love for you 君を待ってるここで
wait for you 誰かじゃなくて
僕だけみていて欲しいんだ
8月8日。
今日は俺の誕生日である。少しワクワクして昨日の夜は夜更かししてみたが誰からも連絡は来なかった。雪乃からも。い…いや期待なんてしてなかったけどね?知ってたけどね?
カーテンを開けてみると外は暑い雲に覆われており,湿度も高く凄く嫌な天気だ。
そこ。俺らしいじゃんとか言わない。正解だけど。
階段を降りてリビングに行くと置き手紙があった。
〜〜〜
いろは先輩達とお買い物に行ってくるであります!
あ,雨降りそうだったら洗濯物込んでおいて。
〜〜〜
妹からすらもこの扱いである。
「はぁ…とりあえず…学校行くか…」
入試の面接対策のため,最近は毎週のように学校に行っている。
重い足取りで学校へと向かった。
***
面接対策でも先生からみっちりしごかれ,地学,生物の入試対策講義を受け,へとへとになって帰路へつく。時間はすでに午後5時。空は雲が薄くなり所々晴れ間が見える。雨が降る心配はなさそうだ。
「久しぶりに海行ってみるか…」
自転車で海に向かう。海に行くとは言っても海水浴場のような人がたくさんいるようなところではない。本当に小さい海岸だ。1年生の時にここを見つけ,夏の補講の後などは稀に来ていた。
***
海に到着した。
いるのは魚を釣っているおじさんが数人。
自転車を降りて砂浜に座る。途中の自販機で買ったマッカンを飲みながら海を眺める。太陽の位置も低くなっており,砂浜は斜陽に染められる。
そんな寂しげな風景を見ていると自然と自分も寂しくなってくる。慣れたもんだと思っていたけどな。そんな景色を見ないように目を瞑っても彼女たちの姿が浮かんできてしまう。
なんだかんだ言って,奉仕部の人たちには祝ってもらえると心の中で思っていた。まぁ。俺もあんまり自分から言った覚えがないから忘れられて当然ではあるが。
来るわけもないのに何度も彼女が,彼女たちがここに来るんじゃないか,って思ってしまう。
俺はこんなにも彼女が好きなのに,彼女達のことも大切に思っているのに。
もしかして…こないだの船に乗った時の件で嫌われた…?
実際あの後一度も雪乃とはそれらしい会話をしていない。
どう伝えればいいのだろうか?どう伝えれば俺の気持ちは伝わるんだ?
そんな暗い考えばかりが脳を埋め尽くしていく。そんな中,電話が鳴る。開いてみると戸塚からだった。
「おう。戸塚か。どうした。」
泣きそうな声になるのを抑え,なるべく平然とした声で返事をする。
「八幡!今どこにいるの?」
少し焦った様子で戸塚が言う。
「どこって…学校から少し離れたところの海岸だ。」
「わかった!あのいつも釣りしてる人がいる砂浜かな?今からそっちに行っても良い?あ!パピコ買いたいんだけど何味がいい?」
「あー…そこであってる。あと買ってきてもらえるならホワイトサワーで。」
「わかった!今近くのコンビニ来たところだから5分くらいかかるかも!」
「おう。急がなくていいぞ。」
***
「お待たせ八幡!はい!」
「おう。戸塚。さんきゅ。」
二人で薄暗くなった海を眺めながらパピコを食べる。
「急にどうしたんだ?」
「いや,なんでもない。ただ,会いたいなーって。思っただけ。」
そういうと照れ臭そうに笑う戸塚。
「そうか。」
やっぱり戸塚は天使だ。
***
その後しばらく二人で進路について話したり雑談をしたりしていた。空はまだ明るいが海に来てから30分は経っていた。そろそろ夕飯の支度しなきゃだな。
「悪い。帰って夕飯作らなきゃなんだ。また今度遊びに行こうな。」
立ち上がって砂を落とし,自転車に向かう。
「あ,待って八幡!」
戸塚に声をかけられる。戸塚のケータイが鳴っている。
「良いのか?電話出なくて。」
「うん。大丈夫だと思う。あとご飯なんだけど,八幡のバイト先自分も行ってみたいんだ。そこで一緒に食べない?」
「わかった。小町に連絡する。」
「うん。」
「よし。行くか。」
「うん!案内お願いします!」
「ここからそんなに遠くないから安心しろ。」
「そうなんだ。楽しみ」
自転車を手で押しながらゆっくり歩く。徐々にそわそわし始める戸塚。
「まぁ。俺がシフトに入ってない時は店長の気まぐれで石のオンライン販売の仕事優先して早めに閉めてる時もあるから閉まってるかもしれないぞ?」
「大丈夫!今日はきっと開いてるから。」
「そ…そうか。」
そんな話をしていると到着した。本当だ。開いてる。
山尾さん目が合う。すぐそらされた。まぁいいや。
ドアを開く。
「こんちは。2人です
パァン!
