更識簪さんがジオウの力を手にして令和に平成をキメる話 作:モノズエラ
エターナルメモリはSSの一つや二つ、永遠に破壊してしまえる…
「……ほむほむ、BT兵器の操作はまだ他の動作と同時には出来てないのかな、セシリアちゃん」
「は、はい! いずれはクリアしないといけない課題とは思ってますが……」
「それじゃあ今は並列思考を磨くのが優先かな。いずれの話なら、
数時間後に迫った亡国機業の襲撃に備えて、篠ノ之束はセシリアから順番に一年生の専用機全ての実戦仕様への限定解除及び応戦用特殊パッケージへの換装を行っていた。
その工程は操者当人にISを纏わせた形で起動させて、そのまま簡単な手伝いをさせながらの主に雑談混じりな作業、といったものである。
ちなみにセシリア、鈴音、簪、転校生の二人、最後にパッケージ換装のない一夏の順番で行われる予定だが、作業がマンツーマンで行われるからか、室内は作業に入るIS操者と束と千冬と真耶の4人だけとされ、作業待ちの人間は別室で待機することになっていた。
「ISは操縦者の意に沿うように創られてるからね、そこを理解して接してやることがコツかな。これは
「は、はい……!!」
凄まじい速度での改修作業の片手間での話ながら流石はISの開発者。各国の研究者も知らないような根幹にも触れる内容も混ざったアドバイスにセシリアは目を輝かせて聞き入っている。
彼女の人となりを知る者からすれば信じられない光景だったが、束は操者一人ひとりに親身で、作業は和やかに進んでいた。
◇ ◇
一方、待機中の一夏達はお互いに挨拶さえまだできていなかった転校生二人と交流を深めようとしていた。とはいえ、実際は互いに面識があったり名前や顔だけは知っているといった関係がほとんどで、一夏だけが二人の顔も名前もまったく知らないのが現状だったりする。
そんな風に面識が無いにも関わらず、あるいは面識が無かったから故か……銀髪眼帯の転校生と一夏とでひと悶着が起こってしまった。
「貴様が織斑一夏か」
「……何だよ」
緊急事態だと千冬に取り合われなかった結果、
冷気さえ漂わせた刺々しい態度を隠しもしない相手に、一夏も思わず同じく喧嘩腰で返す。
「先に名乗っておこう。私はラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生にして、貴様の姉である織斑教官の薫陶を受けた者だ」
「ドイツの……」
「あらかじめ言っておくが、私は他の連中のように甘くはない。貴様が第二回モンドグロッソの時に犯した失態も見逃すつもりはない」
「っ!!」
「ちょっとアンタ! なに勝手なこと言ってるのよ!」
その場の全員が険悪な空気の二人を窺っていたが、当時の経緯をこの中で唯一、知っている鈴音だけは我慢できずに割り込んだ。
「一夏はねぇ! 何も知らない外国に千冬さんを応援に行っただけなのよ! なのに、いきなり訳の分からないテロリストに誘拐されて……!!」
「鈴!!」
その先は一夏が遮った。
彼女の肩に手を置いて顔を横に振る一夏の表情を見て、あの事件の話を彼が禁忌としていたことを思い出した鈴音はそれ以上の言葉を抑えざるを得なかった。
そんな二人の様子を意外にも黙って待っていたラウラが話を再び進める。
「貴様も私も
「……うるせぇよ、勝手なこと言いやがって」
またも一夏がその先の言葉を遮った。心配そうに見つめる鈴音を調整の順番が来たと外に押しやって、再度ラウラへ向かい合う。
「お前に言われるまでもない。俺自身が一番、あの日の自分を許しちゃいない。あの日の不甲斐なさを忘れたことはねぇ!」
激情のままにラウラを睨みつける。そんな一夏の姿にラウラは感心したように少し態度を緩めた。
「フン、最低限の気骨は持ち合わせていたか。ならば、本題に入ろう。今は非常時だ、本国からの指令もあるし、何より織斑教官には返しきれない恩義がある」
ラウラがそれまでとは違い、敵意ではなく値踏みするような目で見つめてくる。
「だから、今回はこの私がお前を守ってやろう」
「なんだと……!?」
ある意味で、先程までよりもよほど侮辱的な発言だった。
