聞いた話を整理しよう。
夢幻館とかいうオシャンティーな組織は私を狙う敵であり、夢月と名乗るその女は夢幻館の一員。
しかし夢幻館の何者かのせいで、姉である幻月の様子がおかしくなってしまった。
そんな姉を救うためには一人では厳しいので助けて欲しい…と、なるほど。
「そんな、漫画や小説じゃないんだから…。」
「灯音、これは小説よ」
「やめて、筆者が困っちゃうでしょ。」
なんの躊躇いもなくメタい事を言うカメリアを静止する私。
なんならメタいついでにもっとメタい事を言うと、こういうネタも筆者がわざわざ書いてるんだなって想像するとなんかわろけてくるよね。
なーにが筆者が困っちゃう〜だ。
夢月はついに不気味な笑みを止め、忌まわしそうに眉間に皺を寄せた。
「もともと夢幻世界も夢幻館も私達のものだったのに…あの幽香とかいう花妖怪が奪ったせいで…!」
「夢幻世界も幽香も聞いたことがない単語なんだけど、教えてくれる?」
まぁ尺の都合(表現力の都合)でセリフ無しの説明となるが、夢幻館は私を狙う組織であり建物の名称でもある。
そして夢幻館は現実世界と夢幻世界の境界上に位置していて、場所は博麗神社の裏山にある湖の辺りらしい。
夢幻世界というのは夢月が姉妹で作り上げた世界で、彼女の口ぶりからかなり自信のある世界のようだ。
続いて幽香は“最強”と謳われる花妖怪の名前で、現在は夢幻館の主となっている。
そして、花を操る程度の能力によって植物で敵を蹂躙したり、日傘によって凶悪な攻撃を仕掛けてくる等、なんとも末恐ろしい存在のようだ。
その幽香に夢幻館を奪われ、夢月と幻月は幽香に下っていたらしい。
「あんな所にそんな建物が…というか、霊夢には相談した?」
「してない、博麗の巫女に借りを作りたくない。」
博麗神社、博麗の巫女、霊夢。
筆者の記憶が正しければ、この小説の中では初めて見る名前だろう。
説明しよう!博麗神社とは、現世と幻想郷の境界に位置している神社で、所謂幻想郷で最も重要な役を担っている建物。
そしてその神社の巫女である博麗霊夢は、現世と幻想郷を隔てる“博麗大結界”の管理と、幻想郷内で起きた事件(異変と呼ぶ)の解決を任されている実力者である。
霊夢のことは私が幻想郷に来たばかりの頃、よく魔理沙という友達と一緒に香霖堂に遊びに来ていたのでよく知っている。
最近では霊夢もそうだが、その魔理沙もあまり来なくなったし店内も心做しか少し寂しくなっていた。
「…私が頼もうか?」
「結果的に博麗の巫女に助けられることになるでしょ?それは嫌なの」
なるほど、どうやら夢月はかなりプライドが高い子らしい。
聞いたところによると、かつて夢月達も異変を起こしたことがあるらしく、その時に霊夢と魔理沙にコテンパンにされたので実力は痛いほど知っているそうだ。
私だって頼めたら頼んでるわ…とボソリと呟く夢月を横目に、私はカメリアに相談する。
「私達にもメリットは大きいし、協力する他ないんじゃない?」
「この女の言ってることが全部本当ならそうでしょうけど…イマイチ信用出来ないのよね…う〜ん」
どうやらカメリアは私の身を案じているらしく、そのまま考え込んでしまった。
こうなったらカメリアは長い。のんびりしてられないようだし、私が早急に結論を出すしかないだろう。
まぁ、幽香という存在がそこまで恐ろしいのであれば、協力しない手はない。
この理論ならば最初から答えは決まっている。
「よし、協力しよう。」
「あら?…まぁ何かあれば私が守ればいいだけよね…」
私は夢月に協力することにした。
これは私の直感だが、おそらく夢月はかなりの実力者だ。
悪魔であるというのもあるし、彼女からは数多の血の匂いがする。本当に匂っている訳では無いが。
その夢月が一人で対抗できない相手、幽香。
ただの人間である私達二人でどうこうできる問題ではない気がするのだ。
すると夢月は再びおぞましい笑みを浮かべた。
「助かるわ。それと、しばらく貴女の家に居させてね」
「…………いいよ。」
本日二度目の居候宣言。
もはや1種の諦めを抱いた私は数秒の沈黙の末、(しぶしぶ)快諾する。
私は既に、協力した事を少しだけ後悔しつつあるのであった。
○
「私の能力って武器しか召喚できないの。だから武器にもなる食べ物、頑張って召喚したらこれが出てきたよ。」
「…いただくわ」
結局花火大会をすることもなく帰宅した私達3人。
夕飯は私とカメリアの分しか無かったので、私はなんとか夢月をもてなそうと、無理矢理“武器にもなる食品”を召喚しようと力を込めた。
するとなんたることか、現れたのは茶色くて硬くて細長いパンが召喚された。
そう、フランスパンである。
「フランスパンって武器扱いなのねぇ」
「そうみたい。」
「…なんで幽香はこんな能力欲しがってんのかしら」
あれ、今夢月しれっと失礼なこと言ったよね?
聞き間違いかなとか思いつつ、私は聞かぬふりをして風呂場に向かった。
家を出る時に火を消したので浴槽は既にぬるくなっている。
私はまだ残っている薪に(今度は叫ばずに)火炎放射器で着火した。
能力とは本当に便利なものである。
そんな事を考えていると、風呂場にカメリアがやってきた。
「灯音、夢月が…」
「え、どうかしたの?」
家に来て早々、夢月が何かやらかしたのだろうか。
だとしたら流石に早くないか?なんて思いながら、私はカメリアに手を引かれて居間へ向かった。
数秒経たず居間に着いた時、視界に映ったのは無傷な完全体のフランスパン。
そして目をギュッと閉じながら口を抑えている夢月の姿。
夢月は私に気づくと開口一番こう言った。
「灯音、これめちゃめちゃ硬いわ………うぐ〜。」
夢月の歯の付け根から滴る赤い雫。
まさかフランスパンで出血したの?とか思い、夢月に協力した事に不安を覚え始める私。
その横でカメリアはクスクスと笑い続けていた。
「はぁ…まぁ賑やかなのは良い事…かな。」
そんな二人を見て、私は深くため息をついたのであった。