Persona Another S.E.E.S 作:あおい安室
ザッザッ。ザッザッ。月夜の中で一人、箒掃除。
「おや、こんばんは。客人……? ふむ、興味深い方々がいらっしゃったようですね。外側からの観測者といったところでしょうか。興味深い。改めて、フランと申します。以後お見知りおきを」
ボロボロのビルの屋上で、月明りに照らされた包帯女が清掃作業をしている様子は明らかに異常な光景である。しかし、ベルベットルームというものはこんなものかもしれない。
「珍しい方がいらっしゃったことです。今宵は客人が過ごした皐月の物語でもすると致しましょう。面白ければ是非チャンネル登録といいねボタンを……え、ここにはない? あるのはお気に入りとここすきボタン? そもそもこの時代にチャンネル登録の概念があったか怪しい?」
掃き掃除がやや乱暴になる。包帯で隠れて表情は把握できないが、その目は明らかに怒っている。心なしか埃がこちらに飛んできているような気がしなくもない。
「仕方ないでしょう。私は生まれたてに近い存在。知識も何もかもが混濁しているのです。一々突っ込まれるとその……困ります、はい。あ、今の私可愛いと思いましたら是非高評価をば。そうすればあなたと私のコミュランクも上がる──かもしれませんね。楽しみにしていますよ」
ザザッ。ザザッ。ザザッ。
「冗談です。上がるわけないじゃないですか」
ザッ。ザッ。ザッ。ビュォォォォッ!
「ああっ、集めた埃が! もう、どうして風が強い場所をベルベットルームにしたのですか!!」
5月 / 影時間 / 朝日市商店街
S.E.E.Sとしての夜は続いている。
「さーて、と。カモン、レッドバット!」
「来てくれ……アームズ!」
特製制服だという分厚いコート等を身に着けた誠と守は時が止まった夜へと飛び込み、その手にペルソナを呼び出す。赤いバットに銀色の拳銃。互いに装備の使い勝手を確認して通信を開く。
「ポート1、こちらトゥルース3。状況は」
『こちらポート1。状況はまずまずかな。私からしてみれば普段通りの数だけど君たちはまだまだルーキー。私も待機してるけど怪我は完治してないから期待しないで』
「ディフェンス2、了解……本部。これどうなってんだ」
『こちら本部ー。湊子ちゃん結構漫画とかにハマっちゃって……これまで一冊も買わなかったし読もうともしなかったのに。人って変わるものだね。ま、付き合ってあげてよ』
「出会ってほぼ三週間で先輩を漫画オタクに染め上げるとはお前どうなってんだ誠」
「いや、私が染め上げたのではない。情報を提供すれば先輩がまるでスポンジのように吸収していっただけで、きっかけを与えたら勝手にハマっていった。むしろ今となっては私より詳しいぞ」
「マジかー……マジかー……調べてもほとんど学校に来ないミステリアスな先輩という印象しかなくて、今日までの訓練の時も終止クールだったってのにイメージガランガラン崩れたぞ」
『ここまで豹変してるとむしろこっちの方が素じゃったんじゃないかと思うおかーさんであった。それを見いだせなかったのはヨルコねーさんショック……男を知った女って違うね』
『お母さん。読めば魅力満ち溢れるロマンスラブコミック、キャシー読んだでしょ』
『バレた?』
「……マジだぁ」
守が頭を抱えた。その気持ちはわかる、私もここまで変わるとは想定外だった。おすすめの漫画とかを教えると湊子先輩は「給料たまってるしちょうどいっか」と言って色々な漫画を買いそろえていった。バッドボーイサバイバー、世界樹の冒険、そしてキャシー。
治療中で何もすることが、できることがないからとそれらを読みふけった湊子先輩は勇気に学力、魅力を身に着けて大分別人らしい一面を見せることが増えた。ただし、それはあくまでも一面にすぎず基本的な部分、クールで冷たい感情がスタンダートな湊子先輩は変わっていない。例えて言うのであれば、彼女は成長したのかもしれない。まるで物語の主人公のように。
「あはははは」
「たっく、笑い事……ではあるのか」
