だからGive me your smile again 笑えば周りも笑顔になって意味のないことも大切と気づくよ
キミを守るとカッコつけてたけど 本当にバカだな 守られていたのは 僕の方
遠回りしてもそれでいいからまた進もうか
ずっと歩くコトをやめるな 迷うコトをやめるな
転んで見える景色もある
4月。小町が入学し,俺たちもついに3年になり,クラスも新しくなった。靴箱の貼り紙によると俺は3年D組。大天使トツカエルと同じクラスなだけでもうこれ以上望むことはない。
おまけに由比ヶ浜達のいたグループは戸部と風見鶏の……以外と川……さんが同じクラスなようだ。ほぼそのままじゃねえか。
時間は授業開始15分前。程々に人がいる程度なので1番目立たずに教室に入ることのできるゴールデンタイムである。(学校にもよるから気をつけてね!)
ドアはすでに空いていた。2ヶ月程前と同じ感覚で教室に入る。
そして俺は2月から浮かれてしまっていたがために重要なことを忘れていた。俺は「学年1の嫌われ者」で彼女の雪ノ下雪乃は「この学校全員の憧れの存在」であることを。
自分が入る直前までは賑やかであった教室が,異様な雰囲気に包まれる。クラス中から。そして廊下の外からもまとわりつくような嫌な視線を感じる。ひそひそと様々な話をしているが聞こえてくるフレーズから「理由」はよくわかった。自分の知っている人達からは少し気まずそうな,とくに由比ヶ浜は申し訳なさそうな顔でこちらを見つめてくる。やめてくれ。そんな顔をしないでくれ。もともとは俺が撒いた種だ。
俺は気づかないふりをして自席に向かう。由比ヶ浜と戸塚が向かってくる。
「おはよう。八幡。」
「ひっきー。おはよ。」
「おう。」
「ヒッキー。あとでメールするね…」
由比ヶ浜が周囲を気にしながら小声で言う。
「あぁ。頼む。」
おそらく今出回っている噂話などの現状についてのことだろう。
正直な話,俺も雪ノ下もこのような状況に耐性がある為「今まで通り」ならなんの対処も必要ないと判断しただろう。しかし今回は勝手が違う。俺が彼女に何かが起こって欲しくないのだ。できることなら彼女にこの被害が及ばないようにしたい。それに,噂の内容によっては入学したばかりで特に人間関係を構築しておかなければならない時期の小町にも被害が及ぶかもしれないし,その程度によっては今後の小町の学校生活が危うい。早急に対処しないと…
**
2時間目(数学)
スマートフォンが振動する。既に数学は捨てているのでなんの躊躇いもなくスマホを開く。由比ヶ浜からのメールだった。ゆいゆい。ちゃんと授業受けよっか。いや俺もだけど。
「 ヒッキー。授業中にねちゃダメだよ!( *`ω´)
ところでなんだけど今ね。3年生の間で「ヒッキーとゆきのんが付き合ってる」って噂が流れてていや噂というか事実というか認めてないというか…(*_*)なんだけど,それと一緒に「ヒッキーがストーカーしててゆきのんが耐え切れなくなっちゃって仕方なく付き合った」っていう噂もでてるの。o(`ω´ )o んで,ヒッキーが今までやってたことなんかも悪いように伝わっちゃってて…。・°°・(>_<)・°°・。どうしようって隼人君達とも話してたんだけど難しいねってなってるの!U・x・U」
由比ヶ浜がいる斜め前に視線を向ける。彼女は机の下でスマホをいじりながら板書が進むたびにノートを取っていた。机の上にはプリングルスのサワークリーム味,リプトンのレモンティーが置いてあり,申し訳程度に教科書とノートが置いてあった。わかる。美味いよな。プリングルス。っつーかここ進学校だろ。偏差値35の商業高校みてぇな授業態度じゃねえか。
