Persona Another S.E.E.S   作:あおい安室

1 / 6
個人的な話なのですが、ハーメルンを始めるきっかけになった作者さんがいました。
これはその方との話し合いで生まれたネタを転用した作品です。その方が見ていてくれたらいいなぁ……


始まりの夜

 S.E.E.S、という組織を知っていますか? 『Special Extracurricular Execute Sector』の略称であり、意味は特別課外活動部。私立月光館学園に存在していたその組織は、適性がある者だけが感じ取れる隠された時間『影時間』の調査を行い、それを解決した少年少女のチーム。

 

 そんなS.E.E.Sが、もう一つ存在していた、というのが今夜から私が語る物語。

 

 舞台となったのは日本のとある街、『朝日市』。私立月光館学園がある東京都巌戸台港区からは遠く離れたその街に、一人の少年が転校してきたことから物語は始まる。

 

 

 

 4月 / 早朝 / 朝日市

 

 

 

 父親が転勤することになった。私がそれを聞かされたのは三月の終わり頃で、あまりにも突然のことで正直驚いた。幼い頃の事故で母親を失った私をたった一人で育て上げた父親はそれを申し訳なさそうに告げると、私に一つの資料を渡した。それは『市立朝日高校』のパンフレットだった。

 

 曰く、転勤先の都合で私を連れていくことは出来ない。そのため朝日市という街に住んでいる古い友人に頼み込んでそちらで預かってもらうことになった、と。この朝日高校という学校は私の転校先で通うことになる学校であった。父親は「急な話で申し訳ない」と頭を下げる。

 

「気にしないでくれ、父さん。この朝日市は──実に興味深い」

 

 実に興味深い。それが彼の口癖である。生まれた頃から何にでも興味を持ち、運動神経と成績共に優秀とまではいかないがそれなりにいいレベルにある好奇心旺盛な高校生。

 

 彼の名前は、無門誠──カドナシ マコト。

 

 

 

 4月、桜舞い散る春の日。準備を急ぎに急いだが無門が朝日市を訪れた日は4月8日の早朝であった。そんな彼はタクシーに揺られながら高校へと向かっている。

 

「本当に申し訳ない。見たところ高齢のようですが、早朝での運転となるとキツイのでは?」

 

「いやあ、そんなことはありませんよ。10年前程のこの街は本当に田舎でしたから。私も畑仕事のために早朝から起きていたものです。このくらいどうということはありませんよ」

 

「噂通りかつては田舎だったとは……実に興味深い。テレビで急速に発展を遂げた「朝日市」の噂を聞いていたのです。こうして訪れる日を楽しみにしていました」

 

「ほほう、それはそれは嬉しいお言葉ですな」

 

 タクシーがビルを曲がって店や企業が立ち並ぶ大通りへ向かう。早朝ながらもまばらに人や車の動きが見えるこの街は準都会と言ってもいいだろう。

 

「市の中心部であるこの辺りは結構な都会ですが、外れの方に行きますと田舎らしい光景が広がっております。興味があるのであれば是非是非訪れてみてください」

 

「そうさせてもらいます。しかしここまで発展しているとは……市長の手腕は素晴らしいですな」

 

 朝日市市長、『朝日進』。町にたった一つの建設会社の支店長であった彼は市長に当選すると、建設会社時代の伝手を生かして様々な施設を誘致しつつ地元の商店街への支援を惜しまなかったりと、様々な方策を打ち立てて10年でただの小さな田舎であった朝日市をここまで育て上げたその手腕は間違いなく伝説的な物であり──父の古い友人とは、彼のことであった。

 

「さて、着きました。ここが朝日高校ですが……少々早すぎたのでは?」

 

「転校生だから色々と手続きがあるのさ。早めに来るに越したことはない」

 

「なるほどなるほど。では、いい高校生活を」

 

 タクシー運転手に別れを告げると無門は校門の前に立って朝日に照らされた校舎を見上げる。近代化しつつ街並みの中、この高校は時間の流れに取り残されたかのようにどこか古ぼけていた。

 

「オンボロ校舎だろ、この高校」

 

 声をかけられて振り向くと、学校指定の学ランの首元を大きくはだけてシルバーのチェーンネックレスを身に着けた少年が立っていた。背丈は同じくらいであることから同級生と推測した、が。

 

「なるほど──これが噂の転校初日に絡んでくる不良! 実に興味深い!」

 

「あ?」

 

「髪型もボサボサ、目つきは鋭く制服はちゃんと着ていない! その上大抵の学校で禁止されている装飾品着用とまさに不良! 休み時間には校舎裏に呼び出したりするのかい!?」

 

「お前漫画の読みすぎだろ」

 

 バシン、と頭を軽くたたく少年。それでも目を輝かせている無門に少年は呆れたように笑った。

 

「……お前、面白いやつだな。名前は」

 

「無門。無門誠だ。苗字が独特だから大抵ムモン君と呼ばれてそれがあだ名になる。今日からここの二年生になる転校生だ。いい友人になってくれると助かる、不良くん」

 

「あー……噂の転校生は珍しい名前のタイプか。後俺の名前は不良じゃねぇ。ここの二年生、月村守、マモちゃんって呼びな。自転車置いてきたら職員室まで案内してやるよ」

 