『ディフェンス2。戻ったら素振り1000回』
「昭和かっ! いいよ、やってやるよ畜生が!」
悪い部分一切なしでいいところまみれの不良である守の方がとてつもなく昭和らしいと思うのは私だけだろうか。ふむ、実に興味深い……
「さて、行こうか! シフト、アームズ! 焼夷グレネード。守、マハラギバッティングいくぞ」
「よぅし、まっかせな! バッティングピッチャー頼むぜ」
『ちょい待ちボーイズ。念押しだけど、大技は精神力の負担がきついのを忘れないでね』
「問題ない、精神力は磨いてある」
正確にはフランに上げてもらったのだが。三つのビーコン付き焼夷グレネードを投げ、守がシャドウの方に向かって撃ち分ける。グレネードは光の帯を描きながらシャドウが集まっている三か所へと落ちていく。それを遠方で待機している先輩が双眼鏡で見届ける。
『――ナイスバッティング。起爆を許可します』
「観測手、助かる先輩――マハラギッ!」
街のいくつかの場所で炎が上がる。今日、満月の日までの影時間で練習して磨き上げた連携技、マハラギバッティング。初日にも実践したアームズをグレネードに変えて打ち込む守との連携技をもっと進化させられないか。そう考えた私と発案し、守が実現策を模索し、先輩が最終調整。
『ヒュウヒュウ!やるね、シャドウの数一気に減ってるし、反応も弱くなってる』
この戦法にゴーサインを出したのはヨルコねーさんである。
満月の夜になると、市内の三か所にシャドウが大量出現して放置すると暴れ回る。これまではそれらのうち一つに湊子先輩が待機して満月の夜になると襲撃を仕掛け、三か所のシャドウを一か所に集めていたという。私たちの加入によって人手が集まったことにより、一斉攻撃を仕掛けられないかと湊子先輩とヨルコねーさんも考えており、私たちが考えた連携技はうってつけだった。
シャドウに対して数が劣る我々において重要なのは初動。今回の行動はなかなか悪くないだろう。モロナミンGをグイっと一息に飲み干して精神力を回復させると向かってきたシャドウを見据える。
「シフト、アームズ! ブレード!」
手にしたのは飾り一つない武骨な西洋剣。バットをぶらぶらと遊ばせている守と並ぶ。
「そんじゃま、残党狩り行こうぜ」
「だな」
ボロボロかつ数もまばら。そんな連中に負ける私たちではない。満月の夜は終わりを告げる――
『いやいやーっ、頼もしい新人だね』
『……あの時、彼らがいたらって思うのは欲張りかな』
5月 / 昼 / 朝日市:田舎方面
満月の日から数日後の日曜日。私はタクシーに揺られていた。
「部活動の先輩と仲良くなれましたか。それはよかったですな」
「女性との会話とはなかなか経験がないもので。色々とアドバイス助かりました」
「いえいえ。若い頃に取った杵柄、とでもいうのですかな? そんなもので良ければお役に立てたようで何よりです。おっと、目的地が見えましたな。あそこが朝日市第二商店街です」
窓を開けて少しだけ乗り出す。田んぼやまばらな住宅に囲まれてそこそこな数の建物が集まっている商店街が見えた。あげややビルがある商店街に比べると発展している雰囲気はなかった。
「開発が始まる以前の商店街としては、現在有名な商店街と比べるとややこちらの方が発展しておりました。そのため各種店舗へ支援はこちらは行われておりませんな。控え目です」
「そうなのか……開発に取り残されたのか?」
「いえいえ。その代わりこちらはどちらかといえば景観保護の方に力が入れられております。ここまでの道中でご覧になったかと思いますが、この辺りは昔ながらの街並みが残っているのです。今度アイドルが来てドラマ撮影に使われるとか聞きましたよ」
「ほほう、それは興味深い」
タクシーに乗っている私は通学初日の時と同じ老人の運転手、『黒川昭雄』さんから街の名所などの教授を受けていた。朝日市春のエンジョイキャンペーンの一環である。
