更識簪さんがジオウの力を手にして令和に平成をキメる話 作:モノズエラ
♯1-1 ナレルンダー!2022
――某年某月某日、某国の地下施設。そこでは、五人の女が入り乱れて争っていた。
「
声高に嘲りの言葉を発する一人は、『
誹りを受けるもう一人は『エム』のコードネームを持つ
「それ以上言うな!」
亡国機業の幹部スコール・ミューゼルが束の言葉を遮るべく飛び出した。
「その答えはただひとつ……あはぁ!」
「やめろぉ!!」
もう一人、亡国機業の構成員オータムも束を止めんと駆け出す。
さらに釣られるように束の配下である銀髪の少女クロエ・クロニクルまでもが無言で走った。
だが、時すでに遅し。束はエムを指さし、決定的な事実を告げた。
「織斑エムゥ! 君が
「私が……失敗作……? 嘘だ…私を騙そうとしている……! う、うわぁぁぁぁっ!!」
絶叫し、マドカは膝から崩れ落ちr、
――――瞬間、世界にノイズが走り、時が凍りついた。
凍りついた世界はそのまま静かに暗転し、暗闇に巨大な時計盤のみが浮かび上がる。
そして銀色のオーロラのカーテンが揺らめいて、時計盤の前に青髪の少女が現れた。
「……この本によれば、普通の
それは平成という時代を駆け抜けた仮面ライダー達を総括する時の王者、仮面ライダージオウの力を継承する未来……」
逢魔降臨暦と書かれた本……型のCDボックスなのだが、それを片手に
なお、カンペはボックスを開いたページに貼ってあるわけでもなく、彼女がかけている眼鏡型の携帯ディスプレイに映されていた。
「彼女はこの世界における仮面ライダーとなり、世界を意のままにかき乱す篠ノ之束へと敢然と――。……おっと、この内容はまだ語るべき話じゃありませんでしたね」
そういって逢魔降臨暦っぽいCDボックスを綴じた少女はペコリとお辞儀をし、時計盤ごとオーロラカーテンに引かれて消えていった。
ちなみに時計盤は、知る人ぞ知る『クロノスの時計』に酷似した形状をしていた。
この世界は十年前に起きたあるパラダイムシフトによって、大きな変動期をもたらされていた。
悪魔の天才科学者、篠ノ之束が開発した女性専用飛行パワードスーツ<Infinite Stratos>、通称『IS』の登場である。ISによって、既存の兵器は完全に屈服させられ、世界の軍事バランスさえ脆くも崩壊してしまった。
その一方で、ISが内包していた現代科学の百年は先を行く技術が一部であるが解析され、転用に成功したことで爆発的に発展した分野も多数あった。
そうしてISが世界中に様々な影響を及ぼして十年経った2022年の今や極端なまでの女尊男卑に社会は変貌した。
今のこの世界をまったく別の世界、違う時代の人間が分類するならば、<ISの世界>であり、<ISの時代>であり、<ISの物語>となるであろう。
そんなこの世界の今を物語とするならば、主人公の一人とされるだろう男がいた。
彼を主人公とするならば、彼がIS操縦者育成学校『IS学園』に入学することで一つの物語が始められることだろう。
……もっとも、これから語られる物語はそんな一夏が主役ではないのだが。
◇ ◆
2022 年 4 月 28 日
時はゴールデンウィーク直前であり、獅子座のα星が一際強く輝いた日であり、IS学園においてはクラス対抗戦の組み合わせが発表された日。織斑一夏が転校してきたばかりの幼馴染の一人を盛大に怒らせていた頃でもある。
そんな諸々の出来事に隠れて、これから紡がれる物語の幕開けとなる、世界を揺るがす程の事件が秘かに起きていた。
その中心となった少女の名は、更識簪。IS学園の一年生にして日本代表候補生である。
彼女はとある事情により未完成のまま放置中である自らの専用機『
そうして整備室で寝落ちしてしまったその日の朝、目覚めると机上のキーボードの横にいつの間にか
「これは……ライドウォッチ……?」
そう、それは三年程前まで放送されていた特撮番組『仮面ライダージオウ』の変身アイテム。
ニチアサ*1民であり、TTFC*2会員でもある簪は一目でそれであることに気付くことが出来た。
そして――。
「このライドウォッチ……いつの間にか出る予定のCSMの試供品かと思ったけど、間違いない……、本当の『本物』……!!」
CSM*3の高品質たるや、撮影現場で使っていたものと遜色ないレベルの物もあるという。これがあればきっと美術さんもイライラしないだろう。*4
故にてっきりそれだろうと思って試しに起動させたのだが、まさかの本物であることが確認されてしまった。
(思わず頬をつねったけど、痛いから夢じゃない……!)
