リリカルハート~群青の紫苑~ (リテイク版有り)   作:不落閣下

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無印16 「男の意地、です?」

「……率直に聞いておくけど、君とアリス・ローウェルは転生者だね?」

「そう言うって事はあんたも同じか?」

「ま、そうなるね」

 

 成る程、とシロノはこの世界の事、というよりは転生者について憶測を立てられた。シロノ、勇人、アリスは『リリカルおもちゃ箱』に設定の出ている人物で、尚且つリメイクアニメである『魔法少女リリカルなのは』には出ていない人物の名を持っている。そうなると、転生者はリメイクされた人物の名を持っている人物が怪しい。……しかし、これは案外キツイ縛りだ。何せ、主要人物以外の名もまた存在している可能性があり、うろ覚えの状態では見つけれないのだ。そして、そのディスクは勿論ながらこの世界には存在しない。言うなれば、詰みの状態だった。そして、シロノの覚えているキャラの名は、高町家に居候していない人物であるレン、晶、フィアッセ、那美、そして、美沙斗と久遠ぐらいしか覚えていないのだ。だが、転生者が三人に加えて六人以上は居ると目星は付けれたのは行幸だろう。綺堂さくらに対しては忍経由で安二郎一派の処理の事を尋ねた際に、同性同名であった事から転生者である事をシロノはこの場で持って排除した。

 

「……お、おい?」

「ん? ああ、ごめんね。で、本題だけど、君たちはこれからどう動くんだい?」

「……あんたはどうすんだ?」

「あれ、もしかして警戒してる? ぼくとしては敵対する意思は無いよ。すずかちゃんのお友達だし」

「待て、それじゃ月村と友人じゃなかったら敵対するって事にならないか?」

「……で、本題だけど、君たちはこれからどう動くんだい?」

「スルーかよ!? ……まぁ一応、アリスはアリサを護るって事で動く気は無いみてぇだ」

「ふむ、君は違う、と?」

「そりゃあ……、流石に友人でも九歳の女の子が危険な目に遭うってんだぜ? 手助けぐらいはしたいんだよ」

「でも、デバイスが無いだろう?」

 

 シロノの言葉に勇人は顔を顰めた。正しく、その通りだったからだ。交渉向きじゃない勇人の性格にシロノは内心青いなと思いつつも、他人のために頑張れる性格のある勇人に感心していた。この手のタイプは、悪と称される行いを嫌う典型的な偽善者に分類される。しかし、裏を返せば愚直に万人を助けるヒーローにも近いという性質を持っているのだ。これから偽善になるのか、英雄になるのかは生き方次第環境次第だ、とシロノは考える。偽善者になるのは言うなれば信念が欠けているせいであり、今はただ友人を救う事に酔っているだけのお子様に過ぎない。なのはに惚れている訳でも無さそうだし、と先程の様子から観察して憶測を立てたシロノはカマをかけてみる事にした。

 

「君、アリスちゃんに惚れてるね?」

「なッ!?」

「肯定、と」

「か、カマかけやがったな!?」

 

 案の定、勇人は頬を染めて驚愕のリアクションを取った。シロノは自分の事を棚に上げつつも、青春だねぇと内心で呟く。と、なるとだ。勇人の心情を考えるに、アリスを護るだけの力が欲しい理由がある事になる。アニメ世界と誤認した転生者ならば、このままジュエルシード事件を傍観したとして、闇の書事件で襲われても魔力を奪われるだけで死にはしない。だからそれ以降は危険は無いだろう、と考えてしまうだろう。実際にアリスはその考えがあるため傍観を指針にしたのだ。

 

(……んー、アリスちゃんがどう考えてるかは分からないけど、勇人君は分かりやすいな。ぼくと同じく、原作準拠に物事が進む訳が無いって考えてるね。その読みは、当たりだね)

 

 そうシロノはポケットにあるS2Uを撫でた。既にその中には封印処理されたジュエルシードXIVがあったりする。つまり、なのはとフェイトの初対面シーンは無くなった事になる訳で。

 原作の前提は横槍が無い事であり、既にブレイクした状態であると言う事だ。

 すずかが学校に行っている時間に中庭で魔法技術の鍛錬していた際、ジュエルシードが結界内の魔力余波により起動したのを封印したのだった。外からの干渉を防ぐ隠蔽系の結界だったために、ジュエルシードの反応が幸いにも外に漏れる事は無かった。シロノ的には夜の一族化した事で魔法に差異があるかどうかの調整を兼ねた鍛錬だったために薮蛇にして棚から牡丹餅だったと言えよう。

