東方空蝉録   作:Amaryllis___

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椿

あれから数日が経った。

 

カメリアは未だに目を覚まさないものの、容態は安定したとの事で、血縁である紅魔館にて療養する事となった。

 

私の家でなくていいのかと鈴仙は言ってくれたが、せめてレミリア達に囲まれておくべきだと断った。

もちろん、そんなのは建前に過ぎない。

 

 

「結局、合わせる顔が無くて逃げてるだけなんだけどね。」

 

 

私が原因である以上、私がこの結果を招いたと言っても過言では無い。

自分への怒りと、カメリアへの罪の意識が私を蝕む。

こんな事言ったら、カメリアに怒られることも分かってるんだけどね。

 

 

「どちらにせよ、私が弱いことに変わりは無さそうだ。」

 

 

ブツブツと独り言を宣いながら、私の手癖が意図せず煙草に火を灯した。

これがニコチン中毒患者の典型的な症状である事は火を見るより明らかである。

 

とはいえ、せめて見舞いだけでもと思いたち、紅魔館に歩みを向けているわけだが、その足は進むにつれて重みを増している。

 

 

「キュルルル…」

 

「ん?」

 

不思議な鳴き声に釣られて顔を上げてみると、高い声に似合わず凶悪な顔をした妖怪が佇んでいた。

気がつけば周囲は随分と暗くなっており、森は夜の訪れが早いことを実感する。

 

夜は妖怪の領域。

そこに佇んでいた妖怪は、私の顔を見るなり大きな口を開けて襲いかかってきた。

 

 

べちゃ

 

 

迫り来る妖怪を大槌で叩き殺し、タバコの灰を落とす。

こんなもの、これまでの戦いに比べれば随分と可愛らしいものである。

私の悪夢が終わったとて、幻想に住まう力無き人間達にとってこの夜が悪夢と相違ないことは覆らぬ事実。

私にその気がなくとも、こうして妖の類がひとつ減ったことは喜ばしいことなのだろう。

 

 

「…そんな事は、どうでもいい。」

 

 

思考を断ち切り、私は再び紅魔館へと足を進めようとした。

視界に見覚えのある小さな人影が映るまでは。

 

 

「カメリア姉様に会いに行くの?」

 

「君は…あの時の。」

 

 

背中から宝石の羽を生やした少女。

夜であっても目を奪う美しい七色の光。

レミリアやカメリアの妹である、フランドール・スカーレットだ。

 

 

「お姉さんのせいで、カメリア姉様は目を覚まさない」

 

「それは…「そう思ってるんでしょ?」…え?」

 

 

心を見透かされたような発言につい反論しようとするが、その言葉は彼女に重ねられてしまった。

元より、反論できる言葉なぞ存在しないのだが。

 

 

「カメリア姉様はそんなこと思ってないよ。もちろん私達も」

 

「で、でも…私が原因なのは変わらないんだよ。」

 

 

カメリアも紅魔の住人も皆暖かいことは知っている。

私のせいだなんて誰も思っていない。

だからこそ、罪の意識が募るのだ。

 

これではまるで人のせいだ。

 

 

「きっとその気持ちが足枷になってるんだろうと思って、迎えに来たよ」

 

「……。」

 

 

子供に迎えられるなんて、立派な大人が情けないものだ。

立派?果たして本当にそうか?

今更大人がどうとか言えるのであれば、まだ立ち上がれる余地はあるのだろう。

 

 

「ほら、カメリア姉様もきっと喜ぶよ」

 

「…うん、ありがとね。」

 

 

すっかり牙が抜けたような私に、フランは困ったように微笑みながら手を差し出した。

それがなんだか灯莉に似ていて、つい感情が昂ってしまう。

 

昂りを抑えつつ、私はフランに手を引かれて紅魔館へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

久しく見る真っ赤な壁。

鋼鉄の門をくぐり、大喬を抜けた先の豪華な玄関扉。

随分と懐かしい気もするし、つい昨日訪れたような気もする。

人間とは不思議なものである。

 

この扉を開けるのに必要な鍵は一握りの勇気だ。

しかし、その勇気を振り絞る前に扉は開いた。

 

 

「いらっしゃい、カメリア姉様が待ってるわよ」

 

 

扉の先から現れたのはレミリア。

運命でも視たのか、私が訪れることは筒抜けだったようだ。

 

待ってるって言っても、カメリアは寝たきりじゃないか。

なんて、情けない本音は捨て置こう。

 

 

「こんばんは、案内お願いね。」

 

「はいはい、こっちよ」

 

 

レミリアとフランに案内され、カメリアの部屋へと向かう。

道中は他愛ない雑談をする…はずなのだが、やはりこんな状況。

取り繕ってはいても、二人にも思う事があるのだろう。

 

あんまりにもぼーっと考え込んでしまっていたのか、カメリアの部屋には瞬く間に辿り着いた。

 

この扉を隔てた先に、カメリアはいる。

 

 

「…私達は席を外すわ。行くわよ、フラン」

 

「うん」

 

 

二人が気を使ってその場を後にし、私は部屋の前に取り残された。

ここまで来たんだ、もはや迷う事もあるまい。

 

 

「……っ。」

 

 

息を呑み、扉を開く。

 

扉の向こうは私が思っていた光景とは違っていた。

時間が止まる。

開け放たれた部屋の窓から冷たい風が吹き込む。

 

夜空を眺める白い輪郭。

純白の帳が揺れ、視界が歪んだ。

 

 

「遅いじゃない」

 

「あっ……。」

 

 

美しい漆黒の瞳が私を貫く。

 

 

「灯音」

 

 

幻想郷では、桜の蕾が顔を出していた。

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