めでたしめでたしの先……   作:こべりん

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Tell me why why 愛しているのに

why why なぜ気づかない

誰よりも…I love you




その微笑みは俺だけに見せてよ。幻じゃ足りない…


Tell me why

俺は一体どこで間違えたのだろうか。およそ4ヶ月程前に街中で見つけてしまった彼の横顔を見て微笑む彼女の顔が脳裏にちらつく。

 

彼等はいつも教室では昼食を食べなかったはずであったのに5月頃一度だけ見せつけるように教室で昼食を食べていた。その時の彼女の顔も俺の記憶に染み付いて離れない。

 

目の前にいる彼女は本当に同じ人間なのだろうか。親同士の付き合いで父さんが主催のパーティーに来た彼女は暗い色のシンプルなドレスに身を包んでおり,氷の彫刻のように透き通った彼女の美しさを際立たせていた。しかし,彼女の表情はやはり氷のように冷ややかで,触れれば指先が痛くなりそうなほど冷たい印象であった。

 

一方で明るい色のドレスで様々な会社の重役達と談笑している姉の方はお得意の仮面を付け替えつつ明るい笑顔を振りまいていた。あ,まずい。こっちを見た。

 

「隼人〜。うちの雪乃ちゃんは最近学校でどんな感じなの?聞いても全然比企ヶ谷君の話してくれなくてさー。隼人は知ってることなんかない?」

 

こちらにやってきた彼女は開口一番ついさきほどまで考えていた彼女について聞いてくる。ふざけている口調ではあるが,やはり目はいつもどおりのこちらの心の奥の方まで覗き込んできているような印象であった。

 

「いや,詳しくはわからないな。あぁ,そういえば5月頃に比企谷にお弁当を作って持ってきていたよ。」

 

「余計なことを言わないでもらえるかしら。」

 

途中から話が聞こえてしまっていたのか彼女はほんの少し顔を赤く染めながらこちらを睨む彼女。

 

その一方で悪い笑顔になっていく姉の方。

 

「雪乃ちゃーん!大進歩じゃん!お泊まりは?お泊まりはしたの?」

 

「まだし……てないわ。」

 

「今一瞬考えたでしょ雪乃ちゃん。正直に言いなさい。お泊りしたんでしょ?いつ?」

 

「先週の…金曜日…勉強会をするために彼の家に泊まったわ。奉仕部全員でね。ただ勉強して一緒に寝ただけ。それ以上には何も無いわ。それに八幡に誘われたわけでも私が誘ったわけでも無いし。小町さんの差し金よ。」

 

「ふぅ〜ん…名前で呼ぶようになったんだぁ〜雪乃ちゃんにしては大進歩だねぇ〜〜」

 

「なっ…姉さん…お願い今のは忘れてちょうだい……葉山君。貴方は何も聞いていなかった。いいわね。」

 

「あ…あぁ…誰にも言わないよ。心の片隅に留めておくよ。」

 

冗談のつもりで言ってみる。

 

「葉山君?からかっているつもりなら受けて立つわ。」

 

こんなにも差がついてしまったか。というか,当たり前か。彼は彼女の恋人で,俺は昔彼女が標的になったいじめの元凶。皆の葉山隼人になろうとしてきた結果。ただ1人の彼女のものになることが出来なかった。そして拒絶するような態度で「葉山君」と呼ばれた。そんな経験が滅多になかった分かなり心にも来るものがある。

 

「ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。まぁ,彼ともうまくいっているようでよかったよ。あの雪乃ちゃ…雪ノ下さんがここまでのろけるなんてね。」

 

「なっ…のろけてなんていないわ。名前だって彼が急に私の事を名前で呼び始めたからそうしているだけで…」

 

「え〜いがーい!比企谷君そんなことしそうに無いのに〜!お姉ちゃんの事は名前で呼んでくれないのになぁ〜」

 

「姉さんこの際だからいうけれど八幡にちょくちょくちょっかいかけて連れ回すのやめてもらえるかしら?彼も私も迷惑しているの。」

 

