【リブート前】ダークファンタジー系海外小説の世界で人外に好かれる体質です   作:所羅門ヒトリモン

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#75 敵の正体

 

 

 

 ──敵の推測はついた。

 

 城塞都市リンデン、伝説の吸血鬼に脅かされた街。

 正体不明の透明野郎は、チェンジリングである僕よりも何らかの企みを優先する気狂いで、その異常性から、明らかにバケモノとしてのルールから逸脱している。

 

 どれくらいおかしいかと言えば、ベアトリクスが僕を攻撃するくらい。

 

 つまり、そんなのはまったくもって有り得ない。

 

 殺された司教。狙われる元大看板。

 

 推測される目的は、リンデンを再び脅威に晒すコトだろう。

 どういう計画なのかは正直まだ分からないが、どちらにせよ、リンデンはすでに巻き込まれている。

 

 その理由は……鯨飲濁流が過去、この都市(まち)で大きな爪痕を残したからに違いないと見ていいはずだ。

 

 ──キーワードは、三つ。

 

 リンデン。

 鯨飲濁流。

 気狂い。

 

 順に追って糸を手繰っていけば、どれだけ靄がかった記憶でも次第に澄み渡る。

 それに、状況証拠もここまで揃ってくれれば、少しくらい裏の世界に通じたヤツなら誰でも真実に気がつけるだろう。

 

 ──問題があるとすれば、それはひとつだけ。

 

 

「つまり、ラズワルド君はこう言うんですか?

 敵の正体は鯨飲濁流の信奉者で、複数の大魔……?」

 

「正確には、あの吸血鬼の悪心に感化されてしまった連中ですね。一概に信奉とは言えない。

 ……あちら側の住人は良くも悪くも自分に正直(・・)ですけど、それは精神(こころ)の在り様がダイレクトに外側へ表れているからです。

 精神、肉体、魂、命の三要素。

 人から転じた魔の例を挙げれば分かりやすいと思いますが、彼らは心の在り方が人ではなくなったから魔性へ転じた。

 ──なら、逆説的に、魔性とは心の生き物だとも言えなくもない」

 

「そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と?」

 

「もちろん、本来なら有り得ないコトです。

 強すぎる想い。強すぎる祈り。強すぎる欲や、強すぎるショック。

 そういったものが綯い交ぜに、あるいは極限まで突き抜けた先にあるものが魔物と言えるなら──彼らにとって、『他』から与えられる影響など皆無でしかない。

 彼らからすれば、それほどに、自己の根幹がハッキリしているからです。けれど──」

 

「……そんな魔物の心であっても、ときに変容してしまうほどの影響を受ける場合があると。でも、どうやってですか?」

 

「それは……分かりません。

 鯨飲濁流が意図的にそれを行ったのか、あるいは偶然にそうなってしまったのか。

 何にせよ、敵は魔性としてのルールから逸脱するまでに、自己の根幹がグチャグチャに捻じ曲げられています」

 

「……すみませんが、信じられません。こんなの、どう聞いたってバカげてます……ああっ、団長になんて報告すれば!?」

 

「でも、事実ですよ。それに僕は噂も聞いてる」

 

「噂?」

 

「あ、あー……魔法使いのおふたり? 何やら仲良く分かった風に話を進めているところ申し訳ないんだが、結局、オレを襲ったヤツの正体は分かったってコトでいいのか……?」

 

「はい。分かりやすく言えば、鯨飲濁流と似たようなヤツらです」

 

「──はぁ? おい、ウソだろ! オレはそんな連中に狙われてんのかよ!」

 

 

 シルバーはそこで「神よ!」と天を仰いだ。

 ルカさんはそんな彼を横目に頭を抱えながら、部屋の中を右往左往し始めた。

 どうやらふたりとも、僕の話を受け入れるのがかなり難しいらしい。

 それも無理はない。かくいう僕ですら、原作の知識がなければにわかには信じられなかっただろう。

 しかも、問題はここからさらに厄介な話に変わっていく。

 

 

()()()、五体。最低でも五体の大魔が、鯨飲濁流の悪影響を受けたそうです」

 

