朝霧に滲む動揺
───強さだけは純粋で…
どれ程の災禍に飲み込まれたとしても、強ければ何事も救われる。
強ければ失うことなど無いし
強ければ負けることも無いし
強ければ傷つくことも無い。
私は自分が強い存在だと自惚れていた。
私さえいれば、私が戦えば、何でも護れる。
そんなくだらない理想が現実と区別できなくなった時…
私は吸血鬼になった───
──
────
「ふぁ……。」
─────暗い部屋に射し込む一筋の光。
突如角膜から侵入してきたその光によって、私の瞳は少々強引に開け放たれた。
「変な夢…。」
時計に刻まれた時刻は七時。
障子をピシャンと開け放った私は、未だ朧げな意識で目を擦った。
太陽が出ているにも限らず、空は明瞭としていない。
縁側に腰掛け、私は煙草に火を灯して煙を煽る。
重い煙が寝起きの脳みそにガツンと刺激を与え、やがて私の意識を覚醒させた。
「……ぷはぁ、今日も良い天気。」
某動画のようなセリフを吐いた後、私はふと背後の寝室を振り返った。
シワだらけのまま畳まれていない私の布団、未だ気持ちよさそうに眠っている夢月、そして綺麗に畳まれたカメリアの布団。
「カメリアはいつも早起き、健康優良児か。」
カメリアが私より遅く起きてくる事はまず無い。
私が傭兵としてロシアに居た時もそうだったが、カメリアは毎朝毎朝私より早く起きるのだ。
正直、夢月のようにぐっすり眠った方が人生楽しそうである。
フーッと吐いた煙は重力に逆らって昇ってゆき、瞬く間に空の雲と融合した。
灰を落とし、吸殻を古ぼけた缶の中に投げ込んだ私は、自分の布団を適当に畳んでから居間に向かう。
寝起き一番で会って何言おうかなとか考えながら廊下を歩き、居間に足を踏み入れた瞬間挨拶する私。
「
カメリアが居ると思ったからわざわざロシア語で挨拶したのに、カメリアは居間に居なかった。
朝から散歩だろうか?確かにカメリアもまぁまぁいい歳だ、散歩だってそりゃあ…
「そういえばカメリアって何歳なんだろ?同い年くらいだと思ってたけど。」
また新たなクエスチョンが生まれてしまった。
さながら冒険する事に発生するクエストのようである。
カメリアの見た目は私と同じくらいの年齢だ、それこそ27とかだろう。
でも詳しい年齢を本人から聞いたことが無い、というより聞こうとしたことがなかった。
「ま、なんでもいいか…はぁー寒っ…」
考えを打ち切り、香霖堂で購入した石油ストーブの点火スイッチを捻る。
チチチチと火花の散る音を立てたストーブはやがて内部に火を灯し、独特な匂いを放ちながら周囲の温度を高め始めた。
私は肩をブルブル震わせながら蔵に行き、貯蓄用の水を薬缶に淹れてストーブの上にポンと置く。
こうする事で室内を暖めつつ、効率よくお湯を沸かすことができるのだ。
「ふぅ…朝ご飯はまだいいや。」
ため息をついて座布団に腰掛けた私は煙草を吸おうとして、ふと炬燵の上を見やった。
炬燵の上には無造作に置かれたメモ用紙サイズの紙が一枚。
訝しげに思い、その紙を手に取って見てみる。
「…ッ!?」
そこには簡単なメッセージが一文だけ綴られていた。
“紅魔館へ行ってくるわ”
達筆な字で書かれたその内容はとても短いものだったが、私の心を大きく揺り動かしたのだった。