更識簪さんがジオウの力を手にして令和に平成をキメる話 作:モノズエラ
銀の福音との戦いを終えた一夏達を出迎えたのは、彼の胸へと飛び込んできた箒だった。
泣きつく箒を一夏から引き離そうとした鈴音やセシリアだったが、彼女から福音に凶悪なカウンターシステムが搭載されていたことを伝えられると、流石に肝を冷やしていた。
それまでの蓄積ダメージ故かMADシステム自体が不完全だったのか、結果的には不発に終わったから良かったものの、一歩間違えていれば……
「……そうか。あの時のあれはそういうことだったんだな」
もっとも、張本人はそれを聞いても驚きは少なかった。あの瞬間、一夏は濃密な死の気配のようなものを肌で感じていたのだ。むしろ腑に落ちたというのが正直な感想だった。
「ちょっと、何なのその淡白な反応は!」
「一つ間違ってたらどうなってたか分からないのですよ!?」
「まったくだ! お前は昔から危機感というものに欠けている!」
その反応に不満な三人から一斉に怒られた。一夏の態度はまだ死を本当の意味で自覚していない故だったが、それを自覚するには正史においての織斑マドカの襲撃のような契機が必要なのだろう。おそらくは今しばらく先、だけどそう遠くない未来。
「……ところで、箒さんはいつまで一夏さんにくっついてるんですの?」
「え? きゃっ……!」
「そういうのいいから。とっとと離れなさい」
二人が福音戦でISも装備を失い、体力も残っていないのが一夏にとって幸いだった。普段なら一夏へぶつける苛立ちをそのままに二人は残る力を振り絞って箒を引き離してキャットファイトに突入した。
実に見苦しい光景だが、一夏はそれを見て戦いが終わったんだという実感が湧いてきた。あの姦しい騒ぎとはまだ二ヶ月程の付き合いだが、すでに日常となっていたらしい。
「正直、驚いたぞ」
ふと横を見ればラウラが並んで立っていた。
「私がこの中で評価していたのはフランスと日本の代表候補生までだった。多少は目をかけているつもりだったが、現段階のお前は眼中になかった」
一夏自身も知らない彼の素性を知るラウラにとっては一夏の身体能力とセンスの高さ、成長の速さはどれも織り込み済みだった。その上で戦力として不足と判断していた。
「だが、お前は私の予想を超えてきた。形態移行にその悪運……、なるほど教官ともまた違うお前の信じる強さとやらを確かに見せてもらった」
「……いや、俺はまだまだ弱いさ」
一緒に戦うことでラウラの高い実力を直に見た一夏にわだかまりの心は既に無かった。
そしてあの海岸で自分を見つめ直したこともあり、自分の弱さを認めることも出来た。
「自分の弱さを認められるなら半人前ぐらいには評価してやろう。……あらためて名乗ろうか、織斑一夏。ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「一夏でいいさ。よろしく頼むぜ、ラウラ」
「お前がその調子で成長して半人前から卒業した暁には嫁に迎えてやろう。なので今は嫁候補と呼ぶことにする」
「……いやなんで嫁だよ」
「我が部隊にこの国の文化に詳しい者がいてな。彼女が言うには、この国では気になった相手を“推し”とし、気に入った相手は“嫁”にするという」
「ああいや、間違ってはいないんだけど間違ってるというか偏ってるというか……」
こいつとこいつの部下、思ったよりダメな奴らだ。
一夏は気付いた。そういえば戦い以外からっきしの千冬姉の教え子だったんだと。
どう説明したものかと頭を抱え……る余裕はなかった。
「どういうつもりだ、一夏? 事と次第によってはこの場で斬り捨てるぞ」
「いや待て待て待て。俺もまったくもって全然話に着いていけてないんだ」
「頭の悪いアンタに代わって私が教えてあげるわ。アンタが悪いわ、見てて私が今判断した。つーか死ね」
「わたくし少々疑問なんですが、嫁にしろ婿にしろなんで断らないんでしょう? それに間違っていないとか……わたくしいくら考えても分からなくって、インターセプターを持つ手が勝手に動いてしまいそうで……」
向こうで戦っていた三人がいつの間にか戻ってきていた。二人は疲れ切ってるはずなんだが。
セシリアには武器が残っていた。箒は真剣持参だった。それらを見て一夏は顔が真っ青になった。
