リリカルハート~群青の紫苑~ (リテイク版有り)   作:不落閣下

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A’s47 「近付くタイムリミット、です?」

 シロノといちゃついた翌日の日はすずかにとっては少し憂鬱な月曜日だ。ミッドに渡ったシロノは毎週土曜日に来て日曜日のお昼頃に帰って行く。そのため、シロノにベタ惚れしているすずかは一週間に一度の逢瀬に羽目を外す。そして、たまにその余韻が忘れなくて月曜日に一人だけ惚気オーラを出してしまった時があった。ずっと上の空でもじもじするすずかを見て多くの男子が胸を撃たれたり、独り身の教師が毒を吐き出さぬように深い溜息を吐いたりと色々と大変だったのだ。それをアリサたちに指摘されたすずかは「あら、ごめんね♪」とにこやかに返したのは良い思い出である。

 そして、昨日のシロノとの健全な触れ合いを思い出してトリップする程度に抑えられているラブパワーに、勇人が何故か勇気という憧れを持ったりして意気込んだ月曜日の放課後。すずかは久し振りにアリサたちと都合が付かず一人だった事もあって、調べ物をするために近くの大きな図書館へと足を伸ばした。

 

「えっと……、格闘技関係の本は……?」

 

 シロノに頼まれた地球の格闘技に関する知識を得ようと本棚を歩いているとぴょんぴょんと背筋だけを伸ばして手を伸ばしている車椅子の少女が見えた。気になって近付いてみればその女の子はもう数センチで届きそうな所で掠るだけで本を掴む事ができなかった。すずかはすっとその隣に立って、隣から「あ」という声を聞きながら彼女が取ろうとしていた本を引き抜いた。

 

「これであってるかな?」

「そ、そうや。ほんまおおきにな」

「ううん、大丈夫だよ。他に取りたい本はある?」

「あ、ならそことそこのを頼むわ」

「はい♪」

 

 数秒後には少し茶の掛かったショートの髪の少女の膝に三冊の文庫本が納まった。その重みに嬉しそうにしている少女は八神はやてという名を名乗った。すずかは本友達になれるかも、と自分の名を返した。

 

「そか、すずかちゃん言うんやな。これ、私のアドレスや。交換してくれる?」

「うん。大歓迎だよはやてちゃん」

「お、来た来た。行くでー」

「あ、こっちもできたよ。よろしくね」

「よろしくな! そや、あっちでお喋りせえへん?」

「いいよ。車椅子押そうか?」

「大丈夫大丈夫。もう慣れたわ」

 

 はやてはいきなり車椅子を押さないで一言尋ねてくれたすずかの事に良い印象を受けた。車椅子が大変だからといきなり押すのは乗っている側からすれば恐怖でしかない。それも、初対面なら尚更に、だ。と、なると目の前のすずかはそれなりの教養と相手を気遣える思いやりがある少女だと分かるのも当然だった。はやては初めてのお友達にご満悦な笑みを浮かべて、近くに空いていた席へと向かった。

 

「へぇ、はやてちゃんもお姉さんが居るんだ」

「そうやー。せやけど血は繋がってないんよ。でもなー、……ほら!」

「わ、凄いそっくりだね。姉妹にしか見えないよ」

「あははは! せやろ? 初め見た時、未来の自分が来たのかと思ったんよ」

「ふふっ、確かにこんなに似てたらわたしも思っちゃうかも」

「でなー」

 

 談笑している二人の様子は十年来の友人のように朗らかで、とても楽しそうに見えた。だから、近くの本棚に隠れてその二人の様子を見やる件の人物、八神ナハトは苦笑していた。二人に分かれて読書用の本を探していたら、はやてが困っていたのが見えた。手伝おうと足を向けた矢先にすずかが現れ、颯爽と本を手渡して仲良くなる経緯が見る事ができたのだ。