朝日市は非常に広い街であり、自転車があるとはいえ全域を回るのは非常に難しい。影時間になればペルソナの新体力補助が受けられるとはいえ、夜の闇と奇妙な雰囲気が漂うあの状況では厳しかった。そこで守からこのキャンペーンを紹介してもらった。
「おや、あなたは先日の」
「奇遇ですな。実はこちらで朝日市春のエンジョイキャンペーンを受けられると聞いたのですが」
「ああ、あれですか。かしこまりました、直ちにご用意します」
朝日市春のエンジョイキャンペーン。それは商店街で買い物するとポイントや抽選券がもらえるといったありきたりなもの以外にタクシーを使用すると街の名所紹介を受けられるというキャンペーンがあった。最近はお金の余裕がある時はタクシーを使って色々と街のことを学んでいる。
その過程でタクシー運転手の黒川昭雄さんと仲良くなり、色々と街の話を聞く以外にもちょっとした日常生活の悩みを話したりしている。友人との付き合いや、放課後の過ごし方など。
お年寄りのアドバイスですが、と前置きしつつも色々と教えてくれた黒川には結構お世話になっているし、助けられていて、彼とも絆が紡げている実感がある。人生の先輩には学ぶことが多い。
「本日はこちらを観光するとのことでしたね。また後でご連絡ください。お迎えに上がりますよ」
「わかった、それではまた後で」
商店街入り口で降ろしてもらい、小さく頭を下げると黒川さんのタクシーは走り去っていった。
「オールドストリート……か。実に興味深い。」
木造建築が目立ち田舎っぽさを強く残している商店街へと、足を踏み入れた。
ヨルコねーさんによると満月の夜にシャドウが現れる場所は三か所。朝日市商店街付近の運動場、朝日市一の高さを誇り自然があふれる山『日登山』ふもとの湖、そしてここ、朝日市第二商店街付近の河。この三か所に近い場所のどこかにまとまってシャドウは現れているとの話。その三か所のことが気になった私はこうしてキャンペーンを利用して観光に訪れたと言うわけだ。
朝日市第二商店街については守もそこそこ知っていたが、最近は忙しくてあまり行かないからどうなっているのか全く知らないということ。ただし、昔の知り合いがまだ店をやっているはずだから話を聞くならその人に頼んでくれ、と。
「いらっしゃーい。おーや、珍しい。それって朝日高校の制服?」
訪れたのは商店街の中腹ごろにあった『なかむら』という小さな駄菓子屋。店を訪れると、エプロン姿の青髪ロングヘアーの女性が気だるげに出迎えてくれた。
「はい。中村さん、ですよね。守からこれをあなたに見せれば話が分かる、と。」
「ほうほーう? ……あー、これ。なつかしい」
見せたのは棒アイスのバー。すっかり乾燥しきってアイスの匂いは全くしないそれには、「一本あたり」と焼き印が施されていた。
「ずーっと昔、うちで売ってるアイスにあたり入れようと思ったことがある。だけどあたり棒を作りすぎて、全部使ったら採算取れなくなることがわかった」
「ほ、本末転倒では……」
「うん。だから一本だけ入れてた。それを引いたのがマモちゃん」
マモちゃん呼びに少しだけ笑った。彼の呼び方は結構マモちゃんで浸透している模様だ。
「また店に来た時に交換するーって言ったのに年単位で店に来てない」
「なるほど、本人が一緒に来なかったのは全然来れなくて気まずいからか」
「違う。多分、ツケがたまってるから」
「は?」
「小学生の頃、駄菓子やアイスをツケで買ってた。4370円くらいたまってる」
「わ、割と大きい金額だ……あいつの不良らしいところ初めて見たぞ。そのツケ、私が払います」
「まいどありー。そこ、おいといて」
なんだか言葉のイントネーションがおかしい……けれど、この人は多分こういうのがデフォルトなのだろう。実に興味深い女性だ……
「じーっと見つめてる。どうしたの? 惚れた?」
「惚れた、か。まだ知らない感情だ、興味深い……なるほど。これが恋か」
「私、結構年上だけど彼氏不在。いる?」
「うむ」
「じょーだん。もうちょっと店に通ってくれたら、考える」
そうか。ちょっぴり切ない。
「それで君は何しに来たの? アイス、一本いる? おすすめは甘酒」