「ありがたい、マモちゃん」

 

「冗談で言ったのに本気で呼びやがった! 守でいい守で! 今時ちゃん付けで呼ばれたがる男がいるかっての!」

 

 そうなのか? 実に興味深い。首をかしげながらもどこか納得している無門に守は呆れながらも面白いやつだ、という認識を改めて強くした。

 

 

 

 4月 / 放課後 / 通学路

 

 

 

 守は学校でもそれなりに有名人の様で、明らかな不良の外見を教師も生徒も咎めなかった。一応ある程度この学校は見た目に関しての規則は緩いらしく、転校生と聞いて話を聞きに来た同級生の女子がペンダントや指輪を見せてくれたりした。自分も何か付けてくるべきだろうか。

 

「やめろ。お前は絶対とんちんかんなアクセサリー付けてきてアホみたいな扱いになる気がする」

 

「そうなのか、守? だがそれで皆が笑ってくれるのではいいのではないだろうか」

 

「お前のそのズレた感覚はどうなってんだ」

 

 呆れている守は無門と同じクラスかつ、偶然席が隣だった。守が彼に興味を持っていたということもあり、放課後の彼の帰宅道についてきていた。

 

「で、朝日高校はお前にとってどんな高校だった」

 

「ふむ……見た目こそ古かったが設備はそれなりに整っている。教師も生徒も皆私と同様に興味や好奇心に満ちていたように見える。実に──」

 

「興味深いか」

 

「わかるか?」

 

「今日だけで何度もそれ連発されたらな」

 

 お互いにくすり、と笑みを浮かべた。絆が深まる感覚とはこういうことか。実に興味深い。

 

「俺に言わせたらうちの高校は味気ない高校だよ」

 

「味気ない。その結論は興味深いな、理由を聞かせてくれ」

 

「──人に色がねぇ」

 

 守は空を見上げながらそうつぶやいた。

 

「どんな人間にも色ってものがある。その人をその人たらしめる何かがあると俺は思っているんだが、この学校にいる連中の色はみんな同じ田舎者でしかない。街が変わった今でも外から来た物に興味津々で、流行や流行にはすぐに飛びついちまうような簡単に変わっちまう色しかねぇ」

 

「……なるほど。街は進化しているが人がついて行けておらず、都会になった街に浮かれて皆自分らしさを見失っているということか」

 

「そういうこった。そんな街味気ねぇし興味ねぇよ」

 

「認めたくはないが私も興味が薄くならざるを得んな。だが、少なくとも君は違う」

 

「ほーう?」

 

「そんな街のことを思い悩み、不良となることで自分らしさを前面に押し出している君には、守風にいうのなら素晴らしい色がついているように思えるな」

 

「は、言うじゃねぇか。気に入ったぜ無門。自分で言うのもなんだが、朝日高校の連中はどいつもこいつも色がない。高校にいる奴らとはあんまり仲良くする意味ねぇかもな。だが、俺と仲良くするってんのなら損はさせねぇ。これだけは保証しといてやるよ」

 

 それは言い過ぎではないか──そう思ったが、不思議とそんな気がしてきた。現在高校にいるほとんどの人々とは運命を変えるような絆を紡ぐことはない。何故そんな感覚を覚えたのだろうか。

 

「さて、と。そろそろ教師どもの目もねぇしお前の家まで飛ばすか。後ろに乗れよ」

 

「ふむ、違反行為の二人乗りか。実に興味深い。私の家は──」

 

「朝日町三丁目はずれにある小さな屋敷、だろ?」

 

「む、知っているのか。私は言った覚えはないのだが」

 

 ニイッ、と笑った守は自転車をこぎながら告げた。

 

 

 そこはシェアハウスなんだ。俺はそこの住人だからお前のこと実は知ってたのさ。

 

 

「その割には早朝の時は初対面の様だったが」

 

「朝は忘れてたんだよ」

 

「見た目の割に礼儀正しかったが知識面では不良同様ということか? 良ければそちらの能力向上に協力するぞ」

 

「振り落としていいか?」

 

 それは困る。

 

 

 

 4月 / 夜 / シェアハウス:自室

 

 

 

 無門の自室は屋敷の2階、3部屋あったうちの奥から2番目になった。ちなみに最奥が守の部屋で、手前の部屋は空室とのこと。1階にはキッチンや風呂といった教養の生活スペースがある。

 

「……お前の部屋本当に殺風景だな」

 

「荷物は極力少なくしていたからな。備え付けの家具があると聞いていたが、家具もなかなかに質がいいものだな。私の使っていた布団とは大違いだ」

 

「ここは昭和後期辺りに建てられた市が保有してる別荘だったんだが、今の市長が売り払ってシェアハウスにしたのさ。もっとも使ってるのは市長の友人とかだけだから相変わらず市長の物であることには変わりないけどな。そういうわけで家具の質が高いんだよ」

 

「なるほど、そういうことか。私は父が市長の友人であるからここに住ませてもらうことになったのだが、守がここに住んでいる理由は苗字から考えて市長の親族と言ったところか?」

 

「叔父やら叔母やら色々挟んでて結構関係がややこしい遠縁だけど、そういうことさ」

 

