リリカルハート~群青の紫苑~ (リテイク版有り)   作:不落閣下

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無印17 「必然の出会い、です?」

「ああ、その二つは肌身離さずに持ってれば充填できるよ。それじゃ、また縁が合ったら会おう」

 

 と、シロノは勇人にそう言い残して遣る事があるからとリビングでは無く自室へ戻って行った。勇人はリビングに戻るまで気付かなかったが、戻った瞬間にアリスやアリサになのは――すずかのハイライトが若干消えた瞳に迎えられて本能で察した。

 ――シ ロ ノ サ ン ハ ?

 黒い雰囲気を拡散する波動の如く解き放ったすずかに対し、即座に勇人はシロノが用事が出来たために自室に戻る事を軍人も真っ青な速度で語尾にマムを付けて言った。その変わり様に怖くて隣が見られない三人が同情とご愁傷様ですと内心で手を合わせている。残念ながら勇人の窮地を助けてくれる人物は居ない。

 

「へぇ……、そっか。そっかぁ……、シロノさんったら……、ふふふっ……」

「(いや、そのだね。上司に連絡しなくちゃいけない案件が出来てね?)」

「(今日の夜かぷっしますからね)」

「(……へ?)」

「(かぷっしますからね)」

「(え、えっと)」

「(かぷっします)」

「(……はい)」

 

 すずかの機嫌が段々と良くなって行くのに比例して、シロノの心の耐久度がガリガリと削られて行く。その様子を見て勇人は偉大なる先輩に内心で敬礼した。テラス側の窓から見える夕焼け空にサムズアップしているシロノが見えた気がした。

 それから四人は帰り支度をして月村邸を後にする。ノエルが送迎を申し出たが、アリサとなのはが塾に行く日だったのもあって、すぐ近くの公園を経由した方が近道になるからと断った。なのはとアリサが二列に並んで談笑している後ろで、アリスと勇人は先程の話を精神通話にて話していた。

 

「(……ふぅん? ハーヴェイさんは敵対はしないって言ったのね?)」

「(ああ、そうだな。月村の友人ってのが大きいんだろ。後ろを心配しなくて良いのは良かった)」

「(はぁ……。お馬鹿さんね。勇人、しっかりと思い出しなさい。彼は敵対はしないって言ったのよ)」

「(…………は? いや、まさか、え。……そうなのか?)」

「(そうよ、誰も私たちを護るって言ってないわ。察するに表舞台に一生出てくるなっていう忠告か、それとも自分たちで何とかしろってスタンスなんでしょう。陸の執務官って事は恐らく管理外世界であるこの世界は管轄外よ。……事態の収拾には現れるかもしれないけど、ね)」

 

 そのアリスの呆れ混じりの言葉に勇人は信じられないという表情で、裏腹にシロノの魂胆が分かってしまって口元を引き攣らせた。そう、アリスを護りたいという願いを叶えるためには、アリスに対して災いが襲いかからねばならない。別れ際に言ったシロノの言葉の意味が漸く飲み込めたのか、勇人は名前とは裏腹に腹黒だなとシロノを若干恨む。

 もしも、あの時に保護を求めていたらどうなっていただろうか。いや、シロノはそもそもそんなつもりが無かった筈だ。何故なら、シロノは偶然ではあるが試作品のデバイスを持っていた。条件無しにくれてやるぐらいの気概があったのなら、護身用として渡されていたに違いない。

 

(……なら、勧誘という条件を取り付けた意味は? 俺への発破って訳じゃ無いだろうし。……もしかして、シロノは……)

 

 実際にシロノと会話をした勇人だから何とか気付く事が出来た。既にシロノによる弟子入りは始まっているのだ、と。仮定が仮定でなく、真実であったのならば。一番危険なのは――アリスだ。

 

「(……ごめん、アリス。もう後手に回るしか無いぜ)」

「(はい? 如何いう事かしら)」

「(シロノは既にアリスの言う原作から乖離している事に気付いてたんだ。……アリス、ジュエルシードは既にこの土地に落ちてるんだよな?)」

「(ええ、そう――まさか?!)」

 

 ――シロノ・ハーヴェイは既にジュエルシードを持っている可能性がある。

 そう考えれば、先手を取って原作知識というものに振り回されている側であるアリスの魂胆は前提すらも狂う。転生者は皆、原作通りに事を進めるとだけ考えていた。だが、ユーノの居ない夢やシロノの分かり辛い示唆が仮定を現実に変えて行く。もう既に原作と呼べる筋書きが継ぎ接ぎ状態になっている可能性がある、と。それならば、既に動き出しているシロノと比べ、アリスと勇人は後手に回っている。

 

(あの野郎、性格絶対ぇドSだ……ッ!!)

