めでたしめでたしの先……   作:こべりん

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風の香りが出会った頃と同じ気がして振り向く
枯れることなく溢れ出す思い出 永遠みたいな日
君からもらった本を開いて会えない時間も同じ世界を繋ぐ
何度目だろうか君を重ねて…

あの日静かに時は足を止め,少し涼しい夜で
不意に黙る君にそっと優しくキスした
あの日偶然じゃないことも 僕たちはもう知っていた
どこにいてもいつかきっと…巡り合えることも。


Only One…

 新しいクラスにも馴染んできた頃。

 

新しい環境(ほぼ変わっていないように感じるが)に慣れてくると,どんどん気が緩み始める。始業式の日なんかは7時に起きれば十分間に合うというのに,意味もなく5時ごろ起きてしまったりするが,3週間もすれば7時に起きる予定が7:30に,7:45に…となっていき慌ただしい朝を迎えることになる。絶賛今日がその日だ。

 

現在の時刻7時40分。やっべ。

 

いつぞやの如く跳ね起きる。またもや特技の早着替えを披露。リビングに降りて行き,トースターでパンを2枚焼く。その間に寝癖を直し,顔を洗う。

 

小町の野郎まだ寝ていやがる。現在7:50。そろそろ起こしてやるか。

 

「小町。そろそろ起きねぇと遅刻すんぞ。」

 

大きめの声で階段の下から声をかける。トースターが鳴る。

 

「えっ,えーー!!!お兄ちゃんもっと早く起こしてよ!!!」

 

全速力で階段を大爆発した頭を抱えて降りてくる色気ゼロな妹。そんなところも含めて愛してるぜ小町。

 

物凄い速さで降りてきたかと思ったら脱衣所に入りシャワーを浴び始める彼女。そんな時間ねぇぞ。

 

トーストをかじりながら小町の朝食も準備する。現在7:55。

 

8:00。髪は若干濡れているが,制服に着替え終わり風呂から出てきた小町。入れ替わるように今度は俺が歯を磨きに洗面所に行く。

 

「お兄ちゃーん。ご飯ありがと!」

 

「おう。遅れるから早くしろよな。」

 

「ふぁーい!」

 

歯磨きを終わらせたらあとは準備完了。玄関に出て自転車を準備し,小町を待つだけ。

 

8:08。 小町を乗せて出発。

 

通学中

 

「やっぱり足…じゃなかった頼れる兄がいると少し寝坊しても安心だね!」

 

「足って言っちゃってんじゃねえか。そういうところは一色さんに似なくて大丈夫だからやめなさい。」

 

 

「そういやお兄ちゃん。雪乃さんとは最近どう?」

 

「え?あぁ…別になんともねぇよ。最近は弁当作って持ってきてくれるから昼食代が浮いてるってくらいか。雪ノ下の料理クオリティが高すぎて何でお返しすればいいのかわかんねぇんだよなぁ…」

 

「手作り弁当!お兄ちゃんなんでそういう大事なこと報告しないの!?前にお兄ちゃんの好みの味聞かれたからもしかしてとは思ってたけど毎日持ってきてもらってるとは思わないじゃん!」

 

「いや,なんでわざわざ報告しなきゃなんねぇんだよ。」

 

「ところでお兄ちゃん。もしかしてだけど。まだ雪乃さんのこと苗字で呼んでるの?」

 

「あーそういやそうだな。もう最初からこの呼び方だし今更変えるのもあれだろ。」

 

「お兄ちゃんのヘタレ!バカ,ボケナス!八幡!付き合ってるなら名前で呼び合ってなんぼでしょ!今週中に名前呼びに移行すること!いい!?」

 

「痛い痛い痛い!善処するからつねるな!あぶねぇだろ」

 

荷台に座る我が家の姫の命令により,達成難易度ssクラスのクエストが始まった。

 

***

 

5時間目(数学)

 