 守が笑ったのを見て無門はこれ以上触れないことにした。

 

「さて、そろそろ飯にしようぜ。今晩は守特製カレーの二日目だ。味には自信がありだ、期待してくれ」

 

「実に興味深いな。しかし君は礼儀だけでなく料理が得意とは……む、そういうことか! 雨が降る日に捨て猫に「来いよ、こっちの方が温かいぜ」と呼びかけるタイプの不良なのか!」

 

「お前ほんっとうに漫画の読みすぎだろ。なんてマンガ読んでるんだ」

 

「バッドボーイサバイバー。読めば勇気が身につくぞ」

 

 そんな馬鹿な、とケラケラ笑いながら守はカレーの準備をしに行った。その間一階でテレビでも見ていろと言われたのでお言葉に甘えることにした。最新式というハイビジョンテレビに「興味深い」と呟いてスイッチを入れる。ブラウン管と違ってすぐに電源がつくのは凄いな。

 

『流れゆく時の中、何かが変わることは必然です。

 私たちは変わりながらも、変わらない大切なモノと共に歩んでいきましょう。

 この街でいつまでも、あなたと一緒に朝日を見たい。朝日市』

 

「ふむ、市の宣伝CMか。この時間帯は……地元のニュース番組か」

 

 県内の企業や名産品のCMがいくらか流れると、ニュースが始まった。なんてことのない動物園や観光地の改装完了といったニュースを眺めていると、気になるニュースが流れる。

 

『次のニュースです。朝日町で相次ぐ深夜の傷害事件に、警察は朝日市民になるべく深夜外出を控えるようにとの通達を行うとのことです』

 

「む?」

 

『朝日町では二年前から深夜に何者かに襲われて建物が破壊されたり市民が負傷する事件が起きており、回数こそ三か月に一度程ですが未だに犯人に関する情報がありません。警察は捜査を行いながら情報を広く募集しております。お心当たりのある方はこちらの番号まで──』

 

「おーおー、相変わらずやってんね。カレーできましたよっと」

 

「いい匂いだ、食欲が掻き立てられる。守、この事件は有名なのか?」

 

「忘れた頃に事件が起きて思い出すって感じだけどな。深夜に起きる以外は一切不明の奇妙な事件だから、市長も市民も警察も頭悩ませてんのよ。これが土地神の祟りだとか言い出すような輩が起こした騒ぎはあっさり鎮圧できたのに、どうしてこっちはダメなんだろうな」

 

「……ふむ。実に──」

 

「「興味深い」」

 

 転校先で起きている謎の傷害事件。まるでアニメやゲームの世界に入り込んだかのように思えるこの事態を誠は楽しんでいた。不謹慎な考えであるという自覚はあったがこの事件に興味をひかれている。この事件に対して私にも何かできることはないと思ってしまうのだ。

 

「だろ? これには俺も同意見。この街に生きる人間として色々と調べてみたいんだよ」

 

「気が合ったな。今夜は学校の準備で手が空かないが、明日以降調べてみるとしよう。ただの高校生の調査でわかることなどたかが知れているかもしれんが、手を貸してくれるか?」

 

「任しとけ。へへっ、面白くなってきたな」

 

 ニイッ、と笑みを浮かべた守に小さく笑みを返すとカレーを口に含む。

 

「……」

 

「ん、どうした?」

 

 実に興味深い、店に出しても売れるんじゃないか、辛すぎる!! 

 水を飲んで口の中を落ち着かせると、いくつかの返す言葉の候補が浮かぶ。

 

「……店に出しても売れるんじゃないか?」

 

「こう見えてもカレー屋でバイトしてたことがあってな。店長からもお墨付きをもらってんだ。疲れて元気が欲しい時は言ってくれたら、夕飯カレーにしてやるから覚えときな」

 

 確かにこの舌に残る辛味は元気というか、から元気まで引っ張り出している。それほどの辛さだというのにまた食べたいという思いがふつふつと湧いてくるのは素晴らしいの一言。そんな逸品を作れる守は自分の想像以上に多才なのかもしれない。実に興味深い……。

 

 

 

 4月 / 深夜 / シェアハウス前

 

 

 

「──聞こえますか、本部。目的地に到着しました」

 

『中の二人に動きはある?』

 

「すぐに調べます」

 

 無門誠と朝日守。二人が生活しているシェアハウス前にスーツ姿の少女が立っていた。明るい髪色を殺すほどの冷たい表情と言葉を連れ添った彼女は素早く屋敷の窓へと貼り付き、集音機を当てて様子を確認する。ヘッドホンから聞こえる音は彼らが眠っている事実を伝えてくれた。

 

「ありません。この様子から考えるに問題はないでしょう」

 

『念のためにそこで待機。深夜0時を待って、時間になり次第通常行動に移りなさい』

 

「了解しました」

 

『ねぇ、もうやめてもいいのよ? 私たちが保有している戦力はもはやあなただけ。これ以上戦い続けてもあなたが傷ついていくだけ。グループからも撤退の許可は降りているのよ』

 

「……もうその選択を選ぶのには遅すぎたんですよ。それをあなたが一番わかっているはずです」

 

