Persona Another S.E.E.S   作:あおい安室

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本来なら第一話で4月分の話が全部終わってたので既にプロット崩壊しております。
ちなみにペルソナ杯終了までには毎日一話ずつ投稿していた場合、間違いなく完結間に合いません。
一応頑張ってみますが、その場合多分最終日辺りに5話くらい連続投稿するかも。
……正気の沙汰ではないですな。でも事故ナギ制作とかそういうのがペルソナらしい。


誓いの夜

 青く輝く月が、街を照らす。ビルの上から眺めるその光景に首をかしげていると、足音が聞こえた。足音の主は鼻と腕が長く、絵本から飛び出してきたかのようなをしたスーツ姿の老人。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ……今宵は珍しい客人がいらっしゃったようだ」

 

「客人……私のことか。あなたは?」

 

「私の名はイゴール。お初にお目にかかりますな。ここは夢と現実、精神と物質の狭間にある場所。何かの形で契約を果たされた方が力を磨く場所でございます」

 

「契約? そんなものはした覚えは……いや、待てよ。ペルソナか?」

 

「それはここで磨く力ですな。ここで言う契約は別の特別なものを指しております、本来ここを訪れる客人はとある素質を持ち合わせていたりと契約に値する特殊性を持ち合わせていることがありますが、あなたから感じる素質はどこか別の物だ」

 

 よろしければ、それを一度見せていただきたい。イゴールがそう言うと、いつの間にか手の中にはあの時ペルソナを呼び出すために使った拳銃があった。それで頭を撃ち抜くと、そっくりのもう一丁の拳銃──『アームズ』が姿を現した。イゴールにそれを手渡すと、興味深そうに見つめる。

 

「なるほどなるほど……どうやらこれは特殊なペルソナにワイルドとしての力が込められた物のようですな。実に興味深い……」

 

「それは私の口癖なのだが。ワイルドとはなんだ?」

 

「無限の可能性を司り、「絆」を力へと変える特殊な素質でございます。簡潔に言うのであれば、複数のペルソナを自由に使い分ける力であるのですが、あなたの場合はペルソナの性質そのものを変える力となっている」

 

 イゴールが拳銃をなぞると、拳銃が盾へ。盾がグレネードへと形を変えた。

 

「ここまで特殊な性質を持っているとなれば、我々の手法ではあなたのペルソナの力を磨けそうにはありません。わざわざいらっしゃった客人だというのに申し訳ございません」

 

「いや、謝らなくて構わない。私のペルソナが特殊であることが問題のようだからな」

 

「ふうむ……ですが何かの方法はあるかもしれませぬ。これをお持ちくだされ」

 

 そう言うとイゴールは奇妙な仮面が持ち手に描かれた鍵を手渡してきた。

 

「それはベルベットルームへと入るために必要な者、『契約者の鍵』でございます。いずれまたお会いしましょう、客人……おっと、まだ名前をお聞きしておりませんでしたな」

 

「無門誠だ。よろしく頼む、イゴールさん」

 

 手を差し出すと怪しい笑みを浮かべてイゴールが握り返してくれた。その途端、意識が遠のいていく……薄れる意識の中でも、渡された奇妙な鍵を失くさないように強く握りしめる。

 

 

 4月 / ■ / シェアハウス:自室

 

 

「うっ……」

 

 痛む頭が意識を覚醒させる。手の中にあった硬い物を目の前に持ってくると、イゴールからもらったあの鍵だった。あの不思議な空間は夢だったのだろうか。ペルソナのことといい、実に興味深い。次会った時イゴールにその辺りのことを聞いてみよう。

 そういえば、この時間にしては太陽がまぶしいような気がする。壁に備え付けられた時計を見てみる。12時ぴったし。そして今日は平日であり、当然学校があるわけで……。

 

「ヤバい、遅刻だ遅刻、大遅刻!!」

 

 慌てて昨晩の私服を脱ぎ捨てて着替えと通学バッグを探すも、どこにもない。

 

「大丈夫だよ、学校には休みの連絡を入れてあるから」

 

 ドアが開く音と共に、昨晩出会った少女が姿を現した。水色の患者服を纏い、腕は骨折しているのかギプスを使ってぶら下げている痛々しい姿だった。

 

「私の姿が気になるのもわかるけどさ。その恰好どうにかしてくれるかな……」

 

 嫌そうな表情を向けられた。私はパンツ一丁だった。ふむ

 

「こういう男子の姿は女子にとって興味深い物なのか?」

 

「さっさと着替えないとそのまま外に放り出す」

 

 

 

