Persona Another S.E.E.S   作:あおい安室

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書き溜めなしじゃラストシーン間に合わなかった!
すみません、最後の部分だけお昼ごろを目標に間に合わせます!


第一の夜

 プペパポピポパポパポパポパー。月夜の中で一人、楽器演奏。

 

「おや、こんばんは。外側からの観測者の方、また会いましたね。フランと申します」

 

 ボロボロのビルの屋上で、月明りに照らされた包帯女が鍵盤ハーモニカを演奏している様子は明らかに異常な光景である。しかし、ベルベットルームというものはこんなものかもしれない。

 

「ベルベットルームには付き物の音楽というのをご存じでしょうか。今宵はその演奏にチャレンジしております。全ての人の魂へ捧げる歌だと聞いておりますが、いかがでしょうか私の演奏は。あなたの魂へ捧げることが──え? 文字じゃ聞こえない?」

 

 プピーッ!! 包帯で隠れて表情は把握できないが、その目は明らかに怒っている。心なしかめちゃくちゃにかき鳴らす鍵盤ハーモニカの音が聞こえるような。

 

「仕方ないでしょう。私は生まれたてに近い存在。外の世界に干渉する力なんて持ち合わせていないのですから。誰か演奏してみた、とかやってくれないでしょうか。そうすればあなたと私のコミュランクも上がる──かもしれませんね。楽しみにしていますよ」

 

 プペパポピポパポパポパポパー。

 

「冗談です。上がるわけないじゃないですか」

 

 パピポピポピポポピポピパポパポパー。

 

「静かにしなさい、フラン」

 

「……わかりました、我が主」

 

 

 

 

 

 6月 / 影時間 / 朝日市:川の上流

 

 

 

 ヨルコねーさんが色々と掛け合った結果、一つの作戦が立案されることになった。

 

「この作戦が失敗したら予算削られて私と湊子のおかずが一品減るので絶対成功させるように」

 

「何それ聞いてないんだけど!?」

 

「一気に緊張感抜けたんだがどうしてくれんだおい!」

 

「ふふっ、こういう雰囲気も興味深いな。気楽に行くぞ、みんな」

 

 それは、三年前の戦いで湊子先輩達がシャドウを封印した場所の再調査作戦である。

 

 商店街付近の運動場、日登山ふもとの湖、第二商店街付近の河。満月の夜にシャドウが現れる三か所には彼女たちがシャドウを封印した施設があるのだ。だが、シャドウを封印した影響かその施設は普通の時間からは消滅。影時間にしか出現しない特殊な地下施設と化したのだ。

 

 その中の一つ、第二商店街付近の河の上流にある施設を私と守は目指していた。

 

『普段の影時間の時も一応内部へ突入することは出来る。だけど、シャドウが蔓延してるから普段攻略しに行くのは得策じゃないし、入るとしてもちょっとした訓練が限度』

 

『だけど、満月の時はシャドウの数が少なくなる。突入するなら満月がチャンスというわけ』

 

「とはいえ、ポート1一人で大丈夫なのか? もう一人そちらに向かった方がいいのでは……」

 

『心配しないで。私はこれまでずっと一人でやってきた。ゆっくり休んだから体もベストコンディション、今夜は先輩に任せてダンジョン探索楽しんできて』

 

「ダンジョン探索……廃業した幽霊たっぷりの病院を訪れる心持ちだった俺の覚悟は……」

 

「……不謹慎かもしれんが出る覚悟で私は行くつもりだったぞ」

 

『封印した施設は元々私たちが使ってた研究施設だから、先に亡くなったペルソナ使いや研究員の霊が残っている可能性はあるんだよねぇ。湊子が行きたがらないのってそういうのもあるんだよ』

 

「湊子先輩……」

 

『くっ、私に余裕と幽霊耐性があれば……!』

 

「湊子先輩……?」

 

「誠、とっとと目標の施設突っ込んで本部の通信強制遮断するぞ! 気が抜けるってレベルじゃねぇ、むしろやる気失くすレベルだぞこれは!」

 

 目標の施設内部ではヨルコねーさんの能力による通信は届かないと聞いている。河原に出現している入り口らしきものは見つけたしそろそろ入ってもいいだろう、が。

 

「……興味深い」

 

「誠?」

 

「悲劇的な過去をコメディな会話によってさらっと流す。この手法があれば都合の悪いことも違和感なく話せるかもしれない。ああ、実に興味深い」

 

「それ学んでもろくな使い道ねぇよ。断言してやる、行くぞ!」

 

「ま。待て、引きずるな!」

 