たくさんのクラッカーが鳴らされる。
「「「「「「「「誕生日おめでとう!!」」」」」」」
後ろの戸塚を含め中にいた山尾さん,一色,小町,雪乃,結衣,川…崎,材木座から一斉に言われる。
「は?」
振り向き,戸塚に「状況説明を頼む」と目で訴える。
「あはは…あのね。雪ノ下さんからサプライズパーティーしたいから,どうにかして八幡をここに連れてきてって頼まれてたの。講義終わったあとすぐ居なくなっちゃったから凄く焦った。」
「そ…そうか」
何故か涙が出てくる。
「え?八幡大丈夫?ごめんね。誕生日おめでとうって本当はすぐに言いたかったんだけど驚かせたくて…」
そう言いながら戸塚に抱きしめられる。本当かっこ悪いな。
「あぁ。すまん。幸せだなぁって思っただけだ。」
「なら良かった!ほら,皆用意してくれてるから行こ?」
「あぁ。」
雪乃が心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
***
大量に用意されていた料理たちが片付いた。
「ぷれぜんとたーいむ!いぇーーい!」
小町と結衣が叫ぶ
「うるさい。夜は静かにしなさい。小町ちゃん。頭悪そうな喋り方しない。」
「ねぇさりげなくあたしディスってない?あ,私からあげてもいい?
はい!ヒッキー誕生日おめでとう!」
「さんきゅ。開けてもいいか?」
「うん!」
開けてみるとそこにはシンプルな黄緑色のエプロンがあった。
「ヒッキーよく料理するけどエプロンはつけてないって聞いたから…よかったら使って!」
「ありがとな。大切に使わせてもらう。」
「じゃあ次は私から…先輩。これどうぞ。」
「ありがとな。これは…化粧水?」
「最近は男の人でもちゃんと肌とか気にしてる人多いですからねー。これおすすめなんで使ってください。」
「ほう。小町。あとで使い方教えてくれ。」
「りょーかーい。あ,んじゃついでに次小町が渡しますねー。はいお兄ちゃん。」
「さんきゅ。スマホの充電器か。最近壊れたから欲しいって言ってたやつじゃねぇか。まじで助かる。」
「ふふーん。伊達に妹やってませんから」
「んじゃ。私から。おめでと。京華も世話になってるから…」
「お、ブックカバーとボールペンか。ブックカバーはもしかして手作りか?すげえクオリティだな。ありがたく使わせてもらうわ。しかもこのボールペン結構いいやつじゃねえか。すげー助かる。ありがとな。」
「う…うん。」
顔を真っ赤にして頷く川崎。
「我も渡していいか?八幡!泣いて喜べ!これが我からの誕生日祝い!我の新作のプロット達だぁ!」
そういうと材木座は大量の紙の束が入ったファイルをテーブルに置く。
「お…おぉ…お前受験勉強はいいのかよ。」
「そのフレーズを口にするでない。」
「ソ…ソウカ…ヒマナトキニヨマセテモラウワ…」
多分二度と手に取ることはなさそうだがとりあえずもらっておく。そろそろ持ちきれない。一旦テーブルに置くか。
「次は僕の番かな?八幡!誕生日おめでとう!受験終わったら遊びに行こうね!」
そう言って戸塚から渡されたのは有名なメーカーの靴だった。
「おお。これ良いやつじゃんか。本当に助かる。ありがとう。」
「次は俺から。お前さんにはちょっと早すぎるかもだが…」
「ありがとうございます。山尾さん。えっと…これは…ネクタイピンですか?」
渡された銀色のネクタイピンは二つのファセットカットされた石が嵌められており,一つは緑色,一つは薄いネオンブルーだった。
「そうだ。Pt950。嵌められている石はお前の誕生石のペリドットとパライバトルマリンだ。」
「ぱらいば…なに?」
「あれガラスじゃないんですね。なんかスワロフスキーか何かだと思ってましたわたし」
「小町にもそう見えます…」
結衣を含め多半数の頭にはてなマークが浮かぶ一方俺は冷や汗が止まらなくなる。
「お前ら何言ってんだ…これ本物の洒落にならないジュエリーだぞ…?」
「山尾さん…俺何ヶ月無給で働けばいいですか…?」
「大丈夫気にすんな。お前さんにはいつも世話になってる。それにそれもコネで安く買っただけだから」
「さ…そうですか…ありがとうございます……」
「最後に私かしら…?あんなすごい装飾品の後に渡すのは気が引けるわね…八幡。遅くなってしまってごめんなさい。どうしてもサプライズでお祝いしてみたかったの。誕生日。おめでとう。大好きよ。」
「ありがとな。俺も。大好きだ。」
渡されたのはブルーライトカットのメガネ。雪乃のものとお揃いらしい。
にしてもみんなからの視線が生暖かく感じる。振り返ってみると全員にやにやした笑みを浮かべている。結衣だけ少し拗ねている。
「ふぅーん。ほぉーん。"大好き"ねぇ。」
「八幡。我。いいもの見せてもらいましたぞ。爆発しやがれ。」
「ほんとに仲良いんだね。」
「お兄ちゃんも素直になってきたんだねぇー」
雪乃の方を見てみると凄く真っ赤になっている。
自分の言動も振り返ってみる。やっべ。恥ずかしくなってきた。
「お前ら。今あったことは忘れろ。今すぐ。頼む。お願いします。」
なんだかんだあったが人生で一番楽しい誕生日になったと思う。家に帰ってからもしばらくの間は広角が上がりっぱなしだった。
もらった物も全て明日から使わせてもらおう。