闇に包まれた人里、宵はとうに過ぎた。
血塗られた花火大会の出場者三名は、暗い人里の大通りで異彩を放っていた。
第三者に向けられる私とカメリアの銃口。
それに感心した様子でヒュウと口笛を鳴らした第三者は青いメイド服を着た金髪の女性だった。
「外来人の割には強いっていう噂…本当だったみたいね」
そのメイド服の女は透き通った声を発し、ニヤリと口角を上げた。
その不気味な笑みに、操られていた時のカメリアの笑みを重ねて背筋が凍る。
表情こそ崩さないものの、私はその女を凝視しながら沈黙した。
そんな私を見かねたのか、最初に返答したのはカメリアだった。
「どなたかしら?」
カメリアはいつもの調子で微笑みながら、その女に問いかけた。
こういう時のカメリアはとても頼りになる。
カメリアは基本的に何事にも動じない驚異的な精神力の持ち主だ。
私も一般人と比べれば精神力はかなり高い方だと思うが、現にここで硬直してしまっている以上、あまり堂々と言えたことではないだろう。
カメリアの質問に反応し、青いメイドはより口角を上げて答えた。
「私は悪魔の
「ふふふっ…そうよ、貴女の組織は情報が早いのね?」
夢月と名乗ったその女は、どうやら私を狙う組織の一員らしい。
カメリアを襲った吸血鬼の事を呼び捨てしているので、多少は位の高い存在なのだろう。
それにしても悪魔か…そのおぞましい笑みに相応しい種族である。
「そこまで人数が多いわけじゃないからね、それでそこの黒髪が柊灯音で合ってるかしら?」
突拍子もなく話を振られ、えっ?っと間抜けな反応をしてしまう私。
やばいめっちゃ恥ずかしい、こう見えて変なところでプライドがあるから余計にくるものがある。
私はゴホンと咳払いをし、いつもの冷たい表情を取り戻して夢月の言葉に答えた。
「…うん、私が柊灯音。こんな時間に何か用?」
「それを答える前に、その得体の知れない武器を仕舞ってくれないかしら?喉元にナイフを突き付けられてる気分で落ち着かないわ」
夢月は悪魔のような笑みを崩さず、手を広げながら苦笑するように言った。
私は素直にその言葉に従って夢月に向けていたショットガンを消す。
しかし、隣のカメリアは依然銃を構えたままで動く気配がない。
「その手には乗らないわよ、貴女も灯音を奪いに来たんでしょう?」
カメリアは警戒の色を更に強め、夢月から私を庇うように腕を横に伸ばした。
私を守ってくれるのは非常にありがたいが、私はカメリアの腕を静かに退けて「大丈夫。」と一言。
夢月への警戒が弱まらないのか、カメリアは視線を一切動かさずに「どうして!?」と私に向けて叫んだ。
依然笑みを崩さないままの無月は、その表情のまま不思議そうに首を傾げる。
私はポケットから煙草を取り出し、火を灯してカメリアの質問に答えた。
「この人…悪魔からは邪悪な雰囲気こそ漂っているけど、敵意は感じない。」
「けれど彼女は悪魔だし、その上貴女を狙う組織の一員よ?何考えてるかわかったもんじゃないわ」
納得いかないといった表情で私に抗議するカメリアを宥め、私は重ねてカメリアに大丈夫だと伝える。
真剣な目でじっとカメリアを見つめながら、私はカメリアを説得し続けた。
「大丈夫、私の直感はよく当たるから。」
「…はぁ、貴女がそこまで言うなら銃を下ろすわ」
説得が幸を期したのか、呆れたような諦めたような表情でカメリアは銃を下ろす。
そんなカメリアに対して「ありがと。」と言う私。
その様子を黙って見ていた夢月は、突然心底楽しそうにアハハハと笑いだした。
その凶悪な笑い声に驚いて夢月のことをギョッと見つめる私達。
なんとなく照れくさくなり、私は本日二度目の咳払いをして夢月に喋りかけた。
「で?そろそろ用件を聞きたいんだけど。」
「ふふっ、ごめんごめん。貴女…灯音の直感の通り、私は貴女達の敵じゃないわ」
まだ少し余韻が残っているのか、クスクスと笑いながら夢月は続けた。
何がそんなにおかしいのだろうかと不思議に思っていたが、なんとなく、それは聞かないでおいた。
「…私と組んで、夢幻館を撃退しない?」
「…夢幻館って何。」
突拍子も無く知らない単語が出てきたことに多少の驚きを覚え、私は何故かカメリアにその単語の意味を聞いてしまった。
もちろん、カメリアは「どうして私に聞くのよ」と当然の反応を返してきた。うん、至極当然である。
「簡単に言えば柊灯音を狙う組織、貴女の能力を活用して幻想郷を支配しようと企んでいる連中よ」
建物の名前かと思ったが、どうやらその予想は外れていたようだ。
それにしても、夢月はその組織の一員のはずなのに何故自組織の撃退を企んでいるのだろうか。
内輪揉めか?とも考えたが、下克上を考えるくらいならば、そんな簡単な言葉で片付くような問題では無さそうだ。
そんな事を考えていると、夢月は依然悪魔のような(悪魔なのだが)を浮かべながら話を続けた。
「私の姉…
「姉…か。」
ちょうど今私が思った通り、やはり簡単に片付くような問題では無さそうだ。
私とカメリアは目を見合わせ、同時に唸ったのであった。