クロスライン   作:唐野葉子

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星を見つけた日 後

 

 

 僕の所有する転生特典は三つ。

 世界(ザ・ワールド)は転生者一般で評価するところのアタリ能力(ただし現在絶賛劣化中)。

 不慮の事故(エンカウンター)は転生者一般で評価するところのハズレ能力(ただし能力だけ見ればアタリと比べても最上級)。

 では三つ目、時間を操る程度の能力の転生者一般の評価は?

 実は東方Projectの能力は、アタリともハズレともつかない中途半端な位置にランクインしていたりする。

 いや、能力そのものは有能なものが多いんだ。ただし、原作で猛威を振るったあれらの能力は幻想郷という箱庭の中で使用という前提があった。非常識が常識に、常識が非常識になるという博麗大結界のバックアップを受けずに能力を使用するというのは、小聖杯の補助を受けずに英霊の必要魔力すべてを魔術師個人が補うことに等しい。

 まあつまり、とても使い勝手が悪いのだ。常識が常識であるこの世界から否定され続ける○○な程度の能力は発動させても小規模に劣化したり、あるいは十全に発動させた後で反動が来たりする。どこぞの正義の味方が使う固有時間制御のように世界から拒絶される。

 どんな欠陥が露呈するかは人それぞれで、僕の場合は能力行使の規模に比例した血液を失うことになる。吸血鬼のメイドの能力にふさわしい反動のようでけっこう好きだ。僕に限らず東方Projectの能力を使った時の代償は使用者のメンタリティーに深く起因していることが多い、らしい。伝聞で直接見たことないから詳しくは知らん。

 世界からの拒絶だろうがなんだろうがダメージである以上誰かに押し付けるだけだから、ほとんど他人事だしね。

「というわけで、退屈で稚拙で無意味で生産性皆無なバトルパートは省略してお送りいたしました。生きている限り無制限に使えると言っても結局のところ人生の時間は止めようが加速させようが有限だし、ね」

 パン、と能力使用の反動を押し付けられて真っ赤にはじける敵Jの前でへらへら笑いながら両手を広げる。ちなみにA~Iの敵は今の僕の限界である時間停止三十分の間に世界(ザ・ワールド)で発見次第タコ殴りにしているのでたぶん彼で最後だろう。

 彼らの名前も知らないし目的も知らない。興味がない。もしかしたら敵ですらなかったのかもしれない。原理は不明だが人払いが施された空間の中に僕と同年代の子供を含めた謎の集団がいたから転生者がらみと見て襲ってみただけだ。味方だったり無関係だったりしたことが判明した場合は素直に開き直ろう。

 そういえばむかし、道徳の時間に赤い実はじけたなんていう話を読んだな。原理は不明だが体に傷一つなく地に伏して血の池を自作する誰かさんから距離を取りながらそんなことを考える。特に何かにつながっているわけでもない雑念、思考を空転させるお遊びだ。

「ぐ、うう……いったい、なにが」

「安心しなよ。ちゃんと流れ星に救急車が来るようお願いしておくから」

 殺してはいない。三十分というのは今の僕が人が死なない代償の範囲で能力が使用できるぎりぎりのラインだから。

 人を殺すのは二十歳を超えてからと決めている。年齢を理由に十全に罪を裁かれないなんて、前世ある身では悪いことをしているみたいで気が引けるもの。目の前の誰かさんは転生者ではなさそうな大の大人で、体力もありそうだからきっと大丈夫。

 僕が倒したどれかに人払いをしていた能力者がいたようで人気も戻りつつあるしね。誰かが救急車を呼んでくれるだろう。

 男は諦め悪く腰から取り出したトランシーバーに向かって話しかけた。あの出血量で意識混濁どころかよく動けるものだ。もう少し時間停止を伸ばしてもよかったかな。

「く、応答しろ。誰かいないのか……まさか一瞬で全滅、だと……? この、化け物がっ!」

「おいおい、失礼なこと言うなよ。誰が最強で無敵で不死身で最高にCOOLな化け物だって? 僕は人間さ。ごく普通にトランプを武器にするただの平凡な人間だよ」

 目の前でトランプを一デッキ取り出して開封、華麗なシャッフルを決めてみせる。これをやりたいがためだけに何度指を傷だらけにしたことか。僕の指の傷を請け負った誰かさんのことを考えると今でも血と涙がにじんできそうだ。