だが、一夏が敵の狙いの一つであることは前回の襲撃からも明白である。さらに言えば、今の彼は専用機こそ持っているが、ほぼ素人にすぎない。ドイツからの指示がどういった内容かは分からないが、プロの軍人である彼女が守護するというのは理に適っていた。
「先日の襲撃事件におけるお前の戦闘データは見せてもらった。爆発力だけは評価するが、あの程度の戦闘技術ではお前を狙う亡国機業の奴らの襲撃は切り抜けられまい」
「ふざけんな。お前に助けてもらうつもりはないし、俺を狙ってくる相手から逃げるつもりもない」
理はラウラにあるのかもしれないが、それでも許容できない。先程までの挑発で刺激された一夏のプライドが応じることを許さなかった。
そんな一夏の答えにラウラは僅かに笑った。
「フッ……未熟だが、悪くはない返事だ。やはり、私とお前は似ている」
「はぁ? どこがだよ……」
急に態度が軟化した相手に戸惑いつつ、それはそれとしてよく知りもしない嫌な奴に何故か似ていると思われたことが心外であると不服そうにする一夏だが、そんな態度にも意に介さずラウラは続けた。
「どこが、か。一番は決まっている。織斑教官の力に触れ、憧れた点だ」
「っ……!」
「お前はあの人と共にあり、あの人に助けられ、
私と同じだ。歪な生まれ、選ばれた資質、味わった挫折、そして完全なる
そう続けるラウラに、今度こそ一夏ははっきり拒絶の言葉を吐いた。
「……違う、違うぜラウラ。俺はヒーローなんか信じないし、憧れもしない。千冬姉をヒーローだなんて思ったこともない」
「何?」
「ヒーローなんてのは、完全無欠で泣きもしなけりゃ笑いもしない奴らだ。……俺はそんな連中、認めない。そんな奴らみたいになんざなりたくねえ」
ここまでのようなその場の怒りに流されたものではない、己自身を支える一夏の信念に基づいた言葉だった。
その場にいた全員――初対面のシャルロットや調整を終えて戻ってきたばかりで経緯をよく知らないセシリアまでも――が引き付けられるように一夏に注目していた。
「俺が信じるのは……憧れるのは……泣きもするし笑いもする、不完全だから負ける時だってある……。けど諦めず、そして逃げずに立ち上がる……! 俺があり続けるのは、そんな『人間』だ!」
「チィィッ…!*1 あの人の間近にいながら、辿りつくのはそんな結論か……!」
始めてラウラがそれまでのような芝居ではない、真からの苛立ちと怒りを見せる。そうして睨みあいが十秒ほど続いた末、その覚悟でこの戦いを切り抜けられるか見定めさせてもらう、とラウラが背を向けたことで二人の衝突は終わった。
――そして、この衝突がこれから繰り広げられる戦いに大きな影響を及ぼすなどとは誰も想像することは出来なかった。
◇ ◆
「んんー、更識簪ちゃんかー。キミは我が国の代表候補生なんだねー。うむうむ」
「は、はい……」
他の代表候補生同様に束によるISの調整を受けていた簪だったが、流石に緊張を隠せなかった。
(篠ノ之束といえば、ISの生みの親……そして、あの白騎士事件を起こした人……)
彼女の名前を聞くと、どうしても十年前のISが世に出た頃のことを思い出す。
世間の大半はもう忘れかけているが、実はISは発表されてすぐさま世界を揺るがせたわけではなかった。ちょうどその頃はリブラがダークネビュラ送りされかけた頃*2だったが、当初は各国からほとんど見向きもされなかったらしい。
ISの存在が世間に示されたのはそれから約一ヵ月後の白騎士事件からである。
現代兵器を蹂躙した白騎士の衝撃は凄まじく、それにより一週、ニチアサの放送が休止された*3ほどだった。
当時は流石に理解していなかったが、ニチアサ民の一人として立派に成長した今の簪ならば、瞬間的にとはいえ甲子園や全米ゴルフ並の影響度を及ぼしたISの存在がいかに驚嘆に値するものなのかが理解できた。
それを思えば、世界の常識を塗り替えるのも必然だったし、世間が女尊男卑になるぐらいは素直に頷けた。
(そんな人物がIS学園に現れた……まさか、ライドウォッチが関係している……?)
