Persona Another S.E.E.S   作:あおい安室

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お待たせしました、終盤のシーンです。
……流石に今夜は更新休みます。今度こそ書き溜め全くないので間に合う気がしない。


第一の夜:補足

 守が瞳を閉じて意識を集中させる。手にしたバットが赤熱する。その間わずか1秒。

 

「――いくぜ。バスタースマッシュ!」

 

 

 重厚なゲートを一撃で破壊した。だが、守の火力に感心している場合ではない、急いで中を確認しなければ。守もスキルの影響で体力を消耗しながらもなんとか私に同行して暗い保管庫内部を照らす。内部に広がっている工具や配線が散らばる広い空間の中央に、それはあった。

 

 それは、戦車。奇妙な戦車が鎮座していた。

 

「戦車があるのは想定内だが、このデザインは……ふむ、実に興味深い」

 

 鎮座している戦車は深緑や黒と言った映画などでよく見るカラーではなく、白かった。その上にどこか西洋の甲冑に似た装飾が施されており、いうならば西洋の甲冑を装備した戦車といった雰囲気のそれが力尽きたかのように砲塔を下に向けていた。

 

「……なんでこんなものがここにあるんだ?」

 

「この基地に残された最後の兵器、と亡くなっていた男性がノートに書き記していたな」

 

「それがこの戦車ってことかよ。どう見てもただの戦車じゃねぇな……」

 

 見たところ修理途中で放棄されたようで、装甲版の一部が剥げて内部の配管などがむき出しになっている。どんなにすごい兵器でも使わなければ宝の持ち腐れということか。

 

「つーかどうすんだこれ。持ち出そうにもデカすぎてそもそも部屋から出しようがねぇよ。そもそもどうやって持ち込んだんだ?」

 

「先程の男性のノートによるとこの施設は元々地上にあったらしい。最深部であるここは一階だったと考えれば普通に施設内に持ち込むことは可能だろう」

 

「で、施設が地中に埋まって出しようがないと。仕方ない、パーツでもはぎ取って持ち帰るか? 鎧とかに改造できるかもしれないな」

 

「ふむ、それは興味深いアイデアだ。剥がせそうな装甲を持ち帰るとしよう」

 

「――おっと、それは困る。これはオレが頂くのだからな」

 

 二人しかいないはずの保管庫に、男の声が響く。声の主の方に向かって私は拳銃状態のアームズを、守はライトを向ける。そこにいたのは、ひげを蓄えた力強い顔つきで、黒い和装束に身を包んだ2mほどの大男。男は私たちを目にすると、ニタリ、と笑みを浮かべた。

 

「お初にお目にかかる。ちょいと質問だ、武蔵坊弁慶って知ってるかい?」

 

「武蔵坊弁慶……? 牛若丸と五条大橋で戦った歴史上の人物じゃないか」

 

「よく知ってんじゃねぇの。オレはその力を宿した男よ。ベンケイって呼びな」

 

 男がすぅ、と息を吸い込むと黒い闇が男に集い、薙刀を具現化させた。さらにその背には熊手、大槌、鋸、さすまた、突棒、袖絡。弁慶の七つ道具が背負われていた。

 

「で、そのベンケイさんがこんなところに何しにきやがった。今は影時間で、ここは地下の奥深くの最深部だぜ。こんなところにいるてめぇは只者じゃねえのは確実だ」

 

「ギャーギャーうるせぇなあ。話してやってるだけでもオレの優しさってわからんか?」

 

「あ? 調子乗ってんじゃ――」

 

 バットをグルグルと振り回しながら守がベンケイに近づく。危険だ、よせ! 私が止めるよりも早く、弁慶の薙刀が一閃。守のバットが半分に折れ。

 

「――が、ぁっ」

 

 守が倒れた。咄嗟に駆け寄って呼吸しているのを確認しながら、ヨルコねーさんの言葉が蘇る。武器型ペルソナはよっぽどのことがなければ破損しないが、破損した場合はペルソナ使いにダメージのフィードバックがある。守が倒れたのはそういうことだろう。冷静に判断した頭脳が告げる。

 

 ベンケイという男は、今の私たちでは太刀打ちできないほどに強い。

 

「いい判断だ。そこで俺に一発ぶち込もうとしたなら腕切り飛ばすとこだったぜ」

 

「く、そがぁっ……!」

 