「頑張れ、嫁候補。有象無象を蹴散らして私を勝ち取るんだ」
元凶のラウラは呑気な発言をしたと思ったら腕を組んで頷くばかりで助けに入る様子など微塵も見られない。ちなみに簪とシャルロットは既にいなかった。
日常が戻ってきて、実家に帰ってきたかのような安心感を感じていた少し前の自分を殴りたいと一夏は心の底から思った。
そうだ、日常は戦場だったのだ。
ちなみにこの日常は直後に現れた千冬によって強制的に終了させられた。
◇ ◆
その夜、軽傷だった簪は医療室での姉の見舞いを終え、学園内をぶらぶらと散歩していた。
学園内とはいえ夜に一人で歩くなど普段の彼女なら絶対にしない行動を取っている理由は、一人になれば必ず昼間から存在を匂わせている〝彼女〟が干渉してくる確信があったからだ。
果たして、“キィーン、キィーン”と知る人ぞ知る、あの独特の異音が響いてくる。
それは鏡面世界ミラーワールドからの干渉のサイン――
「……そろそろだと思ってた」
「自分同士だから、分かるよね」
気配なき声の出所に目を向けると、廊下の窓に仮面ライダーカンザシの姿が映し出されていた。
何度か簪に警告を送り、おそらくは福音の撃退に力を貸した存在の正体。
「……もうちょっと、視聴者に優しくして」
正直、亡国機業襲撃前にグロンギ語で警告を寄こしてきた時には“ここではリントの言葉で話せ”と喉元まで出かかった。理由があるのだろうと抑えたが。
「ごめん。今のあなたはISを持ってない状態だから、ここまで警戒する必要はないよね」
福音との戦いの後、全員のISが修理のために待機状態で整備班によって回収されていた。
簪の打鉄弐式も損傷は少なかったが、それでも消耗や負荷によるダメージは大きかったのだ。
それを把握していたライダーカンザシが変身を解除する。その姿はやはり簪だった。
「……それで、何があったの? あなたはどれぐらい後の私なの?」
ライダーカンザシが未来から来た簪であることは最初から推測がついていた。だが、何故彼女が未来から現れたかまでは分からなかった。
他ならぬ自分だからこそ、彼女がやってきたことには事情があるはずと分かるのだが……
「それを説明する時間は私には残されていないし、それに言葉で話すよりも
「っ、それは!?」
ミラーワールド側の簪が左手を挙げて見せると、その指の先が粒子化していた。
よく見るとミラーワールドによる粒子化*1とはまた違う、だけどどこかで見覚えのある現象。
「まさか、既に歴史を改変したの……!?」
簪の言葉に黙って頷くミラーワールド側の簪。
歴史改変の経緯は分からないし、ミラーワールドにいる簪のやろうとしていることも皆目見当がつかないが……、
『あなたは、信じられるの? 仲間を……』
……前言撤回。その言葉に、彼女が今から何をしようとしているのか手に取るように分かった。
なので笑顔で頷く簪。
ちなみにこの唐突なやりとりは簪がビルドで最推しにしている葛城巧と桐生戦兎のものだ。
『なら、見せて。あなたが創る未来を』
鏡の向こう側の簪が再度小さく左手を挙げ、反対に簪が右手を同様にして向ける。
そして二人は歩み寄り、窓ガラスの鏡面を跨いで互いの手が触れる。*2
その瞬間、二人の発した言葉は同じものであり、その声は一つに重なった。
「「BE THE ONE*3」」
過去と未来の簪が……一つに……!*4
鏡の向こう側の自身と融合した簪に、時を超えてきた自分の記憶が流れ込んできた――!!
〇 ● 〇 ●
それは既に過去となった昨日の未来、失われた世界線での物語。
〝彼女〟がやってきたのは、時期でいうならば銀の福音との戦いが終わった直後だった。
もっとも、その辿った経緯と結末は大きく異なっていたのだが。
その世界線は彼女が警告を入れる形での干渉による影響以外、後の世界線と同じ流れである。つまり、簪の行動の差異だけが二つの世界線に流れの違いを生んだということだ。
二つの世界の流れに差異が生まれたのはサイレント・ゼフィルスとの戦いまで遡る。
こちらも限定解除されていることを知らなかったエムの出鼻を挫き、優勢に立った序盤。そこで本気になったエムがBTビットを射出した中盤――そこが最初の分岐点だった。
本命の敵である福音が後から現れることを伝えられた簪はそれに備えた。では、それを知らなかったならば?
