「いただきます。」
「なにそれ」
「ジャパニーズ挨拶よ、貴女もやりなさい」
「は…?いただきます…?」
夢月を起こし、朝食をとる私達三人。
初めて聞いたであろう食事の挨拶に疑問の表情を浮かべた夢月は、カメリアに促されてジャパニーズ・イタダキマスを行った。えらい。
今日の朝食は白米つき白米、きゅうりの漬物のきゅうり添え、味噌入り味噌汁の三点である。
これぞザ・和食。なんなら私の自信作とも言えるこれは、私の自信作であると同時に私のお気に入りでもあるのだ。
(さぁ、感動のコメントをおくれ。泣いてもいいぞ。)
もぐもぐと咀嚼しているカメリアと夢月を、私は期待と羨望の眼差しで見つめる。
はてさて一体どんな感動的なコメントを頂けるのだろうか、私は非常に楽しみで仕方がなかった。
私の熱視線に気づいたのか、カメリアが私を見てにこりと微笑む。
その微笑みに釣られて頬が緩んでしまった私は「どう?」と一言だけ聞いた。
「……とても美味しいわ」
なんだか少しだけ間があった気がするが、まあおそらく気の所為であろうと自分に納得させ、私は次に夢月の事を見た。
しかし夢月は一向に私を見ようとせず、なんなら私から目を逸らしているようにも感じ取れる態度だ。
…少しだけ嫌な予感がしたが、私は負けじと「どう?」と夢月に聞いた。
すると夢月は少しだけ肩を震わせ、私を見てこう言った。
「……濃い」
「そんな馬鹿な。」
そんなわけは無い。
私も現在進行形で同じものを食べているが、濃いどころかどちらかといえば薄味のはずだ。
確かに私は味付けの濃い物が好みだが、それを踏まえてもこの味は薄い方である。
私がう〜んと唸っていると、カメリアが私に声をかけてきた。
「…ごめんなさい、正直濃いわ」
「え、嘘でしょ。」
まさかカメリアにまで同じことを言われるとは思っていなかったので、驚きのあまり私は箸をポロリと落としてしまう。
左右バラバラに落下していく箸にも気を取られず、私は硬直した。
「貴女…お酒ばっか飲みすぎておつまみしか作れなくなってるんじゃないかしら…」
「………そうかも。」
まさかの追い打ちである。
しかし、あながち否定できないのも事実なので私は肯定せざるを得なかった。
確かに私は幻想郷に来てからというものの、毎日毎日酒を飲んでいたし、その都度つまみも沢山作っていた。
それが数年続いたせいで、私は自分の舌がおかしくなったのかもしれない。悔しい、悔しすぎる。
「……お酒持ってくるね。」
「やめなさい、朝からお酒はやめなさい」
「灯音、私の分もお願い」
ヤケになって酒を飲もうとする私、それを止めるカメリア、あまりにも味が濃いのか自分の酒も求める夢月。
…本当に朝から退屈しない家である。
○
昼間だというのにも関わらず薄暗い木造の小屋。
埃っぽくて有象無象が散らばり、お世辞にも衛生的とは言えない店内で、店主の森近霖之助は困ったように眼鏡の縁を抑えた。
「無事だったのは何よりだが…どうして2人も増えているんだい?」
部屋の面積の大半を占める商品の数々によって窮屈な空間と化した店内で、私とカメリアと夢月は前後に椅子を揺らす霖之助の前に立っていた。
私は香霖堂の店員だから良いとして、何故カメリアと夢月がいるのか。
カメリアは「貴女が強くても一人は危険よ」と。
夢月は「一人で家に居るのも暇だから」と。
それぞれの想いを尊重した結果、私達三人は一緒に行動するという結論に至ったのだ。
カメリアはまぁ良いとして、夢月は完全に暇潰しじゃないか。
かくかくしかじか、霖之助に事情を簡潔に説明すると、霖之助はため息を吐いて「まぁ座りなよ」と言った。
「最近は売り上げも悪くないし、君達二人を臨時で雇うのも悪くない」
「え、本気?」
「あら本当?優しいのね」
「働きたくない」
寛大な霖之助の言葉に、それぞれが違った反応を返す。
みんな違ってみんな良い、そういうことだろう?
夢月が何か良くない事を言った気がするが、まぁ気の所為だろう。そういう事にしておこう。
すると霖之助は「ただし」と一言付け足した。
「いくら売り上げが多いからと言って、灯音と同じ給料で雇うのは無理だ。こんな狭い店じゃ仕事も少ないからね」
「最もだ。」
「妥当ではあるわね」
「灯音より下だなんて屈辱だわ」
それは当然である。
私が今までどれだけ香霖堂に尽くしてきたか彼女らは知らないだろうが、腐っても数年間のキャリアは決して裏切らないのだ。
あと夢月、私をあまり舐めるんじゃあない。
霖之助は早速、業務のざっくりとした説明を行う。
先輩を舐め腐っている後輩に、キャリアの差を教えてやらねばなるまい。
私の心は密かに燃え上がりつつあったのであった。
「じゃあ、早速だけど動いてくれ。僕は奥で帳簿の記入を進めてるから」
「わかった、何かあったら呼びに行くよ。」
「助かる、よろしく頼んだよ」
じきに香霖堂の業務が始まる。
私はカメリアと一緒に商品の整理や状態確認など、時折カメリアからの「これはどういう商品なの?」という質問に答えたりして、いつもとなんら変わり映えのない作業に勤しんだ。
一方、夢月は埃っぽい店内の掃除を任命され、払塵で至る所の埃を掃除している。
その姿は彼女の着用しているメイド服によく馴染んでおり、本業と言っても差し支えの無いレベルだ。
まだ開店して間もないので客が来ることも無かったので、私達はそれぞれ巻きすぎず怠けすぎず、適度な業務をこなしていったのであった。