更識簪さんがジオウの力を手にして令和に平成をキメる話 作:モノズエラ
♯2-1 ディストーティド・タイム20XX
「――この本によれば」
地球を背後に映した宇宙空間。
そこにまるで見えない地面があるかの如く佇んでいる男が一冊の本を開き、語り出す。
「普通の高校生、更識簪。彼女には魔王にして時の王者、仮面ライダージオウの力を受け継ぐ未来が生まれていた」
ロングコートにフードストールの男のその姿は、ある預言者と彼が組した一団のものとまったく同じものである。そんな彼の言葉に合わせて開いた本から、ライドウォッチを手にしてからの簪の活躍が浮かび上がっていく。
「無事にジオウの力を手中に収め、仮面ライダーカンザシとなった簪。ですが、ここはISの世界。この世界の本来の導き手たる織斑一夏、そして篠ノ之束が彼女の前に立ちはだかることになるでしょう……」
本のページを捲り、意味ありげに口の端を歪める男。
その本の表紙には逢魔降臨暦……ではなく、何故か<SUPER SENTAI ADDRESS BOOK>*1と書かれていた。
「おっと、失礼……! みなさんにはまだ少し先の出来事でしたね」
本を畳む音が鳴った時、既に宇宙空間に男の姿はなかった。
五月のある日の早朝、IS学園のグラウンドで一人ランニングに勤しむ男がいた。
「その名は織斑一夏こと俺、ただの男子高校生なのに何故かISを扱えてしまったことからIS学院なんて女子高に入学させられて……」
何故か自己紹介を始めながらランニングを続ける彼、織斑一夏。おそらくはこれも一種のストレス解消法なのだろう。
「で、普段は割とゆっくり寝る派の俺がなんでまたこんな朝早くから走ってるかというと……」
一夏が振り返るのは昨日のこと。大浴場のタイムスケジュールが仮で決まったのだが、まさかの早朝六時からの三十分間のみという無情の処置。
ならばいっそ早起きして一汗かいてからにしようじゃないかというわけで、こうして五時起きからのランニングなのである。
「ん?」
トラックの進行方向上に、さっきまでの周回には間違いなく存在しなかった巨大ニンジンが生えていた。
一夏はピンと来た。デフォルメされたデザイン、唐突さ、こんなことが出来る人もする人も世界広しといえど、一人しかいないだろう。
希代の天才。ISの開発者。天災、変人、箒の姉――篠ノ之束さんだ。
「で、どうするよ、これ……抜けってことだろ?」
思わず足を止めて考える。束の思惑は分からないけど、一夏に抜かせたがっていることまでは予測できた。
「残念ながら君の予測は外れだ、織斑一夏クン」
「う、うわぁっ!!?」
予測は外れた。そればかりか、ニンジンの影からすっと知らない男が現れて声をかけてきたのだ。あまりのことに一夏は狼狽して間抜けな声を上げた。
そいつはウサミミをつけたチューリップハットを被った怪しいおっさんだった。
「な、なんだ、あんた!?」
「私は預言者だ。この歪みつつある世界に警告を告げるためにやって来た」
一夏の目の前にいたはずの男が瞬きの間に背後に現れ、話し出す。
「世界の危機に応じ、近い将来『絢爛舞踏』が目覚めるだろう。最強の決戦存在にして世界の歴史を変えうる強大な存在。そして、真価を発揮した
「へ?」
恰好はともかく真剣な表情で男は語りだす。唐突な内容ながら聞き手に回らざるを得ない、有無を言わせぬ迫力だ。
「だが問題はそこではない。問題は今のこの世界でそれが起きた場合、『オーマの日』の引き金へとなりかねないことだ。それだけは避けねばならん」
「いや、あんた一体、何を……?」
何かしらの危機を伝えているのだろう男の言葉だが、悲しいかな一夏にはまったく理解できない内容だった。
「……知っているかね?*2」
「はい?」
「ニンジンとは漢字で『人が参る』と書くが、その由来となった朝鮮ニンジンと我々がよく知るニンジンではまったく別物である。思い込みは時として落とし穴となるということだよ、織斑クン」
深刻そうな表情から一転、満足げな笑顔でそう語った男は、呆然とする一夏を後目にニンジンと共に忽然と姿を消した。
「…………、朝も早いしまだ寝ぼけてて夢でも見たんだな。うん。ひとっ風呂浴びて忘れよう」
