灯音とカメリアが逃げた後、僕と彼女は対峙していた。
対峙と言っても、僕には特別強い力がある訳では無い。
本当に彼女と戦うことになるなら、僕に勝ち目は皆無だろう。
「店主さん、そこをどいてくれる?」
翠色の髪を携えたその女性は尚も灯音達を追うつもりのようで、こうやって僕と対峙している今も黒い気配を消すことは無かった。
「悪いが、店内で暴れられるのは困るのでね」
ズレた眼鏡の位置を直し、僕はなるべく平然と、釈然とした態度をとった。
僕は半妖、特別死への恐怖があるわけではない。
しかし僕の命は良いとしても、灯音達の命や店を破壊されるとなると話は別だ。
殺されるにしても、せめて致命傷程度は与えたい。
僕はその女性に悟られないよう、背後に立てかけてある剣に手を伸ばした。
「邪魔するなら消えてもらうわ」
「ッ!!」
その女性は刹那に僕の懐に潜り込むと、携えた日傘を振り翳した。
足に怪我を負っている割にはあまりにも疾い。例え戦闘慣れしていないとしても、半妖の僕が捉える事すらできない動きなど滅多に行えるものじゃない。
ダメだ、流石に格が違いすぎる。
諦めて目を瞑ったその時、女性の背後から聞き慣れた、それでいて懐かしい声が聞こえてきた。
「くだらないことしてんじゃないわよ、幽香。」
「あら久しいわね、いつ以来かしら?」
そこに現れたのは紅白の巫女服を着た少女、博麗霊夢だ。
霊夢は編み込まれた紙が先端に付いた棒、お祓い棒を幽香に向けて気だるそうな声で言った。
「性懲りも無く何を企んでるか知らないけど、思い通りにはさせないわよ。」
○
数多の人が行き交う白昼の人里に紛れ込む私とカメリア。
「霖之助さん、大丈夫かな。」
咄嗟の出来事でつい出てきてしまったが、私は置いてきてしまった霖之助の事が気がかりであった。
裏口から逃げ出す瞬間、「僕がどうにかする!」と言ってくれた霖之助だが、彼は半妖といえど大きな力を持っているわけではない。
それに比べてあの女性からは異常な程の力を感じた。
人がどれほど練り上げても辿り着けないであろう高みに彼女は存在しているのだ。
「…大丈夫よ、目的は貴女なんだから」
「だといいけど…。」
数秒と経たない僅かな時間であったが、あの女性に絞められた首は未だに痛みを感じている。
詳しい容姿の話は夢月に聞いていなかったが、あの話の内容からして彼女が幽香である可能性は非常に高い。
…これは今考えても仕方の無いことだろう。
「まずは夢月と合流しよう、あれは私達だけじゃ手に負えない。」
「…そうね。悔しいけれど、彼女の力は異常よ」
己の力に絶対的な自信を持つカメリアにさえ、そう言わせるほどの強者。
その強者がいつまた私達に牙を向けるかは分からない。
多少の不安と焦りを抱きながら、私とカメリアは夢月を求めて人里を彷徨った。