ダークファンタジー系海外小説の世界で人外に好かれる体質です   作:所羅門ヒトリモン

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#4 子守唄の記憶

 

 

 

 ──暖かな火が爆ぜている。

 

 煉瓦造りの暖炉の中。

 パチパチと音を立てて、火が薪を燃やしている。

 朧げに揺れる炎は部屋の中に影を作り、僕とママを照らしていた。

 

眠れ、眠れ、かわいい子

 

 オレンジ色の(あかり)

 小さな椅子に腰掛けながら、ママは僕を抱いて歌っていた。

 子守唄だった。

 人肌の熱を感じない冷たい腕に抱かれ、見上げながら映るのは、角の生えた異形の頭部。

 ……なのに、その歌声だけはどこまでも優しく、そして美しかった。

 

一夜、二夜、三夜とこえて

 真昼の花を咲かせましょう

 

 夜は暗く()()()のものが歩き回る。

 眠らない子どもは見つかって、連れ去られてしまうかもしれない。

 だから眠って、どんな夜も。

 明るい日の光の下で、花のように笑うおまえの顔を見たいから。

 

眠れ、眠れ、かわいい子

 

 静やかな夕暮れ。

 じきに日が沈む逢魔が時に、それは願いの歌だった。

 この世界の親が、幼い我が子に向けて愛を込めて願う子守の唄。

 

 ……僕は目を瞑り、じっと寝たフリをしながらそれを聞いていた。

 

 そして。

 

「ラズワルド。私の子。愛しい坊や」

 

 歌が終わり、日が地平線より落ちる頃。

 ママが僕を揺り籠に入れ、名残惜しげに離れながら、いつも決まって同じ言葉を呟くのも聞いていた。

 

「──()()失わない。奪わせない。()()()絶対に守るのだから」

 

 悲しみと怒り。

 喪失の絶望とその運命への怨嗟。

 それはいったい、誰を思い浮かべての言葉なのか。

 いつを振り返り、漏らす決意か。

 あるいは、()()()が混ざってそうなってしまったのか。

 

 正確なところは分からない。

 ただ、唯一確かだと言えるのは、この女性(ヒト)には愛しかないというコト。

 

 愛ゆえに憤り。

 愛ゆえに嘆いて。

 そして、愛ゆえに狂う。

 

 ……悲しい怪物だ。

 ともすれば、憐れみさえ覚える。

 

 ──しかし。

 

 玄関が閉まる刹那。

 閉じゆく扉から僅かに垣間見える()()後ろ姿に、僕は毎回、心底ムリだと思った。

 知識としてあらかじめ理解していても。

 紙と画面の向こう側とじゃ、あまりに現実感が違いすぎて。

 

 パキパキと、ポキポキと。

 ケタケタと、ズルズルと。

 

 月に照らされ、特徴的な音とともに顕れる悍ましきアレらから、必死に目を逸らした。

 

 ……いっそ原作のことなんか忘れ、何もかも無知でいられたら。

 本物のラズワルドと同じように、僕は来たるその日まで同じように彼女へ愛情を抱いたはずだ。

 

 たとえ薄氷の上の歪な幻想でも。

 夢はそれが続く限り幸せなもの。

 現実は辛くて厳しいコトの連続だ。

 叶うなら、誰だって夢の方がいいに決まっている。

 

 けれど。

 

(醒めない夢は無い。終わらない今日も。続かない明日さえ)

 

 時には死んで終了ではなく、生まれ変わるなんて数奇なコトが巻き起こることもある。

 

 ──ゆえに。

 

 この生活はやはり間違っている。

 僕は僕として。

 彼女は彼女として。

 お互いに。

 

 暖かな暖炉の前。

 柔らかな揺り籠の中で、僕はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

「特別なお祝いをしてあげる」

 

 誕生日の三日前だった。

 その日、いつものように寝不足な朝を迎えると、ママが唐突にそう言った。

 

「……特別なお祝い?」

「ええ。特別なお祝い」

 

 暖炉のそば。

 少し離れたテーブルで、雪兎*1の肉団子スープをひとり啜っている。

 ママはそんな僕の真向かいに座り、先ほど自らが締めた雪兎とはまた別の雪兎から、ブチブチと毛を毟っていた。

 

 昼か夜の分の下準備。

 白い綿毛が、瞬く間にテーブルへ積もっていく。

 つぶらな瞳が、まるで僕を見ているようだった。

 

「……」

「もうすぐラズワルドは誕生日でしょう?