「落ち着け、守! 褒められても嬉しくはないな。私は仲間を傷つけられて黙っていられるような男ではないぞ」

 

「なら撃てばいいじゃねぇか。何故撃たない?」

 

「――お前に勝てる未来が、全く見えない」

 

「ほうほう、いい判断だ」

 

 男の大きな腕が私の頭をポンポン、と撫でる。そして男は戦車へと手を触れる。

 

「では特別ボーナスといこうじゃねぇか。トラエスト」

 

 男が呟くと、辺りが突然光の渦で覆われていき、私たちもそれに巻き込まれる。意識がぐちゃぐちゃにかき回されながらも、守を離さないように肩を掴み続けた。

 

 

 6月 / 影時間 / 朝日市封印施設前

 

 意識を取り戻すと、肌が冷たい空気を感じた。見上げた空には、丸く輝く月。私たちは一瞬で地上の施設前まで戻ってきていた。腕の中には荒い息を続ける守、目の前には戦車とベンケイの姿があった。

 

「後10分くらいで影時間も終わるだろうな。そんなお前らに一つ大サービスだ」

 

 ベンケイが腕を振るうと、闇が一つの大きな円柱を形作る。その奥には鈍い青い光が見えた。

 

「まさか、それは!」

 

「お前の予想通り、この施設の奥にあったコアだ。オレ好みに調整するのには時間がかかったしまだまだ未完成だが……この戦車に使うにはもってこいだ!!」

 

 円柱が戦車の装甲に無理やり差し込まれる。闇が戦車へ溶け込むと重厚な機動音が鳴り響き始め、戦車が動き始めた。どういう仕組みなのか興味をひかれたが今はそんな場合じゃない。

 

『ディフェンス2、トゥルース3聞こえる!? そっちに強大なシャドウの反応を確認! どうしたの!?』

 

「戦車だ! ベンケイと名乗る男が封印施設に保管されていた戦車を明らかに怪しいコアを使って起動させた!」

 

「ほう、夜子か。お前がバックについているとなればこのガキどもが来たことも納得だな」

 

『――ベンケイ!? そんな、生きていたの!?』

 

「知っているのか、ヨルコねーさん」

 

『知ってるなんてものじゃない! あいつは……!』

 

「ベンケイィィッ!!」

 

 ヨルコねーさんの通信が答えを告げるよりも先に黒い影がベンケイへ突撃した。叫び声を上げながら処刑剣を振りかぶった湊子先輩の一撃をベンケイは薙刀で受け止める。

 

「元気そうじゃねぇか。オレがいない間寂しくなかったか?」

 

「黙れ! なぜ、私がこの手で殺したはずのあなたがここにいるの!!」

 

「それを教えてやる仲だと思ってんのかよ、っと!」

 

 力強くベンケイは薙刀を振り回す。湊子先輩は後ろに飛んで体勢を立て直す。

 

「あいつは私がやる。あなた達は戦車を止めて」

 

「断、る。俺もあいつには借りが――」

 

 呼吸を整えて再びレッドバットを具現化させた守を湊子先輩が制する。

 

「ダメだよ。あなたが太刀打ちできる相手じゃない。あいつを抑えられるのは私だけなのよ。もう私は仲間を失いたくない、わかって、守。これは命令よ」

 

「――わかった。終わったら色々と聞かせてもらうぞ、先輩よい」

 

「小僧ども、茶番は終わったか?」

 

 ベンケイがグルグルと薙刀を弄び、それを地面に打ち付ける。わずかに響いた衝撃波で身じろぎしながらも戦闘態勢を取る。戦車が一発の砲弾を吐き出し、今宵最後の戦闘の幕が上がった。

 

 砲撃を交わした湊子先輩がベンケイへ襲い掛かり、私たちは戦車へと向かっていく。河原をものともせずに動き回るその機動性は流石、と言ったところか。

 

『二人共、聞こえる!? 影時間用バイクでそっちに向かってる、間もなく到着するよ! 封印施設にあった戦車なら私の知識が力になれる!』

 

「よせ、ヨルコねーさん、いくらなんでも危険だ!」

 

『いくらペルソナ使いでも戦車相手に二人で戦う方が危険だよ! 野良シャドウは湊子が既に全滅させてるから道中の心配はない! 君たちは無茶をしないでそれまで生き延びて!』

 