 まあ実際、不慮の事故(エンカウンター)がある以上ごく普通の戦闘で(ダメージ)を受ける気がしないけど、だからといって無敵というわけでも不死身というわけでもない。

 原作ではもとから間違っている過負荷(マイナス)無効化(なかったことに)できないと言われていたけど、バトルもの少年漫画で最強や絶対ほど虚しい言葉は無いから過負荷(マイナス)を無効化できる能力が実は存在していてもおかしくないし、さらに言えば僕の持っているそれは原作(オリジナル)から真似(コピー)した劣化製品(レプリカ)だ。不慮の事故(エンカウンター)を封殺できる転生特典や能力がこの世界に存在するかもしれない。

 それに家族でさえ押し付けられた本家本元ならいざ知らず、純粋な座標や物体をダメージとして押し付けることがおぼつかない僕にとってダメージを与えない封印系スキルは相性が悪い。同じく宇宙空間に放り出されたり深海に沈められても詰む。百歩譲って人間の生存できない要素をすべてダメージとして何かに押し付けたところで、時間を操る程度の能力と世界(ザ・ワールド)で対処しきれない状況では「考えるのをやめた」ってことになるだろう。

 ズル(チート)ではあるが、対策の立てようがない攻略不可のバグキャラってわけじゃないのだ。

「トランプだと? まさか、きさまは……!」

「ふっ、僕の正体に気づいたようだね? だがもう遅い、スペードのA(エース)だ!」

 さて、ここで少し話をずらそう。

 異能バトルもののテンプレのひとつとして『特定の能力を持っているものじゃないと対処不可』というものがある。まあ言ってしまえば今まで平凡な日常を謳歌してきた特に修行もしていない主人公が敵と戦うことを強いられるための理由づけみたいなもんだ。

 他の誰でもなんとかできる問題なら警察や自衛隊などその道の専門家に頼めばいいだけの話なんだから。ATフィールドしかり、幽波紋(スタンド)しかり、たとえ素人であろうと異能使いでなければ役に立たない状況だから、素人が最前線に駆り出される。代用不可の悲劇といったところだね。

 それがその世界の中だけでとどまっているならいい。問題は二次創作のクロスオーバーなどで他の世界と交わったとき。当然ながら混ざり合ったその先には該当する異能なんて存在しなくて、代わりにその世界を支える何かしらが存在している。

 そのとき作者がとる選択は大きく分けて二つに分類されるだろう。すなわち、他能力でも代用可能にするか、能力限定の法則をそのまま推し進めるか、だ。

 僕はこの世界に転生したとき、何とはなしに前者だと思っていたんだ。幽波紋(スタンド)はきっと転生者全員に見えるし、転生特典なら干渉可能だろうと。じゃないと相手次第でワンサイドゲームになっちゃうからね。でも甘かった。神が不平等(ワンサイドゲーム)を気にかけるはずがなかったんだ。

 幽波紋(スタンド)幽波紋(スタンド)使いじゃないと見えないし、幽波紋(スタンド)でないと原則として干渉できない。この法則(ルール)はこの世界でも健在である。この世界の住人に世界(ザ・ワールド)は見えない。

 だから僕は嘘をつく。

54通りの運命(デッキオブフォーチュン)リンクス・クロスライン――うぼぁ!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄むゲホッ、ごほごほ」

 無駄無駄ラッシュを決めきれず咳き込んだことに首吊りたくなったがそれはさておき。

 ご察しの通り、裏社会で僕の異能はトランプを使った超能力と言い張っている。右目をスプーンで抉り出したくなるような気恥しい二つ名も自称してあるものだ。

 すべてはプロフィールの備考欄に「トランプを武器にするくらい二次元と三次元の区別もつかないバカ」と書いてほしいがために。

 本当に本気で騙そうとかはあんまり考えていないし期待していない。今まで敵対した相手の中には幽波紋(スタンド)使いもちゃんと存在していたし、トランプのくだりから不慮の事故(エンカウンター)を連想することも知識のある転生者なら容易だろう。だから裏社会の転生者たちには僕の能力の正体が世界(ザ・ワールド)不慮の事故(エンカウンター)複合発動(コンボ)に合わせてトランプをいじっているだけだとバレているはずだし、また、そうでなければならないのだ。

