リリカルハート~群青の紫苑~ (リテイク版有り)   作:不落閣下

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無印18 「名前を呼んで、です♪」

「へぇ、そんな事があったんだ。そのフェレットさんは大丈夫かな? ……え? シロノさんは大丈夫かって? ああ、シロノさんならわたしの隣で寝てるよ。え、やだなぁ、そんなんじゃないよぉ。アリサちゃんのえっち! えへへ、もっとイイ事だもん♪ え、早過ぎる? でも、シロノさんは長くて大丈夫だったよ? あれ、アリサちゃーん? ……切れちゃった。どうしたんだろ?」

 

 電話中のすずかの会話を聞いているシロノは、快楽に溺れ掛けた真っ白な世界から戻りつつある思考でフェレットの話にユーノ発見のフラグが立った事を察した。内容からして勇人たちも巻き込まれたらしく、シロノは良い匂いのする枕に顔を突っ伏しながら口角を上げた。

 そう、シロノ的には勇人とアリスは体裁の良い一般人にして転生者という点で罪悪感が薄れる存在である。そのため、なのは側の人間として面倒な件を済まして貰おうと画策していた。詰まる所、すずかと一緒に居る時間を増やすためである。序でに言えば、フェイト側に転生者が居た場合のために、様子見の立場で居たかったからだ。

 そう、シロノは陸の人間だった。なので、例え休暇中とは言え管理外世界で執務をやるのは拙いのだ。レジアスやゼストなら苦笑して子供が遠慮するなと言うだろうが、ジュエルシードの件で海側に行動がバレた場合が面倒な事になるのだ。そう、陸でしか執務官をしなかったシロノくんが海の管轄でねぇ、と嫌味を言われるに違いないのだ。上層部に居る奴らは大概がそんな野郎や女郎であると執務で集めた資料から察している。特にレジアスとゼストにあまり迷惑を掛けたくないとも思っているので、尚更シロノはこの件はあまり出しゃばる事はせず、尚且つ美味しい所を掻っ攫う必要があった。

 そう、それが絶対にアリスのために頑張ってくれるであろう勇人を勧誘した理由である。ジュエルシードによる問題に勇人を噛ます事で、正当な理由をでっちあげるのだ。弟子候補を見守る師匠として都合の良い立場に居るのが現状である。流石に荷が重過ぎたら手を出して、弟子を助けた結果解決の手助けとなった、ぐらいがシロノの考える丁度良い塩梅なのだ。もっとも、嫌味を言われた場合、そいつの悪行を執務官として暴露してやるのがシロノだが。

 マルチタスクにより、確実に自分がすずかに性的に手を出したような誤解をアリサに対し受けるだろうと項垂れつつ、漸く収まってきた余韻の傾向に一息吐いた。二回目の吸血だったからか、それとも結局言いそびれた夜の一族もどき化した影響か分からないが、誤射する事が無くなったのはシロノにとっては行幸だった。流石に脳内を犯す快楽の津波によりドライオルガズムを経験し、若干腰が抜け掛けているが。ある意味生殺しよりはマシかなと思ってしまうシロノは若干もう駄目っぽい。

 

「あ、シロノさん。復活しました?」

「あー……、うん。何とかね」

「とっても美味しかったです。シロノさんのを吸ってから輸血パックの味が不味く感じちゃいます」

「お粗末様、と言うべきなんだろうか……」

「そう言えば、吸ってる時にすずかって呼び捨てにしてくれましたよね?」

「……そうだっけ。意識若干飛んでたから覚えてないや」

「そうですか……。わたし的にそろそろ呼び捨てにして貰ってもいいかなって」

 

 精神リンクから伝わるやんやんもじもじとするすずかの可愛らしさに色々と相まって口元を緩めてしまったシロノは、すずかの方へ顔を向けてさらっと言った。

 

「まぁ、そうだね。すずかって呼ばせて貰おうかな」

「ッ!! あ、なんか凄い……。シロノさん、もう一回良いですか?」

「うん? まぁ、良いけどさって、ありゃ、もう一噛みって意味かい?」

「えへへ、シロノさん大好きです」

「……すずかに対して意思弱いなー、ぼく」

 

 中央へ転がされる様に仰向けにされたシロノは飛び付いてきた柔らかい体を抱き止めて、とろんとした表情でかぷっと首筋に噛み付いたすずかの頭を撫でる様に押さえた。そして、再び快楽の波の蹂躙が始まる。金色のイけない瞳で夢中になって二つの傷口に舌を這わしたり、吸血歯を抜き差ししたりと三回目で慣れてきたのかすずかはシロノを撃墜せんとばかりに攻め立てる。だが、裏を返せばシロノも吸血に慣れてきているという事で、快楽よりも違う何かが見え始めていた。もっとも、シロノの腕力ではすずかに勝てないので大好きホールドされている状態は抜け出せず、貧血も相まって失神間近の所で開放されるので再び呼吸を荒くしてベッドにぐったりする運命だったのには変わり無いのだが。