 着替えと通学バッグを探しても見つからなかったのは、ここがあのシェアハウスではないからだった。あのシェアハウスは正式名称を『双子館』といい、私が目覚めたこの館は部屋の配置が全く同じかつ家具もある程度共通している別の館である。都会よりな場所にあるシェアハウスとは違って外を見れば山や川が見える田舎よりの場所にあるみたいだ。

 

「あなたが住んでるシェアハウスは日光館。こっちは月光館って呼ばれてるって聞いてる」

 

「双子なのに光の名前が由来なのか? 興味深いな」

 

 家具や電化製品くらいしか変わらない一階の広間を見回していると少女が解説してくれた。

 

「館を立てた時の市長の娘が双子だったんだってさ。姉が日子、妹が月子。それが由来」

 

「ニッチーツッキーか。アイドルとして売り出してそうな雰囲気があるな」

 

「どんなネーミングセンスなのそれ……」

 

「えー、そうかな。いいじゃん、アタシは好きだよ」

 

 二人の会話に混ざる声。階段の方からやってきた白衣姿の女性がひらひらと手を振っていた。その後ろにはよっ、と手を挙げる守の姿。

 

「無事だったか、守」

 

「お互いさまにな。これで皆勤記録途切れたのは痛いけどな」

 

「皆勤だったのか……やはりお前は雨が降る日に捨て猫に「来いよ、こっちの方が温かいぜ」と呼びかけるタイプの不良だな。礼儀正しくて真面目かつ料理もうまい。ここまでくるとファッション不良か?」

 

「やかましい! ほらそこ笑うな! 俺が誤解されてるだろ、どうすんだおい!」

 

 白衣姿の女性はケラケラと笑い、冷たい表情だった少女も口元が笑っていた。やるな、守。

 

「本気で尊敬されているのが納得いかねぇ……!!」

 

「うんうん、仲良きかな仲良きかな。それでは諸君、席につき給え。昨日のことについて色々と知りたいだろう、二人とも? お姉さんが説明してあげよう」

 

 楽しそうに笑う女性に促されて席に座った。女性は名刺を二枚取り出し、私と守に手渡す。

 

「桐条エレクトロニクス研究開発部第四人間工学課課長……堅苦しい肩書だけど、義手や義足とかの開発を行ってる会社で働いている人ってことさね。潮見夜子、気軽にヨルコねーさんって呼んでちょうだいな。で、こっちは潮見湊子。アタシの娘だよ」

 

「湊子です。年齢は君たちより一つ上で、同じ朝日高校の三年生。よろしく、二人とも」

 

「先輩だったのか。私は──」

 

「おーっとちょい待ち。二人のことは昨日のうちに調べてあるから知ってるんだよ。お互いに自己紹介してたら話が長くなるからここでヤメヤメ。聞きたいのはこれでしょ?」

 

 ヨルコねーさんは湊子に目配せすると、湊子が患者服のポケットから拳銃を取り出した。

 

「……ああ。教えてくれ、ヨルコねーさん。昨日私たちが目にしたものについて。私たちが使ったあの武器について。教えてくれ。何も知らずに終われないんだ」

 

「うんうん、いい目をしている。ヨルコねーさんと呼んでくれたことも高評価。では──」

 

 

 

 影時間の話をしよう。

 

 10年程前にこの世界には隠された時間。『影時間』が存在することが判明した。午前0時になると光や音は動きを止め、生命は姿形を失って結晶と化してその時間を感じることは出来ない。ではなぜそんな時間が存在するのか? 明確な理由は不明だがこう推測している。

 

 君たちが目にしたあの化け物、『シャドウ』のための時間。

 

 影時間になるとあの化け物は出現するけど、目立った活動は起こさない。ただし、東京の方で影時間になると出現する迷宮、『タルタロス』は例外。あそこに現れるシャドウは人を襲う。

 

 そして、もう一つ例外がある。ここ、朝日市。

 

 朝日市では満月の夜になるとシャドウが出現して暴れるんだ。それが原因で生じた被害は影時間が終わると当然現実世界に反映される。この街で発生していた深夜の傷害並びに破壊事件の真相はそれだ。存在しない時間に起きた事件なんて警察にはわかる訳がないし、真相不明になって当然。

 

 この事件を解決するために私たち『旧エルゴノミクス研究所チーム』が派遣された。

 

 エルゴノミクス研究所とは君たちもご存じ日本の大企業、桐条グループが設立した影時間の研究施設。もっとも既に解散済みで研究成果は現在東京の方でタルタロスを攻略しているチームが運用している御役御免の組織だったんだけど、今回の事態に当時のスタッフに再招集令がかかった。研究開発メンバーだけでなく当時運用されていた一部の装備、そして『ペルソナ使い』が集結した。

 

 

 

「ペルソナというのは未だに解明されていない部分も多い人の心の力で、あの拳銃『召喚器』を使って出現させることができる。その力だけがシャドウへと対抗できる唯一の力なのさ」

