

「あ、確かに……」

「はは、そうだな。みんな分かるか? ただいっしょに暮らしているだけではパートナーがどんなワザを持っているか分からない。バトルもまた、ポケモンとトレーナーがお互いにわかり合って、才能を引き出す方法の1つなのさ」

 

 スイレンは博士の説明を聞きながら、両手で抱いているアシマリの顔を見た。

 

『アオッ?』

「バトル……かぁ。ね、アシマリ。練習するだけじゃなくて、バトルして強くなったらもっと大きなバルーンが作れるようになるかな?」

『アオオッ!』

「ふふ、そっか。そうだよね」

 

 アシマリは笑顔で両手をぱしぱしと叩いた。それを見てスイレンも微笑みを浮かべる。

 

 アシマリはバルーンと呼ばれる丈夫なシャボン玉を作ることができる。そのバルーンを人が入れるほどの大きさにしようと、朝スクールに行く前に練習するのがスイレンとアシマリの日課だった。そしていつかアシマリの作ったバルーンの中に入って、自由に海底散歩をするのが今のスイレンの夢だ。

 

 もしかしたらバルーンを練習するだけじゃなくて、バトルしてアシマリが強くなったり、自分たちの息がぴったり合うようになれば、目標にぐっと近づくかもしれない。

 

 そう思うスイレンの目線の先にはサトシとピカチュウがいた。

 

 サトシは家が近いのもあって、頻繁にスイレンとアシマリがバルーンを作る特訓に付き合ってくれるのだった。その中でサトシとピカチュウの間には、想像もできないほど深い絆があることをなんとなくスイレンは感じ取っていた。

 

(いつかサトシとピカチュウみたいなパートナー同士になるんだ、わたしとアシマリも……!)

 

「決めた。わたし、これからバトルもがんばる!」

「あ、スイレンやる気じゃん。今度ボクとバトルしようよ」

「イヤ。マーマネは相性が不利だからカキとやる」

「えぇ~?」

「おお~? スイレン良い度胸してるじゃないか。オレの煮えたぎる情熱の炎はただのバブルこうせんじゃ消せないぜ?」

「ふふ、消してみせる。カキの炎」

 

 スイレンがニヤリと不適に笑い瞳を煌めかせると、カキもまた挑戦的に笑みを浮かべた。置いてきぼりになってしまったマーマネがいじけた顔を浮かべた。

 

「ちょっと待ってったら! ボクは誰とバトルすればいいのさ」

「ん? じゃあマーマネはあたしとバトルする?」

「それこそマオが相手じゃ、トゲデマルとアマカジってお互いにタイプ相性が不利だし勝負つかないかもよ?」

「あー、そういえばそうかあ……」

「まあまあ、クラスは7人もいるんだ。みんな同士でバトルすればいいじゃないか。それにスイレン、マーマネ。有利タイプのポケモンとばかりじゃなくて、苦手なタイプのポケモンとバトルすることで得られる経験だって沢山あるんだぜ? ほら、ひとまず今はサトシとミヅキのバトルに集中だ」

 

 ククイ博士が苦笑しながら言うと、みんな「はーい」と目線をバトルフィールドへ戻した。その中でリーリエだけが言葉を発さず、どこか難しい顔をしながら膝に抱いたシロンの後ろ姿を見つめていた……。

 

 そんな風にフィールドの外でクラスメイト達が話していることは知らず、バトルに集中していたサトシは内心驚いていた。

 

「すごいなミヅキ! ここで今まで使ってなかったワザを使うなんて」

「ううん、違うの。わたしが知らなかっただけで、今のは偶然。元々ヤトウモリはひっかくを使えたんだと思うけど」

「いや、それでもミヅキはわかってたさ。受け止めろって指示したのは、そういうことだろ?」

 

 賭けにも近い行動だったけれど、サトシの言うとおりだった。もしかしたら自分の知らないワザがあるんじゃないかという読み。それが必要だと感じて、瞬時にヤトウモリの近距離攻撃を引き出すアイデア。ミヅキにはバトルの才能がある。サトシは確信した。

 

「さぁ、バトルを続けようぜ! ミヅキ!」

「うん! ヤトウモリ、今度はこっちから攻めるよ! ひっかく攻撃!」

「ピカチュウ、アイアンテールで受け止めろ!」

 