 時間まで集中します、そう言って通信を切って装備を確認する。分厚い革製のスーツの伸縮性を確認し、準備運動を行い自分の状態を最善まで持っていく。腰に装着したホルスターにしまっている任務に必要な拳銃型の装備の状態確認。細かい傷まみれだが正常に動作する。

 

「私は──やるしかない。私が戦うしかないんだ」

 

 拳銃にマジックで書いた「SEES」という言葉をなぞる。二年前に記したその言葉に祈るかのように瞳を閉じると、夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 4月上旬 / 放課後 / 朝日市商店街

 

 

 

 学期初めということで授業の難易度は大したことはなく、今日もあっさり学校が終わる。深夜の調査準備も兼ねて商店街の方に用事があるとのことで、守と共に商店街を訪れていた。

 

「興味深い商店街だな。元々の箱、建物を生かしつつ新しい店が入ってきているのか」

 

「正解。今の市長になる前は結構な店が無くなって寂しい商店街だったんだが、街の開発に伴って色んな店が入ってきた。元々あった店も負けられるかと奮起してるんだ」

 

「なるほどな」

 

 見渡せば店の店員に買い物に来た主婦、学校が終わって遊びに来た小中高生で賑わっている。無門が前に住んでいた街の商店街でもここまで賑わっていただろうか。

 

「ちなみにこの商店街はお前から見て色はあるのか」

 

「んー……あるっちゃある。ま、そのうち適当に紹介してやるよ。今日はこっちだ」

 

 商店街の途中でわき道にそれて進むと、「朝日サイクル」というやや新しめの店があった。

 

「こんにちはーっと」

 

「おっ、マモちゃん。久しぶり、元気してた?」

 

 電動、折り畳み、レース用等様々な自転車が並ぶ店内の奥、レジカウンターで雑誌を読みながらコーヒーを飲んでいた老人が陽気に答えた。

 

「相変わらずで……ってマモちゃんって呼ぶなって何度も言ったよな俺?」

 

「んんー、年を取ると耳が遠くてねぇ」

 

「あんたまだ60代だろ! まだまだ若いわ!」

 

「若いって言われるのは嬉しいけどねぇ。初対面のお客さんの前でそれ言っちゃう普通?」

 

「どっちみちこいつが前から言ってた依頼の客だよ。ほら、ムモンって呼んでた奴」

 

「ムモン……? ああ、思い出したぞ! 朝日サイクルへようこそ、ムモン君。店長の朝日カイだ。カイ爺さんって呼んでくれ」

 

「よろしく、カイ爺さん。無門誠です。カドナシ、というのが正確ですがムモンで構いませんよ」

 

 しわが目立つもガッチリした手を差し出されたので握手する。何かを感じた気がする……

 

「昨日で実感したと思うけど、俺たちが住んでいるシェアハウスは高校から結構離れている。だから俺は自転車通学しているんだが、お前の自転車も必要だろ? と、いうことで誠の親父さんの友人から自転車の用意をカイ爺さんが任されてたのさ。爺さんの腕は確かだ、安心してくれや」

 

「言いやがるねぇ、マモちゃんよい。こうして会うのは初めてだけど、ムモン君の身長と全身の写真を見せてもらった。それを元に通学用のママチャリをちょっと調整してみたんだ」

 

 カイ爺さんに案内されて自転車の販売スペースの隣にあるガレージを訪れる。工具やパーツなどが並ぶそこは男の子であれば誰もが興味を惹かれるその空間にシルバーのママチャリがあった。

 

「見た目はただのママチャリだし、校則で引っかかるような改造はしてない。ただ色々と調整している朝日サイクル特別仕様さ。マモちゃん、ムモン君のテスト走行の案内してやってくれや」

 

「OK、街を案内するのにいいタイミングだ。誠、チャリは乗ったことあるよな?」

 

「友人の物を借りることはあったからそれなりには。早速行ってみよう」

 

 自転車を店の外に出すと、守に先導されながら商店街を走り抜ける。人通りが多いため、脇の方を安全運転でゆっくりとこいでいく。

 

「ん、車が来るかもしれん。ちょい止まるぞ」

 

「了解した」

 

 商店街の中間あたりで止まる。守の言葉通り車がやってきて通り過ぎる。その間に守が近くの店を紹介してくれる。指さしたのは行列ができている飲食店。

 

「「あげや」はいいぞ。唐揚げやポテトにコロッケといった揚げ物の味がよくて見ての通り学校や職場帰りの人で賑わっていて、ここ10年で商店街に出来た店では一番成功してる店と言っていい」

 

「ほほう。街の人々の帰り道の相棒というわけか……実に興味深い」

 

「ちなみにもうちょい先に行ったところにあるアゲアゲドラッグっていう昔からある薬局と提携してるぜ。アゲアゲドラッグでいろいろ買うとここの割引券がもらえるから、怪我した時はなるべくアゲアゲドラッグで買った薬で自分で治すようにするとお得だ」

 

「……油ものは健康には悪いと聞いているのだが。薬局とは油と水では?」

 

「誠。細かいことは突っ込んじゃならねぇ。街の掟だ」

 

「不思議だ、全然興味がわかないぞその言葉。適当に言ってないか」

 

「気のせいだ。そら、道も開いたしとっとといくぞ」

 