 誠に無理やり手を引かれながら目的の施設内部へと連れていかれる。くっ、ペルソナを使っている守の力は強いな……生半可な能力じゃ対抗できないな。今後は余裕があれば力も強化しよう。

 

 

『……私たちの考えバレてるね、お母さん』

 

『あの子賢そうだからねぇ。ひやひやものだよ。ま、あなたが幽霊苦手なのは事実だけどさ』

 

『もうっ、それはもう克服したよ。いつまでも変わらずにはいられないから。後一人いれば私もあそこに行けるんだけど……ない物ねだりはどうしようにもないなぁ』

 

『……皆、亡くなったからねぇ……もう一人、か』

 

 

 6月 / 影時間 / 封印施設:地下

 

 

 封印施設の中は薄暗い通路が続いていた。ヨルコねーさんの言う通り内部のシャドウの数は少なかった、が。

 

「守、そっち行ったぞ」

 

「わかっている」

 

 カシュン。乾いた銃声と共に襲い掛かってきたシャドウを沈黙させる。地下施設ということもあって下手に声を上げれば響くし、銃を使えば耳鳴りもひどい。サイレンサー付きに改造してもらってよかった。そのために銃の構造書を取り寄せてフランさんにプレゼントしたのは痛かった。

 

「ふー……気が抜けないな。薄暗いからどこからシャドウが現れるかわからないのがきつい」

 

「反応も追えないし探せないからな。なおかつ逃げ場もない」

 

「下手にバット振れば自殺行為だぜ……」

 

 見ての通りかなり苦戦していた。閉所空間での戦闘もある程度特訓はしていたが、シャドウがあちこちに潜んでいることを覚悟しながら進むのはかなり精神力と根気を要する。誠はあげやに並んだり漫画を読み解くことでそれを磨いてはいたが、守は少しきつそうだ。

 

「スイングはなるべく縦に抑えろ。横は壁に当たると隙が出るし支援射撃も難しい」

 

「了解……この先二体いるぜ、きっとな」

 

「不良の勘か」

 

「うるせぇ。まあそうなんだけどよ。あーくそ、アギで燃やすのも不味いよな」

 

「酸欠を引き起こすかもしれん。控えよう」

 

 攻略メンバー間違えたんじゃね? 否定できんな、すまない。じれったく話し続ける私たちに切れたのかシャドウが物陰から現れて襲い掛かってきた。ニヤリと、笑う。

 

「──バーン」

 

 頭部を撃ち抜き、大きな体をひるませる。そこへ守が振り上げたバットで一発ぶん殴る。殴れば後はどうとでもなる。守のボコボコバットの連撃火力は伊達ではない。

 

「もうちょいカッコいい名前考えろ!」

 

「ふむ。バッド・コンビネーションはどうだ」

 

「普通にいいじゃねぇか。あとバット・コンビネーションが正しいだろ」

 

「バッドには不良という意味もかけている」

 

「却下ぁっ!!」

 

 ドゴッ。明らかな致命傷がシャドウに叩き込まれ、ちりとなって闇の中へ消えていった。

 

「今後俺のこの技はバット・コンビネーションで行く。異論はないな。あっても叩き潰す」

 

「ふむ……不良の意地か。興味深い」

 

「てめぇなぁ。本当に不良にこだわってるよな。親でも殺されたのか」

 

「殺されてはいないさ。むしろ親代わりだった、というべきか」

 

 地下通路はまだまだ続きそうだし、ここで一つ昔話をするのも悪くないだろう。冒険を彩るのは町の探索や敵との戦いだけではない。仲間との談笑もその一つなのだから。

 

 

 

 10年前、私は母親を事故で失った。

 

「お母さんが亡くなった?」

 

 だが、その実感は薄かった。人が命を落とせば必ず残るはずの『遺体』を目にしなかったから。そして亡くなった事故の真相について誰も教えてくれなかったから。

 

「……どうして、誰も教えてくれないんだ」

 

 当時の私にはわからなかった。親を亡くした子供がそれを知ることはとてつもないショックである、と考えた大人たちの思いやりということがわからなかった。それ故に──

 

「ああ、実に──興味深い」

 

 興味が溢れた。知らないことを知ろうとする好奇心だけが満ち溢れるようになり、何にでも興味を示す無門誠がこの日生まれたけれど、母親を失った事故のことは当時子供だった私では調べられる範囲というものは非常に狭かった。何もわからなかったから、好奇心は行き場を失くしていた。

 

 そんな私を見かねた父親が一冊の本を渡してくれた。

 

「女神転生」

 

