朝食を食べ終え、数少ない荷物を纏めた私達は永琳達に挨拶を済ませる。
カメリアは鈴仙に特別迷惑をかけたということで頭を下げ、鈴仙は両手をぶんぶん降って「大丈夫ですよ」と言ったが、「近いうちにお詫びの品を用意させてもらうわ」と言って聞かなかった。
どうも私の知り合いには頑固な性格が多いらしい。
ちなみに妹紅は昨晩のうちに永遠亭を去っていたようで、「灯音達によろしく」と言い残したという。なんとも妹紅らしい。
そして永遠亭を出て朝霧のかかった竹林を抜けた後、我が家のある人里の方に向かう。
人里には囲いがされているのだが、その囲いの門番にすら「久しぶり」と声をかけられた。
私この人の顔覚えてないんだけど、この人私の顔覚えてたの?もしかしたらワンチャンあるんじゃね?
無いし、別に欲しくもない。
そんなこんなで約2時間ほどかけて漸く我が家に着いたわけだが、カメリアは古風な日本建築を見た途端「壮観ねぇ」と感嘆の声を漏らした。
それはそうだ、物欲の全然無い私は金が在り余っており、金があるならば折角だということで唯一奮発したものがこの家であるのだ。
ほら、一人の時間は大事でしょ。
玄関の引き戸を木の擦れる音と共に開け放ち、久しき我が家の匂いを鼻に吸い込む。
隣にいるカメリアも私の行動を真似て鼻をスゥーと吸い込んでいた。
「そうだね、とりあえずいらっしゃい。」
「お邪魔するわ…いえ、ただいま」
いや君この家来るの初めてだよね?最初ちゃんと言えてたのにどうしたの?日本語不安になっちゃった?
朝食の時と同じく、相も変わらず笑顔を絶やさないカメリアはブーツを脱いで居間にあがってトレンチコートを脱いだので、私はそれを木製のハンガーに掛けてあげた。
「…お茶淹れるね。」
なんかもう既に疲れた気もするが、一度許諾してしまったものはもう戻らない。
私はもう一種の諦めを抱き、カメリアをもてなす事にした。
「ありがと、ここに座って待ってるわね」
「いいよ。」
とはいえカメリアは元々お嬢様だったらしく、黙っていれば礼儀の正しい綺麗な女性に過ぎないのだ。
何故お嬢様育ちのカメリアが戦場に行ったのかは謎だが…
そこはなんとなく深く介入しない方が良い気がして、その辺の詳しい事情は聞いていない。
机の上に二杯の冷茶を置き、私はカメリアの前に座る。
すると早速、カメリアは私の目をじっと見ながら口を開いた。
「昨晩の話、聞きたい?」
「…聞きたい。」
ニコニコしながら聞いたカメリアは、私の返答を聞いて口を抑えてふふふっと笑った。
なんとも上品な笑い方だが…なんだかおちょくられている気がする。
しかし、昨晩にしたであろう怪我も気になるし、私には聞くという選択肢しか実質残されていないのだ。
「灯音が私を部屋まで送ってくれた後、私は少し外出したの」
「なんで?」
最初から意味がわからない。
腿を怪我してるのに外出して歩けなくなったらどうするつもりだったのだろうか。
夜の竹林は妖怪の数も桁違いだし、視界も悪いので、あまり歩くべきでは無いのだ。
「…まぁそれは良いじゃない。」
「…それで?」
上手く誤魔化されたような気もするが、カメリアが話したくないのならばそれを深く聞くのは野暮というものだろう。
私は諦めて続きを話すように促した。
「私を貴女の元へ遣った元凶に会ったわ」
「え?」
「私が与えられた任務をこなせなかったから迎えに来たそうよ」
展開が早すぎないか?
昨日今日の話じゃないか、相手方はそんなにせっかちなのだろうか。
それにしても、やはり妹紅の推理は結構的を射ていたようだ。
能力によるものかはまだわからないが、人為的な要因である点においては正しかったらしい。
「その女の子の名前はくるみ、吸血少女らしいわ」
「くるみ…聞いたことないなぁ。」
吸血少女…という点で、吸血鬼が住んでいるという館の話を思い出したが、確かそこの吸血鬼の名はレミリアだかレガリアだか…そんな感じの名だったので別人だろう。
カメリアとレミリアってなんか似てない?
「それで、戦ったの?」
「戦ったわよ。結構追い詰めたつもりだったんだけれど、結局逃げられちゃったわ」
手を広げて残念そうにため息を吐くカメリアだが、私はそれ以上に解せないことがあった。
「…一人で行かないで、危ないから。」
確かにカメリアは強い。強いが、それは現世での話だ。
幻想郷は様々な能力を持った存在と、様々な魔法を使う存在、凶悪な隋力を持った存在などに溢れている。
そんな存在達に怪我したカメリアが挑むなど、危険すぎるし心配になってしまう。
するとそれを聞いたカメリアはきょとんとしてすぐに笑った。
「心配いらないわ、私が灯音を守るわ」
「全く…。」
今朝に引き続き、よくもまぁこんな小っ恥ずかしい事を平然と言えるものだ。
カメリアはそう言って笑っていたが、やがて先程までの微笑みに戻り、続けてこう言った。
「でも、ありがとね」
「…別に。」
突然お礼を言われ少し顔が赤くなってしまい、咄嗟に誤魔化したが、そっぽを向いたことで逆にツンデレっぽくなってしまった。
別にツンデレなんかじゃ…ないんだからね!多分。
「けど本当に危ないからね、意識奪われた前科があるんだから。」
「はぁい、けれど灯音も知らないとなると何処かで聞き込みしないといけなそうねぇ」
くるみと名乗る女を私は知らない。
となるとカメリアの言った通り、人里の有識者などに聞いて回るべきだろう。
とはいえ、これ以上私の問題にカメリアを巻き込みたくないのが私の正直な気持ちだ。
カメリアは私を守ると言ってくれているが、本当ならカメリアにはこのまま平和にいて欲しい。
平和に火を灯して煙を煽る私が言うのもなんだが。
「…灰皿、持ってくるね。」
「えぇ、ありがと」
そんな事を考えていたら喫煙欲求が生まれてしまった。
少し煙草の事を思い出すだけで脳が激しく煙を求めるのだ、私も立派なヤニカスになったものだ。
灰皿を取りに行きながら、私は平和と書かれた煙草に火を灯したのであった。