 

 誰にでも優しいイメージのあったシロノであるが、果たして本当にそうだったろうか。そう、現にアリスと勇人は何もして貰っていない。勇人は力を貸してくれたのではなく、青田刈りされただけだった。勧誘だなんて力の無い子供に遣る事では無い。客観的に見れば恋愛感情を出しにした一本釣りその物だったのだ。そう、アニメという筋書きが決まっている世界ではなく、この世界はアリスや勇人、そしてシロノにとっては現実に値する世界なのだ。何もかもが決まっている世界ではない。

 

(って事はアリスの両親が死んだのは……、本当に偶然って事なのか? いや、そうだよな。大富豪の兄から金を取るなら妹や親類を狙う。小学三年生の俺でも分かる事だ。……つまり、バタフライエフェクトだなんて非現実は存在しない……。これ、絶対にアリスには言えねぇや)

 

 そう、現実的に考えたなら有り得る可能性だったのだ。月村家の様に他の一族からの襲撃を懸念している訳でもなかったアリスの母親だったから誘拐された。そうなれば、その過失は明るく生活していたアリスではなく、危機管理を怠ったデイビット、そして可能性を考えなかった母親の危機管理が低かったという悲劇でしかない。

 

(……こんなのって無ぇよ。畜生め)

 

 勇人は何処かに神様が居て欲しいと思った。アリスの悲しみを作った理不尽な悲劇をくれやがった神を殴ってやりたかった。いや、この行き場の無い理不尽への怒りをぶつけたかった。そのしかめっ面をアリスは横目で見ていた。先程から勇人が真面目な顔で思考に没頭しているせいだった。

 

「(その、あんまり思い詰めるんじゃないわよ。後手に回ってるって言うならこれから掻き回してやれば良いのよ)」

「(……そうだな。これからは俺たちの時代だぜってぐらいにはしゃいでやろうぜ)」

「(ふふっ、良いわね。なら、ジュエルシード全部集めてやろうかしら。全部集めたら龍が出てくるわよ、きっと)」

 

 笑顔を魅せたアリスに勇人は隣故に直視してしまった。夕焼け越しの風景がまるでスタンドグラスの絵の様で、その中央に居る風に金色の髪を靡かすアリスが女神の様に見えた。可愛いな畜生と夕焼けに頬を染めながら、勇人も微笑を浮かべる。そして、不覚にもアリスはその笑みを見てドキっとしてしまった。バツが悪そうにそっぽを向いたアリスに勇人は首を傾げた。どうしたんだ、なんでもないわよ、とありがちな無限ループに嵌る二人を、肩越しにチラリと見た二人は苦笑する。

 

「……何か後ろの二人からラブコメってる気がするんだけど」

「にゃ、にゃはは……。シロノさんたちに中てられた、とか?」

「有り得るわね……。アリスって私に過保護な癖に自分を省みないんだもの。護ってくれる騎士が居てくれれば良いんだけどね」

「にゃはは。お似合いだもんね、何かこう……、主従?」

「あれ、それって勇人がペット扱いされてないかしら」

「え!? そんな意図は無いよぉ!」

「ふふっ、冗談よ。……多分」

 

 アリサたちの会話も聞こえないぐらいに青春しているらしい二人に苦笑しつつ、公園の入り口に辿り着いたアリサとなのはは一歩先に足を踏み出して――、

 

「(誰か助けてぇぇえええッ!! ちょ、あ、食われ)」

「ふぇ!?」

「は?」

「へ?」

「……あんたら何に反応してるのよ?」

 

 絶叫する少年の声が自然公園の方から聞こえたのだった。しかも、内容からするとかなりピンチらしい。硬直した二人を置いて、なのはが猫まっしぐらと言わんばかりに走って行く。慌ててアリサが追いかけて、立ち止まってしまった二人は顔を見合わせた数秒後に正気に戻ってその背中を追い掛ける。

 なのはが見つけた先に居た野良犬の口には、今日のご飯ですと言った具合に胴体を噛まれているフェレットみたいな小動物の姿があった。野良犬は走ってきたなのはを見ていた。そして、アリサがそろそろ追いつくと言う瞬間だった。

 

「めっ!!」

 

 両腕を振り下ろす際に腹を丸めて、一気に空気を吐き出したなのはの一喝が炸裂した。到着したアリサが耳を押さえてくらくらするくらいの大音量。耳の良い犬なら尚更の大ダメージだった。ぽろっとフェレットを口から落として尻尾巻いて逃げ出した野良犬になのははふぅと息を吐いた。ぐったりとしたフェレットに近寄ったなのははそのまま掴もうとして、ごめんねと若干嫌そうな顔でハンカチ越しに抱き上げた。流石に野良犬の唾液塗れのフェレットは臭いがアレだったのだ。そして、アリサに追いついたアリスと勇人は原作の始まりとも言える出会いを地味に見逃したのだった。

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