 悪魔という異形の存在に関わってしまった人々が、変わりゆく世界を戦って生き抜いていく漫画に私は強く興味をひかれた。あふれる好奇心のはけ口としてうってつけだったというのもあったが、これがきっかけで私は漫画に惚れ込んだのだ。そして、私が初めて買った漫画が──

 

 

 

「バッドボーイサバイバー、か」

 

「うむ。もっと自分の趣味に合った漫画を読んでみたいと思ってな。そう思って最初に手に取った漫画がこれだった。だから不良という存在に憧れがあるのだろうな」

 

「ほーん……そこまで言うのなら気になるな。帰ったら読ませてくれ」

 

「それは愛読者として嬉しい言葉なんだが、死亡フラグではないか?」

 

「あん? お前の好きな不良って生き物はその程度でくたばるか? そういうことだよ」

 

「……なるほど、大丈夫だな!」

 

 マジで納得しやがった。と呟いた守の言葉は聞かなかったことにしておくか。実際バッドボーイサバイバーの不良は閉鎖された都市の中で何度も危険を潜り抜けているし大丈夫だろう。

 

「にしても本当に暗いな。夜子さんが借りてきた特殊ライトが無ければまともに潜れないぜ」

 

「同意する。影時間は電子機器が使えないのは本当に痛いな」

 

 ポケットの中の携帯電話を取り出すが、電機は流れていないので画面は暗転したままである。影時間の特殊な性質によって電子機器が使えないのは本当に痛い。

 

「しかしこのライトどうなってるんだろうな。影時間でも使える機械とか技術にうとい俺でもすごい代物だってことがわかるぜ」

 

「同感だ、非常に興味深い。ヨルコねーさんは企業秘密と言っていたが、今なら通信は使えないから気付かれることもあるまい。ここは一つバラしてみるか?」

 

「元に戻せなくなってシャドウに殺される未来しか見えねぇよ馬鹿」

 

 そこがネックだな、惜しいところだ。召喚器のグリップに内蔵されている青い発光物と似たようなものが特殊ライトにもあるからそれが何らかの鍵ではないかと睨んでいるが。

 

「ふと気になったんだが、お前のペルソナで光の代用できないのか? 流石にこの小さい懐中電灯一本じゃきついぜ」

 

「変幻自在のアームズでもダメだった。グレネードに付けるビーコンが行けたから懐中電灯もできるかと思ったが、武器の範疇でしか変化させられないみたいだ」

 

「そうか……危険を承知でいいのなら松明なんかもありなんだがな。その辺帰ったら調べようぜ」

 

 ダンジョン探索は続く。目指す最深部まではもうすぐだと、勘が言っていた。

 

 

 6月 / 影時間 / 朝日市

 

 

 シャドウの群れは地上でただ一人戦う湊子を追い回していた。

 

「うんうん、皆さんお揃いで何より!」

 

 笑みを浮かべながら彼女は街を駆けていく。二人が潜ってから体感で30分程経った。影時間の時間はその日によってまちまちで決められた時間続くと言うわけではない。それでも大体一時間くらいは続いており、30分すぎたということは折り返し地点ということ。この辺で畳みかけよう。

 狙い通り街のはずれにある空き地へ到着すると、中心部に立って処刑剣を構えた。逃げるのはもう終わりか。シャドウがどこかあざ笑いながら私を取り囲んでいく。それが──狙い。

 

「それでは皆さん──私のとびっきりの笑顔、見てくれる?」

 

 胸の奥からこみあげてきたどす黒い感情と共に私は笑顔を浮かべた。ただの笑顔ではない。スキル:デビルスマイル。私を見ているシャドウに対して恐怖心を植え付けてることで相手を動くなくさせるスキルで、一人で戦ってきた私にとっては生命線と言えるスキル。さらに、今宵は新たに身に着けたスキルをお見せしよう。私の思いに答えるかのように処刑剣が黒いオーラを纏った。

 

「怖い? 怖いでしょ? もう逃げたい? もうやめたい? もう──死にたいでしょ?」

 

「でも、あなたたちが喰らった命は死にたいって思ってなかったんだよ」

 

「あなたたちをあの世に連れて行くのはその命の恨みと知れ! 亡者の嘆き!」

 

 剣をぐるりと一回転。黒いオーラがあたりへ拡散してシャドウの中へと溶け込み、恐怖心を爆発させた。シャドウは次々に苦しむ悲鳴を上げながら闇へと帰っていく。何体かは嘆き声が聞こえず恐怖におびえたままうずくまっていた。黒い瞳が私を見上げる。

 

「逃げられないよ。生かしてあげるつもりはない」

 

 死ね。剣がシャドウの首を切り落とした。切り落とし、切り落とし、切り落とし。

 他の場所にいたシャドウ達が異変に気付いたのかこちらへと駆けつけてくる姿が見えた。

 

「──っ。まだまだ、夜は終わらないよ……!」

 

 スキルの連続使用でふらつく意識を無理やり現実へ引き止めると、戦闘を継続する。私がここで戦い続けなければあの二人が窮地に陥ってしまう。なんとしても戦い抜かなければ! 