「いただこう。守からあなたがここ、朝日市第二商店街について詳しいと紹介された。色々と話を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「ん、じゃあアイス半分で手を打つ」
「自分の店の商品を要求する店員とは一体……」
「じょーだん。ちなみに私、店長かつ唯一の店員。中村まなか、今後ともごひいきに」
きょとん、とした何とも言えない表情で白いアイスを手渡された。備え付けの椅子に座り、アイスにかじりつくと甘酒の独特の甘みが広がった。すごい、甘酒そのものだ。味を維持したままアイスにするのは結構難しいと聞いたことはあったが見事な出来である。
アイスの味に感心していると、中村さんはどこか遠くを見つめながら話を始めた。
朝日市が誕生したのはつい最近ではあるが、それ以前の朝日町、朝日村等から数えると歴史は非常に古い。室町時代の頃にはこの辺りに農村ができていて、戦国、江戸、明治、大正と大きな争いに巻き込まれることなく平穏な時間が流れていたが、発展することもなかった。
そんなここがとあることがきっかけで発展することになる。第二次世界大戦。その前後で陸軍の訓練場がこの辺りに出来たことがきっかけで人の流れが活発になり一時的に発展して――終戦で訓練場がつぶれたのと同時に廃れた。それどころか元々いた人も他の街へ流れていった。
一歩進んで二歩下がり。それでもなんとか生き延びながらも朝日市は昭和を駆け抜けて、平成を迎えた。息絶え絶えの朝日市が消滅寸前となったその時である。
「私がこの街を救ってみせる、この街を元気にしてみせる!」
朝日市生まれ朝日市育ち。街への愛に満ち溢れた男、朝日進が市長となった。
「ちなーみに、市長の家はこの商店街にあるよ」
「なんと!そういえばまだ挨拶してないな……今は在宅だろうか」
「多分いないと思う。忙しいからほとんど市庁舎で寝泊まりしてるって愚痴りに来たこと、ある」
「駄菓子屋に市長が来るのか。まさに地域密着型市長だな。若き頃の行きつけの店だったのか?」
「んー、ちょっと違う。ここ夜は居酒屋へ早変わり。市長が来たのはそういうこと。二十歳になったら飲みにおーいで。ちなみに夜は結構忙しいから、バイト募集中。君も応募する?」
ぴらりとどこかから取り出された応募用の書類を受け取り、軽く目を通してバッグへしまった。
「考えておこう。それで、市長が変わったところまでの話だったな」
「うん。今の市長は本当にこの街のことが大好き。だから街の風景を変えるのも苦渋の決断で、第一商店街を中心とした半分を都会化、ここ第二商店街は最小限の開発にとどめてる」
「市長の気持ちはわからなくはない。だが、それで経営は成り立つのか?」
「まーまー。実はこの辺りは隣のもっと都会の街と朝日市の中心を結ぶ中継点。だからその間を移動する人には大人向けの居酒屋なんかはそこそこお客さん多いし、まだまだ住民も多いから食料品やお菓子なんかも売れてる。貧乏なんかじゃないし、ギリギリゆーふくな感じ」
「ふむ。いうならばベッドタウン提携店というわけか。それならばなんとかならなくはないか」
「北の方には温泉、あーるよ。そのおかげでそれなりに儲かってた。でも最近は湯の出が悪くて温泉も営業時間短縮中だけどねー」
「ほほう、それは実に興味深い。後日訪れた時は入浴も検討しよう」
「ん、その時は是非是非なかむらをご利用いただきたく。サービスするよ」
サムズアップする中村さんにサムズアップで返答する。お互いに小さく笑みを浮かべた時、新たな絆が芽生えた気がする……しかし温泉の湯の出が悪いのは、何かを感じる。実に興味深い。
「時間はまだある、調べに行くか。また来る、中村さん」
「まーいど。またねー」
アイスのバーを渡すと商店街を北方面へと駆け出した。その途中、古めかしいセーラー服姿の少女とすれ違ったので軽く会釈する。ふむ。朝日高校の女子制服はセーラー服だがあんなデザインだったか? 実に興味深い。守に後で聞いてみるか。
