二人きりの一枚を撮ろう
頬寄せて…
………」
話しかけられている気がする。
「八幡。」
「あぁ…おはよう雪乃…」
空はまだ暗い。スマホを見るとまだ時間は朝の4時頃。
「今日はこんな早く起きる必要ないだろ。どうしたんだ?」
「おはよう…あの….これ見て。」
雪乃がパンフレットの1ページを指差しながら見せてくる。
「あー,朝日を見ながら優雅な朝食はいかがですか…、か。これに行きたいってことか。」
「えぇ。でも貴方凄く眠そうだし無理はしなくてもいいわ。昨日も早く起こしてしまったし…」
淡々と言っているが表情は少し申し訳なさそうである。
「よしわかった。行くか。先着順なんだろ。急いで用意する。」
「えっ,でも」
「お前が行きたいんだろ。別にいいとは言ってても顔に出てる。俺のことは気にすんな。今まで散々振り回してきただろ。それでもついてきてんだから遠慮する必要なんてない。」
「そ,そうね。ありがとう。じゃあ外で待ってるわね。」
「了解。10分で出る。」
***
用意を済ませ,最上階の展望デッキの中のカフェへと向かう。入り口にはすでに3組程待っている状態だった。
「あと10分くらいで開くみたいだな。」
「そうね。メニュー渡されたけれど…どれにするか決めた?」
「俺はこのフレンチトーストセットってやつにする。」
「私もそれ気になっていたの…でもこっちのパンケーキも美味しそうだなって思ってて…」
かなり真剣に悩んでいる。こういうときこそ「ひとくち頂戴」って言うもんじゃないのか?
「あー、もしあれだったら俺のやつ半分やるぞ。」
「え?いいの?でも男の人には少なくないかしら?」
「なんでお前が1.5人分食う前提なんだよ。お前のやつも半分くれよ。」
「ふふっ。冗談よ。ありがと。はんぶんこ、ね。」
改めて言われるとすげー恥ずいな。
「まだ時間あるししりとりでもするか?」
ベタな暇つぶししか思いつかない。
「貴方からそういう提案って珍しいわね。そうね…倫理。」
「りっとう。漢字の部首のやつな。」
「瓜。」
「利害。」
「インテリ。」
不敵な笑みを浮かべる雪乃。
「序盤から「り」攻めかよ。そういうのは中盤でやるもんだぞ。理想。」
そもそもしりとりに序盤も中盤もない気がする。いっつもいつのまにか全員飽きて有耶無耶になって終わってるもんな。あれ。
「海鳴り。」
「また「り」か…輪講」
「う…何気にあなたも「う」攻めしてないかしら?…ちっ…海。」
やっと「り」攻めから解放された。やり返すか。
「見張り。」
「あぁっ…利息。」
「栗。」
「むぅ…燐灰石。」
「お,よく知ってたなそんなの。霧。」
「あぁっ…」
「お待たせしましたーただいまより開店しまーす」
「お、開いたぞ。行くぞ。」
「悔しいけれど今回は譲るわ。」
「おう。」
***
料理を受け取りガラス張りの壁側の二人組用のテーブル席へと向かう。人がぞろぞろと入ってきた為早く来ておいて正解だったようだ。
外はまだ暗く,空の色が少しわかる程度。店内の淡い照明も相まってかなり幻想的である。雪乃は料理の写真,景色の写真を何枚も撮っている。俺も真似して撮ってみる。なんだこれ。めっちゃ映えてんじゃねぇか。
とりあえずまだ撮っているみたいだから待つか。
頬杖をつき外を眺める。明るく輝く星が一つ見える。あれが金星か。こないだ山尾さんに教わったな。
パシャッ。振り向くと雪乃がこちらにスマホを向けている。
「おい。今撮っただろ。」
「ふふっ…でもちゃんとかっこよく撮れてるわ。ほら。」
見せられたのは表紙になってそうな構図で写る俺。
「なんだこいつ。無駄にカッコつけてんな。それよりそろそろ食おうぜ。」
「ふふっ…」
「「いただきます。」」
とりあえず料理が冷める前に。
「ほい。」
約束通りフレンチトーストを半分渡す。
「ありがとう。はい。よいしょ。」
雪乃から半月型のパンケーキが渡される。
食べ始まると無言になる。まぁ。基本はそうか。バイト先に来るカップルを見ていても食べている時も騒がしい人たちと静かな人たちの両方いるもんな。
お互い食べ終わり紅茶を啜る。徐々に空がオレンジ色に染まっていく。周囲から歓声が聞こえる。
窓を見てみると海の上に太陽に向かって一本の光の道ができていた。こんな表現しかできない自分がもどかしい。実際には太陽の光が道のように見えているだけなのだが,自分にはそう見えた。
「綺麗ね…」
夢中で魅入っている雪乃。彼女の白い肌が陽の光に染まっている。そうだな。本当に綺麗だ。
「ねぇ。写真撮らない?」
「おう。いいぞ。俺がそっち行くか?」
「どうせなら太陽も映したいから私がそっちに行くわ。」
そういうと雪乃がこちらの席に来る。
自然と彼女と密着する。体の左側が彼女の体温ですごく暑くなっているのがわかる。
「じゃあ撮るわね…」
少し頬を染めた彼女はその頬を俺に近づける。
パシャッ。シャッターが鳴る。
「逆光で少し暗いけれど…まぁ。いいでしょう。綺麗に撮れてるわ。」
「そうだな。旅行会社のパンフレットにありそうな写真だ。」
「確かにそうね。」
軽口を叩いてみたが心の中はそんな余裕は全くない。デビル八幡,エンジェル八幡共に暴走状態である。
***
今日も昨日と同じように散策したりプールに行ったりした。外も十分暗くなり,部屋でカメラロールを眺める。ラーメンと模試の解説の写真しかない味気ないカメラロールが今日1日で劇的に華やかになっている。一番はこの彼女との2ショットの数々であろう。
その彼女は窓際の椅子に座って外をぼんやりと眺めている。カメラロールに映る彼女もそうだが,本当に1つ1つの仕草が様になっている。
「なぁ。」
「何?」
「ありがとな。」
頭を掻きながら言う。
「いきなりどうしたの?」
微笑む彼女。
「いや,言いたくなっただけだ。風呂入ってくる。」
「そう。」
着替えを持って部屋を出ようとする。ドアに手をかけたところで後ろから服を引っ張られる。簡単に振り解けそうなほど弱かったがそうする義理もない。振り向くと顔を真っ赤にした彼女がいる。
「その…今日は…一緒に…ここでお風呂入らない…?」
まじか。
静かな10pm
二人だけの時間
誰も邪魔はしない
「秘密だよ」 共犯
バレたらどうするか?
愛するだけさ
覚悟を試したいのさ…
耳元で喘いで……