「おい、五体も……?」

 

「はい。ただ、僕はその内の二体しか正体を知りません。残りの三体については情報がほとんどゼロに近いですから、語れるのは二体だけです。

 ……なので現状、シルバーさんを狙ったのがこの二体でなかったら、僕らは前情報無しに戦うコトになります」

 

「……二体、ですか」

 

「はい」

 

 

 理由は簡単に言うと、残りの三体は物語に絡むことなく、単に裏側で灑掃機構()()によって滅されたとだけ語られるからだ。

 COGでは鯨飲濁流は何シーズンにもわたって主人公に立ち塞がるし、その側近とも呼べる、とりわけ鯨飲濁流への忠誠心が強いモノしか、密接には絡んで来なかった。

 だから、僕が知っているのは二体の敵の名前と、その背景である。

 

 

失楽(しつらく)(かんなぎ)、鉄鎖流動」

 

「それは、まさか……?」

 

「言うまでもなく、二つ名です。

 人類より彼らへ贈られる最上級の畏怖の証であり、また、ヤツらが人界にそれなりの被害をもたらした証拠でもある。

 まぁ、鯨飲濁流や白嶺の魔女に比べれば、知名度はいささか下がるでしょうが」

 

「……うぅ、私はどっちも知りません。あとで調べないと……ちなみに、種族はなんです?」

 

「エルフと人狼です。既存の枠に当て嵌めようとするならですが」

 

「どうでもいい! なぁ、騎士さんよ。それでオレはどうしてりゃいい?

 エルフでも人狼でも他の何だってでもいいが、狙われてんのはオレだけなのか? なんだか今の話ぶりだとオレ以外……っつうか、この街にいる人間はみんなヤバそうに聞こえたんだが……逃げた方がいいのか? おい、どうなんだ? オレには妻がいる!」

 

「落ち着いて! 落ち着いてください、シルバーさん!」

 

 

 動揺するシルバーがルカさんに詰め寄った。

 元大看板の秘宝匠とはいえ、シルバーは一般人の域を出ない人間だ。

 自分が二つ名持ちのバケモノに狙われていると聞いて、そうそう落ち着いていられるはずがない。

 ルカさんは自分も動揺しているのに、僕の前だからか、必死に冷静さを保とうとしているのが顔から伝わった。

 

 しかし、

 

 

「ルカさん。すいませんが、今日のところは刻印騎士団の仕事はこれで終わりでいいでしょうか。

 ()の目星がついた以上、僕としても少しだけ準備をしたいです。日暮れ頃までには宿に戻ります」

 

「ラ、ラズワルド君? で、でも、まだ本当にアレがそうだと決まったワケじゃ……」

 

「もちろん、そうかもしれません。

 でも、チェンジリングである僕を一晩以上も放置してる。これは確信です。

 もちろん、今後も調査は必要でしょう。あの透明野郎が何時どうやってこの街に侵入していたのか──現状の警戒態勢じゃどこも穴だらけでしょうが──調べないワケにはいかない。

 必要なら血気盛んな自警団でも何でも使って、総動員で聞き込みをすればいい。

 ……けど、それは僕以外でもできる」

 

 

 ルカさんには悪いが、すでに僕の中ではほとんど決意が固まっていた。

 いましがた、シルバーがエルフでも人狼でも何だっていいと口にしていたばかりだが、僕自身も同意見である。

 

 鯨飲濁流──悪辣なる悪鬼。

 

 忘れるはずがない。

 なにせ、この世界で僕が初めて明確な殺意を持って接した()だ。

 

(アイツはベアトリクスを貶した。嘲笑った)

 

 その一点を以って、ヤツとヤツに連なる係累はすべてが殺意の対象になり得る。

 第一、今現在の僕の夢を叶えるためには、鯨飲濁流の影はどうあっても相容れない。

 同じ闇でも、夜の暗闇と夜明け前のソレとは違うのだ。

 この世には、たとえどうあっても許し得ない言語道断の敵がいる。

 寄り添えるモノとそうでないモノとが……

 

 だから、

 

 