そう考えると体を強張らせる緊張にさらに警戒心が混ざる。
「むむ、最近稼働したばかりのホヤホヤかー。おぉっ、自分でだいたい作ったんだね、エライエライ☆ んーと……じゃあ作業入るから、しばらくじっとしててねー」
そう言うと饒舌だった束が急に無言になる。ずっと笑顔だった表情も無表情に近い真剣なものに変わり、残像で手が幾つもあるように見えるほど高速で作業に没頭しだした。
動いてはいけないということなのでどうしたものかと困った簪は先程の織斑一夏の啖呵を思い返していた。
(ああいうのも悪くない。声は令和っぽいけどどこか平成っぽさがある……)
ヒーローを否定するあの感じはまさに平成ライダー、特に平成一期の感じだろうか。
平成ライダーの歴史を振り返ると、過去には絆や友情などを否定したレジェンドもいた。
(となると、やっぱり鳴滝さんが言ってたように彼がこの世界の主人公なんだ……)
あの時、鳴滝は故意か不意かこの世界の呼び名の一つとして<一夏の世界>と漏らしていた。つまり彼こそがこの世界の
この世界とは、ISという強化スーツを使って悪の組織ファントムタスクと戦うヒーローの世界なのだろう。確かに先の言葉でもヒーローを否定しつつも、彼自身があろうとした姿はヒーローのそれに近いものだった。
(彼がそうありたい姿があの言葉の通りで、その先にあるのが守りたいって気持ちなら…
簪が思い浮かべたのは仮面ライダー
あの話での状況は今回とは真逆で、“ヒーローなんていない、来ない”と否定されて、その時に剣崎は“いるよ”と返した。
そして彼はさらに“もしもヒーローがいないなら、自身がヒーローになって戦えない皆を守る”という自らの信念を示したのだ。
(あの回は神回だった……全国の学校の教科書に載せても許されるレベルだった。思わず嶋さんみたいに「そうだ、それだよブレイド!」って画面の前で言っちゃってた……)
平成一期についてはリアルタイム世代ではなく、後年の動画配信での視聴勢であることだけが悔やまれるのだが――などと脳内でぼやく簪は、作業に没頭しつつあるようで時折、彼女をじっと見つめる束の視線に気づくことはついぞ無かった。
◆ ◇
亡国機業がIS学園へと襲撃してきたのは束の予測通り、あれから四時間後だった。
亡国機業の戦力は事前情報通りに無人機ゴーレムが八機、そして各国から強奪したISを所持した構成員が三人。それを迎え撃つIS学園側の戦力は、亡国機業の主戦力であるゴーレムに対して、学園に配備された全ての量産機に乗った戦闘教員達――千冬と真耶を除くかつての代表や代表候補生経験者――が動員されていた。
そしてゴーレムを囮に侵入を目論むだろう襲撃犯三人を万全を期して抑えるべく、更識楯無ら上級生三人の専用機持ちが配置された――のだが、ここで誤算が生じた。三人の専用機持ちの内、ダリル・ケイシー及びフォルテ・サファイアの二人が亡国機業側に寝返るという非常事態が発生したのだ。
いかに学園最強の生徒会長にして唯一の国家代表生である楯無とはいえ、二対一では後手に回って五分に持ち込むのが限界であり、その隙に乗じて亡国機業の襲撃者三人全員が第一防衛ラインを突破してしまっていた。
「問題は彼の周りにはまだ専用機持ちが多数いることね。
薄く笑うのは今回の作戦の首謀者にして
「ターゲットに
「雑魚が群がった所で時間稼ぎ程度、問題ない」
血気盛んに煽るのはオータムのコードネームを持つ女、そしてそれに対して冷淡に応じるのはエムのコードネームを持つ少女。
「私は二つあるというゴーレムのコアを回収に向かうわ。織斑千冬は今はISを持ってないらしいけど、相手が相手だから貴女達の方までは手伝えない。任せたわよ」
返事の代わりにISを展開し、そのまま飛び立っていったオータムとエムの姿を見送ると、スコールは誰にともなく宣戦布告する。
「パーティもメインイベントの始まり。
◇ ◇
亡国機業のIS学園襲撃から遡ること約一時間前、極秘に無人機技術を供与されたアメリカではイスラエルとの共同開発中の新型高性能IS『
さらに『福音』は無人機にも関わらず
その先はIS学園であったが、事件の発覚を恐れたアメリカの判断が鈍ったことで、その報せが届いたのは亡国機業による襲撃中という最悪のタイミングになるのであった……。
ラウラ(「私はラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。これから先、貴様に地獄を見せる女だ!」 って言いたかった…)