「えーいいじゃんお姉ちゃんだって八幡とデートしたーい」

 

「お願いだから姉さんは八幡って呼ばないで。」

 

「お?独占欲か?独占欲かこのやろー。羨ましいぜーひゅーひゅー」

 

からかう姉と彼の話になると自然と頬を緩める彼女。誰が見ても微笑ましい光景だと思う。でもどうしても考えてしまう。微笑む彼女の今思い浮かべている人間が俺であったならどれだけ幸せだっただろうか。

 

***

次の週の月曜日

 

「ねぇ隼人〜今日の放課後いつものメンバーで勉強会しない?教えてほしいのがあるんだけど…」

 

「あぁ,いいよ。結衣はどうするんだい?奉仕部の方行くのか?」

 

「今日は部活休みだから皆と勉強会したい!どこでやる?」

 

「あーしどこでもいい。隼人オススメの場所ある?」

 

「そういえば最近色んな石が飾ってあって綺麗な喫茶店見つけたんだ。そこ行ってみないか?」

 

「何それウケる。石って何?角閃石とか?」

 

「そんな地味なのではなかったかな…水晶とかそういうのだった気がする」

 

「そこってもしかして…-」

 

「結衣どしたの?」

 

「い、いや!なんでもない!」

 

「水晶って尖ってるけど動かないから攻めというよりかは受けなのかな…」

 

「姫菜。そういう話パスで。あーしさすがに無機物でそういう話はついていけなすぎる。」

 

「さすがに無機物は…ってことはもしかして人間なら良いの…?腐の世界へようこそ…ぐ腐腐」

 

「お願いだからやめて。隼人助けて。日菜がそろそろ怖い」

 

「あはは…流石だね…」

 

***

鉱物喫茶店にて

 

「まじでオシャレな所だね。石も飾ってあるだけじゃなくて買えるんだ。あーしの誕生石ってどれ?」

 

「12月だったよね。あそこの棚にあるトルコ石とかすぐ手前に飾ってあるタンザナイトが誕生石だったと思うよ。」

 

「そうなんだ…え……何これすげえ高いんですけど。隼人の誕生石はどれ?」

 

「俺は9月だから…サファイアかな。あ,あった。こっちは比較的安いね。千円で買える。」

 

「なぁ。とりあえず勉強しようぜ。」

 

「あぁ,ごめん大和。さぁ,勉強会始めるか。」

 

「そだね。隼人。聞きたかったところなんだけど……

 

 

 

勉強を始めて2時間くらい経っただろうか。そろそろみんなの集中力がなくなってきたころだ。

 

「なぁ,皆。そろそろ休憩しないか?俺また飲み物頼んでくるよ。何がいい?」

 

「あ!頼んできてもらえるならあたし紅茶で!」

 

「俺はブレンドコーヒーで。」

 

「私はシトラスティーかなー」

 

「了解。優美子は?」

 

「あーしもシトラスティーで。」

 

***

 

「いらっしゃいま……うげっ…なんでいんだよ」

 

「露骨に嫌な顔するなよ比企谷。お前こそ。なんでこんなところでバイトなんてしているんだ?「働きたくない」とか言っていたくせに。」

 

「気が変わったんだよ。んで?注文は?」

 

「ブレンドコーヒーホット2つ。シトラスティー2つにダージリン1つ。」

 

「了解。石も買ってくれ。店長が出かけるたびにどっかから取り寄せてくるから減らなくて困ってんだ。俺の給料が上がるから石買ってくれ。」

 

「客に言っていいことなのかそれ…まぁ,気に入ったのがあったら買うよ。」

 

少し沈黙の時間ができる。手際良く茶葉を選びながらポットに入れている。

 

「手際いいんだな。」

 

「そりゃぼっちだったからな。1人でできる作業は大体できる。ほい。お待たせ。熱いから気を付けろよ。」

 