「失楽の覡と鉄鎖流動を相手にするには、それぞれ準備が必要です。

 伝承では、森の貴婦人エルフは生まれた時からトレントとの共生関係にあり、まさに()()()()()()()()生涯を伴にする。

 だけど、失楽の覡には伴侶であるはずのトレントが存在しない」

 

 

 樹木としての特性から逃れられないトレントには、所詮どう霊格を高めたところで炎に弱いという見た目通りの弱点がある。

 

 火災や落雷は森にとっての不倶戴天。

 

 では、一方で、そんなトレントと生涯を伴にするというエルフ。清澄な水と神聖な空気を尊ぶ森の貴婦人たちには……これといった弱点が実は無い。

 

 彼女たちが命を落とすのは、伴侶であるトレントが死んだときだけで、エルフ単体としては魔法も物理的攻撃も何を仕掛けようとも、たちまちのうちに復活・蘇生してしまう。

 

 なぜか?

 

 それは深層貴種(ハイ・ダーク)──魔の源流に近いとされる太古からの種族を指してそう呼ぶのだが──これに分類される種族、系譜は、多かれ少なかれ……運命力を操る。

 平たく言えば……事象・因果律への特権を持っているからだ。

 

 たとえば、

 

(水や空気中に含まれていた微細なゴミを完全に排除したり、山火事を引き起こすはずだった落雷を、無かったコトに変えたり)

 

 そういう、時の流れの変化に逆らうコトも可能にしてしまう原始の特権。

 本来は不可逆のはずの運命を、強引に捻じ曲げ道理を通してしまえるチカラ。

 これは魔法と違い、本人の理解力や想念は関係ない。

 古の“魔”が当然のように所持し、また、当然のように行使していた世界に対する強権だ。

 

 エルフはそのルーツを『森』に持ち、森は古来より世界各地で神隠し伝承、帰らずの逸話を残す異界でもあるため、要はそれだけ源流に近いのだろう。

 

 ──魔法とは、古の力ある呪文を唱えて使われるもの。じゃあ、その呪文の基礎を作ったモノ、力をこめたのは、いったいどんなヤツなの? というお話である。

 

 まぁ、それはさておき……

 

 

「唯一の弱点と呼べるトレントがいないのに、なおも生き続けているエルフ。

 ……これをどうにかするには、相当な封印が必要になります。僕の仲間が知ってればいいんですが……」

 

 

 倒すのが無理なら、どこかに閉じ込めて隔離するしかない。

 古今東西、物語に出てくる魔物退治のセオリーに従えば、選択肢はやはりこれだけだ。

 原作でも倒す方法が見つからず、ウッドペッカー……魔除けのスペシャリストによる大封印で対処に当たっていた。

 あいにく、いまの僕には完全な無い物ねだりになってしまうが。

 

 

「失楽の覡は、かつて都市呑みと呼ばれたトレントの伴侶でした。

 ですが、記憶に新しいように、都市呑みは鯨飲濁流によって喰われ、その霊格ごと取り込まれてしまっていた。

 ……分かりますか? 偉大なる大樹は、悪鬼のカラダを構成する一要素として、この世に留まり続けていた。僕のフェリシアがそうだったように」

 

 

 あの吸血鬼に喰われたモノは、形はどうあれ、この世から完全に消え去っていたワケではなかった。

 それは、鯨飲濁流が食べるコトを生きるコトと捉え、自らを満たされる存在へ作り替えたいと救えない願望を抱いていたからでもあるが、

 

 

「“変身(メタモルポセス)森神(シルウァヌス)

 城塞都市リンデンの三つの聖壁、黒鉄と白鉄の二層を破壊した大魔法。天を覆う紅蓮の大晩餐会。

 ──アレは、ところどころ変貌していたとはいえ、間違いなく都市呑みの姿を模したものでしょう。

 そこから導き出される結論は、()()()()です」

 

「まさか……!」

 

 

 ハッとするルカさんは、さすがに察しがいい。

 頼りなさげな性格をしているが、刻印騎士団として働いてきた時間は伊達ではないのだろう。

 困惑げに立ち尽くすシルバーと違って、僕の言わんとしているコトがおおよそ分かっている。

 