 人間の記憶の中で最も残りやすいものは「匂い」だと言われている。この匂いに紐付けられた記憶が当時と同じ匂いを嗅ぐことで引き出される。また,形容し難いが月には特有の「匂い」があり,5月には5月の匂いが,8月には8月の匂いがある。と俺は思っている。この匂いこそが急に「そういや○年前の今頃こんなことあったなぁ…」とふとした瞬間に黒歴史が掘り起こされる現象を引き起こしていると俺は考える。

 

ふわりと柔らかい風が吹く。

 

その香りは自分の人生を大きく変えたあの日を鮮明に思い出させた。

 

恒例の数学中の現実逃避である。なんだよ。logって。

 

***

放課後

 

「おい,比企ヶ谷。お前そろそろ心を入れ替えて数学の勉強もしないとどこもいけなくなるぞ?」

 

今年度の担当の数学教師は熱心な人らしく,今日までの授業態度について思うところがあったようで呼び出され、絶賛説教を受けているところである。名前はわからないが,平塚先生から胸を引いて髪の長さを1/2にしたような先生だ。

 

「いや,私立文系一本に絞ろうと思っているので。」

 

「そもそも高校の評定によっては大学どころか卒業できるかも怪しいんだが。部活動はやっているのか?まだやっているのであればもう引退してきたらどうだ?」

 

「引退できたらよかったんですけどねぇ…生憎強制入部させられて個人の意見で勝手にやめられないんです。」

 

「お前もしかして奉仕部の…?あぁ…平塚先生から聞いていた問題児はお前だったのか……ならちょうど良い。雪ノ下に勉強を見てもらえ。今から頼み込みに行くぞ。」

 

「こんな模範的なレア度1の生徒引っ張り上げて問題児とかひどいですね。」

 

「うるさい。お前のその喉仏引きちぎってやろうか?」

 

本当に平塚先生みてえだ。

 

脅された為命令に従い先生と一緒に教室へと向かう。本当にあの日みたいだ。

 

先生は勢いよくドアを開ける。うん。こういうところとか。

 

「失礼します。ここが奉仕部の部室か?」

 

肩を跳ねさせる既に中でお茶会をしていた部員3名。

 

「こんにちは。畑山先生。入るときにはノックをお願いします。」

 

「悪い悪い。今日は依頼があって来たんだ。比企谷八幡をどうにかして人並みに数学ができるようにしてほしい。」

 

「先生。その男はもう数学を捨てているので諦めた方がよろしいかと。」

 

「そういうわけにもいかないんだ。なんせこの調子で行くと卒業すら危うい。高校で留年とか冗談にならない。頼む。少しやる気を出させるだけでも良いんだ。」

 

「はぁ……わかりました。善処します。比企ヶ谷君。あとでみっちりお話を聞かせて頂戴。」

 

「はぁ……」

 

「それじゃ。後は頼んだ。」

 

嵐のようにさっていく数学の先生。

 

しばらくして小町が口を開く。

 

「お兄ちゃん…数学そんなにダメなんだ……」

 

「うん…ヒッキーいつも数学の授業はいつも寝てるか窓の外を見て考えてる感じだもん…」

 

「はぁ…比企ヶ谷君。この参考書あげるわ。もう今日なんとか解き終わった物だから。来週までに全て解いてきて。話はそれからよ。数学I+Aなら問題ないでしょう?」

 

「え…これあれだよね。Fo○us Goldってやつだよね?鈍器レベルで重い参考書だよね?来週?今日金曜日だぞ?俺に死ねと言っているのか?」

 

「それくらい詰め込まないとダメでしょう?それとも今日からでもつきっきりで面倒みなくちゃダメかしら?」

 

「それは遠r「雪乃さんきてくださるなら大歓迎です!うち両親泊まりがけで仕事に行っていてしばらく帰ってこないので!是非!明日!うちで!お泊まり会しましょう!お兄ちゃん!今日は家の片付けがんばろ!」…小町ちゃん?何を言っているの?」

 

「え!楽しそう!あたしもいきたい!ゆきのんもいくでしょ?」

 

「はぁ…先生からの依頼もあるし…行くわ。」

 

マジかよ。

 

***

 

下校中

 

「お兄ちゃん!名前呼び始めるなら明日だよ!」

 