想像だにしない事態に簪は混乱した。いや、正確には妄想上では数知れず想定した展開ではあるのだ。ある日突然ベルトが宅配便で送られてきても受け止めるつもりだった。
だが、いざそれが現実に起きてしまうと……喜び、嬉しみ、困惑、楽しみ、歓喜、喜悦、愉悦、疑念、愉快、痛快、豪快、全開……様々な感情が簪の頭の中をぐるぐると回る。
IS国家代表候補生の権限と更識家の力をフルに使って仕入れた信頼できる有力筋からの情報によって次の令和ライダーが
他にも先月には劇場版フルタンXV*5などという、情報を耳が受け入れるのを拒むレベルの衝撃的な報せもあった。フ〇タは頭がおかしい。
だが、ここにきてそれらすらも霞んで吹き飛ぶレベルのとんでもない出来事が舞い込んできてしまった。自らの専用機が未完成のまま、別の専用機開発にスタッフを全て奪われた不運を取り戻しても軽くお釣りが来る剛運!!
(ああ、意味もなく理由もなく変身したい……。けどそれはライダーとしてやってはいけないこと……、紘汰さんとか普通にやってたけど基本やってはいけないこと……。やはりこれは持ち主を力に魅入らせる魔性……魔王が持つべきもの……!)
ちょっと頭を冷やそうと、自室に戻って水シャワーを浴びても一向に冷静になれない。寒いからとお湯を張った湯舟につかれば、すぐにノボせあがる有様だ。
慌てて駆けつけた同室の姉に扇子で扇いでもらっても、部屋をセルメダルで占めつくすほどの欲望が頭の中で渦を巻いている。お姉ちゃん、私変身できたよって言いたい。
なお、体の火照りと欲望を止めるために今日の分のアイスキャンデーは食べてしまった。
「徹夜明けでいきなりお風呂はダメよ、簪ちゃん。それで亡くなる人だって多いんだから」
数年前に簪がやらかした黒歴史のせいで過保護気味な姉だが、軽く妹に注意だけすると部屋を出て行った。生徒会長である姉、
だが好都合だ。鞄に入れていたライドウォッチをすぐさま取り出し、手に取って見つめる。
誰もいない部屋だし、白昼夢じゃないか確認するために、ちょっともう一回ぐらい変身しておこうか。内なる声が再び騒ぎ出す。
「かーんーちゃーん、朝ご飯食べにいーこ~~」
が、絶妙なタイミングで邪魔が入った。
簪の幼馴染で専属の従者でもある
おっとりしていて独特のマイペースさを持つ彼女は、一ヶ月も経たずに級友達から『のほほんさん』という渾名をつけられたという。
ちなみに、本音は一組で四組の簪とはクラスは別なのだが、上記の関係もあってほぼ毎日行動を共にしている。……本当は先述の黒歴史が理由の大半を占めているのだが。
「んー、かんちゃん今日はごきげんさんだね~」
「……そう?」
どうやら親しい人間が見れば一目でわかるほど、今の自分は浮かれているらしい。簪としては態度には出していないつもりだったのだが……せめて他人には分からない程度に抑えなければ、と自省する。
「そーだ。今日はねぇ、私の友達とみんなで食べよーかー」
久しぶりに簪が機嫌がよいことを察して、本音は自分の組の友達らと会わせようとした。
人見知りする性格かつ最近の簪の不機嫌の原因がその友達の一人にあるのだから、この機を逃す理由は無いとの計算だ。
名家の従者一族の一人なだけあって、本音はしたたかさも持ち合わせていた。
それから本音があと一人
そこにいるのは、織斑一夏、セシリア・オルコット、
それぞれ代表候補生に世界唯一の男性操縦者にIS開発者の妹と特別な人間ばかりの、学年どころか学園でもっとも有名なグループだ。
よりにもよって本音はそのグループとも仲が良かったのだ。
「おりむー、せっしー、りんりん、もっぴー、ここ空いてる~?」
「おう、のほほんさん空いてru……」
「モッピーは止めてくれないか!? 昨日までしののんって呼んでただろ!?」
「いいじゃないか、箒。可愛いと思うぜ、モッピー」
「か、可愛っ……、いや駄目だっ、これだけは駄目だっ!!」
「いや、あたしのりんりんって呼び方もやめて欲しいんだけどー」
箒と一夏が口論になってるが、その前に了承は取ったと同じテーブルの席に座る本音。それに簪らも続く。
「ん? その子、別の組の友達か?」
