相も変わらず薄暗い紅魔の一室。
熾烈な戦いを繰り広げていたレミリアと私は、突然の訪問者に呆然としていた。
状況を把握したのか、立ち上がったレミリアはメイドである咲夜に紅い槍を突きつける。
「主の邪魔をするか、咲夜」
怒りを見せる主人に槍を向けられた咲夜は釈然とした表情で冷静に立っていた。
武器も何も持たず、両手を重ねて姿勢正しくレミリアと向き合う咲夜。
「お嬢様、貴女は間違っています」
「……お前に何がわかるんだ」
レミリアは槍を持つ手を震わせながら、動揺の見える表情で咲夜を睨みつける。
そんなレミリアに対し、依然冷静な面持ちを保ち続ける咲夜。
咲夜は静かに、それでいてハキハキと言葉を紡いだ。
「お嬢様も、分かっていらっしゃるのでしょう?」
「………」
苦悶の表情を浮かべて静かに槍を下ろしたレミリアは槍を片手で回転させ、魔力供給を断つことで槍を消失させた。
何を語るでもなく、苦悶の表情のまま考え込むレミリア。
ふと動作を感じ、動作の方を見ると、灯音が私に手招きをしていた。
その表情は険しく、怒っているようであった。
それも当然か、私はずっと友である灯音に自分の正体を隠し続けてきたのだ。
長らく関わっていた友人が人外だと知って、きっと幻滅しているのだろう。
私はどう抵抗するわけでもなく、灯音に従って廊下に出た。
なんの会話も交わさず、ただ灯音に着いていく。
きっともう一緒には居られない。
大切な友人である灯音を、私は二度も裏切ったのだ。
私に背を向けたまま黙り込む灯音に、私は意を決して別れを告げようとする。
「ごめんなさい、灯音…私はもう貴女と…っ」
溢れそうな涙を堪えながらなんとか言葉を紡いでいると、突然灯音が視界から消え、柔らかな感触が私の上半身を包み込んだ。
状況を理解出来ずに硬直してしまった私は、首に落ちた一粒の冷たい感覚で我に返った。
そう、抱擁。
私は灯音に抱き締められたのだ。
かけがえの無い大切な友人に、裏切り者の私が。
「心配かけないでって…何度も言ってるでしょ、バカ女っ。」
「……っ」
その言葉で、堪えていたはずの涙が遂に溢れ出した。
洪水のように止めどなく流れていく涙。
嗚咽によって言葉が出せない中、私はただ灯音の背中に手を回すことしかできなかった。
狂おしい最愛の友人、灯音。
最早友人と呼ぶことさえ渋られるほどに愛しい、私の大切な人。
私は嗚咽混じりに言葉を紡いだ。
きっとそれはさぞかし汚く、荒い声であったであろう。
「ありが…と…っ灯音…っ!」
私達は大粒の涙を流しながら、強く抱き締めあった。
許してもらえたとは思っていない、しかし灯音の優しさが私を包んでくれていることは確か。
今の私には…否、きっとこれからも、それで充分だろう。
私達はその後、暫く互いの身体に身を任せて離れなかった。
二度と私は、灯音を裏切らない。
そう決意し、灯音の背中に回した手に力を込めたのだった。
〇
みっともなく涙を流しながらカメリアと抱擁してから数刻後、私達は地下室に集まった。
私と灯音、夢月、咲夜、レミリア、フランが暗い石室でそれぞれ座る。
肌寒く、静かなこの石室で何を語るのか。
冷静になったカメリアとレミリアが話し合うため、私達は念の為集まった。
カメリアと向かい合ったレミリアが、静かに口を開く。
薄ピンクの綺麗な唇が、美しく言葉を紡ぎ始めた。
「カメリア姉様…私は、フランを幽閉した事は未だに後悔していないわ」
「……そう」
レミリアの発言に対して憤る様子も無く、冷静に言葉を返すカメリア。
相槌だけ打ったカメリアは、それ以上は何も語らずに続きを待った。
「フランの能力は万物を容易く滅するし、フラン自身も外への関心があまり無かったから、幻想郷に来た後も私はフランを地下室から出さなかった」
「…幽閉していた訳では無い、ということ?」
「そうよ」
未知の事実に僅かながら動揺を見せたカメリアは、少し身体を前傾させた。
それもそのはず、彼女はフランが500年もの間幽閉されていたものだと思っていたのだ。
「だから、それについては間違っていたとは思わないわ」
「……そう…」
カメリアの表情に僅かながら怒りが浮かぶ。
私を含めた皆がそれに気づいて少し構えるが、レミリアは手のひらを向けて制止した。
そんなレミリアの行動を訝しげに見つめるカメリア。
「けれど…」
レミリアは目を閉じ、少し考える素振りを見せた後、目を開けてゆっくりと口を開いた。
「カメリア姉様に対する私の行動は全てが間違っていたわ」
「……え?」
肌寒く薄暗い、静かな石室。
地下に彫り込まれた灰色の石壁から、冷たい風がヒュウと吹いたような気がした。