 トレントの死亡と同時に死ぬはずのエルフ。

 しかし、失楽の伴侶である都市呑みは鯨飲濁流によって取り込まれ、そこでイレギュラーが発生した。

 

 都市呑みの魂が、都市呑みのままに鯨飲濁流のモノへ置き変わったのだ。

 

 以降、失楽の覡は鯨飲濁流を自らの伴侶と誤認し、けれど、都市呑み自体は間違いなく死んでいるから、自らを縛るエルフとしての理からいつまでも弾き出されてしまった。

 

 たとえ鯨飲濁流が死んだところで、その逸脱は終わらない。

 

 もう、そういう別種のイキモノとして、存在が変異しているからだ。

 

 

「自らの伴侶を喰い殺したはずの怨敵を、なぜか伴侶と誤認している己への疑問と矛盾。

 自分が生きているならば、愛する彼もまだ生きているのでは?

 でも、鯨飲濁流はどう考えても似ても似つかない。

 ──失楽の覡は、だからこそ狂気の沼へ堕ちた」

 

 

 愛憎反転ならぬ、愛憎旁魄(あいぞうほうはく)

 僕が知っているのは、そういうどこまでも救われない女の嘆きと怒りの螺旋である。

 そして、

 

 

「鉄鎖流動……こちらに関しては、失楽の覡より凄まじく単純です。

 鯨飲濁流に憧れ、鯨飲濁流のようになりたいと振る舞い、鯨飲濁流の後継を自称する巨漢の狼憑き。

 人狼という本来は言葉も解さないはずの畜生の身でありながら、鯨飲濁流という悪光に触れてしまったせいで、強固な自我を獲得──いや、正確には()()()()()()()()()元混血児」

 

 

 鉄鎖流動という二つ名も、ヤツが鯨飲濁流を意識するあまり、似たような魔法を使うコトから与えられた由縁を持つ。

 引きちぎられた鉄枷や鉄鎖を、ジャラジャラとカラダからぶら下げ、とてつもない速度で移動するのも一因だ。

 

(……コイツについては、正直、早めにどうにかしておきたい)

 

 元混血児というバックボーンを持つ大魔など、これから先、培養混血児たちが生きていくにあたってかなりの障碍になり得る。

 

 だが……

 

 

「鉄鎖流動はたしかに人狼ですが、人狼に通じる三つの弱点……火、毒、太陽光の内、毒と太陽光は効かないそうです」

 

「くっ……それもやはり、変異しているからですか」

 

「はい」

 

 

 月齢や月光に呼応し、満月の夜に最も活性化する人狼は、太陽の光を浴びると著しく行動が鈍化する。

 

 よく銀のナイフや弾丸を使って退治できるイメージが持たれているが、COGでは銀を使っても人狼は倒せない。

 

 一番手軽で効果的なのは、狼殺し(ウルフスベイン)……トリカブトから採れる毒を使うコトだ。

 

 人狼に遭遇したときに、わざわざ陽の光のもとに引きずり出すため朝まで耐え凌ぐよりも、あらかじめ準備しておいた毒で攻撃した方が、遥かに生存率は跳ね上がる。

 

 あとは……滅多に手に入らないが、陽光を蓄えた雲上の石だとか、そういう貴重な鉱物を目の前で砕いてやるのもある程度効果的と言えるだろう。

 陽光が溢れ出るので、使い所をうまく見極めれば優位に立てる可能性が高い。

 

 ……とはいえ、現実的な入手方法を考えると、やっぱりトリカブトが一番いいが。

 

 火を使った戦いは最もオススメできない。

 

 火は単純に扱いが難しいというのもあるが、人狼は人間の(かわごろも)を被り、その人間に化ける能力を持っている。

 皮はいくつも重ね着が可能で、脱ぎ捨てるコトで身代わりを立てる姑息な一面もあるからだ。

 

 油をひっかけ火で燃やしたとしても、燃えているのは人狼が脱ぎ捨てた裘一枚で、本体は無事。そういう場合が、複数回続く。

 その度に、すでに死んでいるはずの裘が、胸を掻き毟るような苦鳴の叫びを上げるのだ。

 