狐につままれたような気分とはこういう時に使うものなのだろう。
ここまでの一連の流れの不条理さは流石の彼でも受け付けられず、とりあえず無かったことにして大浴場へ向かう一夏だった。
◇ ◆
「更識簪は悩んでいた……」
学園を襲った合体無人機との戦いから数日、更識簪の表情は浮かないものだった。
まるで補完計画*3が始まるかのような愚痴が零れてしまうのは、仮面ライダーカンザシの強大な力と戦いを経験したことで急速に興奮から醒めたからである。
そうすると、それまで熱に浮かされて目を逸らしていたものが否が応でも入ってくる。
――その一つは、特撮番組・仮面ライダーシリーズの、この世界からの消滅。
(よく考えたら当然だった……ライダーが実在する世界と空想としてのライダーの存在は平成的に相容れるはずがない……)
かつて、歴史改変により平成ライダーの存在を消滅させて架空のものへと変えた事件があった。現象としては逆だが、あれがまさにそれを証明している。
実際、先日まで簪が手元に置いていたはずの映像媒体や玩具まで消滅していた。この世界で仮面ライダーが放送されていた残滓はもはや簪の記憶だけである。
(これは全て私が招いたこと……じゃないよね、たぶん。だからこそ、どうすればいいか……これが分からない……)
簪の推理では、この現象の発端は仮面ライダーカンザシの登場ではなく、ジオウライドウォッチの出現からである。物語上の存在なはずのライドウォッチが実在してしまったあの時点で事態は既に取り返しがつかなくなっていたのだ。
それ故に落とし所が見いだせない。
そして、直視しなければならない事柄がもう一つ。
それは漠然とした、しかし確実に迫っているはずの脅威の存在だ。
冷静になって考えてみると、これから先の近い将来、強大な敵が現れるだろうことが容易に推測できるのだ。
仮面ライダーの力がいかなる理由からかこの世界の自分の手元に舞い込んだ。この際、舞い込んだ先が自分だったのは偶然としよう。
だが、舞い込んだのがこの世界であることまでが偶然では、話はおそらく済まされない。
(それに、仮面ライダーの力が意味もなく現れるとは思えない……)
簪の知る限り、ほぼ全ての世界で仮面ライダーの力は戦うべき敵と共にあった。
悪を倒した後の世界ならばある。悪だけが存在する世界、ダークライダーだけが存在する世界もあった。
だが、戦う敵も存在せず、正義の仮面ライダーだけが存在する世界は――――
「君の考えは半分は当たっているとも、更識簪クン」
「っ!?」
簪の内心が読まれたかのように、密室のはずの自室で背後から声がかけられる。姉の声ではない、男の声だ。
驚き、反射的に振り返ったが、その先には誰の姿もない。それどころか、いつの間にか地球を足下に映した宇宙空間に簪は立っていた。
敬虔なニチアサ民である簪は瞬時に
「下に見えるのは<ISの世界>や<白式の世界>、<一夏の世界>などと呼ばれる、君の住む世界だ」
そこに先程の声と共に男が現れる。
アシンメトリーのロングコートにフードストール……いわゆる『未来服』姿に、歯車の様なものが表紙に張り付けられた本――タイトルははっきり見えなかったが見えた文字には『
「私の名はQ-TATSU。クォーツァーだ」
「……えっと、鳴滝さんですよね…?」
クォーツァーを名乗り、彼らの衣装を着たその男が何者かは分からないが、誰であるかは知っていた。
預言者を自称する神出鬼没で正体不明の男、鳴滝。
その不死身さとあらゆる意味での謎っぷりはあのショッカー首領をもしのぐ
そんな鳴滝は即座に看破されたことにバツの悪そうな表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して話を続けた。
「流石は簪クンだ、私を一目で見抜くとは。安心したまえ。君も知っての通り、私は味方だ。昭和から平成、そして令和……全ての仮面ライダーの支持者として、仮面ライダーカンザシに啓示を与えに来た」
「啓示?」
うむと大きく頷くと鳴滝の衣装が帽子とコート姿の本来の物に変わる。それと同時に周囲の景色も変わり、どこか夜のお台場のテレコムセンターに似た場所となっていた。
