東方空蝉録   作:Amaryllis___

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神託はトリップにて

月光の力を宿し、白い光を纏わせる“月の神託(ルナ・オラクル)”。

どうやらこの光には質量が存在するようで、先程光を纏った時に微かな重みを感じた。

 

魔術の頂であるはずの“月の神託”が何故ここで発現したのかは分からないが、利用できるものは利用させてもらおう。

 

黒剣を構えたくるみは依然こちらの様子を伺っているようだ。

幻想郷の住民ですら強い警戒が見られるその瞳に、この世界でもこの力は有用だということを確信する。

 

 

 

「あぁ…クククッ…笑いを堪えきれないわ…フフッ…」

 

 

 

非常に気分が良い。

私は口角を吊り上げながらくるみを見下ろし、ジョイントに火をつける。

そして月を仰ぐと、月光に神の存在が浮かびあがった。

その神はギザギザとした長い尾を揺らめかせ、死肉のように歪んだ赤い腕を広げて私を見下ろしている。

あぁ神とは…かように強大な存在なのかと、月光に神を見出す度思ってしまう。

 

 

 

「気でもふれたの…!?何も居ないじゃない!」

 

 

 

「怯えることは無いでしょう?神の御前よ?」

 

 

 

月光の神を前にして「何も居ない」とは、随分と許し難い冒涜である。

やはり神罰はこの少女にこそ相応しい。

空を穿つようにマチェットを振り上げ、“月の神託”をより一層強い物へと昇華した。

 

 

 

「死なないといいわねぇ」

 

 

 

少し離れたところに居るくるみに向けてマチェットを強く振り下ろすと、マチェットに宿っていた“月の神託”が波を立てるようにくるみに襲いかかった。

何とかその波を躱そうとしたくるみは“月の神託”の余波に巻き込まれ、接触面の皮膚が燻り爛れる。

 

 

 

「…ちょっと準備を整えないとヤバいか」

 

 

 

爛れた皮膚を悲痛な表情で見つめたくるみは大きな翼をはためかせ、月に影を落とした。

月光の神がいた所と同じところで浮遊したくるみに私は激しい憤りを覚え、左のデザートイーグルを空高く浮遊した彼女に何度も発砲した。

 

しかし既にかなりの高度へ到達していたため、私の放った銃弾は彼女に届く事なく彼方へと姿を消した。

 

 

 

「今日は諦めてあげる!でも次会った時は覚悟しておいてね!」

 

 

 

くるみはそう言うと、上空から黒剣を地上に向けて投げ落とした。

くるくると回転した黒剣はやがて私の目の前に突き刺さる。

 

明らかに優勢だったのは此方のはず…何故あんな上から目線になれるのだろうか。

あたかも自分が優勢だったとでも言うような口ぶりであった。

 

 

 

「…今に見てなさい」

 

 

 

突然の事で昂っていた感情も完全に冷め、私は煙草に火をつける。

月光を信仰するがあまり、少し冷静さを欠いてしまったのは反省点だろう。

 

そんな事を考えながら、私は襲撃者の居なくなった竹林で一人煙をふかすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭で迎える初めての朝、できればこれを最初で最後にしたいものだ。

朝起きたら何故か知らないが、カメリアの傷が増えていて、何だと思い聞いてみると「先に朝食にしましょ?」とのこと。

話す気があるのか無いのかよく分からないが、一先ず私達は朝食を摂ることにした。

 

 

 

「あら、日本食なんて久しぶりよ私」

 

 

 

「日本食は好き?」

 

 

 

久々だという日本食を見て、嬉しそうな表情をするカメリアに私は何気なく問いかけた。

ほんとに何気なく、他意は無かった…というかある奴いるのかな?

そしたらこんな返しをされた。

 

 

 

「貴女と同じくらい好きよ」

 

 

 

「はぁ?」

 

 

 

まさに絶句。

突然の告白なのかふざけているだけなのかは知らないが、そういうジョークは勘弁して欲しい。

つい眉間に皺を寄せて嫌な感じの反応をしてしまい、それに気づいて「ごめん。」と謝る私。

するとカメリアは心底おかしそうに笑ってこう言った。

 

 

 

「ふふふ、ほんっとに貴女のそういう所好きよ!」

 

 

 

「な、何…?今朝は随分と機嫌がいいんだね。」

 

 

 

珍しく大きな声を出すカメリアに身体をビクッと震わせた私は、若干引き気味の笑いでそう返した。

ハッキリ言って気味が悪いし、正直私は既に引いている訳だが。

カメリアの傷を見た限り、私が寝た後に何かあったようだが、それがそこまで上機嫌を誘うとは思えない。だって怪我するような事だよ?

 

 

 

「ふふふっ、朝食の後でゆっくり話しましょ?」

 

 

 

「…飽くまでも後でなんだ、まぁ楽しみにしてるよ。」

 

 

 

私は朝が苦手なので、正直朝っぱらからこんなハイテンションの人がいると着いていけない。

今までこんな事無かったのに!もしかして乗っ取られてる?

…まさかね。

 

 

 

「そうそう灯音?」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

相変わらずニコニコと笑顔を絶やさないカメリアは首をこてんと傾けて私に呼びかけた。

なんだ意識してやってるのか?あどけなさが滲み出てるぞ。

そんな事を思ったのも束の間、カメリアはとんでもない事を言い始めた。

 

 

 

「私お家無いから、貴女のお家いかせて?」

 

 

 

「え。」

 

 

 

この女、私の家に居候するつもりだ。

いや別に家に来る分には良いのだけれど、私は結構一人の時間を大切にするタイプ。

その時間が奪われてしまうと考えると少々渋りたくもなる。

 

ちなみに永琳には「貴女達回復早いのね、今日でもう退院していいわよ」と言われている。

 

お分かりだろう、もし許諾してしまえば私の一人の時間は今日から消えてなくなるのだ。

とはいえ相手はカメリア、正直言えば力になってあげたいけれど…うーん。

 

 

 

…しょうがないか。

 

 

 

「…いいけど、ちゃんと自分の家も探してね。」

 

 

 

「いいの?言ったわね?やったぁ!」

 

 

 

悩んだ末に私はとうとう首を縦に降ってしまったわけだが、子供のように喜ぶカメリアを見て何だかどうでも良くなってしまった。

何故こんなに機嫌がいいのかは分からないが、友人が笑顔で居てくれるなら別に悪い気はしない。

 

はぁとため息をつきつつも、私は微笑んでいたのだった。

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