「いらっしゃーい……あれ、ちょっと怒り顔。どうしたの?」
「中村さん、さっきの人誰なんですか?」
「新しい常連客候補」
「……名前は?」
「あー、聞くの忘れた。でも、聞いたらどうするの?」
「聞いたら……」
「街から追い出したいです」
5月 / 夕方 / 朝日温泉周辺
北部エリアを探索中に話を聞いた朝日温泉を発見した。古めかしい小さな城のようにも見える建物や、石垣等は見ているだけで一晩過ごせそうな出来だった。実に興味深いが今やることは温泉施設に見とれることではない、周辺の調査だ。まずは知識を借りるためにヨルコねーさんに連絡。
『なるほどなるほど。温泉の湯の出が悪い、と』
「ええ。それでいろいろと調べてみたいのですが何かいい方法はありませんか」
『うーん、そうだねぇ……桐条グループに連絡すれば地質検査の機材とかは貸してくれるかもしれないけど、時間かかるしお金もかかる……』
「まさかの金の問題ですか」
ゲームや漫画の世界にいる雰囲気を楽しんでいたのに、一気に現実に引き戻されたぞ。
『ぶっちゃけるとペルソナ使い派遣しまくったり三年前の封印で大分機材ぶっ壊したから上から目を付けられててね。新規予算請求してもあんまり下りないんだよ』
「こっちは下手すると街の危機ですよ。どうにかならないんですか」
『上の連中、「お前らはもう色んなことやったんだからおとなしく街守ってるか戻ってこい!」みたいな風潮だしどうにもなんない。あははは』
笑い事ではないと思うのだが。あるいは笑うしかないということなのか。その辺りのことを湊子先輩に聞いてみてもいいかもしれないが、つらい過去に触れることになるだろう。だがそれを聞くには私の度胸がまだまだ足りないという感覚がある。精進せねば。
『あーあ、アナライズ持ちの子が生きてたらなぁ……』
「アナライズ? 分析や解析の意味を持つ英単語だったか」
『そういう周辺の解析ができるペルソナ能力があるのよ。実は私もその能力持ってるんだけど、機材とかでブーストかけても効果は市内全域をぼんやりとながめるくらいでねぇ』
「索敵範囲を集中させることは出来ないのか?」
『全然ダメ。収束させても見える景色がぼんやりと……って誰が老眼か! とりあえず何とかできないかちょっと色々計算と各部署に申請してみる。機体はしないでほしいんだけど、多分上手くいったら君たちにも準備が必要になると思う。覚悟はしておくように』
「了解した。ところでお土産は何がいい?」
『温泉饅頭! あ、関係部署に根回しで送りたいから4箱ちょうだい。あったら温泉関連の入浴剤なんかもあればウケがいいかもしれないなぁ……その辺は君のセンスに期待するよ』
……ふむ。真面目にバイトを検討しなければならんか。前々から貯めていた小遣いを切り崩しながら耐えてきたが、現状金が一円も入ってきていないのが痛すぎる。守に相談してみるか。
5月 / 夜 / 双子館:月光館:シェアハウス
シェアハウスに戻り、夕食を食べながら守に相談する。
「市長から一定額小遣いが支給されることになってるんだけど知らねぇの?」
知らなかった。というか初耳である。
「親の友人である市長が生活費とかある程度出してくれてるんだよ」
「そうだったのか……」
「だけど、それは俺たちを信用してくれてるから金の運用を任されてるってわけだ。だから下手な使い方は出来ねぇし、生活費の管理は全部俺がやってるぞ」
「なるほど。それでスーパーの特売に走るのか」
「うっせ」
頼まれれば手伝うのだが。ふむ、今度は勝手に手伝ってみようか。もしかすると守とさらに絆を深めるきっかけになるかもしれないしな。今後は朝刊に挟まれる広告を要チェックだ。
「それでおまえの分の小遣いなんだけど専用の口座に入金されてるぞ」
「そうなのか」
「通帳、もらった覚えないか?」
「ない」
「……市長の方連絡してどうにかしてやる。その間一枚貸しといてやるよ。後で返せ」
ぴらりと差し出されたのは一万円札。温泉饅頭などの土産で出費が痛かったのだ。