 逃げるように自転車を少しとばした守に危ないぞ、と声をかけてついて行く。道中でアゲアゲドラッグを見かけたが、よくあるカエルではなく鶏がマスコットとして立っていた。

 

 ……まさか、唐揚げ用の肉なのか? どんだけ自重してないんだこの店。

 

 

 

 4月 / 放課後 / 朝日市商店街:朝日サイクル

 

 

 

「お帰り。で、乗り心地はどうだった」

 

 店に戻ると、コーヒーを飲み干してカップを洗っていたカイ爺さんが出迎えてくれた。

 

「悪くないです。乗っているとまるで自分の手足がつながっているかのように思い通りに動かせました。ただサドルがもう少し低くてもいい気がするな」

 

「そうかそうか。それくらいならサドルのレバーを使って自分で調整できると思うぜ。マモちゃんと同じ高校二年生になると背もよく伸びる時期だろうし調整はちょくちょくいるだろうな」

 

「なるほど。やり方は学んでいますし、時々調整してみます」

 

「自転車ってのはこまめな手入れを欠かさなかったら持ち主にとてつもない力を貸してくれる夢のマシンさ。こいつをうまく扱ってやりなよ、ムモン君」

 

「わかりました。良ければ手入れの方法を教えていただいても?」

 

「いいぜ。それじゃ、コーヒー淹れてくるかねぇ」

 

 カラカラと笑いながら、カイ爺さんはコーヒーカップを二つ用意すると鼻歌交じりにコーヒーを準備し始める──朝日サイクルの店長、カイ爺さんと絆が深まる感覚を覚えた。

 

「おや? 砂糖切らしたわ。ブラックでいいか?」

 

「個人的には昨晩の夕食が激辛カレーだったのでなるべく甘い方が望ましかったです」

 

「あー、マモちゃんのカレーか……わかった、代わりにミルクたっぷりにしてやるよ。そういえば肝心のマモちゃんはどこいったんだ?」

 

「学校の準備がある、と言ってましたね」

 

 嘘である。今夜の調査の準備として色々と買い出しに行っているのだ。多分3割くらいはあげやに並んでる時間だな、と苦笑していた彼の姿を思い浮かべた。空に浮かぶ太陽は、間もなく沈む。

 

 

 

 4月上旬 / 深夜 / 朝日市商店街

 

 

 11時を回った頃、守と共に事件の調査を行うために商店街へと繰り出した。

 

「こっちだ。深夜営業してる店や警察も見回りしてるから大通りへ出たら補導される可能性が高い。裏通りにいい場所があるんだ」

 

「……なるほど、だから自転車を使わなかったのか?」

 

「そういうこと。学校のステッカー貼ってるから見つかるだけでヤバいっての」

 

 建物の隙間にある小さな道を通っていくと、古びたビルが目の前に現れた。

 

「ここは商店街の不動産やってる人が管理してるビルなんだけど、街の急な開発が原因で立地条件が最悪になっちまったんだ。見ての通り周囲が建物に囲まれて訪れるにも一苦労だろ?」

 

「同感だ。場所が場所だから壊しにくそうだな。まるで時代に取り残されたかのようだ」

 

「だから、それを面白がった子供の遊び場になってた時期がある。当然危ないから管理している会社は入り口だけ改修したんだが、その人は俺に優しくてな。危ないことには使わないことっていう条件付きで鍵をもらってるのさ」

 

「その約束を今夜破ろうとしているな」

 

「大丈夫だって、このビルを使うことは危なくない。事件を探すために使うだけだからな」

 

 守は入り口に立って鍵を鍵穴に差し込み、ドアを開く。少し首をひねっていた。

 

「……守?」

 

「気を付けろ、誠。いきなり核心に迫っているかもしれん。ドアの調子が最後に使った時と違う」

 

「経年劣化で立て付けが悪くなったのでは?」

 

「逆だ。良いんだよ。俺が使ってた時はキィキィ言ってたんだが、音もなく開いた。何者かがドアに手を加えた可能性が高い。昔の俺が秘密基地を作ってたから、ビルの改修工事する時は声かけてもらうように言ってたんだがそんなことは一度もなかった」

 

「……奇妙だな。今の私たちのように不法侵入する誰かが直したのかもしれん」

 

「屋上に行く予定だったが、予定変更だ。当時俺が秘密基地を作っていた3階に行くぞ」

 

 放課後に買ったという懐中電灯を手渡され、守は護身用として持ってきたバットを構える。内部にはうっすらと埃が積もり、上の方から風が吹いているのを感じる。上層の窓が当時からいくつか割れていたとのことで、そこからの風が入ってきているのだろうということ。割れた床のタイルを踏んで転びかけたが、何とか3階まで上がった……キャバクラ? 名前はかすれて読めない。

 

「昔は町一つだけの男の憩いの場だったんだけどな。場所が悪くなったからここも閉店に追い込まれ、店員は都会の方のクラブに行ったらしい。この店の設備が一部残りっぱなしだから秘密基地にするにはもってこいだったのよ」

 