 再びピカチュウの尻尾とヤトウモリの爪が交錯する。そしてそのまま剣戟の応酬が始まる。しかし手数では尻尾が1本のピカチュウよりも両手があるヤトウモリの方が有利であり、ピカチュウは徐々に押されはじめる。

 

「そのままスモッグ!」

 

 ミヅキとヤトウモリはその中でピカチュウが一瞬ひるんだ隙を見逃さなかった。そしてピカチュウの顔面にスモッグが直撃する。

 

「ピカチュウ! 大丈夫か!?」

『ピ、ピカ……』

 

 たまらず飛び退いて距離を取ったピカチュウはサトシの顔をちらりと見る。その表情はやや元気がないものの、まだ闘志は衰えていない。ただしどく状態になったのは明白だった。

 

 サトシはミヅキの表情を見た。その瞳の奥にある火の玉のような煌めきは、今まで幾度となく闘ってきたポケモントレーナーたちと同じ、勝利を求める情熱の形である。

 

「ミヅキ、やるな! ホント楽しいぜ!」

「サトシだって! 今やっとまともに攻撃が当てられたんだから」

 

 あの手この手を使って、ピカチュウにヤトウモリの攻撃がまともに届いたのはこれが初めてだった。それにヤトウモリもダメージがあり、疲労の色が隠せない。ピカチュウをどく状態にしたとはいえ、決して有利になったわけではない。

 

「しかし驚いたな……ミヅキって本当にトレーナーとのバトルは初めてなんだよな。とてもそんな風に見えないんだが」

「そうですね、きっと初めてではありません」

 

「「「「えっ?」」」」

 

 カキの疑問にリーリエがそう言うと、クラスメイト4人がぽかんとした声を出す。ミヅキはヤトウモリの世話をするまでパートナーポケモンすらいたことがないと言っていたし、まさかそんなことで嘘をついているとは思わない。

 

『つまりどういうことロト?』

「……ミヅキはずっとサトシやカキのバトルを見てきました。たぶん、カントーの学校でも他の人のバトルを見てたんだと思います。上手く言えませんが……バトルをするきっかけがなかっただけで、その経験がきっと、今に生きているんです」

 

 これはポケモンが触れないなりに、友達がするバトルを楽しもうとしていたリーリエだけが気づく視点だった。スイレンが思い出したかのようにマオに言う。

 

「あ! そういえばマオちゃん、カキとサトシのバトルをみんなで見てるときに、わたしたちが何が起きたかわからなくても、ミヅキだけは何が起きたか分かってることあったよね」

「あ、あったあったソレ! よく見えてるって思ったもんね」

「ええ? ボクそれ初耳だよ」

「アハハ……マーマネはサトシとカキがバトルするときだいたい審判だったからね」

 

 ミヅキはどこか分析するようにサトシとカキのバトルを観戦しているふしがあった。そのことをスイレンとマオは思い出した。そして目線の先のバトルはやがて終盤にさしかかる。

 

「ヤトウモリ、連続でひのこ! 追い込んでッ!」

「でんこうせっかで避けろ!」

 

 お互いの指示が交錯する。バトルが続くにつれてミヅキの胸のドキドキは止まらなくなっていた。リーリエの家でなりゆきでバトルした時も同じような気分になったけれど、それとは比較できないほど、自分の身体がすごく熱くなっているような気がした。口の中はいつの間にかカラカラに渇いていて、喉が張り付くような感覚があった。

 

 既に考えるよりも先に声が出てくる。自分が冷静になれず焦っているのか、バトルに熱中しすぎているのか、その判断すら、もはやわからなかった。

 

(もしかして……これが楽しいってこと? だからポケモントレーナーたちは、ポケモンバトルをしているの?)

 

 ミヅキは今まで自分の中にあったモヤモヤが晴れたような気がした。だが、同時にミヅキの意識はほんの少しだけバトルから離れた。その決定的な意識の空白をサトシは見逃さなかった。

 

「ピカチュウ、これで決めるぞ!」

『ビカビカ!』

 

 ピカチュウが恐るべき速度で四方八方へ飛び跳ねてひのこの連撃を避けると、ヤトウモリに大きな隙ができた。しまった。ミヅキは思ったが、既に遅かった。

 

 サトシとピカチュウが左手を力強く目の前に突き出す。そして手首のZリングが光り輝く! Zワザを使う。その事実にバトルを見ていたみんなの顔が驚愕の表情に変わる。

 

(ミヅキ、手加減なしって言ったよな! ならオレも最後までゼンリョクでお前と闘うぜ!)