 

「私とあなたたち二人はそのペルソナが使える特別な素質の持ち主ってこと。ただし力を使うと体力や精神力を大きく消耗するんだ。二人とも昨日の夜、シャドウを倒した後のことは覚えてる?」

 

 シャドウを倒した後のこと。言われてみれば何も覚えていない。湊子に「実に興味深い」と言ったのは覚えているがそこから先の記憶が全くない。

 

「あの後二人は気絶したんだよ。おかげで下すのがとにかく大変でさぁ……」

 

「そいつは悪かったよ。いつか借りは返す。約束だ」

 

「……うん、やっぱり不良だ。義理堅いね」

 

「誠。どう考えてもお前のせいで俺の認識おかしいぞ!」

 

 本当にすまなかった。流石に初対面ではやりすぎたかもしれない。

 

「あはは、緊張がほぐれたところで話を戻そうかね。3年前に派遣された私たちは必死に戦ってシャドウを限定的な封印に持ち込むことに成功、今では満月の夜の日だけ地上に出てくるレベルまで抑え込むことができた。その代わりに壊滅的な被害を受けてね……」

 

「あのビルは当時のペルソナ使いが拠点にしていたビルの一つ。あそこも一度シャドウに襲われてペルソナ使いが命を落とした場所でもある」

 

「──っ!」

 

 守と顔を見合わせる。私たちがキャバクラで目にした血痕や傷跡に関して聞いてみる。

 

「そういうこと、だよ。君たちの予想通り。派遣されたペルソナ使いの中には小学生くらいの子が何人かいたんだけど、勝手に入り込んでたまり場にしていたみたい。落書きとかして遊んでたみたいなんだけど、そこでシャドウの襲撃を受けて命を落とした子がそれだよ」

 

「……マジかよ。受けた被害っていうのはどれくらいなんだ」

 

「ペルソナ使いは湊子以外全滅。持ってきた装備もほとんど破損して使い物にならなくなったし、研究開発員も何人か亡くなったこともあって現地に残っているのは私だけだよ」

 

「ほぼ壊滅状態というわけか……!」

 

「湊子は凄く経験を積んできたこともあって、満月の夜に出現するシャドウは一人で全滅させることもできていた。最も一人では限界があるから時々被害も出てたけどよくやってくれた方だよ」

 

 だけど……ヨルコおねーさんは悲しそうな瞳で湊子先輩を見つめる。

 

「今回は彼女も傷を負いすぎた。前からドーピング薬を使って無理やり戦っていたから、治癒能力が劇的に落ちてる。次の満月の夜までに完治するかどうか怪しいし、これ以上のドーピング接種は間違いなく命を縮めるから私としては止めたい。そのためにあなたたちの力を貸してほしい」

 

「もちろん無理強いはしない。ペルソナを使うということは命を落とすこともあり得る戦いに身を投じることだから。あなたたちに──命を捨てる覚悟、ある?」

 

 

 一晩じっくり考えて。答えを聞かせてほしい。

 

 

 4月 / 夕方 / 朝日市商店街

 

 

「ポテトMサイズ二つ。あ、傷薬割引券使います」

 

「まいどっ!」

 

 月光館を出た私は朝日市商店街を訪れた。混む時間帯ギリギリだったからあげやのポテトがあっさり買えたのは助かった。学校さぼったおかげでもあるのは複雑だが。ポテトを両手に目指すのは昨日のビル。見たところ外見上の損傷はなかったが、屋上は違う。昨日あれだけ暴れたせいで落下防止フェンスは歪み、床は傷まみれでひびが入っている箇所が昨日の激戦を物語っていた。

 

「──」

 

 そんな屋上で守は一人、街を眺めていた。

 

「絵になるな。正義の不良、夕日を眺めて一服といったところか」

 

「タバコは吸ってねぇっての。ポテトよこせ」

 

 タバコ代わりに咥えるのか? 流石にからかいすぎてドつかれた。

 

「……いい景色だろ、ここからの景色は」

 

「ふむ……」

 

 ここは変わりゆく歴史に飲み込まれて忘れられてしまったような場所だと思っていた。忘れられたそこからは街を一望することができるのが奇妙だった。前の街でも見慣れた都会の景色や、朝日高校にシェアハウスも目を凝らせば見えたし、遠くには自然の景色に紛れて月光館も見える。

 

「ここはさ、街に最初に出来たビルだったんだよ。俺が生まれる前に朝日市が最初に発展しようとした時期に建てられたって聞いてる。だが、開発は大失敗してビル一軒だけで終了したのさ」

 

「よくある話……だな。田舎が田舎のままでいることは簡単だが、発展することは非常に難しいと聞いている。中途半端な開発で終わった例だろうな」

 