 過負荷(マイナス)幽波紋(スタンド)も隠すものではなくて誇るものであるのが基本姿勢。バレてもいいさを通り越して自分から情報を開示する不退転の姿勢が強さに繋がる、たぶん。何より、愛すべき原作から拝借した能力たちに対して隠蔽工作なんてあまりにも失礼という気もする。騙せないとわかっているからこそ安心して嘘がつけるというもの。

 え、伏せ札扱いの時間を操る程度の能力はどうなんだって? 隠蔽と伏せ札は別物に決まっているじゃないか。隠蔽は無粋と臆病の具現化だが、伏せ札はロマンだ。僕は伏せ札を擁していることに誇りを持っている。

 世界(ザ・ワールド)のラッシュが突き刺さった男は全身クレーターだらけになりながら吹き飛んだ。スペックダウンしているとはいえBランクも十分スゴイのだ。体をがりがりと削りながら道路をスライディングしていき電信柱に衝突。電信柱は地響きを立てながらへし折れる。死んだんじゃなかろうか。まあいいか。

 それにしても54通りの運命(デッキオブフォーチュン)に加えリンクス・クロスラインの名前も知っているってことはやっぱり裏の住人だったか。拳銃を持っていたとはいえ趣味で拳銃を所持している一般人がうっかり結界内に侵入しちゃったんじゃないかとちょっぴり思っていたから安心だ。

 にしてもクロスライン、ねぇ。

 なんか苗字っぽい扱いで定着しつつあるみたいだなあ。初めに僕をそう呼び始めたのはレイヴンだっけとZOOの情報収集の半分を担う男を思い出す。

 まだ二歳だけどあれは男と呼ぶべき存在だろう。園長から「あれは生まれてくる世界を間違えた」と言わしめた、過負荷(マイナス)である僕でさえ言われなかった評価を受けた男。純粋な戦闘能力は皆無なのに多くの人間を破滅に導き、きっと僕でさえ彼のテリトリーで戦うことになれば圧殺されるだろう怪物。

 相変わらず活躍しているようだ。僕の二つ名を広めてくれているようで何より。クロスラインという響きも好きだし、もし戸籍を習得する機会があればそのまま苗字にしてしまってもいいかもしれない。

 そんなことを考えながらなのはちゃんの待つ公園へと帰還するのであった。

 

 

「ほんとうに、お父さんの傷を治せるんだよね?」

「もちろん。約束するよ」

「……わかった。信じるよ。わたしはりんちゃんに誘拐される」

 それが高町なのはの出した結論だった。見苦しくあがいてみるもんだね。

 さて、こうなると問題は誘拐したなのはちゃんの監禁場所だ。二歳児の身の上でまっとうなホテルなど取れるわけもなく、ものぐさな僕が自分で管理しなければならない家など持っているはずがない。ついでに言うとまともな戸籍も持ってない。二歳ではあまり意味がないからだ。表では単独で動くことができない以上、その場その場で保護者役に合わせて簡単な身分を作成した方が効率的ということである。

 たいていは時間を操る程度の能力で捻じ曲げて生み出した空間の隙間に寝泊まり。気分が向けばダンボールや新聞紙を集めて橋の下で野宿。そんな生活が僕の日常だ。

 でもよそから預かる大切な御嬢さんをそんな環境に泊めることができるわけもなく。組織のセーフティーハウスのどれかを借りるか裏に通じるホテルを裏を通じて取るために四次元ポケットから携帯電話を取り出した僕に、ヒポーが慌てたように耳打ちしてくる。

「ちょっとリンクス、本気ですか?」

 ちなみに彼女は先ほどまでなのはちゃんと二人っきりで公園という不特定多数の他人が出入りする空間に放置されたことにとてもストレスを感じていたようで、僕の顔を見るなりほっと溜息をついていた。僕の顔を見てほっとできる人間はZOOでも数少ないのだけれど、そこら辺の異常性(アブノーマル)を彼女は理解しているのだろうか。

「本気って何が?」

「とぼけないでください。あなたに治癒系スキルはなかったはずです。あなたがいくら過負荷(マイナス)最低(マイナス)な人間だろうとも、原作主人公に悪意ある嘘なんかつけば主人公補正で消されますよ?」

「んー? まあ原作キャラなんて偉そうなやつら、転生者(ぼくら)(アンチ・ヘイト)されたところで文句は言えないんじゃない?」

 まあ冗談だけど、という意味を込めてにっごり笑うとヒポーの喉がひぐっと鳴った。あれ、ドン引きされた?