「あぁ。ありがとう。」

***

またしばらく勉強する。最近は喋る頻度も少なく皆集中して勉強するようになった。流石に受験期真っ只中。あの比企谷でさえも数学が怒涛の勢いで成績が上がっている。結衣でさえ成績が上がっているのだ。せめて勉強だけは彼に負けないようにしなければ……

 

ドアが開く音がする。なんとなく目を向けてみると小さい頃から見てきた黒髪の少女が来ていた。

 

彼女はまっすぐレジに隣接するカウンター席に行くと比企ヶ谷と話始める。二度と俺に向けられることは無いであろう笑顔をふりまいて。

 

外はすっかり暗くなっていた。そろそろ帰る準備をするか。

 

「そろそろ終わりにして帰らないか?そういえば結衣。比企谷がここでバイトしてるのは知ってたのか?」

 

「あ,うん。なんかね。こないだゆきのんとここきたんだって。その時に店長に強引にその場の流れで入れられたって言ってた。でも内緒にしたいらしいし,あんまり知り合いに会いたくないって言ってたからちょっかいかけないようにしてる。」

 

「なんかヒキタニ君らしいな。」

 

「隼人くんこれはもう運命だよ!隼人くんが偶然見つけた喫茶店にヒキタニ君!はやはち!キマシタワー!」

 

「日菜。バカなこと言ってないで早く帰る準備しろし。」

 

そんな会話をしていると髭を生やした男前な男性スタッフがこちらにやってくる。

 

「君達は比企ヶ谷の知り合いかい?俺はここの店長をやっている山尾です。彼から皆に渡してくれって。お代は要らないけどまた来てくれると嬉しい。」

 

そう言って彼はまた店の裏へと入っていく。

 

「あ,これヒッキーが最近作ってるやつだ。」

 

渡されたのは小さな水晶のストラップ。なんだかんだ言いながら,そういうことがさりげなくできるお前が,本当に嫌いだ。

 

こんなことを考えてしまう自分も嫌になる。それでもやはり浮かぶ思いは,彼から彼女を奪えれば。なんて暗い思いばかり。当の本人たちはカウンター席で自然な笑みを浮かべながら話している。雪乃ちゃん。君は今何を考えているのだろうか?俺に対してその気持ちを向けることは本当にこれっぽっちもできないのか。

 

「隼人。何ボーッとしてんの?行かないの?」

 

「あぁ…ごめんごめん。ちょっと欲しい石があるから買っていくね。先行ってていいよ。」

 

「ん。駅で待ってる。」

 

「ありがとう。」

 

俺はそういうと適当にそこにあったタンザナイトを手に取りレジに向かう。

 

「お,石買ってくれんのか。サンキュ。しかもそのタンザナイトかよ。値段ちゃんと見たか?」

 

「あぁ,これであってる。"雪乃ちゃん"。比企ヶ谷を少し借りるね。」

 

「えぇ。この店の備品だから乱暴に扱わないで頂戴ね。」

 

「もう一回確認するがこれでいいのか?3万2千円になるぞ?」

 

「あぁ。構わない。」

 

「そうか。専用のケースとミネラルタックっつーねりけしみたいなのもつけとくぞ。付属のアクリルベースに固定するときに使うやつだ。」

 

「あぁ。助かる。」

 

会計を済ませて店を出る。本当は彼と彼女をもっと長い時間引き離したかった。もっとかき乱してやりたかった。こんなことを考えているあたりやっぱり俺は最低だ。皆の葉山隼人が。聞いて呆れる。

 

そのあとのことは覚えていない。駅で優美子と合流し,一緒に帰ったが,何を話したのかは全く覚えていない。

 

今は自分の部屋で買った石を眺めている。特に興味も無いくせに高価なものを買った。本当に無駄な買い物をした。その石の深い青紫色は先日の雪乃ちゃんのドレスにそっくりで。不思議と涙が溢れてきた。

 

彼と彼女が付き合い始めたと聞いてからすでに4ヶ月は経っている。しかし俺は今日やっと。失恋することができた。

 

 

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