「すまん、助かる。この礼は中間テスト勉強対策で返すとしよう」
「ぐえぇぇっ、考えようとしていなかったことを! テストは本当に苦手なんだよな……影時間の間に学校乗り込んで答案探しちまうか。あるいは提出済み解答書き換えるのもありだな」
「みみっちいことを考えるな。どうせなら職員室吹き飛ばしてテストそのものを延期にしろ」
「えげつねぇよ馬鹿! つーかお前爆発物使えるからできなくないのか……」
「じょーだん、だよ?」
「うげっ、中村さんの真似かそれ!?」
「いい人だったな。街の知り合いは大切にするといい。あ、ツケは返済しておいたぞ」
「助かる……けど真似似てねぇな」
あの人の喋り方は独特すぎる。文字で言い表せない喋り方を体現しているかのようだ。
「じゃ、俺もちょっと勉強してから寝るか……お前はどうするんだ?」
「少し用事を済ませたら寝る」
あー、あれか。苦笑いしながら守は自室へと向かっていった。さて、誰もいなくなったことだしそろそろ例の部屋へ行くか。広間の一角に輝いている青い扉。守にも、湊子先輩にも見えない、私にしか開けられないその扉へと向かっていった。手の中に奇妙な契約者の鍵を握りしめて――
扉を開くとそこは、青い月に照らされたビルの屋上。
「我がベルベットルームへようこそ、誠様」
怪しく笑うイゴールさんがどこかから持ってきた椅子に座っていた。あれから一か月でビルの屋上には色々と物が増えており、壁さえあれば怪しい占い屋に見えなくもない。
「こんばんは、客人。また一段と絆を強めたようですね。あなたのペルソナが見せる可能性も広がりを見せている……ふむ、実に興味深いとはこういうことを言うのでしょうね」
フランさんは相も変わらず包帯まみれ。表情は一見よくわからないが、何度も会話を交わしていくうちに少しだけ予想がつくようになったと思う。今は小さく微笑んでいると見た。
「これ、土産の温泉饅頭なんだか食べるか?」
「ほほう、土産を持ってくる客人とは珍しいですな。我々が何かを返せると言うわけではありませんが、いただきましょう」
「ペルソナを調整してもらえるだけで十分助かっているさ。フランさん、今晩もいいか?」
「お任せください。まずはペルソナを拝見しましょう」
召喚器で頭を撃ち抜き、拳銃を召喚して手渡す。フランさんがそれを円形テーブルの中央に置き、タロットカードを周りに並べて目を閉じる。すると、私から現れた光――絆がタロットカードへと移り、何枚かのカードが空中へ浮かび上がる。
「セッティング完了。新規開放されたスキルとモードがありますね」
「解説頼む」
「かしこまりました。データを読み取ります、主、申し訳ないのですが詳細解説をば――」
ベルベットルームの夜は、更けていく。
街の人々と絆を深めて、ベルベットルームでペルソナを強化する。学校生活に追われながらも、そんな日々を送りながら――変化が訪れる日を、私たちは待っていた。
その日は、次の満月の夜。
「すまない、湊子先輩。守のテストの成績が悪くてな。補習が必要だ、今日のペルソナ特訓は休ませてやってほしい」
『おおう……わかった、そういうことでいこう。ちなみに君は?』
「全体90人ほどいて私は23位だ」
『悪くないけどもっと上を目指しなさい』
「検討しよう。そういう先輩はどうだったんだ?」
『学年トップ。世界樹の冒険すごいね、勉強になったよ』
「漫画効果凄いな」
『タルタロスの方のS.E.E.Sの新入部員には負けるよ。映画とゲームで学力磨いてるとか。それで学年高順位取ってるって聞いてお母さんゲラゲラ笑ってる』
「ペルソナ使いは真面目にしない方が成績がいいのか? 興味深いな……」
まなかさんの元ネタは言わずもがな某中華料理店の出前店員さん。
設定としては彼女の叔母さんに当たります。多分節制コミュかな。
タクシー運転手の黒川さんは法王あたりで、伝達力上がるコミュ。
ただ、アルカナは全部埋めてたらキャラ増えすぎるので特に決めてなかったり。大体適当です。
そしてもう書き溜めはない。次回間に合うかわからぬ。