「だけど街の皆はそれだけでも喜んでいたし、キャバクラや麻雀と言った大人向けの店や喫茶店やゲームセンターもあった。子供も大人も集う大切な場所だったんだが……今となっちゃこんな荒れ果てた寂しい場所になっちまった。俺は町の開発に伴って廃れる様子を間近で見てたんだよ」

 

 それが、悔しくて仕方なかった。

 

「この場所で地元の友達と一緒に遊んだ。大人の人に料理を教えてもらった。勉強も見てもらった。月宮守っていう人間はここで生まれたのさ。そんな場所がここだったのによ……皆が親しんでいたこの場所がなくなっていく様子を見ていて、開発される街のことが憎くて仕方なかった」

 

 だから事件が起きたと聞いた時嬉しかった自分がいた。

 

「──なるほど。事件が起きれば街は壊れるし、評判も悪くなる。開発もストップするかもな」

 

「そういうことだよ。今日ヨルコって人からその原因がシャドウって聞いた時は絶対に人間が止めることは出来ないから放っておけば街は廃れて行くのは確実だ。見ただろ、えーっと……ミナコ先輩だっけか。あいつがくたばれば満月の夜に戦う人はいなくなるからな」

 

「おい、守。正気で言ってるのか」

 

「……正気だよ。自分でも認めたくねぇけど、そんなくだらなくて残酷なことを考えちまったことは事実なんだ。俺はこの件から手を引いてあの女がくたばるのを待てばいい。だけどさ……」

 

 守はゆがんだフェンスを力強く握る。その瞳にはわずかに涙が流れていた。

 

「だとしたら、俺はどうして昨日の夜ここに来たんだ? そう、事件の真相を調べようとしていたからだ。ではなぜ事件の真相を調べるのか? その答えはよ……」

 

「「街が好きだから」」

 

「……なんでわかんだよ。お前との仲一週間未満だぞ」

 

「不良というのはそういう物だ」

 

「まーた漫画か! どんだけお前漫画読んでるんだよ!」

 

「後、守という男はそういう男だと知っている。だからこそ興味深いのさ。友情に時間なんて関係ない、というのは漫画の名言だったんだが現実でも通用するだろうか」

 

「……たっく、てめぇはよぉ」

 

 通用するに決まってんだろうが。そう言って俺のポテトを奪った。

 

「あ、おい守! 私まだ一本も食べてないぞ!」

 

「うるせぇ、友達代ってやつだ! 恥ずかしい思いしたんだからこれくらい譲りやがれ!」

 

「……ふむ。友達代。実に興味深いな」

 

「マジで通用した……お前本当に変わってんな」

 

 半分くらいはシェアハウスで残しといてやるよ。そう言って守は屋上の扉へ手をかける。

 

「……誠。俺は正直自分ひとりじゃどうなるかわからねぇし、街を思う気持ちと開発を憎む思いが共に歩み続けられるかどうか自信がない。だけどお前と一緒ならきっと俺が道を間違えても止めてくれるって思えるんだ。今日の一件、お前と一緒なら受けるつもりはあるぜ」

 

 守は振り返ることなく屋上を立ち去った。絆が深まる感覚と共に彼を見送ると、手のひらを見つめた。あの夜で握った拳銃の感覚がまだ残っている気がした。

 

「──もう一ピース、確かめるか」

 

 私の中の好奇心がまだ収まっていない。もう一つ確かめたいことがある。

 

 見上げた夕日は間もなく沈もうとしていた。夜が、訪れる。

 

 

 4月 / 夜 / 双子館:月光館:湊子の部屋

 

 

「まさか当日に来るとは思わなかったんだけど」

 

「鉄は熱いうちに打て。好奇心が湧きだしたらすぐにそれを確かめたくなるのが私でね」

 

「女の子の自室を訪れて言うことか! 夜の女の部屋に来る好奇心って何!?」

 

 思い立ったが吉日ということで、『湊子先輩と話がある。会えないか』という連絡をヨルコねーさんにいれると、許可が下りたのでこうして訪れているのだが、どうも先輩は怒り気味である。点滴を撃たれながら寝込んでいる患者という様子は痛々しかった。

 

「む? 君のお母さんは君が喜んでオッケーしたと言っていたぞ」

 

「お母さん……」

 

「後オイタするなら薄いあれも持ってこいとのことだったが」

 

「お母さん……!」

 

「よくわからなかったから薄いサンドイッチを買ってきた。食べるか?」

 

「……もらうよ」

 

「問題はサンドイッチが薄いアレではないような気がするのだが。間違っているのか?」

 

「間違ってないよ、うん。というかこれ以上興味持っちゃダメ」

 

「そうか……ふーむ、興味深い」

 