 はやては小学三年生であり、更には足の治療のために海鳴市に引っ越してきた経緯があるため、まだ小学校へ通っていないのだ。と、言うよりもバリアフリーの学校が無かったためと私立を受けるためのお金が無かったのもある。そのため、両親による送り迎えが出来ないために足の治療のため転校してきた小学校に保健室登校が出来なくなったはやては、担当医である石田先生のご好意により彼女から勉強を教えてもらっているのである。言わば保健室登校の代わりだった。

 そういう経緯があるため、はやてには友達が居なかった。居たとしても引っ越す前の土地にしか居ないのだ。携帯を買ったのも足が不自由になって不便が増えたからで、友達とアドレスを交わしたのはすずかとが初めての事だった。だからだろう、時間が経つに連れてはやては持ち前の明るさを発揮してお喋りに熱が入ったのは。

 同年代の女の子と友人になれたはやては、一緒に来たナハトの事を忘れる程にすずかとのお喋りに花を咲かせていた。相手はツンデレ娘と天然娘の間を取り持つすずかである。勿論ながら聞き上手であり、本好きという接点もあって話すネタに事欠く事無かった。

 

「あ、そうやった。ナハトも来てるんやけどまだ本探してるんかな?」

「え? もしかして、……あそこにずっと前から隠れてる人かな?」

「「へ?」」

 

 すずかがしれっとした様子で指差す先は後ろ。それも真後ろで、すずかからすれば視界に入らない位置に立っていたナハトは、はやての声と同時に驚きの声を漏らした。振り返ったすずかはナハトを見てそっくりさんだと微笑んでいたが、ナハトからすれば驚愕の事実である。ナハトはできるだけ気配を殺して二人を見ていたのだ。その隠行は警戒心の強い猫を後ろから歩いて持ち上げる程に見事なものだった。

 だが、無意味だと言わんばかりにすずかはぽかんと呆けているナハトに笑みを浮かべる。それは純粋な好意からくる笑みで、何かしらの思惑を持っている事を隠す笑みではない。ただ、ナハトも見つかっている手前隠れ直すのも愚行なので、バツの悪そうな表情で二人へ近寄った。

 

「……名は何と言うのだ?」

「月村すずかです。はやてちゃんのお姉さんですよね、よろしくお願いします」

「あ、ああ。八神ナハトだ。はやての友人になってくれて嬉しい限りだ。仲良くしてやってくれ」

「はい!」

 

 ナハトはすずかに存在する魔力の気配について追求したい気持ちであったが、別にミッドチルダでなくてもリンカーコアを持つ生物は存在するため、別世界の人間にそれがあっても何ら可笑しくない。それに、はやての友人にリンカーコアがある事が先に分かって良かったと思える。此処に闇の書は無いが今頃シュテルが管理外世界でリンカーコアを持つ現住生物をウェルダンにしている頃だろう。

 そんな事を思いつつナハトは極めて自然にすずかと接した。新しく増えた家族へ風貌や性格の情報を伝えるために幾つかの質問を織り交ぜて雑談しておく。それは、有り得るかもしれない事故の可能性を減らすために必要な事だ。リンカーコアから魔力を奪う作業は多大な痛みを引き起こす事を間近に確認しているが故に、すずかを対象から外しておけばはやてが自由になった後も仲良く暮らせるだろうという考えがあったからだ。

 

「(……レヴィ、近くにシグナムは居るか)」

「(んー? ディア? シグナムなら近所の道場でお手伝いしてるよ)」

「(む、そうか。ならば、帰ってから連絡する事があると全員に伝えておいてくれ。はやてに同年代の友人が出来たのだ。目出度い日であるからして今宵のディナーを期待しておけ、とな)」

「(やった! ディアのフルコースだー!! 分かったよディア! お菓子我慢して……我慢……して楽しみにしとく……)」

「(いや、夕飯が食べれないぐらいに食わねば構わん。そして、今日のおやつは棚の苺大福だ。きちんと全員の数を把握してから食すように)」

「(うん! ひ、ふ、み……。一人二つまでだね! いただきます!)」

 