 

「いくぜピカチュウ! これがオレたちのゼンリョクだ!」

「ッ、ヤトウモリ! ぎりぎりまで引きつけて避けてッ!」

 

 ピカチュウとヤトウモリがにらみ合う。お互いの体力を見ても、この一撃が当たるかどうかで勝負が決まるのは明白だった。

 

 一瞬の間、ミヅキはカラカラに乾いた喉をごくりと鳴らした。

 

「スパーキングギガボルト!!!」

『ピッ……ッカアアアアアァァァ!!!』

 

 結果的に言えば、普段ならば避けられた。だが……ヤトウモリに蓄積した疲労は、一瞬だけその動きを遅らせた。そして極太の電撃光線はヤトウモリの逃げ切れなかった下半身を捕らえ、上空へと吹き飛ばし、ミヅキの足下へと墜落した。

 

「ヤトウモリ!」

『シュウゥ……』

 

 ミヅキは叫んだ。ヤトウモリは目を回して仰向けに倒れていた。その時、これがバトルにおける「ひんし」状態なのだとミヅキは理解した。

 

「ヤトウモリ、戦闘不能! よってピカチュウの勝ち!」

 

 ククイ博士の声が聞こえる。でも、ミヅキの意識はヤトウモリに注がれていた。地面で伸びているヤトウモリを抱き上げその頭を撫でると、興奮を落ち着けてできるだけ優しく声をかけた。

 

「ヤトウモリ、よく頑張ったね」

『シュー』

 

 アメジスト色の瞳をわずかに開いてヤトウモリは答えた。ちょっぴり悔しそうだけど、なんだかとても満足したような顔。ミヅキには、そんなふうに見えた。

 

 昨日ヤトウモリを模写した時に普段の表情が頭に焼き付いていたから、ほんの少しの表情の差でも、なんとなく違いが分かるような気がしたのだった……。

 

「良いバトルだったぜ、ミヅキ」

「うんうん、ほんと凄かった! ピカチュウにも全然負けてなかったよ!」

 

 カキとマオの声だ。ミヅキがはっとして顔をあげると、いつの間にかミヅキの周りにはクラスのみんなが勢揃いしていた。

 

「でも、手加減なしって言ってもZワザ使うとは思わないよね……」

「サトシ、割とスパルタ……」

 

 マーマネとスイレンがジト目で言うと、サトシは目を泳がせながらバツの悪そうな顔をした。

 

「だってミヅキとヤトウモリ本当に強くてさ! スッゲー! って思ってバトルしてたらZワザ使っちゃってたんだ……あはは。ミヅキ、ヤトウモリ、今のバトルすっげえ楽しかったぜ! またやろうな!」

『ピッピカチュ!』

「サトシ……ピカチュウ……」

 

 サトシはミヅキにニカッと笑いかけた。ピカチュウはマオから貰ったモモンの実をもりもり食べていた。「ありがとう」とか「楽しかった」と言いたいのに、さっきのバトルの余韻でミヅキはまだ胸がドキドキしていて、うまく言葉が思いつかないのだった。

 

『シュー!』

 

 かわりにヤトウモリが、元気よくサトシに返事をした。

 身体は泥と煤だらけだけれど、やはり今のバトルがとても楽しかったようで、その表情は今まで見たことがないほど充実感に溢れていた。

 

 ミヅキはそれを見てうれしさを感じた。でもそれ以上に思ったのは、ヤトウモリの気持ちを今まで分かっていなかったことに対しての申し訳なさだった。

 

「ヤトウモリ……ごめんね、わたし、あんたのこと全然わかってなかった。バトルが好きだってことも、どんなワザが使えるのかってことも、何も知らなかったの」

 

 ヤトウモリは何も言わなかった。ただそのアメジスト色の瞳でミヅキの顔を見つめていた。

 

「でも今、一緒にバトルして、すごく楽しかった! 今だってすごく胸がドキドキしてるの。今まで見てるだけだったけど、こんなにバトルって楽しいものなんだって。気づかせてくれてありがとう。ヤトウモリ」

 

 ミヅキはそう言ってにっこりと笑うと、そっとヤトウモリの頭を撫でた。

 そして治療するため一緒に保健室に行こうとすると、ヤトウモリは持ち上げられるのを拒否してミヅキの腕の中からするりと抜け出し、その場に居座ってしまった。

 