 しばかれた。解せない。

 

「それで私に話って何かな?」

 

「あのビルのキャバクラで目にしたもので一つ気になることがあってな。昼の時には聞き忘れたし、写真も撮っていなくてね」

 

 守と別れた後に撮影した物を見せる。それは鏡に描かれた落書きの一部で、SEESという単語の下で棒人間のような何かが剣を持って大きく腕を広げた幽霊のようなものと戦っている落書き。それを見た湊子は懐かしそうに笑った。

 

「辛いことだということはわかっている。SEESとはなんだ? これが気になってな」

 

「S.E.E.S。一単語ずつ切るのが正確なんだけどね。これは『Special Extracurricular Execute Sector』の略称なんだけど、意味はわかるかな?」

 

「ふーむ……特別課外活動部、といったところか」

 

「よろしい! 湊子先生が花マル上げよう。小学生くらいの年頃の私の仲間が書いたんだけど、年齢相応にちゃんとしたつづりもわかってなかったんだよね。笑っちゃうでしょ」

 

「同感だ、微笑ましいその光景を見てみたくなる。実に興味深い。このS.E.E.Sというのは君たちのチーム名なのか?」

 

「一応ね。正確には『タルタロス』攻略チームの名前だよ。東京の方で影時間になると出現する迷宮、タルタロス。昼に話したのを覚えてるよね? そこが影時間を作り出してシャドウが出現させている本拠地だと思われていて、そっちの攻略チーム名がS.E.E.S。聞いた話だと学校の部活動形式らしいよ」

 

「部活動? 興味深いな」

 

「タルタロスは影時間の時に学校が変化して出現してるんだってさ。だから、その学校にペルソナ使いが通ってるんだとか。向こうの人たちは楽しそうで羨ましいよ」

 

「……先輩は向こうに行かなかったのか?」

 

「あはは、無理無理。私には行けないよ」

 

 それ、取ってくれるかな。指さしたのは、棚の上に置かれているマジックでSEESと銃身に記されている召喚器。それを手渡すと湊子先輩は頭を撃ち抜いて自らのペルソナを出現させた。それは切っ先がない西洋剣で、その形には見覚えがある。

 

「エグゼキューショナーズソードか。剣先が丸くて突くことを念頭に置いていないが、それは死刑執行人が斬首刑のために使用する剣だから。切り落とすための剣に突きなど不要ということだな」

 

「よく知ってるね。どこで学んだの?」

 

「世界樹の冒険。続編がいくつもあるファンタジー物の冒険漫画で、物語としての面白さだけでなく様々な豆知識が作品内に大量に仕込まれている。読めば学力上がること間違いなしだ」

 

「へえー……あの子たちもそれ読んでたのかな」

 

「ちなみにこれを読んだおかげで私は三角関数を学んだ」

 

「知識レベルが結構高い……!! ってそれ本当にファンタジー冒険漫画?」

 

 作風が変わることはあったがジャンルは基本的に変わらなかった記憶。

 

「……私が死ぬ前に読み終われるかな」

 

「先輩?」

 

「ごめん、話がズレちゃったね。私のペルソナはエグゼキューショナーズソード、つまり処刑剣。だけど昔は普通の西洋剣だったんだよ」

 

「昔は?もしかして、ペルソナは変化するのか?」

 

「君のアームズみたいに自由自在じゃないけどね。使用者の肉体的成長や精神的成長に応じて変わることがあるっていう研究成果がある。タルタロスの方のS.E.E.Sの部長、桐条美鶴のペルソナ『ペンテシレア』はサイズが大きく変化しているって聞いたよ」

 

「ペンテシレア。神話に出てくるアマゾネスの女王だったか」

 

「それも世界樹の冒険?」

 

「ああ。本当にいい勉強になる漫画だ」

 

「漫画の読みすぎは先輩として止めるべきか悩むけど、勉強になってる漫画みたいだから止めるに止められない……!」

 

「図書館によく置いている名著だ、機会があれば借りてみるといい」

 

「……そうしてみるよ、うん。さて、誠くん第二問。私と桐条美鶴のペルソナの違いは何かな?」

 

 ふむ。湊子先輩のペルソナは処刑剣。桐条美鶴のペルソナはアマゾネスの女王。なんとなく後者のペルソナは女王だから処刑技とか持っていそうだし共通点としては悪くないが、問題は『違い』を問いている。それならば答えは単純である。

 

「ペルソナの性質、いや形状が違うのではないだろうか。先輩のペルソナは武器だが、桐条美鶴のペルソナの名前は人名だ。向こうは人型なんじゃないかと推測している」

 

「正解! 花マル二つ目!」

 