「君が今使っている本来は仮面ライダージオウの力、その力を以て戦うはずだった相手はもはや存在しない」
「はずだった……? 存在しない……?」
「そうだ。仮面ライダージオウの戦うべき敵は歴史を改変する介入者、タイムジャッカー。そして君ならば知っているはずだ。タイムジャッカー、フィーニスを!」
「フィーニス……!!」
フィーニスとは冬映画『仮面ライダー 令和 ザ・ファースト・ジェネレーション』に登場したタイムジャッカーで、TV版での黒幕だったスウォルツとの関係も一切不明な謎の存在だ。
まあ、前の年にはスーパータイムジャッカーなんてもっと意味不明な存在も出てきたんだが。
「だが、令和に生まれたフィーニスは自らが挑むべき≪令和に生まれるジオウ≫を見いだせず、決して交わってはならない平成と令和の世界を交差させて、常磐ソウゴを動かした」
鳴滝の話が事実なら、あのフィーニスという存在はリ・イマジネーションされた世界、すなわちA.R.WORLD<ジオウの世界>での登場人物だったのかもしれない。
令和になんらかの形で紡がれる物語になるはずだったものが、元号の壁を超えてしまったのだ。
だとすると、
「平成と令和の禁断の接触が、ついに昭和のアナザーライダーまでもを生みだしてしまった。ジオウは平成と平成ライダーを総括する存在として、世界の均衡を守り通してくれた。だが、それを破り無秩序に世界を繋いでは第二のディケイドになる!」
忌々しげに語気を強める鳴滝だが、簪の脳裏には昭和に生きようとしたアナザーライダーや平成に生きる昭和ライダー達の姿がよぎっていた。
「あっ、シノビ……」
「あいつはノーカンだ」
「スーパーヒーロー戦記……」
「あれはスーパー戦隊が絡んでいるからな」
簪の二度の追及にも手をヒラヒラとしてセーフと示す鳴滝。
エグゼイドとゼロワンが、ゴーストとセイバーが、それぞれの作品のライダーが一緒に戦った話は記憶に新しいのだが、触れない方がいいかと簪は口を挟むのを止めた。
「オーマジオウの力で平成ライダー達の世界が分断されたはずのジオウの世界にレジェンドライダーが存在したのが何故か分かるかね?フィーニスの件も本を正せば同じだ。世界が歪み、融合と分離を繰り返している。全てはディケイドがジオウの世界を破壊したせいだ……!!」
「えっ……? えっ??」
鳴滝さんとディケイドは『仮面ライダー大戦』で歴史的和解をしたと受け取った人が多数派だった気がしたが、『オールライダー対大ショッカー』からの『ディケイド完結編』の時のように元の木阿弥になったのだろうか?
「……まあいい、私が来たのは警告のためだ。君の推測通り、この世界に仮面ライダーの力だけが現れたことで――必ずやそれに呼応する強大な悪の力が生まれるだろう」
それが
そう言い残して鳴滝はオーロラカーテンに包まれて姿を消した。
◆ ◇
「ちーちゃんの教え子たち、オッスオッスー。人類史上最高、天元突破の大天才、束さんだよ。おハロー」
無人機襲撃事件から約一週間後のその日、IS学園は一年一組に唐突に彼女は現れた。
天才の中の天才、自称にして一日を三十五時間生きる女、篠ノ之束。
ISの開発者として、その名を知らない者はいない。(断言)*4
「箒ちゃん元気ー! お姉ちゃんはキミにとってもとっても会いたかったよー! おお、いっくんもおひさだねー」
今朝から転校生が来るという話で持ち切りだった教室内だったが、束の登場で空気は一変してどよめいていた。
なお、教壇中央に立つ束の横では紹介待ちで転校生二人もいるのだが、金髪の男子に見える一人は所在なさげに苦笑いを浮かべ、もう一人の眼帯の銀髪少女は腕組みをしたまま目を瞑っている。
「よしよし、束さんはご機嫌だし、一人ずつおっぱいでも揉みながら自己紹介聞いてあげようjag……っ!」
「……織斑とオルコットと転校生二人は今から別行動だ。他組の専用機持ちと合流してから話がある。他の生徒はこのまま授業を続けろ。……それでは山田先生あとはお願いします」