本音の予想通り、フラグ建築士である一夏が目ざとく一番に簪に気がついた。なお、そのせいで箒からの追撃を本音が一人で受ける羽目になっているが、紹介だけは差し込んだ。
「えへへー、幼馴染のかんちゃんだよ~」
「……本音がいつも迷惑かけてごめんなさい。私は四組の更識簪……よろしく……」
「本音……?(何の事だ?) あ、ああ、俺は織斑一夏。よろしくな、更識さん!」
本音の策は見事に当たった。
数日前までなら簪にとって一夏は一発ぐらい殴りたい気持ちだったであろう相手のはずである。
何せ、世界初の男性操縦者である一夏の専用機『
それが完全にニュートラルな状態での挨拶を交わしている。
(おりむーへのイライラを忘れるなんて、よっぽどいいことがあったんだなー、かんちゃん。けど私おりむーに迷惑なんてかけてないよ~)
実際、本音の推測通りであり、簪の一夏への不満や怒りは既に霧散していた。
ライダーになる面白さでイライラがすっかり消えるのは前例があり、簪も御多分に洩れず、頭の中のほとんどは今やライドウォッチのことで占められていた。
……もっとも、弊害もあった。
(世界でただ一人の男性操縦者……、世が世なら織斑君はこの世界の
そう、頭の中が特撮漬けになってるせいか、相当メタい考えに至ってしまっていたのである。
◆ ◇
簪と織斑一夏の初対面が友好的に終わった――本音からの報告に更識楯無は胸をなでおろした。
世界初の男性操縦者である一夏は同じ日本代表候補生になる可能性が十分にある相手なので、簪と顔合わせはさせておきたかったのだ。
(打鉄弐式の件で私を頼ってくれた時にもしかしたらと思ったけど、織斑一夏をこんなに早くすんなり受け入れられるなんて、本当に強くなったのねぇ簪ちゃんは)
簪の専用機、打鉄弐式の開発元である倉持技研の方針を聞き出した所、白式の開発及び解析、そして量産化までを見越しているという。
少なく見積もっても打鉄弐式の開発再開は三年はないだろう、もはや放棄されたと見ていい。
代表候補生に対しての不当な扱い――それも更識家に対してのものとも思えない――、さらに白式の出自の不審な点、それらを鑑みても世界唯一の男性操縦者の専用機開発は優先される。
その理屈を楯無は理解も納得も出来てしまった。故にこれを大きな貸しとする落とし所を作る形しか取れなかった。
だから、もはや打鉄弐式は簪自身で完成させるしかない。奇しくも楯無の時と似た状況だった。
唯一の救いは簪が周囲の助けを借りようとしてくれたことだ。なまじ楯無が少数の助力のみの実質独力で未完成の状態から実用化させてしまった故に後追いをしないかと危惧していた。
だが、駄目元で助力を申し出た際に簪から返ってきた答えは意外なものだった。
「誰にも頼らないのは強いことじゃない(って伊達さんが言ってた)、私は手を繋ぐ強さを知っている(オーズで)」
ロシア代表である故に表立って自分が力を貸せないのがもどかしいが、きっと妹は大丈夫だろう。そう信じられる言葉だった。
思い出すのは忘れもしない三年前。楯無がロシアの代表候補生になった頃、簪と疎遠になりかけた時期があった。昔から妹は可愛がっているつもりだったが、あの時期だけは多忙故にどうしても構ってあげられなかった。さらに、楯無の成功のせいで周囲からいらぬプレッシャーをかけられていたらしいこともあって、引け目を感じさせたのだろう。
そのせいで目に見えて互いの距離が出来ていく中で、空回りするばかりで何も出来ない自分がいた。あれが楯無にとっての人生で一番の挫折だ。
そんな時、内気で引っ込み思案のあの妹が勇気を出して「寂しいんだよね!」と訴えてくれた。
その時から楯無は何をおいても妹の側にいて、寂しい思いをさせないと誓った。生徒会長の権限で簪と同室にしたのもそれ故だ。
「……まあ、簪ちゃんがいいこと言う時はだいたい、大好きなスーパー戦隊かプリキュアか、ウルトラマン辺りの受け売りなんでしょうけど」
たしかニチアサはプリキュアと戦隊と、残りの一枠はメタルヒーローからローカルヒーローに移ったんだっけ。そんなことを考えながら、こっそりと整備科から随時提出させている打鉄弐式の進展状況からデータチェックに入る楯無であった。