 

「赤星勇人君、君は今ただの小学三年生でしかないのは分かってるよね?」

「ぐっ、まぁな。小学生大会で優勝しても結局その程度だしな」

「さて、君には朗報だ。ぼくは陸の執務官。つまりはミッドチルダ出身でね、色々とコネがあったりするんだこれが」

「デバイスをくれるのか!?」

「君次第でね。赤星勇人君、時空管理局に入局してぼくの補佐官にならない?」

「……勧誘が条件って事か」

「ま、正確には陸の魔導師になって欲しいんだ。海に人員が取られてる以上、陸には魔導師が少ないんだよ」

「でもよ、俺は魔法の資質ってもんがしょぼいらしいぞ?」

「ああ、そんな事か。問題無いよ。見た感じリンカーコアがあって、バリアジャケット張れるくらいには資質があるみたいだし十分だよ。勇人君は少し勘違いしてるかもしれないね。別に、魔導師じゃなくても魔導師を殺せはするんだよ」

「おおい!? それは執務官としてどうなんだ!?」

「例えだからね、問題無いよ」

 

 ――才能なんざ無くてもやる気が無くならなきゃ人間やれる事までやれるんだからさ。

 真剣な瞳で言ったシロノの説得力の篭る言葉に勇人は目を見開いた。強くなりたいという向上心さえ持って努力を重ねれば強くなれる事を勇人は身を持って知っていた。正直に言えば、勇人はアリスから魔法の資質が無いとずばっと言われた時に悔しく思っていた。だが、何よりも悔しかったのは才能の有無ではなく、然るべき時にアリスを護れる自分に成れない事が大きかった。

 その根底を覆された勇人はシロノを改めて見やる。目の前の人物は初対面であるが、敵対の意思が無いと口にしている。そして、すずかの友人という点がシロノが敵対の意思を持たない一線の要因だと、勇人は察する事ができた。

 目の前にあるのは、シロノと勇人の個人的な契約だ。シロノは力を与えるために勧誘を、勇人は力を貰うために補佐官になる。勇人は断れる立場にあるのだ。そして、シロノは無理強いをしていない。

 

(……俺の意思で、決めろって事だよな)

 

 アリスの協力者となったあの日から勇人は受動がデフォルトだった。好きだった剣道をやって、アリスに扱使われていながらその時間を楽しんでいて、そして、何よりもアリスを護りたい意思があった。勇人は小さい右掌を握り締め、シロノへ真剣な表情で向かい合う。

 

「……質問だ。その補佐官ってのは何をすりゃいいんだ」

「うん、良い質問だ。ぼくが執務官と言ったのは覚えてるね。書類処理や現地へ着いて来て貰ったりの雑用だよ」

「給金と休みは? 勤務時間はどうなってるんだ?」

「歩合制だね。休みはぼく次第だけど、大体週二日かな。アリスちゃんと恋仲になれたら三日にしてあげよう。流石に、緊急の案件が入ったら来て貰うけどね。勤務時間は君の年齢と学業を優先して徐々に仕事を増やす方向で行こう。渡された仕事を完了したら休憩して良いよ」

「……まるで自由業だな」

「ま、執務官って逮捕権持ってるから案外楽なんだよ。一人で処理すると時間が掛かるってだけでね。一件一件はそんなにかからないんだ。海と違って現地への隠蔽性とか皆無だし」

「本当にデバイスをくれるんだろうな?」

「約束しよう。シロノ・ハーヴェイは赤星勇人にデバイスを渡す、と」

「……分かった。あんたと契約するぜ」

「うん、じゃ、これが書類ね。ギアスペーパー的なもんじゃなくて、補佐官になる予定で勧誘されましたっていう任意書類。アースラから来るであろうクロノに有望な君を持ってかれるのは困るからね」

 

 S2Uを取り出して空中投影のディスプレイを映し出したシロノはミッド語で書かれていたそれを日本語へ変換し、勇人の眼前へと映し出す。念入りに勇人はその投影された電子書類の内容を確認するが、先程シロノが言っていた様に資質ある民間人への勧誘のための内容であり、見届け保証人がレジアス・ゲイズとなっているだけだった。勿論、シロノの名前は電子書類の上側にあり、その隣は空欄だった。シロノは其処に名を書くだけだと説明する。勇人はもう一度上から下まで読んでから指で自分の名を其処へ書いた。書き終えたのを確認したシロノは空中投影を止めてS2Uへ収納する。そして、代わりに赤と青の二本のペンライトの様な物を取り出した。