 守は解説しながら店に入る。ドアにつけられていたベルがカラン、と音を立ててつぶれた店への入店を告げるが出迎えるボーイもキャバ嬢もいない。漫画やドラマでしかこういう店は見たことないが、荒れ果てた店を見るとどうしても寂しくなるものだ。

 

「誰か、いや、何かがいたのは……確定だな。見ろよ」

 

 指さしたのは朽ち果てて破れたソファー。破れた場所の一部が変色していたが、よく見るとただの変色でないことに気付いた。血だ。血の跡が残っている。そして、破れ方を確認して気付く。

 

「引き裂いた傷、か」

 

「だろうな。恐らくここは例の事件の現場だったんだろう。イメージするとこんな感じで……」

 

 守が破れた傷の上に座り、肩から腰にかけて斜めに切られた、といったリアクションをする。床やソファの血の飛び散り方をみてみるとそれらしい傷だと思われるが、一つ気になることがある。

 

「守、一度横にずれてくれ。確認したいことがある」

 

 ソファに残った血の跡、守の座り具合。それを照らし合わせて確認する。

 

「どうもソファに残った傷を見た限りだと被害者は守よりも小さいな」

 

「女か?」

 

「いや、肩幅もやや狭い。中学生くらいの子供じゃないかと推測している」

 

「なんてこった。こんなに血の跡が残っているっていうことは被害者生きてねぇだろ」

 

「専門家ではないから断定は出来んが同意見だ」

 

 守と二人並んで手を合わせ、顔も知らない被害者の冥福を祈ると調査を再開する。

 

「しかしこの傷跡は人間業じゃないな。三本爪の切り跡に見える」

 

「アニメとかで虎が切り裂いた跡ってこんなんだよな。でも傷が大きすぎるし、入り口的に入ってこれるとは思えねぇな……ただ、前に建物が破壊された事件でこういう破壊痕を見た記憶がある」

 

「同一人物……いや、同一生物という可能性はあるな」

 

「だとしても威力がヤバいぞ。人間を切り裂いて殺害し、コンクリート製の塀を破壊できる──あ、これさっきの事件な。そんな虎なんてもはや化け物じゃねぇか」

 

「そういえば雑誌に載っていたな。警察が事件解決できないのはそう言った不可解な現象が起きているからと。そういう風に見せかけて戸惑う市民を見たいゆがんだ精神の犯人が持ち主でないかとは言われていたが、こうしてみると本当に不可解な現象が起きているように思える」

 

「謎はもう一個あるぞ。この被害者は『何者』なんだ? ここにいた理由がわからねぇ」

 

「不動産関係者……は恐らく子供であることからないな。一階のどこかの窓を破壊して入ってきた子供という説は?」

 

「ないとは言い切れねぇな。もうちょい調べるぞ。俺がその子供だったら一人じゃなくて友達と一緒に遊びに来ると思うし、何か痕跡が残っているはずだ。絶対に離れんなよ」

 

 頷き、慎重に周囲の状況を見ていく。ソファやカウンターなど荒れ具合は酷かったが、守曰く当時から非常に荒れていたそうで、先程見つけた傷跡のようによっぽど大きい物でなければ違いは分からないということ。それでも誰かがいたという証拠はいくつかあった。割れた床のタイルをパズルとして遊んでいた痕跡や、埃に紛れて鉛筆の削りかすが出てきた。

 

「これ、関係ないピースというか別の床の破片も使ってるぜ。鉛筆とかキャバクラ店員も使ったことはないだろうし。前者は遊び道具、後者は勉強かねぇ。小学生がいた可能性は高いな」

 

「秘密の子供たちの遊び場か……実に興味深いが、詳しい調査は後回しだ。これ以上調べるのなら窓から多少光が入る日中の方がいいだろう。スタッフルームを見てみないか」

 

「場所はわかるが、鍵がかかっていた記憶があるぞ。まあ、この状況だと開いているというか壊されている可能性もあるかもしれんが」

 

 スタッフルームのドアノブに私が手をかけてみると、回った。引いてみるとそのまま開いた。内部は割と整頓されていて、無数のロッカーと洗面台らしきものがあった。

 

「キャバ嬢の待機室だったんだろうな。多分いろんなキャバ嬢があの客うざいよねー、って言ったり化粧直ししてたんだろうぜ」

 

「ほほう、それはそれは興味深い。成人したのなら覗いてみたいものだ」

 

「スタッフにでもならないと見れないだろうな。誠のことだ、絶対興味深いって言いだしてプライバシーに触れて一週間たたないうちにクビだ」

 

「失礼だな、いくら私でもそれくらいは……分別をわきまえるつもりだ」

 

「今の空白普通に怪しいぞ」

 

 純粋に悩んで自信がなかっただけだ。

 

「世間一般でそれは「あ、ダメなやつ!」だぞそれ。たっく、なーんか恐怖心薄れちまった。スタッフルームは荒れちゃいないが、誰かが使ってたような気がすんだよな……」

 

「……その懸念は当たっているかもしれんな、守」

 

 鏡を見ていると、マジックで書いている落書きが何ヵ所かにあった。

 

「開いているだけでなく、守がいた頃はここは開かなかった部屋だ。キャバ嬢が使っていたであろう時代に落書きをするとは思えん」

 