BTビットを射出したエムに対して簪はすかさずカウンターで連装ミサイル『山嵐』による一斉攻撃に出た。結果、ビット全機が撃墜されてエム本人も痛手を負った。そしてその隙を逃さずラウラがAICで一気に抑え込み、IS解除にまで追い込んで捕縛したのだ。
それだけなら後の世界線よりもむしろ良い結果だった。だが、そのタイミングで銀の福音が現れたことで状況は一変する。
三つ巴ではない状態で福音が襲来した結果、初撃でラウラが全身を撃ち抜かれる致命傷を受けて海中へと沈められた。それに激高した一夏が第二次移行を発動し、全エネルギーを込めた零落白夜で斬りかかるも、それに応じて福音が攻撃反復システム『MAD』を発動。相討ちとなって双方ともに爆炎と消え去った。
――そして、相違が生んだ物語はここからだった。
「結果的に、私の思い通りに話が進んだというわけだ」
一夏の死に沈み込む面々の前に姿を見せたのは、いつの間にか再びサイレント・ゼフィルスを展開したエムだった。オータム共々捕縛された彼女だったが、福音の襲撃に紛れて姿を眩ませて枷を解いていたのだ。
「織斑一夏はこの手で始末したかったが、まあいい。私の目標は奴などではないのだからな」
「……随分と余裕そうに話してるけど、ボク達にさっき負けたばかりだよね?」
「私に不覚を取らせた遺伝子強化素体は既に墜ちたぞ? 消耗しきったお前達が何をできる?」
エムと対峙するシャルロットだが、ここまでの戦いで彼女のIS、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの損傷は大きかった。
さらに、想い人を失った衝撃に膝をついて涙する鈴音とセシリアが立ち上がれそうにないのは明白で、もう一人の残った戦力である簪も友人の死を眼前にしたショックは相当だろう。
数の上では2対1だが、戦況はおそらく不利。
「おっまたせー!」
そんな今まさに戦いが繰り広げられそうな場にそぐわない緊張感のない声が響いた。
「貴様は……」
「し、篠ノ之博士!?」
“ISの創造主たる篠ノ之束がISより弱いとでも思ったか?”*5
そう言わんばかりに戦場を悠々と歩く束はシャルロット達の方へ向けて親し気に話しかける。
「もうちょっとだけ待っててね☆ 束さんとしては散らかった玩具を掃除してからキミと遊びたいんだ」
「えっ……?」
「フン。敵に回るというのなら、いかに篠ノ之束とて容赦はせんぞ?」
「お前さぁ、束さんがせっかく喋ってるのに横から割って入るなよな」
束が味方側ではないと即座に判断したエムが
そんなエムをゴミを見るような目*6で見ながら、束は指を鳴らして短く言葉を紡いだ。
「紅紫、コード・マジェンタ発令」
その瞬間、その場の全員――いや、世界中全ての展開されていたISが同時に解除された。
「う、うそっ!?」
「そんな……!」
「ば、馬鹿な! ISコアが砕けているだと!」
「にゃーん。全てのISコアを停止、破壊するISの王の力だよん」
自らのISが壊れていく様にセシリアや鈴音さえ凍りついたように自身のイヤーカフスやブレスレットを見つめる。
(キル=プロセス……!!*7)
開発者がセーフティ機能を仕込んでいた事例を知っていた故に同じく驚愕しながらも簪はギリギリで平静を保つことができた。
そんな面々に……いや、その中の一人だけに向けて束は話を続ける。
「王の力を授けた最初のIS、赤月。次なるIS、白騎士。それらの系譜であり、最後のISである紅紫はその王の力で自らを含めた全てのISを破壊する。すなわち、<インフィニット・ストラトスの世界>を終わらせる存在なのさ」
「インフィニット・ストラトスの世界……? ま、まさか……!?」
その言葉の意味に気づいた簪に束がいたずらが成功した子供のように笑う。
「キミを見つけようと、一生懸命調べたからねぇ。ンフフ、ISは展開してなくても周囲の情報を最低限集めてるのは知っておくべきだったかな~?」
限定解除の名目で代表候補生全員のISに触れ、コアから情報を抜いて調べていたのだ。おそらくは亡国機業を差し向けたのも、そのためだったのだろう。
簪はここでようやく悟った。束の目的はあくまで簪、いや仮面ライダーカンザシを見つけ出すことにあったのだと。亡国機業がIS学園を襲撃したのも、一夏が死んだのも、ラウラが生死不明になったのも、全ては簪の巻き添えだったのだ。