「ありがたいな。だが、それは桐条美鶴のペルソナが特別なだけではないのか? 私は形を変える武器、守は恐らくバット、先輩は処刑剣。武器の方が数が多いぞ」

 

「残念。向こうには人型や獣型のペルソナ持ちの人がたくさんいるんだって。昨日も人型ペルソナ使いの新人を見つけたとか聞いたし、むしろ武器型である私たちの方が特殊なんだよ」

 

 ううん、むしろ──

 

 あの人たちとは違って、私は異常なんだよ。

 

 

 

 

 エルゴ研ではペルソナ使いがシャドウに対して有効であることが判明すると、人為的にペルソナを覚醒させる技術についての研究を進めていた。私はその実験の参加者の一人だったけど、人型ペルソナの運用には実験の成功率が安定しなかったから別のアプローチを進めることになった。

 

「人型、正しいペルソナを付与することは早すぎる技術かもしれないし、適性が低い子には難しい。一段階下げて武器型の劣化させたペルソナならば安定するんじゃないか?」

 

 それを提唱したのが潮見夜子。私のお母さんになる人であり──。

 

「君がボロボロなのはわかっている。けれど、協力してほしい。これが最後の実験だから」

 

「──わかりました。私のような適正が低い子でも、役に立てるのならば」

 

 私に力を与えてくれた人。私は西洋剣のペルソナを手にすることになったけど、そこでエルゴ研が事故を起こして事実上の解散を命じられ、生き残った研究員は桐条グループの様々な部署に配備されることになった。だけど、実験体である私は行き場所がなかった。

 

 残されていたのは最後の後仕事。

 

「──あ、あっ」

 

「……大丈夫。私が終わらせてあげる。楽にしてあげるから」

 

 生きていたけれど、未来を生きていくことができない程に衰弱した実験体の処刑。行き先のない未来へと苦しみながら生きていく道しかない仲間たちを殺すことが私の最後の仕事で──

 

 

「ペルソナの先が……折れた?」

 

 

 西洋剣が処刑剣へと姿を変えたきっかけだった。

 

 

 

 

「私は本来のペルソナを持っていない。劣化させたまがい物しか持っていなくて、しかも仲間殺しの前歴あり。そんな子供を前線においておけるわけがない。だからこんな後方にいるってわけ」

 

 ペルソナを消すと召喚器を見つめる湊子先輩はどこか遠いところを想っていた。

 

「……それでも戦う理由とは、なんだ」

 

「世界を終わらせられないからだよ。未来を生きられなかったあの子たちが生きるはずだった世界を守りたい。だけど、私は影時間を失くして世界を救うために戦っているタルタロスのS.E.E.Sとは共に戦えない。せめてできるのはこんな田舎町に運びるシャドウを蹴散らすだけなんだよ」

 

「そのおかげでこの街は救われている。守もそれを知ったら感謝するだろうな。あいつの街を想う気持ちは人一倍だ」

 

「あははっ、そうなんだね。うーん、彼本当に不良っぽい。実は優しい一面が多いね」

 

「色々と感情が複雑なことになっているから正直には言えないと思いますがね。本人が言いだすまで聞かないでやってください」

 

「心得た。二人だけの秘密だね」

 

 二人だけの秘密。友達同士で共有すると言われているそれが実に興味深かった。お互いに小さく笑みを浮かべて見つめあっていると絆が紡がれる感覚を覚えた。

 

「そろそろ夜も遅いね。影時間も近いし帰った方がいい。すっかり話し込んじゃったよ」

 

「そうだな、今日はありがとう湊子先輩。明日の夜また会おう」

 

「うん、また明日ね」

 

 笑って手を振ると、湊子先輩はベッドへ沈み込んだ。それを見届けて部屋を出ようとすると、背中を向けた私に湊子先輩が声をかけてきた。

 

「……ねぇ。私の話信じてるの?」

 

「興味深い質問だな。それがどうかしたのか」

 

「ペルソナを身に着けるための実験、その生き残りで私は仲間殺し。ペルソナやシャドウの存在だけでもおかしいけれど、私の話も内容的には他人に話すことでもない。それでも信じてる?」

 

「信じるとも。それを話したのはあなただろう。私が話してくれた先輩を信じるんじゃない、先輩が私を信じて過去を話してくれたことを、信じている」

 

「あははっ、おかしな後輩だね……まあ今のところは面白半分でもいいから。それと話した理由は私にもわからない。辛くて見ないようにしていたその落書きを見せてくれたから、かな?」

 

 

 出来ることなら、これから君と信じあえる関係になってみたいかな。もちろん恋人じゃなくて戦友で。危険であるのはわかっているけれど、仲間になってくれ、たら──

 

 

 規則正しい寝息が聞こえてきた。湊子先輩は眠ったようだ。体の方が疲労まみれなのだろう。

 

 