などと心の中でツッコみつつ状況を整理する。
流れている噂は大きく分けて2種類
① 俺ストーカー疑惑
② 今までの悪事(真偽含む)
だ。①に関してはおそらく一緒にいるところを目撃されたのが誇張されまくった結果だろう。そして②に関しては俺がストーカーである。ということの裏づけになる話として出されたものだろう。
では問題は雪ノ下に何が起こるか。だ。前回は雪ノ下,葉山間の噂の結果葉山に告白,かつ噂の確認をするものが多く出た。なら今回は雪ノ下に告白する輩が出てくる可能性がある。あいつのことだから告白してきた輩を罵倒してしまう様子が容易に思い浮かぶ。それで逆恨みでもされたら何をされるかわからない。さらに噂に尾鰭がついて悪化するだろう。
それに1年生にまでこの噂が広まると小町が「嫌われ者の妹」のレッテルを貼られてしまう。小町にまで危害が及ぶのは命を落としてでも避けたい。
…やっぱり噂の抹消,鎮静化は必須だな。
**
昼休み
例の如くベストプレイスにマッカンと購買のパンを持って向かう。
日差しも強すぎず雲量も5といったところか。本当に絵に描いたような心地よさだった。
今日のメニューは
・サラダパン(何故かサラダの中に砕いたポテチが入っている。美味いのか?これ。)
・焼きそばパン
・コロッケパン
・メロンパン
だ。何故買ったのかわからないサラダパンから食べる。好物は最後に残しておく派だからな。
えっ…美味い。明日から常設メンバーにするかこれ。
ポテチサラダパンの美味しさに感動していると右に無言で座り込む人物が現れた。
そいつは何事もなかったかのように弁当箱を広げ始め,食べ始めた。
「あなた本当にいつもここにいるのね。教室に居場所はないのかしら?」
「お前だっていつも奉仕部の部室で食ってるんだろ。変わんねぇだろ。それより由比ヶ浜はどうした。」
「あなた彼女の前で他の女の話するのね。由比ヶ浜さんなら今日は三浦さん達と食べるそうよ。」
「仮にも親友だろお前ら。他の女とか言うなよ。」
「そうね。ところでだけどまた面倒なことになったわね…朝から4人ぐらいの男に問い詰められたわ…全員追い返したけれど。それとも貴方が恋人のままよりかは乗り換えた方が良かったのかしら?」
「冗談にならねぇからやめろ。あと簡単に想像できることだったのに阻止できなかった。すまん。」
既に被害は出ていたか。これは小町に危害が及ぶのも時間の問題か。やっぱり今は雪ノ下とも距離を置いて小町とは同じ苗字の他人を演じるのが無難か。危害が出るよりかはこっちの方がいいだろう。
「なぁ…雪n「却下。」……はい…」
雪ノ下は一度食べるのをやめ,体ごとこちらを向いた。そして左手を俺の膝の上に乗せる。
「貴方が何を考えているのかはよく分かるわ。いつもの自分という手札を切る時の顔だったもの。どうせ事態が収まるまで距離を置いて今後卒業まで小町さんと他人のふりでもしようとしてたのでしょう?貴方は慣れていても貴方の傷つくところを見るのは本当に辛いの。きっと由比ヶ浜さんだって小町さんだって,一色さんだってそうよ。貴方はいつもボッチだから…等と言っているけれど,あなたの周りの人はそうは思っていないわ。その人達はきっと貴方が笑えば一緒に笑える人。もう一人じゃないって事に気づいて。」
雪ノ下はそういうとまた弁当を食べ始めた。また俺は間違うところだったのだ。何度も同じことはあったのに。それも乗り越えて成長したと思い込んでいたのに。やっぱり俺は何も変わっちゃいなかった。よく考えた結果,ごく自然に一番最初に自分を切ってしまっていた。