 通信が一度途絶える。同時に戦車がこちらに向かって突撃してきた。ペルソナの作用で強化された跳躍力で何とか上を取って回避した。ペルソナなしでは恐らく瓦を赤く染めていただろう。戦車の砲塔上に着地すると、振り落とそうとして砲塔がグルグルと回転し始めた。

 

「ぐぅぅぅ、せ、せめて一発……!」

 

 シフト、アームズ。グレネードへ変形させたアームズを握りしめ、回転の勢いに従って投げ出される。空中で無理やり体をひねってグレネードを戦車に向かって放り出す。

 

「吹き飛べっ、メギド!」

 

 精神力の消費がデカいが現状では最高火力を叩き込む。

 

「バット・コンビネーション!」

 

 すかさず守が戦車の懐へ飛び込み、キャタピラを連続で殴りつける。普通のシャドウならこれだけで十分倒せるのだが、戦車のボディの強度はすさまじく堪えた様子がない。戦車が猛スピードで距離を取ると、轟音を響かせて砲弾を発射する。

 

「――っ!」

 

 砲弾は守に向かって放たれた。かわし切れないと判断した彼がバットを振り抜く。ガァン、と鈍い音が響く。信じられないことに、砲弾を撃ち返したのだ。

 

「うぉぉぉっ!?」

 

「ナイスッ! ちょこまかとうっとおしい、スクンダ!」

 

「ぐ、やるじゃねぇの!」

 

 砲弾はベンケイの方へ飛んでいき、爆発した。その程度でベンケイはくたばらなかったが湊子先輩がスキルと使う隙は出来たようだ。

 

「やるな、守」

 

「ぐ、偶然に決まってんだろ! 二度と出来る気がしねぇよ! 感想はいいから走れぇ!」

 

 戦車は不規則な動きを繰り返しながら私たちに狙いを定める。走り続ければなんとか回避は出来るがこちらのスタミナも削れている実感がある。地下施設探索後ということもあって限界も近い。

 

「ちぃっ!!」

 

 拳銃状態のアームズで射撃する。装甲を貫くどころか反射されているように見える。グレネードも効かないとなると、私に打つ手はないのか……!

 

『おまたせ! こちらナイト0、配置についた! 君たちの姿も戦車も視認できた!』

 

「ナイスタイミングだ!」

 

『あの戦車は――対シャドウ特別制圧兵装1式! まどろっこしいこと抜きにいうと影時間用に特別改造された戦車だよ!』

 

「影時間用、通りで固いわけだ。何か弱点はねぇのか!」

 

『内部に特殊回路とか満載してたから武装は砲塔の主砲のみ。だけど弾数が馬鹿みたいに多いから弾切れを狙うのは得策じゃない。ベンケイが使ったコアでおかしくなってる可能性もあるし……』

 

「弱点が弱点してねぇ……」

 

 守の呆れ声に同意しつつ砲弾を前転してかわす。くっ、河原だから石が意外と痛いな。

 

『装甲の硬さも放置されていた初期モデルとはいえ、大分硬いからいくらペルソナ使いでも破壊するのは難しすぎる。攻撃するのなら内部しかない!』

 

「その方法は何かないのか! 乗り込むのは難しいぞ!」

 

『そうだね……おや? 何ヵ所か装甲が黒い部分が見えるんだけどあれって何かわかる?』

 

「装甲の黒い部分、か」

 

 砲塔やキャタピラを覆う装甲をよく見ると黒い部分があった。元々白い車体だったからそこがよく目立っている。あの場所は確か――修理中と思われる場所。

 

「確か装甲が装備されていなかった場所だ!」

 

「そういえばそうだな……いつの間に装甲が増えたんだ?」

 

『装甲の自動修復機能は7式アイギスには一部導入するとか言ってた記憶がある。1式にそんなギミックはないし残されていた装備で組み込めるはずはない。あれを再現するのはそもそも――』

 

「自動修復機能だと? 実に興味深いな」

 

「いいから結論を言えや夜子ォ! 俺たちを殺す気か!」

 

 あ、守がキレた。

 

『は、はいいっ! 多分その部分はコアの影響で再現された装甲。推測だけどその部分はシャドウで出来ている可能性が高い。ペルソナ使いの攻撃が有効に刺さる場所だよ!』

 

「なるほど。だがそれだけで致命傷にはならないかもしれないが」

 

『大丈夫。あの戦車は影時間でも動作させるための機構を搭載させていないし、そのために改造していたけれど間に合わなかった。となると――』

 