 4月 / 夜 / 双子館:月光館:一階

 

 

 一階の広間では、ヨルコねーさんがテーブルの上で工具とノートパソコンを広げて作業中だった。私が来た時からやっていた作業はまだ終わらない様子。

 

「おかえりー。お楽しみだったようだね。あの子はどうだった?」

 

「苦しんでいるように見えました」

 

「あー……やっぱり初体験はそんな感じかにゃぁ」

 

「初体験? 私は彼女の心のことを指しているのだが」

 

「あっ、そっち? そっちかぁ……」

 

 あなたは何を指していると思ったんだ。実に興味深いが今宵はもう遅い。後日また訪ねた時に聞いてみるとしよう……何故か湊子先輩にしばかれそうな予感がする。守はゲラゲラ笑いそうだ。

 

「先輩の心はまるで張りぼてに見えた。詰め込まれたものや背負ったものが多すぎるのに壊れない、壊れられない張りぼてのように。もうあの人は止まれなくなったんだろうな、と感じた」

 

「……だろうね。私もできることならやめさせたいけど本人が聞かないから。ほら、受け取って」

 

 ヨルコねーさんが一丁のシルバーの拳銃を手渡してきた。よく見ると小さな傷はあり、SEESという文字もない古びた召喚器だった。

 

「前に命を落としたペルソナ使いが使っていた召喚器のパーツをかき集めて君専用の召喚器を作っておいた。帰りに影時間を迎えて万が一シャドウと出会ったら危険だ、持っていきなさい」

 

「……ありがとうございます、ヨルコねーさん」

 

「礼なんていいよ。それで、答えは見つかった?」

 

「答え?」

 

「まーたまたとぼけちゃってぇ。あ、もしかして純粋に気付いてないのかな」

 

 ヨルコねーさんはテーブルに戻ると、散らばっていた召喚器のパーツを調べながら口を開く。

 

「君のような人を研究員として私は何度も見てきた。疑問や仮定、推測。進まなければならないというのにがんじがらめになって進めなくなってどうしようにもなくなった奴が君と同じ目をしている。重要な結論にたどり着くための過程で戸惑っているのが今の君ってことだろう?」

 

「……はい。私は何にでも興味を持ち、好奇心の赴くままにそれを調べたくなる──悪癖、とでも言えばいいのでしょうか。それを持った人間だと自覚していますが、私は興味を抱くだけでした」

 

「興味を抱くだけ。ふむ……考察どまりということかね。気になったことは調べたりはするけれど、確かめたりはしないタイプ?」

 

「そんなところです。正確に言うのであれば確かめるためには私の力が足りず、本やテレビなどで得た情報で止まらざるを得ないのですが……今回の事例に関しては実際に確かめることができる」

 

 

 その時、私は恐怖を覚えました。

 

 

「命の危機があるからではない。興味を抱いた物を詳しく知っていくということは、それを解き明かすということ。知ることによって興味を失うことが怖いのだと、気付いたのです」

 

「故に一歩踏み出せない、と」

 

 それは甘いんじゃないかな、若いの。怪しく笑うヨルコねーさんが拳銃、召喚器を向けてきた。

 

 バァン! と子供らしい銃声を口ずさみ、語る。

 

「そんな自分殺しなさい。立ち止まり続けて前に進めなかったら人は成長出来ないし、それは君たちに許されたことじゃないとアタシは思っている。あなたはアタシと違ってずっとずっと若い。立ち止まって悩むことは年老いたアタシにもできることだけど、未来へと進むことができるのは『未来』を持っている若い人だけなんだから。悩むよりは感情に任せて進むことを勧めるよ」

 

「……なるほど。湊子先輩の母親だけはあるな。実に興味深い」

 

「うむうむ、いい顔をしている。それじゃあ行きなさいな。少なくとも今の君が未来を目指すために必要なのはここを出て家へ帰ることさね」

 

「了解です。お邪魔しました」

 

「気を付けて帰り給え。再会を楽しみにしているよ」

 

 作業に戻りながらひらひらと手を振るヨルコねーさんに見送られ月光館を出た。渡された召喚器を見つめる。もう、迷うことはないはずだ。

 

 日光館、守が待っているシェアハウスに向かって歩き出すと、後ろから車の音が聞こえて道の脇へ寄った。通り過ぎた青い車が数メートル先で止まる。

 

「どうやら、心は決まったようですな」

 

 車から降りてきたのは手足の長い人影。

 

「イゴールさん!」

 

 今朝の夢の中で出会った奇妙な老人が私の目の前にいた。

 

「こちらがあなたのお力になる準備が整いました。今晩はそのお話も兼ねてお迎えに上がった次第です。目的地までお送りしましょう、乗ってくだされ、客人」

 