「はぁ…それもう忘れてたと思ったんだけどなぁ…善処する。」

 

***

 

とりあえず家中の片付けやその他諸々がひと段落した。本当なら今から久しぶりにWii-Uでも取り出してきてWii sportsでもやりたいところだが,受験生なので大人しく勉強をすることにする。

 

早速雪の下からもらった参考書を開く。所々マーカーが引いてあったり猫のマークがついていたりする。とりあえず1問目から解いていく。解説があるため割とすぐ解けた。気持ち悪い表現かもしれないが,この参考書で勉強をしていると,ここに彼女がいなくとも,2人きりの世界にいるように錯覚した。

 

 

3時間くらいやっただろうか。数学が好きになってきた気がする。確率とか難しいけど解くの楽しいじゃねえか。気づけば夜中の2時になっていた。

 

彼女がつまづいたであろう印がついている問題に自分もつまづいたりするたびに彼女の姿が自分と重なった。

 

***

 

お昼頃,2人がうちに到着した。4人でお菓子を囲みながら勉強を始める。

 

「比企ヶ谷君。貴方はなぜやろうと思えばできるのにやらなかったのかしら。もったいないわ。その学力を由比ヶ浜さんに分けてあげたらどうかしら。」

 

雪ノ下が昨日作ってきたというテストで満点を取れた。やったね。

 

「まぁ,普通に今までは数学は捨ててかかってたからな。たまたま昨日やってた問題に似てたっていうのと昨日の時点で大体の単元に目を通せだってだけだ。」

 

「ゆきのんさりげなくあたしをディスってない?確かに半分も取れなかったけど…」

 

「今日の目的は比企ヶ谷君をしごく予定だったのに由比ヶ浜さんを優先しなきゃいけなそうね……比企ヶ谷君はもし大丈夫そうなら数II+Bも手をつけてみたらどうかしら。」

 

「おう。数学案外好きかもしれねえからやってみるわ。」

 

さっそく自前の一度も開いていないFo○us Goldにとりかかる。

***

 

底の変換公式の意味がわからない。

 

「なぁ雪乃…下。これってなんで分母がlogcAになるんだ?」

 

やっぱり名前呼びはハードル高えな。

 

「これはAがCのlogcA乗だというのを利用してCの形を変形していけばわかるわ。驚いた。もうそんなところまで行ったのね。」

 

「あぁ,とりあえず内容理解に徹底しようと思ってな。応用問題は飛ばして単元ごとに重要そうな例題だけ解いてた。」

 

「そうね。その参考書はほとんどのパターンの問題を網羅しているから内容理解ができれば後はなんとでもなるわ。」

 

***

 

「お兄ちゃーん。そろそろ戻ってきてー。ごめんなさい雪乃さんに結衣さん…お兄ちゃんって集中するとなかなか戻ってこれない人間なので…」

 

「あ…小町…すまん。割と面白くてな。もしかして俺何回か無視したらしちまったか?そうだったら申し訳ない。」

 

時刻は17時。気付いたらかなり集中していたようだった。

 

「いえ,特に大丈夫よ。今から夕飯の準備するから手伝ってもらえるかしら。」

 

「あぁ,わかった。」

 

由比ヶ浜に台所に立たせるわけにはいかないからな。

 

***

 

今日の夕飯当番は俺の予定だったので由比ヶ浜と小町でデザートの買い出しに行ってもらい,俺と雪ノ下で買ってある食材で夕飯を作る。

 

「あー,実は昨日の時点で下準備はしてあって,親父のワインでも開けてビーフシチューでもと思って作ってみたんだが…それでもいいか?」

 

そう言い俺は冷蔵庫から昨日掃除の後作っていたビーフシチューを取り出す。

 

「あなたそんな本格的に料理する派だったかしら?あとそんなワインなんて使って怒られないかしら。」

 

「最近料理にハマっててな。あとワインの件は大丈夫だ。基本バレない。ばれたとして家族で共用してるパソコンの親父の履歴バラすって脅せばなんとかなる。」

 