 たしか年は──十歳。……そう。十歳。十歳よ。十歳になったら、特別なお祝いは絶対にしなくちゃね」

 

 毛を毟られ無残な姿になっていく雪兎と見つめ合いながら、丸く綺麗にこねられた肉団子を口に入れる。

 雪兎の肉は肉のくせに口の中でかき氷みたく溶けてしまうから、正直あまり肉を食っている気がしない。

 

 だが、こうして目の前で毟られていく様子を見ると、たとえ一欠片だって無駄にしてはならないと強く思えた。

 哀れな雪兎とは違い、僕はまだ生きてる。

 

 よってありがたくスープを啜った。

 

 ママは雪兎の目玉をくり抜いて食べた。

 

 そして再び毟り始める。

 ブチブチ、ブチブチ。

 

「……気持ちは嬉しいですけど、毎年言ってるように僕は別に何も無くても大丈夫ですよ?」

「ダメ。私はキミのお母さん。お母さんは我が子の成長を何より大事にする生き物だって、何度も教えたでしょう?」

 

 仕方のない子だ、と呟くママ。

 僕は曖昧な笑顔を浮かべ、スープを掬った。

 

 木彫りの人形。

 砂熊の毛皮コート。

 時には海猪の牙でできた首飾りなんてものもあっただろうか。

 

 これまで誕生日だからという度に色々な物をプレゼントされてきたが、そのどれもが『遺品』だと知っている僕は、率直に言って素直に喜べたことが一度もない。

 

 なので、僕の誕生日に毎回それは嬉しそうにはしゃぐママには申し訳なかったが、できるならお祝いなんて無くていいというのが本音だった。

 

(……それに)

 

 十歳の誕生日。

 それは僕にとって、自身のお祝いなどより遥かに大事なコトがやってくる日である。

 

 刻印騎士団は来ているのか。

 フェリシアと僕はきちんと会えるか。

 

 そういった諸々の気がかりを確認し、計画通り逃げる手筈を整えられるかチェックしなければならない。

 

 原作では、刻印騎士団は夜、二手に別れてここ常冬の山へと足を踏み入れる。

 山の東側と西側から、虱潰しのように白嶺の魔女を捜索するためだ。

 そうして、徐々に徐々に山を登って。

 一日目は運良く遭遇せずに済む。

 

 だが、この時一人の若き魔法使い。

 フェリシアが吹雪によって仲間とはぐれ、僕が住む家の近くまで来てしまう。

 

 人気の無い雪山に明かりの灯る人家。

 

 怪しくないはずはない。

 もしかすると、これが白嶺の魔女の棲家なのでは?

 フェリシアは確認のため、恐る恐る家の様子をうかがう。

 

 すると、窓から見えたのはひとりの子ども。

 黒髪と青い目のチェンジリング。

 フェリシアは白嶺の魔女の逸話を思い出し、さては攫われた子どもに違いないと正義感から声をかける。

 

 そして話をし、一緒に逃げるよう説得を始めるのだ。

 

(だけど、ラズワルドはそれを断る)

 

 見ず知らずの他人と、長く共に暮らした母親。

 少女の言葉に不信感と猜疑心を覚えるには十分でも、まさかと思う気持ちや信じたいという心が魔女を選ばせたからだ。

 

 フェリシアは歯噛みするも、次第に夜明けは近づき説得は間に合わない。

 

 仲間の元に戻り報告するため。

 また、自分一人では到底白嶺の魔女には勝てない事実を鑑み、そこで引き下がってしまう。

 最後にラズワルドへ自分と会ったコトを口止めして、絶対に助けるからと言い残して。

 

 ……だが、原作ラズワルドにとって、その口止めという行為がフェリシアへの不信をより高めた。

 

 はじめて出会った自分以外の人間。

 それも比較的歳が近く(フェリシアは十六歳)、同じ魔法を使えるともなれば、何とはなしに嬉しい気持ちが湧き上がった。

 

 しかし、愛する母を悪し様に言い、そのうえ会ったコトを誰にも言ってはならないと口止めするなんて、どう考えても心にやましい部分があるからとしか思えない。

 

 だから。

 

 その日は珍しく早めに帰ってきた母親に、すべてを話してしまった。

 

 少女と会ったコト。

 少女が自分たちと同じ魔法使いだったコト。

 聞かされた話は本当か。

 自分たちは実の親子じゃないのか。

 たとえそうなのだとしても、構わない。

 一緒に外の世界を見たい。

 

 魔女にとってそれが、絶対に叶えられぬ願いだと知ることもなく。

 

 ──ゆえに。

 

「……愛しい坊や。可哀想に、騙されているのね」

 

 怪物の愛は、そこで暴走した。

 これまで平穏だった家族の時を乱したモノ。

 愛する子に真実という名の楔を打ち込んで、我が手から逃そうとした悪魔たち。

 

 ──許せない。お前たちはいつだってそうして私の手から奪っていく。

 

 寂しいのはイヤなの。

 寒くて寒くて、()()()はずっと凍えてる。

 涙は枯れて、心に熱は灯らなくなって。

 この喪失を埋めないと、ぽっかり開いた穴がどんどん広がって止められなくなる。

 

 嗚呼──嗚呼……!