「同感。後これ書いたのも子供っぽいな。よくわからん絵が多いけど、全部子供っぽい下手な落書きだからわからんだけだし」

 

 意味ありげなのはこれくらいだな。中心部に棒人間のような何かが剣を持って大きく腕を広げた幽霊のようなものと戦っている様子があり、上には英語で「SEES」という単語。

 

「これ英単語のseeの複数形だったっけな。ジーっと見つめれば何か……起きるはずがないか」

 

「押せば秘密基地や隠しダンジョンの入り口が! ……ちっ、何も起きんか」

 

「お前本当にマンガ読みすぎだろ。それもバッドボーイサバイバーか?」

 

「世界樹の冒険だ。色々な冒険譚に紛れて色々な豆知識を紹介しているから読めば学力アップ間違いなしの名作だ。シリーズも結構多かった記憶がある」

 

「……ほんっとうにお前漫画好きなんだな」

 

「実に興味深い存在だからな。将来漫画を描いてみるのもいいかもしれん」

 

「お、いいなそれ。そんときゃ今日の冒険譚を描いてくれよ。あ、俺の分はサイン入りでくれよ」

 

「覚えておこう。かっこよく守のことも描いておくさ」

 

 にいっ、と笑いあった。出会ったのは昨日だというのに不思議と何年もの付き合いの友人のような気がした。ふと、バッドボーイサバイバーの光景が頭をよぎって拳を掲げる。意図を察した守が拳を合わせてくれた。彼との絆が深まった気がしたその時──ドォン、と上から轟音が響いた。

 

「何かが落ちてきた音、か?」

 

「行くぞ守、多分屋上だ!」

 

「待て、誠! もしかするとさっきの爪痕の持ち主かもしれねぇぞ!」

 

 嫌な雰囲気を全身で感じ取っていた。ひりつくようなそれは危険を訴え続けていた。

 

「その可能性があるのは認めるし怖くて仕方ないさ。でも、ここまで来て何も見ずに帰れるか?」

 

「……ああ、そうだな。よし、屋上を覗きにいこうぜ。ただしヤバげだったらすぐ逃げる。いいな?」

 

「わかっているさ。行くぞ」

 

 キャバクラを出て屋上へ向かう。近づくにつれて金属がぶつかる異音が大きくなり、興味を引き立てられていた。屋上の扉までやってくると守と顔を見合わせて慎重に扉を小さく開ける。

 

 ――そして、私たちは運命が変わる瞬間を目にした。

 

 

「はぁっ、はぁっ……――あ、ぐうっ!!」

 

 月明りに照らされて、黒いスーツを身にまとった少女がいた。肩で息をする彼女は手にした筒を首元に当てると苦しそうな声を上げている。

 

「お、おい……なんだあれ?」

 

「注射器だろう。距離は遠いが写真を撮っておくか」

 

 ポケットから携帯電話を取り出すが、画面は暗転している。おかしい、今朝充電したばかりなのにバッテリー切れか? 首をかしげていると外の様子が変化した。屋上の外側から巨大な腕がいくつも伸びてきて、腕の持ち主――見たこともない巨大な仮面を身に着けた化け物が屋上へと上がってきた。その光景に息を吞んでいると少女は腰のホルスターから拳銃らしきものを引き抜いた。が、化け物の動きの方が速く少女は瞬く間に体を巨大な腕で拘束される。

 

「は、離せ、え、あ、ガァァァァァッ!!」

 

「――っ!」

 

 少女の叫び声が響く。ここからでもミシミシという音が聞こえてきそうなくらいの力で握りつぶされようとしている少女の悲鳴に私たちは体を凍り付かせた。恐怖のあまり一歩下げかけた足を、必死に前へと踏み出す。視線の先には少女が取り落とした拳銃。あれさえあれば……!

 

「守。隙を何とかして作ってくれないか」

 

「やる気なのかよ……!どう見てもヤバい状況だ、逃げるに一票だ」

 

「だがあれはどう見ても事件に関わっている。恐らく放置すればあの少女が新たな事件の被害者になるぞ。かと言ってあの化け物が一体だけだと思うか?」

 

「てめぇが好きな漫画で言えば十中八九他にもいるだろうな……」

 

「せめて少女が持っていた拳銃だけでも確保したい。あれは対抗手段なのだろうと推測している」

 

「ついでにあの子も助けられたらベスト、だな……わかったよ、やってやる。急いで助けろよ」

 

「当たり前だ……頼む!」

 

 守がドアを勢いよく開き飛び出す。化け物の意識が守へと向けられた隙に拳銃に向かって走る。守は手にしたバットを全力で振って少女を握っている腕に当てると鈍い音が聞こえた。

 

「手ごたえなしかよ、気色わりぃ!」

 

 振り抜かれた化け物の手へバットを振り抜く。相手の凄まじい力がバットを通して伝わってくる。腕が折れたかと思うほどの激痛と引き換えに軌道をずらし、なんとか無事でいた。その間に私は転がっていた拳銃を改修することに成功、化け物を狙うが……

 

「弾切れか!?」

 

「なっ、嘘だろおいっ!!」

 

 銃声も響かず、化け物が苦しむ様子もない。戸惑っていると守が化け物に叩き飛ばされる。空中を舞う彼を何とか受け止めて下したが、化け物がこちらを完全に向いていた。

 