何が「彼女に危害が及ばないようにしたい」だ。守るどころか傷つけてしまうところだった。ならどうすればいい。噂の源流に頼み込む?どうやって探す?そもそも頼み込んだところで無理なのは明らかすぎる。片っ端から噂の源流らしき人物を詰めていくか?葉山を使えばできそうだが…
ちっとも良い案が浮かばず悩んでいるといつのまにかサラダパンを食べ終えていた。
「雪ノ下。ならどうすればいいと思う?どうすればこの噂を解消,鎮静化できるんだ?」
わからない為にくる焦燥感から苛立ちを覚えてつい口調が荒くなってしまった。
雪ノ下はそんなこともわからないのか,とでも言いたげな顔でため息をつき,弁当を片付け始めた。
片付け終わった後深呼吸をし,
「比企ヶ谷君。明日はお昼ご飯買わないこと。あと教室に居なさい。逃げたらどうなるか分かるわよね?」
と言った。まじかよ…昼ぬきの刑かよ…
「え…俺なんか悪いこと言ったか?本当にすまん。」
「はぁ…本当に分からないのね…とりあえず明日のお昼。楽しみにしてなさい。じゃ。今日は部活お休みにするから,由比ヶ浜さんに伝えておいて。」
そういうと雪ノ下は若干頬を染めながら足早にベストプレイスを去る。
………やっぱりわからん。
予鈴が鳴る。やっべ。サラダパンしか食えてない。
残りのパンをマッカンで流し込み教室へと向かった。
***
比企ヶ谷家
夜ご飯を小町と作りながら今日の話をする。
「…てなわけで小町…何か学校で嫌なこととか言われてないか?」
「んー…特に何もないかなー。まだ部活選んでる段階の人が多いから上級生との関わり無い人多いし当分大丈夫じゃない?」
じゃがいもを切りながら小町が答える
ならよかったか…
とりあえず俺は鍋を火にかけ湯を沸かしている間にサラダを作る。ポテチ発見。
ポテチの袋に手を伸ばした時小町が急いで俺の手を引っ張ると
「お兄ちゃん。今度は何する気?なんかわかんないけど怖いからやめて。本当にやめて」
「いや,今日購買で買ったサラダパンのサラダにポテチが入ってたんだ。普通に美味かったから作ろうと思っただけなんだが…」
そう言って俺はポテチの袋をもみくちゃにし,コンビニで買ってきたキャベツの千切りと一緒に皿に乗せていく。あとは…マヨネーズかけとくか。
「お兄ちゃん…お菓子はお菓子だよ…ご飯にはならないよ…」
絶望した顔をしながら小町はじゃがいもと豚肉その他諸々を鍋にぶち込む。
俺は醤油,みりん,砂糖を調味料ボックスから取り出し小町に渡す。
あっという間に肉じゃがの原型ができた。あとはできるのを待つだけ。
完成したものがこちら
肉じゃが
ご飯
ポテチサラダ
味噌汁(わかめ,豆腐,ねぎ)
サラダと味噌汁は俺がやった。最近は料理にも興味が湧いたので,小町とは当番制で代わる代わるやっている。今日は小町が当番の予定だったが,ポテチサラダが作りたくて手伝った。
「あ,意外と美味しい。」
満足そうに小町がいう。
「だろ。肉じゃがも味染みてて美味い。」
「まぁ,伊達にごみいちゃんの妹やってないからね。お兄ちゃんの好みの味は小町が1番わかってるもんね。あ,これ小町的にポイント高い!」
「そういうところがポイント低いんだよ…あ,そうだ小町。明日弁当に肉じゃが持っていっていいか?さっきの話を雪ノ下にしたら明日は弁当買うなって言われて……」
そういうと小町はマジかよこいつ…って言いたげな顔で見つめてくる。可愛いな。っつーかなんでだよ…
「これだからごみいちゃんはごみいちゃんなんだよ……絶対に,絶対にお弁当持っていっちゃダメだしご飯買ったりしたらダメだからね。」
「は…はい…」
小町からもそう言われてしまったか…
**
寝る前
こまちの部屋から何やら通話している声が聞こえる。おそらく相手は雪ノ下だと思われる。料理の話か?