 

 愛しい坊や。かわいい子。夜を友とし魔を伴侶とする取り替え児。

 キミは構わないと言ってくれるのか。

 一緒に外の世界を見たいと。

 

 ──嬉しい。

 

 嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい。

 

 だけど、その願いは()()()()()には叶えられない。

 

 怪物は人の世に馴染めず。

 異形は日の光の下では嫌われる。

 人ならざる外れのモノは、境界を異にするがゆえ魔性と恐れられるのだ。

 

 だからこそ、自分たちの世界に罅を入れた存在が許せない。

 

 死ね。

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 

 ──死ね。

 

 お前たちもまた、この寒さに永劫囚われるがいい。

 

 と、そうして魔女の愛は昂って、フェリシアを含めた刻印騎士団すべてが殺されてしまうのだ。

 

 分かるだろうか。

 

 愛で応えても死。

 拒絶をしても死。

 

 結末は変わらない。

 どちらを選択しても、白嶺の魔女は必ず騎士団を全滅させる。

 

 ラズワルドは原作で言った。

 

「たとえ嘘でも別にいい。たしかに悲しいけど、ママはママだ」

 

 その結果、白嶺の魔女は「嬉しい。けれど私たちの世界に罅を入れた悪魔は殺す」と怒り狂った。

 

 これはつまり、ラズワルドが外の世界の存在を知るコト。

 たったそれだけのことで、あっさりとアウト判定が下されることを意味している。

 偽りの親子関係に破綻が生じる可能性。

 そういったものを、ママはとことん憎んでいる。狂してしまっている。

 

 だからこそ、一度でも悪魔と見なせばその瞬間からそうとしか認識しないし、それまでの記憶だって作り替えてしまう。

 

 原作ラズワルドと白嶺の魔女との間に横たわる深い溝は、皮肉にも彼女のその狂気が理由となって生まれてくる。

 

 悪魔を殺せば褒めて貰えると思うし。

 悪魔を殺したことで何故と問われても、それが一番だと思ったから以上に答える術を持たない。

 

 白嶺の魔女とはそういう化け物で、イカれている。

 

 原作ラズワルドは、そうしてようやく、目の前にいるのが自分とは決定的に違う生き物なのだと理解するのだ。

 

 母親に対してはじめて抱く恐怖。

 

 自分の中で爆発的に膨らんだその感情が、溢れ出るままにパニックになって。

 

 ……戦いは、終始逃げ惑うラズワルドを白嶺の魔女が追い縋るという形で進んだ。

 

 ラズワルドは恐怖と拒絶ゆえに攻撃を行いながら走り、白嶺の魔女は愛ゆえに逃げないでとその足を止めようとする。

 

(この時の絵面がまたひどいんだ……)

 

 思い出すのも怖いので詳細は省くが、要はママの変身した姿。

 化け物としての本性を露にした外見が、それはもう恐ろしくてたまらない。

 あんな姿で追いかけられたら、十歳の子どもじゃなくても十分に逃げ出したくなる。

 

 ……でも。

 

 冷静に考えれば十歳の子どもが走って、しかも混乱しながらハチャメチャに魔法を使って、それで自分よりも圧倒的に大きな怪物から逃げられるはずはない。

 

 小説やドラマ版では、凄まじい恐怖演出と怒涛の一人称視点で一度見ただけでは分からなかったけれど。

 

 後になってから、あれ? と気づいた。

 

 白嶺の魔女はラズワルドを一切攻撃しておらず、ただ逃げるラズワルドを捕まえようとしているだけだったと。

 移動による余波や、泣き叫ぶ声の振動で木が薙ぎ倒されたり、岩を投げつけ進行方向を塞ぐなどそういった派手な行為で分かりにくくされていたが。

 

 どのシーンを振り返っても。

 どのページを捲り返しても。

 

 彼女がラズワルドに傷を負わそうとしていた箇所は一度もない。

 

 最後の雪崩の場面だって、ラズワルドはがむしゃらになって走って橋の上を渡ろうとしていた。

 背後には本性を晒した母親。

 そして、一連の騒ぎによって発生した雪崩。

 

 母親はともかくとして、雪崩は谷を越えて逃げ切らなければマズイという状況下だ。

 

 ラズワルドは一か八かで、今にも崩れ落ちてしまいそうな橋を全力疾走する。

 橋は一歩踏み込んだだけで大きく揺れて、ところによってはそのまま板が抜け落ちる箇所さえあった。

 走り、転び、落ちそうになって、また走り。

 

 ──こんな橋、もしも二人以上乗ったら、それだけでロープがちぎれて谷底に落ちてしまうんじゃ……?