 イゴールに促されて車に同乗する。不思議なものだ、奇妙な体格のイゴールさんが普通に乗り込めるこの車は一体どうなっているのだろうか。実に興味深い。車は走りだし、日光館へとゆっくりと進み始めた。

 

「特殊なペルソナにワイルドとしての力が込められた物。私はあなたのペルソナをそう評しましたが、本来多彩な形を取りうるワイルドのペルソナを一つのペルソナに押し込めたのが原因です」

 

「……私のペルソナが形を変えたのはそういうことか」

 

「絆が持ちうる可能性を一つのペルソナで体現しようとした結果です。はあなたにはワイルドの適性がありながら、ペルソナを持つための適性がほとんどない。あなたがペルソナを使うために使用した召喚器という物はわずかな適正でも目覚めさせることができる特殊なものだったようですな。それでもペルソナを体現させた結果、ワイルドとしては不完全なペルソナを作り出したのです」

 

 私は本来のペルソナを持っていない。劣化させたまがい物しか持っていない。湊子先輩が言った言葉を思い返す。あの人は適性が低いと言っていた。故に召喚器も特別製だったのだろう。

 

「だがそれは、完全なワイルドに劣っているとは言い切れません。一でありながら、全てを体現しうる可能性を秘めているのだから。我々はあなたの可能性を引き出すための力となりましょう」

 

 イゴールが運転手に視線を向ける。運転手がこちらを向くと、被っていた青い帽子を挨拶するかのように小さく持ち上げた。その顔は青い包帯で覆われていて素顔は見えなかった。

 

「彼女はあなたの力となるべく新たに加わったベルベットルームの住人でございます」

 

「フランと申します。客人、以後お見知りおきを」

 

「無門誠だ、よろしく頼む」

 

 運転中の人に握手を求めるわけにはいかず、挨拶だけに済ませた。

 

「あなたはこれまでの日常で人との絆が深まったことを実感したことがあるでしょう。絆を力に変えることができるのがワイルドであり、あなたも例外ではない。ただし、その絆はペルソナの中で渦巻き行き先を失くしている状態。フランはその力に指向性を持たせることが可能です」

 

「ペルソナの能力の引き上げや、魔法やスキルを覚えさせること。特定の属性攻撃に対する耐性や無効化もできると推測しています……なんのことかわからなさそうですがいずれ分かりますよ。しかし、それを行うためには──」

 

「他人との絆が必要、ということか」

 

「そういうことでございます。あなたがこれからどんな絆を紡いでいくのか、どんな道を歩むのか。私たちベルベットルームの住人はそれを見届けさせていただきます」

 

「心得た」

 

 他の人との絆が力に変わる。まるでゲームの様で、他人を利用しているかのようで少し気が引けるが……絆を結ぶこと自体は嫌いじゃないし、むしろ興味深い。

 

「これにて客人無門誠殿との契約は成されました。あなたが支払うべき代価は1つ……契約に従い、ご自身の選択に相応の責任を持っていただくことです。よろしいですかな?」

 

「……ああ、わかった。イゴールさん、フランさん。改めてよろしく頼む」

 

「ええ、誠殿──」

 

 

 コンゴトモヨロシク。

 

 

 背筋がゾクリとするような言葉と笑顔を合わせたイゴールさんと握手を交わす。

 

 

 誓いの夜は終わりを告げて──

 

 

「本当に、いいんだね? 一応召喚器だけ受け取って自衛戦力身につけたらそれで終わりっていう道もあるよ」

 

「構わない。こっちの道の方が興味深いし、まだまだやるべきことがありそうだ」

 

「そういうこと。俺はこいつについて行くから異論無し。相棒的な関係ってやつ?」

 

「その台詞、バッドボーイサバイバー! まさに不良!」

 

「は!? マジでこれバッドボーイサバイバーの台詞なの? てか先輩読んでたの?」

 

「誠くんがポストに一巻放り込んでくれてたからゆっくり読んでた。世界樹の冒険はー?」

 

「巻数が多すぎてこっちに持ってきていないんだ、すまない」

 

「朝早くに自転車のテスト走行したいって言って出ていったのはそれか……!」

 

「うんうん、愉快かな愉快かな。では──」

 

 

「S.E.E.S朝日市支部は新入部員の二人を歓迎しよう! 皆、頑張ってくれたまえ!」

 

 




武器型ペルソナ
ペルソナ使いの適性が低くても召喚できる劣化版ペルソナ。
シャドウに対する攻撃力はペルソナ未使用のS.E.E.Sメンバーレベル。
デメリットとして各種スキル使用時の負担が大きい上に、召喚器の製造コストが非常に高い。
エルゴ研解散直前の時期に進められた研究ということもあって量産の目途は経たなかった。
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