 マトモな人間なら、三回で精神が罪悪感に崩れ落ちる。

 

 ──が、

 

 

「鉄鎖流動は元混血児……つまりは、人から転じた魔。

 もともと混血児と狼憑きは混同されやすい別物ですが、コイツの場合は人狼の混血児というややこしいケースで、もとは人間でした。

 ──人狼の大魔に成ったのは、鯨飲濁流と出会ってからの変身願望が原因。

 だから、純粋な人狼としての弱点は端から存在していません」

 

 

 火は唯一のウィークポイント。

 もっとも、これは大抵のモノにとって共通している当たり前の常識だが。

 

 原作では幾度もの失敗を重ね、八百人もの帝国兵がその命を賭して罠にかけるコトで、ようやく身動きを封じ……最後は東の皇帝──『断頭台』のケルサスによって討ち滅ぼされる。

 

 もちろん、そこには原作ラズワルドの協力もあった。

 

 しかし……

 

(あれは薄氷の上の勝利。たった一体の大魔を殺すため、八百人もの人間がその命を落とした血みどろの()()だった)

 

 今現在の僕にそれだけの戦力と罠を用意していられる時間はない。

 

 

「動きを止め、トドメを刺す方法を考える必要があります」

 

 

 ヴェリタスの叡智、リュディガーの魔術知識、いま一番欲しいのはそれだ。

 ベアトリクスを呼び出せば、戦力としては最も安心できる。

 だが、そうなればリンデンとの交渉は難航を極めるだろう。

 アムニブス・イラ・グラディウスに示した僕自身の強さも……落胆は免れない。

 

 ──結局はバケモノに左右されるのかと。

 

 人が人として自らの運命を切り開かなければ、いつまで経っても世界は変えられない。

 僕には責務がある。大言壮語を吐いたなら、それに見合う結果を支払わなければ。

 

 

「仲間たちと連絡を取りたい。いったん外に出るので、日暮れ頃にまたあの宿で会いましょう。宰相からの誘いには必ず応じます」

 

「ラ、ラズワルド君ッ、ちょっと!」

 

 

 名前を呼ぶルカさんを背に、僕は淡いの異界を潜り、まずは瓦礫街の外へ飛び出た。

 

 幽界狼の獣神や異形ミイラを思い出すため、緊急時でもなければ淡いの異界を使ったショートカットは極力避けているのだが、こうなれば四の五の言っていられる場合じゃない。

 

(相変わらず「ウェッ」て感じの気持ち悪さだけは我慢ならないけど)

 

 ムカムカする胃のせり上がりを深呼吸することで宥めすかしつつ、僕は目を瞑り裡側へと集中する。

 魔法使いと使い魔は一心同体。

 ベアトリクスたちが待機している渓谷からリンデンまでは、ざっと数えて三日の距離。

 それだけ離れていても、心は絶えず繋がっている。

 両者か意識して思念を伝えようとすれば、それは数瞬の間もなく相手の元へ届くのだ。

 

(……さすがに、僕の腕だけで三日分の距離はスキップできない。ベアトリクスを呼んで、一緒に渓谷まで飛んでもらわないと……)

 

 僕が使い魔へ思念を伝達しようとした時だった。

 

 

「……」

 

 

 目の前に、空間の揺らぎが生じた。

 波紋のように波打ち、錯覚のように(たわ)む。

 もちろん、原因は分かっている。

 たったいま自分で潜って来たのだから、淡いの異界を使ったショートカットなのは明白だ。

 

 ──思わず、手が杖へと伸びる。

 

 

「え?」

 

 

 だが、その心配は一瞬の杞憂だった。

 淡いの異界を潜り抜けて来たのは、五人の影。

 

 

 

「やった、成功ですね!」

「なんだか変な感覚だ……」

「異界酔いですか?」

「すごい」

「あははははっ」

 

「──ネイト、アノス、クゥナにミレイにヨルン……?」

 

「「「「「御子様!?」」」」」

 

 

 培養混血児たちが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

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