暴走する束の首ねっこをへし折る勢いで千冬が掴みあげて話を中断させ、ひりついた空気を漂わせて淡々と指示を飛ばす。
いつもは騒がしい生徒達もついていけない状況と、何より千冬の剣幕に固まり、静まり返っていた。
「ぐええー。流石ちーちゃん、握力が人外だ。すごいぞー、強いぞー、格好いいー! ……って、これ青フェ○トちゃんか」
もっとも、対象的に束は能天気なリアクションである。首からはメリメリと酷い音がしているのだが、表情は余裕そのものだ。
そんな束をそのまま引きずりながら教室を出ていく千冬……と、それについていく一夏とセシリアと転校生二人。
「はいはい、みなさん落ち着いてください! 授業を始めますからねー!」
そして残された副担任の山田真耶は涙目になりながら、プレッシャーから解き放たれて一気に騒ぎだす生徒達に振り回される羽目になった。
◇ ◇
「……それで、お前の要求通りに専用機持ちを集めたが、意図を聞かせてもらおうか?」
第一アリーナへ集まった転校生を含めた一年生の専用機持ち六人の前で、千冬は束に詰め寄る。
「んぁー、意図ねぇ。それだと友達に会いに来たって答えになるのかな? あとは妹の顔も見に」
「真面目に答えろ」
「にゃはは、相変わらずツレないなー。専用機持ちの子達を集めた理由はねぇ、この前ここを襲撃してきた無人機の件とも関係あるんだなぁ。ちーちゃんは束さんの仕業と思ってるんだろうけどさっ」
千冬が無言で話の先を促す。
「束さんが今世話してる子……クーちゃんっていうんだけどね。その子がこの前ね、
「……なんだと?」
無人機に使われていたISコアは未登録のものだった。よって、あれらを仕向けたのは束の仕業以外に考えられなかった。が、今の話が事実なら別の可能性が生まれてくる。
「おかげさまでクーちゃんは戻って来たんだけど、癪に触るじゃん。で、この前の騒ぎであいつらがここを狙ってるのを知って、手伝いに来たってわけ」
「ずいぶんとらしくない話だな。誘拐程度で要求を呑むお前とも思えんが」
「まぁねー。けど、クーちゃんは束さんにとって自分の子供みたいに大事な子だからねー。クーちゃんの為ならISコアとかどうでもいいのさ!」
「束さん……」
一夏が思わず感嘆の声を漏らす。彼が知る限りでは自分達姉弟と身内にしかこれまで興味を持たなかった彼女の変化に驚いたのだ。
「それでね、あいつらは前回やられたことで奪われたISコアを取り返そうと躍起になってるの。二機分は逃がさずに確保したんでしょ、ちーちゃん?」
「いいや、コアごと破壊した」
「まったまたー♪」
国家間の争いを避けるための虚言を束は一笑に付すが、構わずに千冬は問い質す。
「お前のことだ、亡国機業の動きを完全に掴んでいるだろう。奴らはいつ攻めて来るんだ?」
「そうだねぇ。リアルタイムでハッキングした感じだと、たぶん三、四時間後かなぁ」
「なに!?」
束からのリークで奇襲に対して先手を打てると思ったが、相手の動きが予想以上に早かった。それでも事前に応戦の準備に入れるだけかなりマシではあるのだが……。
この場にいる専用機持ち達も数時間後の敵襲と聞いて一気に空気が変わる。
「まあ心配ないよ。そこでこの天才束さんが先回りして来たんだからね」
束が空中に手を触れるとディスプレイが次々と浮かび上がる。そこには無人機やおそらく亡国機業のものだろうISの情報が映し出されていた。
「あいつらの戦力は無人機・ゴーレムが八機と、あとは実働部隊のISが二、三機。ざっと前回の倍ぐらいかな」
その言葉に一夏達に緊張が走る。
この前は奇襲だったが、教員や先輩の専用機持ちといった主戦力は総動員されたのだ。それでも、撃退はできたが大半を取り逃がしている。
今回は一夏と鈴音の状態が万全かつ転校生二人が加わる分だけこちらも戦力は増えているとはいえ、二倍となると厳しい戦いになるに違いない。
そんな彼らの心情を悟ってか、束は「だけど」と続ける。
「のーぷろぶれむ。そんな敵にも確実に勝てるよう、特別にここにいる六人全員のISの限定解除とスペシャルチューンを束さんが直々にしてあげようって話さ!」
実は鳴滝さんにクロス・オブ・ファイアって言わせたかっただけのお話。