「最低なことをしている自覚はあるのかしら……まぁ…見たところ今からでもそこまで時間かかるようではなさそうね。あとは…スープでも作っておけばいいかしら?」

 

「そうだな。俺はサラダとか作りながら具材切ったりするからビーフシチューの味見ながら調整するの頼むわ。」

 

「了解。」

 

俺はサラダ用の野菜とスープ用の野菜を取り出し切っていく。雪ノ下はビーフシチューをかき混ぜながら時折味見をして調味料を足したりしていく。

 

「比企ヶ谷君。いい感じになってきたのだけれどどうかしら?」

 

雪の下がさっきまで自分が使ってたスプーンで味見を要求してくる。無自覚なのか?

 

一呼吸置いて覚悟を決めそのスプーンに口をつける。雪ノ下は自分が何をしたのかようやく理解したようでみるみる赤くなっていく。

 

「ご…ごめんなさい…ところで味の方は大丈夫かしら…?」

 

「あぁ…美味いと思う。昨日と比べてワインが効きすぎてなくて食べやすくなったと思う…知らんけど…」

 

正直味どころではない。きっと俺も今顔が真っ赤だろう。本当に余裕なさ過ぎてカッコ悪いな。俺。

 

「そう。ならよかった。食材切り終わってたらスープ用の鍋の方に入れてもらっても良いかしら?」

 

「おう。」

 

そう言って俺は鍋に具材をぶち込んでいく。

 

よし。あとは俺がやるのはサラダだ。ポテチの袋を開ける。

 

すかさず雪ノ下に手首を掴まれる。

 

「比企ヶ谷君。何をする気かしら?返答によっては貴方の息の根を止めなければならないのだけど。」

 

深刻そうな顔で言う雪ノ下。一か八か,ここでこの切り札を切ろう。

 

「雪乃。知らないのか?ポテチをサラダに入れると美味いんだ。」

 

「名…名前…そのタイミングはずるいわ…まぁ…貴方がそういうなら許可するわ。」

 

よし。成功。チョロノ下だな。最悪のタイミングではあったがミッションクリアだ。やっぱりすげえ恥ずいな。

 

許可をもらったのでポテチサラダ作成。

 

これで夕食の準備はできた。あいつら遅いな。デザート買うだけだろ。

 

***

 

「た…ただいま…」

「ただいまー!」

 

げっそりした様子の小町と楽しそうな様子の由比ヶ浜が帰ってくる。

 

「おう。お帰り…飯できてるぞ。大体の予想がつくが何があったお前ら。」

 

「結衣さんが…「マックスコーヒーとトマト混ぜてゼラチンで固めてあげたらヒッキーもトマト食べれるんじゃないかな」って言い始めてトマトとマックスコーヒー買おうとしたりしてて止めるので必死だった…」

 

「えー?割と美味しそうじゃない?あたし荷物持つだけで選ばせてもらえなかった…」

 

今度はしょんぼりする由比ヶ浜。あぶねぇ。小町ありがとう。死ぬところだった。

 

***

 

「え?このビーフシチューヒッキーが作ったの?すごっ!」

 

「お兄ちゃん最近料理にハマってますからねー。最近ならうちの中で1番料理やってるんじゃないですかねー」

 

「あぁ、下準備だけな。味の調整は雪乃…にやってもらったけどな。」

 

「え!?ヒッキーゆきのんのこと名前で呼んでる!ねぇ?あたしは?」

 

「結衣…やっぱりダメだ一気に複数人は元ボッチにはハードルが高い」

 

「比企ヶ谷君。寝る前に話があるわ。それまで生きていればだけれど。」

 

「お兄ちゃん!ミッション達成だね!」

 

顔が赤くなって動かなくなった由比ヶ浜。青筋を浮かべながらこちらを睨む雪乃。そしてむふふーと満足そうに笑いながらサムズアップする小町。比企ヶ谷家では10年ぶりくらいの様々な感情が入り乱れる夕食になった。

 

***

とりあえず俺は最初に風呂に入り,自分の部屋にこもる。

 

俺の部屋に俺のベッドだけでなく布団が敷かれている。

 

