東方空蝉録   作:Amaryllis___

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弔いに煙鉄を

メアリーは人なのだろうか。

 

メアリーと出会ったのはつい数刻前だが、私は既に幾度となくこの謎に襲われている。

その疑問が出る度に私は頭を軽く回転させ、最終的に辿り着く結論は…

 

 

(どちらとも断定はできない、かな。)

 

 

カメリアはハーフヴァンパイアであるが、月光の力は種族の特色とは関係がない。

つまり理論上、人間でも信仰による奇跡を行使することは可能であるということだ。

 

とはいえ、どちらかというと“人間ではない”方に私の予想は傾いているのは確かである。

 

もちろんそれには理由があって、

 

 

「それは矢のつもりかね?そんな淡い力では幾重に打ち込もうとも徒労に終わるだろうさ」

 

「いちいち煽るな!ホントに腹立つ!」

 

 

私達に向かって嵐のように降り注ぐ光の矢を、メアリーは軽口を叩きながら難なく防いでいる。

メアリーの背丈程もある十字架を起点に召喚された数多もの十字架が、全ての矢を正確に打ち消しているのだ。

 

事前に打ち合わせたかのような正確さを目の当たりにしちゃうと、メアリーが人であるなんてとても思えないよね……って。

 

 

「“波浪”。」

 

「くっ……!」

 

 

矢の雨が止むタイミングを見計らった私は即座にメアリーの前に滑り込み、マリアに向けて波浪を放った。

メアリーがマリアの攻撃をいなし、私が隙を見て波浪を叩き込む。

 

配役としては完璧だけど、正直メアリーだけでマリアを倒せそうな気はする。

…私、足引っ張ってないよね?

 

 

「……埒が開きませんね。盃を共有し、天使としてではなく“悪夢を司る者”としてお相手しましょう」

 

「……!悪夢…。」

 

「さあ灯音、ここからが本番だ。ぬかるなよ」

 

 

“悪夢を司る者として相手する”

マリアはそう言うと、静かに目を瞑った。

……魔力の流れで、確かに魂が変動しているのが分かる。

いや、変動というよりは一体化だろうか。

 

そんな考察もつかの間、マリアは開眼する。

 

金と紫のオッドアイとなり、白く輝く翼を3対へと変化させたマリア。

より神聖な容姿になったはずなのだが、溢れ出す魔力は邪悪極まりないものであり、私の眉を密かに歪ませた。

 

 

(灯莉の気配が強くなってる……。)

 

 

信じ難いことに、この邪悪な魔力と同時に灯莉の気配が色濃く変化したのである。

 

あたかも、灯莉が邪悪な存在であるかのように──

 

 

「いひっ。お姉ちゃん、さっきぶり!」

 

 

無邪気な笑みを浮かべた“そいつ”は灯莉と全く同じ笑顔で冗句を吐いた。

何が信じ難いって…東京湾沿岸で出会ったカナの方がよっぽど灯莉らしいのに、ここまで灯莉とかけ離れた邪気を放つ“こいつ”が灯莉であると直感的に思ってしまったこと。

 

私の直感は残念な事によく当たるのだ。

そう、残念な事に。

 

 

「ごめん、メアリー。少し無茶する。」

 

「ククク……ぶつけてこい、灯音」

 

 

私固有の残念な特技によって、酷い不快感と失望感に苛まれる。

 

 

理想と現実は違うもの。

本当は気づいていた。

 

 

諸悪の根源は“こいつら”で、燻莉は被害者の一人なのだと。

悪夢によって踊らされ、一人で戦っていたのだと。

 

 

そして燻莉は、同じく悪夢によって踊らされた私の手で──

 

 

 

───本っ当に、

 

 

 

「最悪。」

 

 

 

言葉がひとつ、零れる。

 

 

「おっ?」

 

 

手にしていた止水を“それ”に投げつける。

 

ガラスの如き勢いで破砕した止水の魔力片が飛び散る。

波浪よりも一層強烈な魔力の波が噴出し、巨大な渦潮のような大津波を起こした。

 

 

「……っ。」

 

 

キラキラと舞い、煌めく欠片。

目を奪われそうな程に神秘的な光景が鬱陶しい。

 

目を瞑る。

目を逸らす。

 

私の目が奪われていい景色は、これではない。

 

 

「少し吃驚はしたけど、この素体じゃ通じないかなぁ」

 

 

魔力の大災害に飲み込まれた“そいつ”は、当然だと言わんばかりに再び姿を現した。

先程まで通常の波浪でダメージを受けていたとは思えぬ程の大幅な強化である。

 

強力な武器である止水を捨ててまで力を注いだ攻撃が通じない。

 

所謂、絶望的な状況。

武器と共に戦意すら手放すような、そんなレベル。

 

 

 

今日の勘は、無駄に冴えてるな。

 

 

 

「私に赦しは早すぎるよね、お母さん。」

 

 

 

“幻想の力を帯びた武具は、神力を扱う存在に効果的”…だっけ?メアリー。

 

生憎、私には幻想についての知識が充足ではない。

 

けれど、かつて数多の妖怪を屠り貪り喰らった狂人の話は知っている。

そして彼女が扱う武具もまた、この目に収めているのだ。

 

 

気づけば私は駆け出していた。

 

 

右手……じゃ足りない。

両手に力を注ぎ、脳内で設計図を書き起す。

 

質感。

熔鉄を冷やしたような重厚さ、岩肌のような無骨さ。

 

形状。

先端が三日月のように湾曲し、その他の刃は直線に伸びている。

持ち手は単純、ただ棒が伸びているのみ。

 

錬成、そして命名。

 

 

贖罪と弔いの意を込めて───

 

 

「召喚、“煙鉄”!」

 

 

跳躍しながら、召喚を行った。

かつて再会した燻莉が手にしていた巨大な鉄塊だ。

 

 

「それは…!お母さん(あいつ)の…ッ!?」

 

 

強烈な光と共に召喚された重い煙鉄を、全身全霊の力をもって振り下ろす。

想像を絶するような鈍い金属音と共に、煙鉄に衝突した“そいつ”は瓦礫の山に吹っ飛んだ。

 

 

「はぁ……はぁ……。」

 

 

悪夢に踊らされたのは私も同じ。

思えば霧の湖で目覚めた時から、私は悪夢に苛まれていたのかもしれない。

 

何故か幻想郷でカメリアと再会し、何故か夢幻館に狙われた。

カメリアが幻想郷に来た理由は分からないが、夢幻館に関しては今なら理解出来る。

 

悪夢に蝕まれた燻莉が私の命を夢幻館に狙わせた。

しかし強力な素体を持つ燻莉は悪夢に抗い、悪夢と現実が混濁した状態になっていたのだろう。

故に支離滅裂な発言や行動を繰り返していたが、その中でも事実を説明しようと務めてくれた。

 

それなのに、半身以上を悪夢に侵されてしまった私は──

 

悪夢によって歪められた幻実を信じ込み、燻莉を屠ったのだ。

 

“悪夢を…終わらせて……”

 

罪人である私にできる、ささやかながらの贖罪。

それは最期まで悪夢と戦い続けた燻莉が、力を振り絞って遺した最後の頼みを遂行することだろう。

 

当時は分からなかったが、幻想郷に来た時に私に発現した能力は燻莉と同じものだった。

 

きっとこれは、今まさに───

 

 

 

「この時のため、だったんだろうね。」

 

 

 

私は重たい煙鉄を振り上げて肩に乗せると、静かに追悼した。

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