 

 ラズワルドは迫り来る母親を意識して、必死に橋を渡る。

 

 そして、橋の真ん中を超えて後半。

 またも転びかけたところで、たまたま、一瞬だけ背後を目にするのだ。

 

 あともう少しで橋に到着しそうな母親が、わずかにその速度を緩めたような違和感を。

 

 しかし、焦っていたラズワルドはそれを気にする余裕がなく、橋を渡りきるまでついには振り返ることができなかった。

 

 そして。

 

 最後にもう一度、今度はたしかに振り返ると。

 母は雪崩に呑み込まれ、谷底へと落ちた後だった。

 

 ──こうして、シーズン1はスタッフロールが始まりラストの予告編を迎えて、終わりとなる。

 

 

「……………………」

 

 

 スープを掬う手が止まった。

 

 

「ラズワルド?」

 

 

 女性の、透き通るような、優しい声がする。

 

 

「どうしたの? お腹でも痛くなった?」

 

 

 心配する声。

 突然黙り込んだこちらを、化け物が覗き込むように見ていた。

 

 

「────────────────いえ、なんでもないです」

 

 瞬間、揺らぎかけた意識をなんとか繋ぎ止めることに成功する。

 

「ほんと? 無理はしちゃダメよ?」

「はい。大丈夫、ちょっとお腹いっぱいになって、眠たくなっただけですから」

「……もう。いつもと変わらない味でしょうに、そんなに美味しかった?」

「ママは料理上手だから」

「まぁ。嬉しい。これはいよいよ、特別なお祝いに力を入れなきゃいけないと」

 

 ふんすっ、と力こぶを作ってみせて、上機嫌に笑う白嶺の魔女。

 僕は気を抜くと崩れそうになる笑顔に最後の力を注ぎ、どうにか上辺を取り繕った。

 

 残すところは今日を入れてあと三日。

 

 それくらい、十年に比べればほんの瞬きのような時間に過ぎない。

 三日だ。たったの七十二時間後だ。なんて短い。

 その日が来れば、僕はフェリシアの手を取り刻印騎士団だって引き返させる。

 

 勝負はママが誰とも遭遇しない一日目。

 

 そこを逃せば、騎士団もフェリシアも、僕もママさえ、この常冬の山に沈むことになる。

 ……少なくとも、その可能性がどうしたって生まれてきてしまう。

 

 僕は原作をなぞらない。なぞりたくない。

 でも、人生の岐路で、何が正解でどの選択肢を取ればいいのか。

 そんなこと、自信を持って断言できたことは、前世を含めてだって一度もない。

 

 僕は臆病で、根が小心者なザコだ。

 

 このCOG(モノガタリ)がいっそ、最強無双系主人公のチートラノベだったらどれだけ良かっただろう。

 

 もしかしたら、刻印騎士団が来るのを待たずに、さっさと自分一人で半べそかきながら、ヒィヒィ言って逃げ出しておけばその方が遥かにマシだったのかもしれない。

 

 だがそれはできなかった。

 

 僕は『ラズワルド』で、チェンジリングだから。

 

 きっと一人で山を下ろうとすれば、今度は他の化け物に見つかって、そして……終わりだ。

 どうすることもできずに、そこで終わるに違いない。

 

 だからこれまで待ち続けた。

 だからこれまで言い聞かせた。

 

 ……それを、最後まで貫き通せばいいだけ。

 

 簡単な話だ。

 魔法を使う必要もない。

 貼り付け続けた笑顔と、ひた隠しにするこの()()だけは、きっとどんな魔法にも勝る。

 

 子守唄は英語でlullaby(ララバイ)──。

 

 その語源は、一説によるとヘブライ語で『悪魔よ。去れ(Lilith - abei)!』という言葉から来たのではないかと言われるそうだ。

 

(前世の豆知識も、バカにはできないよね……)

 

 その願いを叶えられるか、僕の頑張り次第だという点がなかなかに笑えない冗談だが。

 

 

 

 

 

 

*1
ひんやりとした新雪のような毛皮を持つ兎。COG世界の寒冷地にはたくさんいるため、北の方ではよく食用にされがちな動物。肉は舌の上で雪のように溶ける。


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