 

 

 6月 / 影時間 / 地下施設

 

 

「ようやく到着した……! ここが最深部だな」

 

 階段を数回下り、ゲートを破壊したりと派手なことを行いながらもヨルコねーさんから見せてもらった施設の見取り図を参考に何とか最深部のゲート前までたどり着けた。

 

「見るからに重厚なゲートだな。俺のレッドバットやアームズでは破壊することすら難しそうだ」

 

「ロックの解除キーを差し込んだ後手動で開けられるはずだ。手伝ってくれ」

 

 端の方にあった小さな鍵穴に一見ただの鉄柱にしか見えない鍵を差し込んで回すとガチリ、と音が鳴った。それからゲートの何ヵ所かにあった小さなくぼみに手をひっかけてゲートを開錠していく。ペルソナなしでは開けるのには時間と疲労が凄まじかっただろう。

 

「ラストだ、気合入れろよ」

 

「わかっているさ。せぇ、のぉ!」

 

 ギギギギギ、と金属がこすれる音と共に最後の一枚が開く。そして私たちの目に移ったのは弱弱しい電灯の光だった。事前の話通りここは研究室で、目的地はここの一角にあるとか。

 

「……驚いたぜ。特別製の光ってやつか」

 

「っ! 守、あそこを照らせ!」

 

 床に散らばっていたり壁に張り出されている様々な書類に興味をひかれながら内部を確認していると、机の上に突っ伏している男性を発見した。守が息を吞む声と同時に走り出し、男性を揺さぶるが反応がない。慎重にこちらに向けて体を動かして顔を確認する。

 

「──ダメだ。既に亡くなっている」

 

「マジかよ……気味悪くねぇのか?」

 

「最近母親の死因となった事件について調べた過程で色々と死体については調べた。恐怖心を何とかそれで押し殺してはいるが、調べるしかないだろう。こっちは私がやる、他の場所を頼んだ」

 

「おう……すまねぇ。他は任せ」

 

 薄い明かりでも青い顔をしているのが見えた。異臭もひどいが私が彼について調べるしかないだろう。遺体の状態は悪くなかったが、起き上がらせた直後の彼の表情は苦しみに歪んでいた。

 まともな死に方をしていないのだろうな。白衣に取り付けてある名札を見ると桐条エレクトロニクスの文字と堅苦しい役職名と名前があった。ヨルコねーさんの話通りここはやはり最初に朝日市を訪れ、壊滅したチーム──便宜上、『旧S.E.E.S』と呼ぶことにしよう──の基地のようだ。

 彼が突っ伏していた机には『後に訪れた者へ』と記されたノートがある。パラパラと中身を軽く見るとこの封印施設に関する説明もあった。ヨルコねーさんの話を思い出すのにもちょうどいい少し読んでみるとしよう。

 

 

 

 ・この場所を訪れた者へ

 

 君は何者だろうか? 桐条グループのペルソナ使いか? あるいは関連組織の戦闘員か? もしや、7式アイギス……いや、ないか。こんな辺鄙な後方へ派遣される光景が想像できない。

 

 私は、朝日市で発生しているシャドウ出現に対応するために派遣された研究員であり、この基地の最後を任されたものである。これを読んでいるであろう君は我々のことを知らないと判断して話を進めよう。自称探検隊のペルソナ使いが見つけたといった想像をしている。

 

 ……これが君の力になってくれることを願う。

 

 7年前、この世界には──

 

「影時間とシャドウ発生に関する解説だな。時系列がズレているのは過去に書かれたものだからだろう。ここは省略しよう」

 

 そしてここ、朝日市でもシャドウの発生が確認された。低級な個体ばかりであるが数が増えすぎれば街への被害も甚大になりかねないと判断。先程記したエルゴ研のメンバー主導で対策チームが派遣された。私もその一人であり、最初期に派遣されたメンバーである。

 

 市長からの協力を非公式ながらも受けた我々は当初からある目的を立てて活動していた。影時間に毎晩まばらな位置に湧き出すシャドウに一々対処していては我々は消耗していくだけである。故に出現場所を一か所に絞り込めないかという研究を行っていた。