「あのコアの影響で動いてる可能性が高いのか。装甲に無理やり突き刺すようにして入れたんだ、僅かなショックでもコアに影響があるかもしれんな」

 

「推測まみれで不安だが……やるしかねぇか! 誠、範囲攻撃のマハラギバッティングだ!」

 

「了解だ!」

 

 戦車にかき乱されてお互いの距離は決して近くはない。だが、投げるのにはちょうどいい距離だ。戦車の動きを確認しながら守に向かって焼夷グレネードを投げ込む。守がそれを戦車に向かって打ち込み、タイミングを見計らって起爆する。白い装甲は焦げ付くだけだったが、黒い装甲は焦げるどころか溶けた。驚きながらもそこに向かって射撃を加えていく。

 

『――熱に弱い? もしかして排熱機構の問題が弱点として反映されているの?』

 

「熱ねぇ。なるほど、そいつはいい話を聞いた」

 

 守が見たものに恐怖を与えかねないほどのいい笑顔を浮かべて戦車に向かって駆け出す。バットが赤く赤熱する。バスタースマッシュ……いや、バスタースマッシュよりも赤く輝いている!

 

「初公開の新技だ!心まで溶かしちまいな! バーニング・フィニッシュ!」

 

 輝くバットが炎を纏い、装甲の隙間へ炎の竜が叩き込まれる。あまりもの威力に戦車がわずかにのけぞった。

 

「ひるんだ、チャンスだぜ誠!」

 

「そうだな――出し惜しみなしだ、総攻撃といこう!」

 

 アームズを剣へ変え、守と同時に切り込む。溶けた装甲が修復しようとしているが、その前に何度も、何発も攻撃を叩き込む。戦車のエンジンがうなり声のように抗議すると、私たちの囲みから逃げ出していく。守はやれやれ、と言った様子でそれを見届けた。

 

「おーおー、逃げちまったな。で、お前のことだ、何かやってんだろ?」

 

「当然だ」

 

 動きを止めたのであれば、グレネードを設置する余裕は十分にある。戦車の砲塔がこちらを狙う。これまでの経験だと、発射されるまで、3、2、1……

 

「メギド」

 

 砲弾が発射されるタイミングに合わせて砲身へ転がしておいたグレネードを起爆。戦車は派手に爆発し、砲塔が天高く吹き飛んだ。舞い上がった破片の中にはコアらしき青い光もあったが、砕け散って空へと消えていった。うむうむ、なかなかの火力である。

 

『ヒュウヒュウ! いいねぇ、たーまやー!かーぎやー! ってやつ?』

 

「ヒューッ、いいじゃねぇの。さっすが俺の相棒だぜ」

 

 スキルの影響で疲労し、地面に座り込む。守がバシン、と背中を叩いた。

 

「相棒?」

 

「おう、そういう呼び方もありだろ」

 

「……実に興味深い。今後はそう呼びあうとしよう……相棒」

 

 突き出した拳をガシンとぶつけ合う。二人の間の絆がさらに固く、強くなったのを感じた。

 

 

 

 こうして、第一の夜は明ける――

 

 

「待て、湊子先輩はどうした」

 

『大丈夫、生きてるよ。戦車が撃破されたタイミングでベンケイには逃げられたけどね……ごめん、ちょっと疲労で動けそうにないから回収お願い』

 

『そっちには私が行くよ。君たち二人は戦車をどうにかしてどけておいて』

 

「りょうか……ん?戦車を?」

 

『放置しとくわけにはいかないでしょ。はあ、これ始末書物かなぁ……』

 

「……誠、動けるか?」

 

「時間をくれ。まだメギドを使った影響でめまいがする」

 

「俺も体クタクタだっての……あんなデカ物どう片付けりゃいいんだ。お前の興味でどうにかならねぇ?」

 

 なるわけがないだろう。




 対シャドウ特別制圧兵装1式
・桐条グループが開発した対シャドウ特別制圧兵装の初期モデル。7式がペルソナ3本編に登場する『アイギス』である。
 開発初期の3式までは形状が人ではなく車両であったという公式設定から、1式は戦車であると考えたがあくまで本作オリジナル設定なのでご注意。

 ちなみにペルソナは使えないのでシャドウ討伐は不可能。シャドウに対する砲撃でダメージを与えながらペルソナ使いとの連携で実力を発揮する予定だったが、改造が間に合わず使われなかった。
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