「冗談はさておき、僕らにはアルマジロ印のアレがあるじゃないか」

「冗談……? はっ、いえ、その、はい。冗談ですよね。ですよね? じゃなくて、アルマジロ印のアレって、アレのことですよね? そんなに量があるんですか?」

「クエスチョンマークばかりのセリフだなぁ。バカに見えるよ」

「誰のせいですかぁ!」

「一千万ほどつぎ込んでるし」

「スルーされたっ! ていうか多!?」

 今度はエクスクラメーションマーク乱舞。やっぱりバカに見える。まあ愚か者(バカ)は愛でるものというのが過負荷(マイナス)の持論であり、僕も個人的にヒポーが好きなので問題ない。

 無機質な呼び出し音が耳元で流れる。どうも好きに慣れないな、電話っていうのは。機会を通じた声はまるで聞き取れないし、そもそも顔を合わして誰かと会話することさえ苦痛なのに顔の見えない相手をそこに加えようだなんて正気の沙汰とは思えない。こんなだから文明社会の人間がダメになるんだ。

 ひとしきり騒ぎ終わった後、ヒポーはきりりとシリアスで真面目な表情になる。電話はまだ繋がらない。

「たしかにそれならいくら高町士郎でも完治させることができるでしょう。それでもヒポーは反対します。なぜなら――」

「高町士郎を意識不明の重体にしたのが僕だから、かな?」

「気づいていたんですか!?」

 なんで今更そんなに驚くんだろう。どこの世界に世間話の最中に父親を名前呼びする子供がいるというのだ。なのはちゃんもご多分に漏れずお父さんとしか呼んでいなかったのだから、僕が高町士郎の名前を出した時点で気づいてもよさそうなものなんだが。

「話しているうちに思い出したよ。この間のやけに実入りが多かった仕事のやつでしょう? 行ってみれば現場は転生者とテロリストと能力者がたむろしてて、最後には爆弾で爆発オチに終わったやつ。僕の傷を全部引き受けたのに息があった人外らしい人間だったから、珍しく記憶に残っていたんだ」

 あれは過負荷(マイナス)じゃなければトラウマ確実の戦闘力だった。忍者だとか暗殺者だとかそんなちゃちいもんじゃ断じてない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったね。爆弾を避けるときなんて時間に干渉しているような動きしていたし。あれが超能力でもなんでもなくただの歩法だなんて馬鹿げてる。転生者よりよっぽど規格外だ。

 ヒポーが沈痛そうな顔でなのはちゃんの方をちらりと確認した。電話するから離れといてと言った僕の言葉に素直に従い、離れたところでじっとこちらを見ているなのはちゃん。ヒポーがさっきから小声で騒ぐという器用な真似をやらかしているのでここまでの話の内容は聞こえていないはずだ。それでもなお確認せずにはいられない何かしらを今から聞くってことかな。

「あの……。本当に何も思わないのですか? 自分がつけた傷を自分で癒すことに、自分で半死半生にした男の娘を半ば騙すようにして誘拐することに、本当に心に感じることが一切ないのですか?」

「うーん、そうだなぁ……」

 あちらが真面目っぽいのでこちらもそれなりに真剣に考える。

 まず自分でつけた傷を自分で治すということ。これは別にあのとき請け負ったお仕事はあの場から高町士郎を生きて返すってことだったし、それはクリアしたから問題ないだろう。まさか自分で致命傷をつけるとは思わなかったなどとクレームが入ったが、ちゃんと死体同前とはいえ生かして返したんだから文句を言われる筋合いはない。

 なのはちゃんを騙すみたいな形になったってことも、僕は条件を提示しただけで選んだのはなのはちゃんだから、僕は従うだけである。

「マッチポンプって言葉の響きが暖房器具を連想させるよね」

 ヒポーは疲れたような、失望したような、納得したような、何より絶望したように穏やかな、複雑な感情が入り混じった顔をした。

「やっぱりヒポーには、あなたがわかりません」

 ちょうどそのタイミングで電話がつながったので、残念ながらその意味をヒポーに問いただすことはできなかった。

 




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