「ヤトウモリ、どうしたの? ちょっと怪我しちゃったから治療しないと」

『シュ! シューシュー!』

 

 何かをアピールするように、ヤトウモリはその場を動かず、ずっとミヅキの顔を見つめている。ミヅキが何度か抱き上げようとしたが、それもするりと抜けて堂々巡りだった。

 

「ね、カキ。もしかしてこれって……」

「ああ、そうみたいだな」

 

 マオとカキが柔らかく笑いながら頷き合う。

 

「え、2人ともどういうこと?」

 

 ミヅキは意味がわからず怪訝そうな顔になった。

 

「やったねミヅキ!」

「うんうん!」

 

 続いてマーマネとスイレンがミヅキに向かってガッツポーズをする。それでもミヅキは何を祝われているのかわからない。

 

「えっ? えっ?」

『どういうことロト?』

 

 ミヅキとロトムが戸惑っていると、ククイ博士が微笑みながら、ミヅキに右手に持ったものを差し出した。

 

「こういうことだぜ。ミヅキ」

 

 その手のひらには、真新しいモンスターボールが握られていた。そしてぽかんとしたミヅキを見て、ニッコリと笑う。

 

「ヤトウモリはミヅキにゲットして欲しいって言ってるんだよ」

「えっ……?」

「きっとそうです! わたくしがシロンをゲットした時と同じですから!」

 

 サトシとリーリエが確信めいた口調で言うと、ミヅキはヤトウモリの顔を見つめた。ヤトウモリもミヅキの顔をまっすぐに見つめていた。綺麗なアメジスト色の瞳がミヅキを捕らえる。この吸い込まれそうな瞳がミヅキはなんとなく好きになっていた。

 

「……本当にわたしでいいの? ヤトウモリ」

『シュ!』

 

 ヤトウモリはこくりと頷いた。ミヅキにもはや迷いはなかった。

 

「……うん! いくよ! モンスターボール!」

 

 ミヅキはモンスターボールを上空に投げた。ヤトウモリは飛び上がり器用にボールのスイッチを押すと、その中に消えていった。みんながごくりと息を呑む。地面に落ちたモンスターボールは一度だけ振動すると、カチリと音を立てた。

 

 それがゲットの合図だった。ボールを拾ったミヅキは、みんなの顔を見渡した。

 ああ、そうだ。ポケモンをゲットしたら、言わなきゃいけないことがあるんだっけ……。

 

「えーっと……ヤトウモリ、ゲットだぜ?」

「歯切れ悪くない?」

「サトシみたいにゲットだぜ!! ってもっと叫んでもいいんだよ?」

「そ、そんなこと言われてもさ……」

 

 なんとも間の抜けたミヅキの宣言に、すかさずマーマネとマオが突っ込むとミヅキは気恥ずかしくなって顔が赤くなった。そしてやけくそ気味にボールを投げた。

 

「で、出てきて! ヤトウモリ!」

『シュウウ!』

「うおお!?」

 

 ヤトウモリはボールから出てくるなり、ミヅキの肩に飛び乗った。ミヅキの右肩がガクンと重くなった。なんとなくここを定位置にされそうな予感があり、ミヅキはちょっぴりげんなりした。

 

「ヤトウモリ、重いからそれやめてって前から言ってるじゃん……」

『シュウウ?』

 

 ヤトウモリはどこ吹く風だった。こいつ、感動的なゲットした途端に切り替わりすぎだろ。ミヅキは閉口した。みんなは笑った。

 

「まあいいや……ともかく、これからよろしく。ヤトウモリ」

 

 景色はいつの間にか夕方になっていた。アローラの眩しい夕日がキラキラと輝いていた。わたしはこれからこの時の景色を、ずっと忘れることはないだろう。きっとわたしは、ヤトウモリと一緒にこれから色んな楽しいことをするんだ。ミヅキは心の中に広がるワクワクを感じながら、そう思った。




【あとがき】
ミヅキがポケモントレーナーになる第1章がおわりました。ここから更新速度upしたいところです!がんばります!フンフンフン!
今の時系列はアニポケ16~18話あたりです。
ここからはアーカラ島へ突入するまで(31話)が第2章の予定です。
1章で早々にマツリカと出会ったり、オリジナルエピソードとか普通に挟みますが中だるみしないようにもりもり書きます!
感想や評価などいただけると励みになります!最近の対戦環境とかでも全然知りたいので!!よろしくおたのみもうす!
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