 独り言まで精神通話で話す程に目の前の苺大福に夢中なのだろう。そんな風景が目に浮かぶナハトはやれやれと言わんばかりに微笑を浮かべる。その様子は目の前で談笑する二人の微笑ましさに笑みを浮かべるお姉さんのようにしか見えない。まぁ、無理も無い。何せ、家では家長として腕白全開なレヴィや出不精極まるシュテル、脳筋上等なシグナムと元気一杯なヴィータにマジカル★ポイズンクッキングなシャマルと筋トレ番犬ザフィーラを御する人物である。手間の掛からない筈のはやてもナハトに甘えているのでそのお姉さんっぷりは日に日に増加してゆく一方である。

 尚、一部分が全く成長しないため、はやてと一緒にシグナムとシャマルにジェットストリームバスルームを決行するお茶目な姿もあって、しっかりものだが時に羽目を外す人物として家族から慕われているナハトでもある。

 そんなナハトが顔を曇らせるのはいつだって闇の書と呼ばれるストレージ型魔法記憶媒体式魔導書を見た時だった。そのため、ナハトの代わりにシュテルとレヴィが率先してシグナムたちの活動を支援している経緯がある。それにすまなそうにするナハトを二人は薄い胸を張って元気付けるのがお約束だった。

 ナハトは二人から視線を外して図書館に備わっている時計を見やった。そこに日にちは無いが、時間の流れを彷彿させるのには十分であった。

 

(そう言えば、そろそろ定時連絡の日にちだったな……)

 

 脳裏に浮かぶのは自分たちの活動を支援してくれている人物の姿。白い髪をなびかせて黒い外套と黒い仮面で顔を隠すヒドゥンと名乗った男か女か判別できない怪し過ぎる人物。しかし、記憶を操るロストロギアにより、現住生物よりも潤沢な魔力を奪える環境を整えてくれた恩がある。このまま行けばクリスマスまでには闇の書は完成するだろう。

 

(……はやてに前へ歩くための足をプレゼントせねばならんのだ)

 

 ナハトは目を瞑ってから決心を再び露にした。目を開いていたならばその剣呑な雰囲気が二人に気付かれていたに違いない。短い髪を振り払うようにして首を振ったナハトは二人にそろそろ閉館時間だと時計を指差して伝える。慌てて借りる本を選びに行った二人の仲良さげな背中を見送って、ナハトは席について天井を見上げた。その雰囲気は憂いの色が見えた。

 ズキリと痛んだ頭を押さえてナハトはノイズの様に映った一瞬の光景に目を疑った。正確には脳裏に浮かんだ情報であるが、まるでそれを後ろから見たかのような気分を味わったのだ。その光景にははやてとすずかが談笑しているそれ。そこに自分は居なかった。

 

(なんだ今のは……。まるで我が経験したような感覚だった。そんな訳が無い。はやてとすずかは一人しか居らんのだ。今日出会わずして出会う訳が無い……。ならば、これは如何いう事だ?)

 

 その不可思議な感覚に疑問を覚えて放心していたナハトは、本を借りてご満悦な様子で近付いて来ていた二人の声に気付いて精神的倦怠感を隠して立ち上がった。その身に起きたそれは気のせいだと決め付け、在り得ないと感情で蓋をした。まるで自身が記憶喪失である事を思い出さぬように。

 ――思い出してはならない記憶を封じておくように。




伝統のすずはや邂逅回。
ナハトさんに不明なユニットが接続され(ry


あ、インフィニット・ストラトスの二次創作を何となく書き始めました。
こちらのネタがスランプ気味の時に解消のために更新するようなものですが、お暇であれば其方もどうぞ宜しくお願いします。
作者名から飛べば一発ですんで。
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