 

「はい、これが君の最初の相棒のオフェンサーとディフェンサーだ」

「……これ、本当にデバイスなのか?」

「うん、そうだよ。試作品の簡易デバイスだけどね」

「……は?」

「正直言ってね、今の君の魔法資質だとデバイスなんて持っても宝の持ち腐れなんだよ。だから、慣れて貰うってのもある。そして、何よりその試作品は君のためになるものだ」

「そ、そうか?」

「その試作品はね、魔法資質の低い魔導師にテコ入れするための第一歩なんだ。その名もバッテリーシステム搭載型試作デバイスGK-01。ベルカのカートリッジシステムを真似て作ったシステムでね、言うなれば電池を内臓したデバイスって奴だ」

「ん? 魔法ってリンカーコアから作った魔力でやるんだろ? 電池なんかじゃ心許無いんじゃねぇの」

「流石に普通の電池じゃないさ。電気の代わりに魔力が充填されてるんだ。その代わり、燃費や長時間運用のために一つの魔法しか使えないけどね」

「欠陥品じゃねぇか!?」

「じゃ、バッサリ行くけど今の状態の君は多数の魔法を駆使して戦闘できるのかい?」

「うぐっ」

「言うなれば、それはビームサーベルとビームシールドだ。こう言えば分かるかい」

「ああ、成る程。魔法を使うデバイスってよりは、武器と防具なんだなこれ」

「そういう事だよ。それの使い方は簡単でね。握って名前を言うか思うだけで使える。赤がオフェンサーで青がディフェンサー。オフェンサーとディフェンサーを解除する時はリセットって思うだけで良い。勿論、止める方の事を考えてね」

 

 シロノの言われた通りに勇人はオフェンサーを右手に、ディフェンサーを左手に握った。少しシロノが離れた時に勇人はオフェンサーの名を心で呼ぶ。ブオンッと青白い直線が虚空を焼き進み、一メートル程で伸び切った。正しくガンダムに出てくるビームサーベルその物であり、その格好良さに勇人はおおと感嘆の声を漏らした。そして、続いて左手のディフェンサーを起動してみる。フォンッと現実に存在するラウンドシールドの様な半透明の青白い魔力盾が出現する。リセットと念じた瞬間、魔力刃と魔力盾は霧散して行った。その後も幾度か試して感覚を確かめた勇人はシロノにグッと親指を立てた。

 

「気に入ったみたいだね。大体両方とも最長が二十分くらいで、戦闘に使用したら十分持ったら良い方かな。って言っても、オンオフきっちりとすればその時間は延びるし、受ける時に真正面からじゃなくて斜めにして流すとか工夫をすればもっと延びる筈だよ」

「リアルガンダムだなそれ。空は飛べないのか?」

「素人が立体駆動とか首から落ちて死にたいの?」

「ナマ言ってすいませんでした」

「分かれば宜しい。それじゃ、これは餞別だよ。右手に嵌めてごらん」

「おお、リストバンド? なら早速――ぅッ!?」

 

 青いリストバンドを嵌めた途端、重力が増したかの様にずしっとした倦怠感が勇人を襲った。ギギギと錆びたブリキ人形の如くシロノを見やれば良い笑顔で言われた。

 

「それはミッドの道場でよく使われる魔力負荷バンドって奴でね。自身の魔力の半分の負荷がかかる特製品。昔ぼくが使ってたお古だけど、その効果は覿面なんだ。日常生活に支障が出るのは始めて一日二日ぐらいだし、慣れたらただのリストバンドだ。取り外せるけど、戦闘になるまで着けておくと良い」

 

 ――アリスちゃんを護れる男に成りたいなら、ね。

 そうシロノのニヤッとした笑みで言われた言葉に悔しいながらも、否定できない勇人は頷くしか無かった。そして、男性陣の帰りが少し遅い事からアリスが心配そうにしていた。だが、対戦相手のなのはは先程からばよえーんばよえーん……と大連鎖するアリスの画面に戦慄して猫みたいな悲鳴を上げており、三人からは普段通りのアリスにしか見えなかったのだった。

 


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