***
昼休み
腹減った。
忠犬ハチ公よろしく言いつけを守り昼ごはんを買わずマッカンだけ買って教室にいる。やはり視線が痛い。居辛ぇ……
教室が急にざわつきだす。顔を上げると教室の入口に雪ノ下が居た。
おい。まずいだろ。今来たら噂は加速するだけだ。
その心配をよそに彼女は俺を見つけるなりこちらへ向かってくる。
何故か途中で由比ヶ浜もついてきた。
二人は俺の座席に椅子を持ってきて座る。
雪ノ下は深呼吸をして
「比企ヶ谷君。その…お弁当…作ってきたから…一緒に食べない…?」
という。
顔を赤くしながら最後の方は声が小さくなってしまっていた。
可愛くて直視できねぇ。クラスの人も同じだったのか悶えてるのもいる。
「お‥おう…サンキュな。」
雪ノ下から弁当を受け取ると
「ヒッキー!あたしも一緒にいい?」
そう言いながら由比ヶ浜も弁当を広げる。
「いいもなにももう広げてんじゃねえか。まぁ…いいけど…」
そう言いながら雪ノ下から貰った弁当を開けてみる。卵焼き,唐揚げ,ポテトサラダ等の定番メニューが揃っていた。しかも俺の好物ばかり。
トマトが入っていないのはポイント高いぞ。
とりあえず唐揚げから食べてみる。美味い。卵焼きは…お,甘い。わかってんじゃねえか。
どれを食べても料理のレベルが高く再度雪ノ下の料理スキルに感動した。本当に美味ぇ…
「比企ヶ谷君の好物がマックスコーヒー以外あまり分からなかったから小町さんに聞いた情報でなるべく昨日の夜ご飯と被らないようにしながら作ってみたのだけれど…どうかしら…」
心配そうに聞いてくる雪ノ下。緊張しているのかまだ自分の弁当には手をつけてない。
「めっちゃうまい…やっぱりお前ってすげえな。今度料理教えてくれねえか?」
「ありがとう……嬉しい…」
顔を真っ赤にしながら俺の腕に抱きつき,顔を隠す雪ノ下。可愛い。
「え、あたしもゆきのんに料理教わりたい!」
「い,いいけれど…由比ヶ浜さんが来るとなると相当の覚悟が必要ね。遺書を書いたり挨拶して回ったりしたいからしばらく時間をくれないかしら。半年くらい」
「由比ヶ浜が来たらお料理教室じゃなくて大科学実験になっちゃうだろ。どこか体育館でも借りるか?」
「二人ともひどい!あたしだって最近それなりにできてると…思う…多分…?」
「そこで疑問形になっちゃダメだろ最後まで自信を持てよ…」
なんて軽口を叩きながら昼休みを過ごす。雪ノ下も緊張がほぐれたようで弁当を食べ始めていた。
いつのまにか奉仕部の世界にいた俺達。ふと教室を見渡してみると教室中から浴びていた張り付くような視線はいつのまにか無くなっており,微笑ましくこちらを見る視線が多くなっていることに気付いた。それはそれで恥ずかしいが。
これで一件落着なのかもしれない。この様子ならきっと噂はすぐになくなっていくだろう。どうしてこんなにも幸せな解決方法が思い浮かばなかったのだろうか。というか,俺には到底できない考え方であった。噂が俺たちに危害を与える理由が比企谷八幡→雪ノ下雪乃という認識が広まってしまったことであるなら,雪ノ下雪乃→比企谷八幡 を見せつければいい。そうすれば噂は事実に変わり,悪意を持って流されていた噂は3年D組の目撃者達によって訂正されていく。結局守られていたのは俺だったんだ。
俺の机の上には可愛らしい弁当が3つ。紙パックの桃ジュース,紙パックの緑茶。そしてマッカン。
この机の上だけ切り取ってみればなんてことはない普通の昼食の風景だ。しかし俺達3人の遠回りしながら間違えながら積み重ねてきた時間の重みがある。
どこにもないはずの紅茶の香りが教室を満たした。