 二度の吸血は少し辛かったのか貧血の症状で若干顔を青褪めたシロノを見て、すずかが段々と金色から蒼い瞳に戻って正気に戻り、慌てて大声でノエルを呼んだ。

 

「すずかお嬢様、どうなされましたか。……把握しました、直ぐに増血剤とお水を持って参りますね」

 

 忍と恭也の逢瀬からの経験か、二度三度と吸血した時があったらしくノエルの手際というか察する速度はかなり速かった。AIだと言うのをすっかり忘れてしまいそうな人間らしさが芽生え始めているノエルを見送って、すずかはここぞとばかりにシロノの頭から枕を抜いて自身の膝に入れ替える。女の子座りでの膝枕なので若干後頭部の位置が怪しいが、愛しむ様に若干苦しんでいるシロノの頭を撫でるすずかはそんな羞恥心を感じている様には見えなかった。

 そんな甘くも苦い空間に颯爽と入室したノエルは増血剤のカプセルをシロノの口に放り込み、小さな水差しで中身を少しずつ飲ませた後一礼し、今夜はお楽しみでしたね、と良い笑顔で言ってから退室した。その鮮やかかつ洗練された一連の行動にすずかはパチクリしていた。

 

「あー……、血が戻ってく感じがする……」

 

 そんなシロノの呻きが聞こえなければ後数十秒は呆けていただろうすずかが思考から戻ってくる。そして、ノエルの言葉の意味が今なら分かる故にすずかはボッと頬を赤らめて、吸血の余韻でハイになっていた思考が冷や水を打たれた如く冷めて、ぁぅぁぅと口をパクパクさせて悶えた。

 

(な、なんかシロノさんが来てから環境がガラッと変わった気がするよぉ……。こ、こんなえっちな気分になるのだって、ノエルが何処かの宿屋の店主みたいな反応をする様になったのも、あれ、これは何か違う気がする? ……でも、何もかもが変わった気がする。うん、シロノさんに染められちゃったんだ……。えへへ、嬉し♪)

 

 にへっと頬に手を添えてやんやんと膝を揺らさずに悶え始めたすずかを真下から見上げているシロノはぼんやりとする頭で貧血的な意味で青褪めていた。そして、ノエルの持って来てくれた増血剤がある理由に辿り着いてあまり変わらないが更に青褪めた。そう、月村家に増血剤が常備されている。その理由はたった一つだ。

 

(……恭也さん用……だよなー……、そして、今日からぼくもその一員かー……)

 

 そう、先輩カップルこと忍&恭也のために存在していたのだ。つまり、本日のすずかの如く、忍も張り切っちゃった時に恭也が増血剤を飲んでいるのだ。もしかすると毎回毎回飲んでいるのかもしれない。そして、今回のすずかの様子からしてシロノはおねだりされたらホイホイと首筋を差し出すだろう。その点で言えば夜の一族もどきになっていて良かったのかもしれない。まさか、一番最初に感謝する瞬間が貧血からの戻りが常人より早い事だとは思いもしなかったが。増血剤を飲んでから数分程で大分楽になってきたシロノは今も変わらずやんやんと可愛く悶えているすずかを見つめていた。

 というか、先程から押し寄せる津波の如く精神リンクからすずかの惚気と言う妄想が流れてくるので、後頭部の柔らかい感触がやけに理性を刺激する。そう、小学生のすずかの妄想は背伸びする子供の憧れみたいなもので済むが、十三歳という中学一年に値する年齢のシロノからすれば性欲を刺激するので性質が悪い。個人の妄想ならば良かったが、精神リンクによって流れてくる。しかも、シロノの方で止める事ができないのが尚更に辛い。そんな気分で復活したシロノはすずかに声をかけた。

 

「何とか復活ってとこかな……」

「それで行く行くは……、えへへ。あ、シロノさん大丈夫ですか?」

「ああ、うん。すずかのその笑顔で何とか」

「そうですか? なら良かったです」

「うん。でもね、流石に二回連続は辛いかなって」

「あ、あぅぅ……。その、舞い上がっちゃって……。明日から気を付けます」

 

 すずかの中では毎夜吸血をする事になっているらしい。体持つかなとシロノは若干遠い目でノエルに確実に増血剤について備蓄を増やす様にお願いしなくちゃならなくなってしまった。今はまだすずかの見た目が小学生のロリボディだから問題無いが、一年二年と経てば体にメリハリの予兆が出てくる時期になり、中学生に上がってしまえばそれはもう美人になって行く。

 

(……我慢できるかな、いや、我慢しなきゃならないのか……)

 

 幸せな筈なのに案外キツイ現実にシロノは苦笑せざるを得ない。吸血の際にドライオルガズムで多少性欲が抑えられているのが良い点だろう。この境地に達してなかったら文字通り襲っていたに違いない。もっとも、すずかは「きゃー♪」と悦ぶに違いないが。そうなったらもうシロノは溺れるだろう。すずかという少女に身も心も落ちるに違いない。

 シロノの受難は一生終わらないだろう。


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