まだ小町達は風呂に入っている。後で聞くか…騒がしいのでどうやら3人で入っているようだ。仲良いのは良いことだ……

 

***

 

「小町ちゃん?雪乃さん?これはどういうことかな?」

 

「そうよ小町さん。この男と同じ部屋に寝るのは流石に身の危険を感じるわ。」

 

「雪乃さんもそう仰らずー!お兄ちゃんはなんだかんだヘタレなんで安心安全ですからー!ささっ!結衣さん!私達は向こうの部屋で女子トークしましょ!」

 

「小町ちゃん!あたしもまだ納得できてないんだけd」

 

由比ヶ浜が何か言っているがドアが勢いよく閉められ,聞き取れなかった。

 

「あー…すまん。本当に嫌だったら小町の部屋に今から行ってもらってもいいぞ。」

 

「い…いえ…大丈夫よ…案外部屋綺麗にしているのね…本も思っていたより純文学が多いのね。」

 

「まぁ…好きな本があったら貸すぞ。」

 

「えぇ。明日じっくり選ばせてもらうわ。」

 

しばらく無言の時間が続く。

 

「あー…雪乃…お茶かコーヒーでも飲むか?うちにあるのだとお前ほどうまく作れないかもしれないが」

 

「ありがとう。紅茶をいただくわ。」

 

「わかった今持ってくる。」

 

そう言って俺はキッチンに向かい,お湯を沸かし,魔法瓶に入れてティーカップ,ポット,茶葉,持って戻る。溢すリスクが無くなるしな。

 

そして,部屋の中で紅茶を入れる。紅茶の香りが部屋を満たす。

 

「あー。一応本で読んだ通りにやってみたんだが,やり方あってるか?」

 

「えぇ。合っているわ。貴方も大概のことはなんでもできてしまうのね…」

 

「お前ほどじゃねえけどな。ボッチだった分1人でできることに関してはとことん熱中できるだけだ。」

 

割とソロキャンプとかも興味あるし。あとこないだ地学の授業で見た水晶とか割と取りに行ったりしてみたいし。

 

「理由が少し悲しい気がするけれど同感できてしまうからなんとも言えないわ…」

 

 

またしばらく無言の時間が続く。お互いに紅茶を飲むので精一杯だ。

 

「あー,飲み終わったらその辺置いておいてくれ。明日片付ける。」

 

「えぇ。わかったわ。」

 

「俺はそろそろ寝るから電気消しておいて欲しい。おやすみ。雪乃」

 

そろそろこの呼び方もなんとか慣れてきた。ただMPの消費が激しい。

 

「ええ。私ももう寝るわ。おやすみなさい。」

 

そう言ってそっと電気を消す雪乃。

 

もぞもぞと布団に入るおとがきこえる。何故か俺の布団から。

 

「おい。何やってんだ。お前の布団敷いてあっただろ。」

 

「ダメかしら?私達仮にもこ…恋人同士でしょう…?」

 

そう言われたら断れねぇじゃねえか。

 

「そ…そうだな…」

 

とても近くで感じる吐息。やばい。理性が飛びそうだ。がんばれ俺。

 

雪ノ下が覚悟を決めたように深呼吸をする。

 

「おやすみ。八幡君。」

 

「お、おう。おやすみ。雪乃。」

 

それは反則だろ。

 

***

 

しばらくして静かな寝息が聞こえてくる。この状況で寝れるのか。そんな余裕がないのは俺だけなのか?

 

彼女の寝顔を見てみる。本当に自分からしたらもったいなすぎるくらいの美人でいつもの圧を感じないせいか年相応の顔つきに見える。

 

思わず見惚れてしまった。君の中に今どんな顔した俺がいるのかは知らないけど。そもそも君が見ている夢の中に俺がいるのかも知らないけど。俺はやっぱり雪ノ下雪乃が好きで。きっと俺はこの後寝れたとしても見る夢は君の夢なんだろう。それくらいずっと君を思い続ける。

 

少し肌寒いくらいの夜。青い月の光に照らされた2人の周りは時間が止まったようで。やはり風の香りは出会った頃と同じだった。

 

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