「ゲホッ、ゲホッ! こ、ここまでかよ……!」

 

 苦しそうに守がつぶやいた悔しみ交じりの言葉と私は同じ思いを抱いていた。拳銃を引き続けるが何の変化もない。その時、化け物の腕の中の少女と目が合った。

 

 

 ――自分の、頭を、撃って。

 

 

 息も絶え絶えに少女が呟いた言葉は自殺への案内にしか聞こえなかった。それでも……今はその言葉を信じるしかない!冷たい銃口を額に当てる。ゾクっとするがどこか高揚感を感じるこの状態に興味を覚えながら、私は――頭に浮かんだ言葉を叫ぶ。

 

 

「ペルソナァァァ!」

 

 

 引き金を引く。自らの心が、意識が、魂が何かとつながる感覚と共に目の前で光が収束して手にしていた拳銃とそっくりなもう一丁の拳銃が現れた。

 

「……すげぇ」

 

 守の言葉に笑みを浮かべると、それを手に取って化け物の額に狙いを定めて引き金を引く。今度は銃声と共に化け物が悲鳴を上げた。一発二発三発。続けて打ち込む。

 

『グギャァァァッ!!』

 

 化け物は苦しみながらこちらへと攻撃を加えようと手を振り上げる。かわせば守に当たる。だが、拳銃では威力が足りない。だから――

 

「変われ、『アームズ』!」

 

 頭の中に浮かんだ拳銃の名前を叫ぶ。すると、光に包まれて武骨な盾へと姿を変えた。化け物の振り上げた手をそれで何とか受け止めた。身体能力も上がっている気がしたが……

 

「守、今のうちに――」

 

「逃げろってんだろ。それは不正解だぜ」

 

 そう言って守は少女が持っていた拳銃を手に取り、「こうすればいいんだろ?」と笑って頭を撃ち抜く。そして、私と同じように光が現れ、それは赤いバットへと姿を変えた。

 

「地味だな! まあいいや、そのまま頼むぜ誠!」

 

 マモルは素早く転がって姿勢を立て直すと、バットを振り上げて盾を攻撃していた腕を弾き飛ばす。そのまま少女を握っている腕を殴りつける。先程とは違って殴られた化け物は苦しみ、少女を離した。守が視線で「少女を頼む」と指示したので、少女を抱えて一旦引く。

 

「あ、あうっ……驚いた。あなた、たち、二人とも適正があるんだね……」

 

「喋るな。あいつは私と守で何とかする」

 

「お願いっ……今夜はあれで最後だから……!」

 

 少女は苦しそうに化け物を睨む。守はバットを巧みに操りながら腕を弾き、へし折り、砕いて行く。流石不良、バットを使った戦闘はお手の物と言うわけか。実に興味深いが夢中になるのは後だ。あれが最後だというのならド派手な一発を叩き込めばそれで終わるはずだ……!

 

「アームズ、派手な一撃行けるか」

 

 問いかけると盾は再び光へ変わり、小さなグレネードへと変化する。そういうことか。

 

「守、爆弾を投げる!退避しろ!!」

 

「爆弾!? だったらタイミング指示するから俺の方に全力で投げな!」

 

 そう言うと守は化け物の腕ではなく体を連続で殴りつけてひるませる。バットが赤熱する。

 

「あっち行けよ――バスタースマッシュ!」

 

 赤く輝いたバットが化け物を空中へと打ち上げる。

 

「今だ、誠!」

 

 グレネードを放り投げる。それを見つめる私と守の間で笑みが交差し。

 

 カァン。守が振り抜いたバットがグレネードを化け物の元へと運ぶどころか口の中へと放り込まれた。流石じゃないか、守。賞賛の言葉と共に開いた手を握り――頭の中に浮かんだ言葉を叫ぶ。

 

「メギドッ!」

 

 化け物が光と共に爆発四散した。同時に頭の中に鉛が入り込んだかのようなすさまじい疲労を感じて膝をつく。凄く体に負担をかける分効果は絶大だが、使いどころを見極めなければ。

 

「やったな、誠!」

 

「ああ、ナイスバッティングだ守。野球やっていたのか?」

 

「まあまあな。今度キャッチボールとかやろうぜ」

 

 差し出された手を取って立ち上がろうとした。が、疲労困憊でふらついた守はそのまま私の隣へ倒れ込んだ。いまいちしまらないな。それはお互い様だろ。思わず笑いあった。

 

「……仲がいいところ悪いけど、二人には私と一緒に来てもらうから」

 

 そんな私たちを、少女が冷たい表情で見つめていた。

 

「あなたたちはあの化け物と戦う力、『ペルソナ』を持っている。元の生活に戻るにせよ、『ペルソナ使い』として生きるにせよ私たちの力が必要になるはずだよ」

 

「奇遇だな。私もいくらか聞きたいことがある。謎の化け物に、あのペルソナを呼び出せた拳銃。それを使っていたであろう君のことを含めて――」

 

 

 

 ああ。実に興味深い。

 

 

 

 こうして、始まりの夜は終わりを告げる。物語の結末がどのようなものになるのか。それはまだ、誰にもわからない。




 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。