陰りつつある空の下、既に通行人は消えつつあり、私とカメリアは並んで歩いている。
カメリアは家の玄関を出た時こそ手を離さないでいたが、私が「そろそろ離して」と言うと案外あっさりと手を離してくれた。
通行人こそ居ないが、人里の店は基本的に午後5時頃まで営業しているので、まだ夕飯の買い出しは可能だ。
だから私とカメリアは他愛ない話をしながらのんびり歩いている。
「ちょっと寒いね。」
「私としてはこれくらいが丁度いいわ」
ふふふっとカメリアが笑う。
それにしても、カメリアは昔からよく笑う女であった。
思えば私はあまり笑うことが無いのでカメリアと私は正反対なタイプのはずだが、そういえば何故仲良くなったのだろうか。
何となくそんなことを考え、私はカメリアに聞いてみることにした。
「私達ってなんで仲良くなったんだっけ。」
「あら?覚えてないの?」
私の質問にカメリアは少し寂しそうな、悲しそうな顔をした。
そんな顔をされると私としても少し心が痛んでしまう。忘れててごめんねカメリア…。
カメリアは顎の下に手を置きながら話し始めた。
「確か、私のデザートイーグルに貴女が反応したのが始まりだったわねぇ…」
「え、そんなことあったっけ?」
「ふふっ、貴女は昔から夢中になると我を忘れる癖があるものね」
「…そうだね。」
カメリアの言っていることは正しい。
私は昔から、何かに夢中になるとそれだけしか目に入らなくなってしまう癖があった。
そしてその夢中な時間が終わると、大抵はその事を忘れてしまうのだ。
多分これ皆もあると思うんだけれど…無い?あるよね???無いか。
「まぁ、だからこそ貴女は抜群な戦闘センスを持っているのかもしれないわね?」
「あはは…嬉しいんだか嬉しくないんだかって感じ。」
柊灯音は根っからの戦闘狂…あたかもそう言われているかのような気がして、私は苦笑した。
全く間違いでは無いのだけれど、生物学上は女の私がここまで血狂いで良いのだろうか。
だから27になっても独り身なのではないだろうかと、余計な事を考えてしまう。
「これじゃあ一生独り身も有り得るな…」
ふとボソッと呟いた言葉に反応して、カメリアは目をギンッと見開いて私を見つめてきた。
あ、なんかもう何言うか察しついた。
「貴女には私がいるじゃ「お、でかい白菜だ。カメリア白菜好きだよね?」
「………ええ」
話しながら歩いている間に八百屋に着いたので、カメリアの言葉を遮った私は一際目立つ白菜を手に取る。
カメリアは少し不服そうにしながらも、私と一緒に野菜を吟味し始めた。
〇
買い物を終え、何事も無く帰宅した私達。
帰宅するや否や、カメリアが夕飯を作りたいと言ってきた。
私としてもそれは非常にありがたい。
なので料理はカメリアに任せ、私は浴槽の火を焚くために風呂場に向かった。
「FIRE AFTER FIRE〜♪」
カメリアが家に来てから久しく感じる一人の時間、私は上機嫌にお気に入りの歌を口ずさんでいた。
この歌は、おぞましい顔をした悪魔達が作ったものであり、私はそのパンクな曲調を非常に気に入り、レコードが出る度に聴いているのだ。
歌を口ずさみながら、家の裏口に置いてある薪をいくらか持ってきて浴槽の下に投げ込む。
そして火打石で火を…幻想入り直後ならそうしていたが、今ではそれも面倒臭い。
私は能力で火炎放射器を召喚し、乱雑に集められた薪に向けて発射した。
業火が薪に襲いかかる。
「ヒャッホォーー!!!!汚物は消毒だぁぁぁぁ!!!!」
家中に響く私の大声。
見ての通り、私は一人の時は意外とテンションが高い。
だからいつもの癖で世紀末のように大声をあげてしまったわけだが、私はカメリアの存在を忘れていた。
やばっと思って後ろを振り返ると、そこには笑いを堪えた表情のカメリアが立っていた。
「え…っと、ご飯できたわよ?ふ…ふふっ…」
「…うん、ありがと。」
できれば早急にカメリアを家から追い出さなければ、私の時間と尊厳はどんどん失われていってしまう。
そして、クスクスと笑いながら去っていくカメリアの背中を見つめながら私は呟いた。
「…死にた。」
…なんやかんやでお風呂を沸かし終えた私は、夕飯を用意してくれたカメリアのもとへ向かう。
そこには涙目になって笑いを堪えているカメリアの姿。
こいつまだ笑ってんのか…早く家見つけてくれ…。
とはいえ、夕飯を作ってもらったわけだし、そこは感謝している。
私はカメリアの向かいに座り、手を合わせた。
「美味しそうだね、いただきます。」
「ふふっ…召し上がれ…ふふふっ」
「…いつまで笑ってんの。」
「いつも無表情で静かな灯音が、あんなに楽しそうに叫んでるんですもの…そんなの笑うに決まってるわ…ふふっ」
「………。」
そりゃ、一人の時でさえ何にも考えずに冷たい態度じゃ心が荒みそうじゃん…
そんなの仕方ないじゃん…1人の時くらいヒャッハーしたいじゃん…
でもこの私を知らない人が見たら、確かに笑わないわけないよな…
ひと握りの殺意を抱きながら、私はその殺意を押し殺してお箸を手に取り、鮭のムニエルを口に入れた。
パリッとした薄い衣の中にフワッとした食感の鮭がバターの風味と共に口の中に広がる。
「はぁ…美味しいのが余計に悔しい。」
「ふふっ、お気に召したようで何よりだわ」
カメリアが私を見つめながら、またふふっと笑う。
しかし先程の愉快な笑いとは違い、いつもの微笑みのような笑いなので不愉快ではない。
私とカメリアはそのまま黙々と夕飯を食べ続け、数分後には全ての皿が空っぽになっていた。
先程も言ったが、カメリアの料理は悔しくなるくらい美味しい。
いつも私が作る適当な料理とは大違いであり、格の違いをはっきりと見せつけられた気分である。
はぁ…とため息をつき、私は食器を片付けながらカメリアに話しかけた。
「カメリア、今夜は広場で季節外れの花火大会があるよ。」
「わかったわ、参加人数は
「今のところは、ね。」
今夜は派手な花火大会がある。
私は手早く食器を片付けてから上着を着て、風呂場の火を素早く消した。
そして既に用意ができているカメリアに合図を送る。
「じゃ、行こっか。」
「えぇ。」
今度は手を繋がず、私達は玄関の扉を開けて夜の人里を歩き出した。
向かうは広場。
夜の人里はとても静かだ。人間は通常、妖怪を恐れて夜には出歩かないのである。
たとえ人里が妖怪の来ない場所だとしても、人間が妖怪を恐れる生物である以上、それは変わり得ない。
「にしても、夜は静かだね。」
「そうねぇ、けれど…」
他愛ない会話をしながら歩いていたが、カメリアが言葉を中断した。
突然足を止めた私とカメリアは、後方にそれぞれの銃を向ける。
私はダブルゲージのショットガン、カメリアは高威力安定のデザートイーグルだ。
後方を向いたカメリアはニヤリと口角を上げて続けた。
「これから騒がしくなるわ」
突如、今夜は派手な花火大会となった。
どうやらそれは夕飯を食べている途中から決まっていた事らしい。
急遽の予定変更であったが、私達の心は躍っていたのであった。