震える声で簪は束へと問いかける。
「どうして、織斑君を殺したの……!? それにISの世界を終わらせるって……!」
「なんかもう白式とか亡国機業とかいらないなって。まあ、いっくんはこの世界の主人公ぶってなきゃ放っといても良かったんだけどね。で、ついでにIS自体を消しちゃおうかってね」
「……っ!?」
「何よそれ…!? アンタが、一夏を殺したっての!?」
「篠ノ之束……あなたは!!」
一連の会話から一夏を殺した犯人が目の前の束であることを理解した鈴音とセシリアが激情のままに立ちあがる。
「さっきの奴もだけどさ、束さんの話に入ってくんなって」
苛立たし気に束が手に持った杖を振るう。
「さ、邪魔者はいなくなった。今日はキミに会うために、キミと遊ぶためだけに来たんだから、そろそろ遊ぼっか? そうそう、キミのことをなんて呼ぼっか。カンちゃんはキミの友達が使ってたよね。けどカーちゃんは母ちゃんみたいでイヤだなぁ。やっぱり、
束がじりじりと近づき、それと同じだけ簪が後ずさる。
「世界は<ISの世界>では無くなった。<織斑一夏の世界>では元から無かったと思うけど……再び混沌となった不条理で不公平なこの世界に名前がつくとしたら、なんだろうね?」
私の世界か、キミの世界か――そう続けた束が手に持った杖をくるくると回す。
「あなたは……世界を手に入れたいの……? それとも壊したいの……?」
「べっつに世界とかどうでもいいんだよね。ただ、束さんはずーっと前から退屈だったんだ。そしてそれを解消してくれたのが、キミなんだよ☆」
「……もういい。あなたのことはだいたいわかった*8」
【KANZASHI!】
カンザシライドウォッチを握り、起動させる。
ここまでの会話から、目の前の篠ノ之束こそが仮面ライダーカンザシが戦わなければならない敵なのだと確信した。
それこそが彼女の狙いなのだとしても、もはや躊躇は許されない。
「変身……っ!!」
【RIDER TIME!】【KAMEN RIDER KANZASHI ―― KA・N・ZA・SHI!】
「うふふ、ようやく逢えたね!! キミはいったい何者で、どこからどうやって現れたのかな? それとも、目覚めたのかな? 束さんは興味津々だよ!」
ついに姿を現したライダーカンザシに、束は興奮を隠せないといった様子で捲し立てる。
ISを全て消して眼前で正体を暴いて、戦う以外にない状況へと追い込んだつもりなのだろう。
だが、束の望みは叶わない。簪には彼女の遊びにひとっ走り付き合う気など毛頭なかった。
篠ノ之束は侮ったのだ。平成ライダーの芳醇な歴史には、この状況からでさえ覆す手段があったのだから。
(リスクはあるけど、現状から巻き返すにはこれがベストなはず……!)
迷う時間も惜しいと、ライダーカンザシはディケイドライドウォッチに直接そのライドウォッチを差し込む。
【KABUTO!】
それはジオウがついに使わなかった力であり、この状況をもひっくり返す禁断の能力――!
【FINAL FORM TIME! KA-KA-KA KABUTO!】
仮面ライダーカンザシ ディケイドアーマーカブトフォーム、ここに爆現*9。
基本的には中間フォームの力を引き出すディケイドウォッチだが、龍騎のように中間フォームが存在しない場合には最強フォームの力を持ったフォームとなるのだ。
(時間逆行は篠ノ之博士に記憶が残りかねない……なら、過去へ移動して歴史を書き換える……!)
それを可能とするのがちゃぶ台をひっくり返す……もとい、天の道を往くハイパーカブトの力。
「少し、修正が必要になった……!*10」
【HYPER CLOCK UP!】
実は原作でのエクスカリバー編的に一夏は自力で復活してきた可能性が割と高かったとか。
・束さんの動機について
ゴーレムⅡを消した未知の存在を探るために亡国機業を動かした。専用機持ちの誰かが情報を持っていると睨んだのは勘。
ちなみに違ってたら亡国機業に肩入れして出てくるように仕向けるつもりだった。
ISの全破棄は無人機襲撃事件後から考えてたが、福音の暴走とMADシステム搭載はISコアに残ってた簪と鳴滝さんの会話を聞いてからのアドリブ。
「ISの世界って、つまり束さんの世界か。束さんの世界かライダーの世界かでこの世界の主役をかけて争うとか楽しそうだなぁ!!……は?いっくんの世界でいっくんが主人公?絶許だわコロコロしよう」