 

 その結果エルゴ研メンバーは『コア』を生成した。

 

「これだな。このコアが異常をきたしていないか調べるのが私たちの任務だ。地盤に影響を及ぼして温泉の湯の出に影響してないか、というのがヨルコねーさんの推測だったな」

 

 コアは影時間になるとシャドウを引き寄せる性質を持つ非常に危険なものだが、調整することでシャドウの出現場所を収束させることができた。当初はコア一つで収束させるのには十分という計算だったが……我々の読みは甘すぎた。ああ、収束は十分だったさ。

 

 シャドウを強化してしまうほどにな! 

 

「シャドウを、強化だと?」

 

 大量に出現しているシャドウを一か所に収束させて出現させた結果、一部のシャドウが融合して通常以上の能力を持った化け物クラスのシャドウが出現した。突然のことに我々は対処しきれず決して少なくない犠牲者を出した。コア一個ではシャドウを集めすぎてしまったのだ。

 

 故にコアを分散して設置し、シャドウの出現位置をバラバラにする必要があったが、十分な検証を行っている時間はなかった。コアは非常に強力で生半可なパワーでは破壊すら不可能なのだ。もたもたしていれば次の影時間でまた惨劇が起きる。我々は急ぎ──最後の作戦に出た。

 

 まずはコアを急ぎ量産。合計三個の製造に成功した。 

 

 続いて我々が展開していた三ヵ所の基地にコアを取り付け、急ピッチで改修工事を行って建物内にシャドウが出現するようにした。理論は理解しきれなかったが、コアを求めてシャドウが内部を彷徨うような構造に改造したらしい。こうすることでシャドウを分散させつつ実質封印できる……

 

 はずだ。はずだったが影時間を迎えた時予測不能な事態が起きた。

 

 建物が沈み始めた。まるで影時間に取り込まれていくかのように基地が全て地中へと沈み始めたのだ。我々には何が起きたのかわからなかったが最高責任者であった私は急ぎ全員退去を命じた。シャドウが出現しつつあったこの状況で何人生き残れただろうか……

 

「……確か、8割は生き残れたと言っていたな」

 

 私は調査を継続しながらこうして最深部に立てこもって命ある限りこのノートに記録を続けた。その資料をどうか桐条グループの潮見夜子という人物に届けてほしい。彼女は月光館で指揮を執っていたから、生きているはずだ。連絡先を私の名札の裏に記しておく。

 

 最後に。この基地に残された最後の兵器をここの保管所に安置している。後で見に行ってやってほしい。君の力に

 

 

 君がこの街を救ってくれることを、願う。一足先に私は薬で眠るとしよう……ああ、不味いな。

 

 

 ノートはまだまだ続いている。様々な理論や記録と思われるものが解読が難しいレベルで色々と書かれているがこれ以上は読むのに時間がかかりそうだ。一旦切り上げよう。

 

「毒死、だったのかあなたは」

 

 遺体が一見きれいなわけだ。その上ここは影時間に取り込まれた施設。もしかすると時間の流れも普通とは違っているのかもしれない。白骨化していないのは唯一の救いというべきか。

 

「誠、不味いぞ!」

 

「どうした!」

 

 遺体の瞳と口を閉じた時、守が慌てた様子でやってきた。

 

「夜子さんから聞いてた場所にコアがセットされてねぇ、誰かが持ち出してやがる!」

 

「なんだと!? まさか……シャドウか!」

 

「わからねぇよ。そりゃあ異常も起きるってわけだ。何かその辺りの資料に書かれてないか」

 

 急ぎノートのまだ読み進めていないページを確認する。コアの状態変化に関しての記録はあったが、持ち出すような事態や以上は見られない。彼が命を絶った後に異変が起きたということか。

 

「部屋は全部確認したがどこにもねぇ。ただ、一つ気になる場所があって大型兵器保管所っていう見るからにデカいゲートがあるが、入り口の開け方が完全にわからん。吹き飛ばすしかないぞ」

 

「大型兵器保管所……実に興味深い、が」

 

 嫌な予感がする。大型兵器、なくなったコア。これらから予想できる展開は、物語でいうと十中八九『そういうこと』になる。

 

 

 用心しなければ死ぬかもしれない。不安感を覚える意識を無理やり勇気で奮い立たせた。

 

 

 ここが物語であれば一つの区切り目、ゲームであればセーブポイントがあるのだろう。だが、この世界にそんなものはない。私たちが直面しているのはゲームではないのだから。

 

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