東方空蝉録   作:Amaryllis___

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メイドは血と刃を好む

開け放たれた扉越しから見えるエントランスの光景。

 

そこでは金髪の青メイドと銀髪の青メイドが睨み合っており、銀髪メイドの咲夜はシルバーのナイフを何本も指の間に挟んで構えていた。

一方、それを見た夢月はスカートの中から黒い刃を二本取り出す。

 

夢月のスカートの中どうなってんの…とか思いつつも、私はそれ以上にその刃を見て驚愕した。

 

 

 

「あれ!?ブラックニンジャソードじゃん!」

 

 

 

マットな黒い片刃は一枚のプレートが加工されて出来ており、持ち手の部分は黒いロープが巻かれているだけの単純な作りだ。

 

しかしその単純な作りとは裏腹に、恐ろしい程の切れ味とシャープなビジュアルによってブラックニンジャソードは武器マニアの心を擽った。

 

無論、それは私も例外では無い。

 

 

 

「私が知った頃にはもう、日本で所持するのは違法になってたんだよな…。」

 

 

 

アメリカで製造されたこの刀剣はコレクター向けに販売されたのだが、ある時期から日本では輸入と所持共に違法になってしまった。

持っているだけで銃刀法に触れてしまう為だ。

 

その実物が今目の前に、これは感動ものである。

ブラックニンジャソードは私の能力で召喚することも出来るが、質は劣らずとも召喚された紛い物と実物では気の持ちようが変わってくるのだ。

 

 

 

「幻想入りしてたんだ…やばいめっちゃ感動。」

 

 

 

煙をブワッと吐き出し、夢月がブラックニンジャソードでどのように戦うのか瞬きもせず見学することにした。

構えている咲夜に対し、両腕をプランと下げて一対の黒刃を握るだけの夢月。

 

 

 

「……まさか。」

 

 

 

両腕を無造作に下げていた夢月は肩甲骨をゆっくり回し始める。

ぐるり、ぐるり、またぐるりと

 

その動きはまるで…いや、確実に…

 

 

 

「ゼロレンジコンバット…ッ!?」

 

 

 

カメリアが得意とする格闘技、ゼロレンジコンバットそのものであった。

 

刃を両手に持った状態で行われるウェイブ。

その事象も確かに驚くべきことであったが、もっとそれ以上に恐ろしい事がある。

 

人がウェイブによって放った攻撃は通常の数倍の威力だという。

しかしそれを悪魔である夢月が放ったらどうだろうか。

 

 

 

「…どうなるか。」

 

 

 

固唾を飲んで両者を見守る私は、今にも落ちそうな煙草の灰にも気付かず夢中になっていた。

 

いつも通りの悍ましい笑みを浮かべる夢月、柔らかな微笑みを浮かべる咲夜。

傍から見れば互いが口角を上げている和やかな絵面であるが、今彼女らの手に握られているのは刃だ。

 

互いが互いを倒す為に武器を握っている状況で、最初に動き出したのは夢月であった。

 

 

 

「久しぶりの剣舞ねッ!」

 

 

 

凄まじい速度で駆け出した夢月は体を捩りながら肩を回し、二本の黒刃を咲夜に向けて横向きに薙いだ。

しかし咲夜はその速度に反応できていないのか、避けようともせず構えたまま立ち止まったままである。

 

 

 

「ちょっ…。」

 

 

 

焦りからつい咲夜に手を伸ばしてしまうが、私の居る場所では咲夜にとても届かない。

ヤバイと思ったその瞬間、私は奇妙な感覚に陥った。

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 

夢月の刃が当たる刹那、咲夜の姿が消失する。

その消失と同時に咲夜は夢月の背後に出現し、ナイフを夢月の首元に突きつけていた。

 

私は今瞬きなどただの一度もしていない。

確かに瞳を閉じることなく二人を見つめていた。

恐らく咲夜は素早く動いたというよりも、ワープしたような感じだろう。

 

 

 

「能力か…?」

 

 

 

空間転移の能力?…しかしそんな芸当論理的に考えて難しすぎる。

そんな能力があるならば、転移したい地点の座標を頭の中で変換して能力を行使しなければならないだろう。

 

ナイフを突き付けられた夢月は2本の刃を振りきった体勢で固まっていた。

少しでも動けば喉元を裂かれるのが目に見えているからだ。

 

 

 

「チェック()()()

 

 

 

咲夜がオシャレなダジャレを言って夢月に笑いかける。

降参を促しているのだろう、日本で言う“王手”を夢月に宣言した彼女は非常に清々しい表情を浮かべていた。

 

しかし、王手をかけられた当の夢月は依然口角を上げたまま笑ってこう言った。

 

 

 

「ウフフッ、人間って甘いのねぇ…!」

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

夢月がそう言い放った瞬間、紅魔館全体が鳴動した。

脳髄に響くほどの地鳴りを起こした後、夢月の身体から黒い衝撃波が発生する。

為す術なく衝撃波に直撃した咲夜は後方に大きく吹っ飛び、壁に激突した。

 

 

 

「〜ッ!」

 

 

 

壁に打ち付けられ、声も出せずに悶える咲夜。

そんな咲夜に対し、夢月は問答無用で2本の刃を投げつけた。

2本の刃が咲夜の首を固定するようにして壁に突き刺さる。

 

まるでお前に逃げる場所は無いと言わんばかりに。

 

 

 

「アンタがどんな能力を持っていようが関係ない、これがホントの…」

 

 

 

身動きの取れなくなった咲夜に歩み寄った夢月はスカートの中からもう一本の黒刃を取り出し、咲夜に突きつけた。

 

 

 

「“チェックメイド”」

 

 

 

「く…ッ!」

 

 

 

一分にも満たない戦いが夢月の勝利として終わった一方で、私は夢月の剣舞があまり見られなかった事を少しばかり不満に思った。

そして、三本の刃をスカートの中に仕舞った夢月は座り込む咲夜に手を伸ばす。

 

たった数十秒のアイデンティティ・ウォーは呆気なく幕を閉じたのであった。

 

 

 

「はぁ…やっぱ煙草しか勝たん。」

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