東方空蝉録   作:Amaryllis___

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碌でもない思考には天誅を。

 

 

「なるほど、そりゃあ急がねばね。」

 

 

 

あたい達を助けてくれた白髪の少女に事の顛末を説明し、永遠亭まで案内してもらうことになった。

彼女は藤原妹紅(ふじわらのもこう)といって、不老不死のホーライ人らしい。

 

よく分からないが、凄いということだろう。

 

 

 

「永遠亭にはよく行くからな、竹林にはかなり詳しいつもりだよ。」

 

 

 

依然気絶したままの大ちゃんを背負い、スタスタと歩いていく妹紅。

どれほど竹林に詳しいとはいえ、こんな代わり映えの無い景色をどう覚えるというのか、不思議でならない。

 

それにしても、先程までは焦っていたり妖怪と出くわしたりで感じ取る余裕がなかったが、この竹林は心做しか落ち着くような音で満たされているようだ。

 

竹と竹の隙間を抜けていく新鮮な風、細々と鳴く虫の声。

この事件が落ち着いたら、いつも遊んでいる友達を呼んでここで遊ぶのもいいかもしれない。

 

…いや、それでまた先程のような恐ろしい妖怪に襲われては元も子もないか。

 

 

 

「そうら、着いたぞ。ここが永遠亭だ。」

 

 

 

そんなくだらない事を考えているうちに目的地である永遠亭に着いたようだ。

随分と立派な屋敷だ、あれほど彷徨っても見つけられなかったのが嘘のように感じる。

すると永遠亭の門から紫色の長髪の、兎の耳を生やした少女が出てきた。

 

 

 

「鈴仙!」

 

 

 

「あれ、チルノに妹紅。珍しいわね、どうしたの?」

 

 

 

うさ耳が特徴的なその少女、鈴仙。

アリスがあたいに「呼んできて」と言った、あの鈴仙だ。

鈴仙は定期的に薬を売りに人里に出てくるので、あたい達ともそれなりに仲が良い。

 

すると妹紅は大ちゃんを永遠亭の縁側に寝かせ、一言だけ発した。

 

 

 

「急患だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、霧の湖での事は思い出せなかった。いくら思い出そうとしても事の先っぽすら出てこない。

 

そんな私はバルコニーで煙草を吸った後、アリスの手料理を食べて驚愕した。

こんなに美味しいものを食べたのは久方ぶりだ。

下手したらここまで美味しい物は食べたことすら無いような気がする。

 

「どうかしら?」と自慢げに聞くアリスに、私はどう返答しようか迷った。

 

迷って迷って迷った末、私は一言だけ

 

 

 

「…愛に溢れてる。」

 

 

 

その返答に少し驚いたアリスは、数拍置いてから満面の笑みでこう返した。

 

 

 

「喜んでいただけたようで何よりだわ。」

 

 

 

うん、アリスは将来とっても良いお嫁さんになると思う。

とはいえアリスは人智を超えた魔法使い。

何百年も生きているわけだから、きっと恋愛の一つや二つnつくらいしてきたことだろう。

 

それよりも人間の私、もう今年で27です。

そろそろ色々考えてもいい歳なのかなとか思ってしまう。いや、今はそんなことどうでもいいか。

 

ちなみにアリスは今洗い物をしていて、私は食後の栄養ジュースを飲んでいる。

勿論アリスの特別製。野菜ジュースみたいな味で凄く美味しい。

やっぱりアリスの作る物は美味いな!とか、にこやかに言ってみたいものだけれど、私はあんまり感情を表に出すのが得意じゃない。

心の中ではウッヒャー!とかガーン!とかなるんだけど、顔とか行動で示せって言われるとね…。

 

 

 

「だから友達が少ないんだろうなぁ。」

 

 

 

空っぽになったコップに窓から射し込んだ光が乱反射して幻想的な輝きを放っているのをボーッと眺めながらそんなしょうもない事を口走っていると、玄関の扉をトントンと叩く音が響いた。

 

 

 

「すみませーん。」

 

 

 

聞き覚えのある声が扉越しに聞こえた。

その声に反応したアリスが「はいはい。」と言いながらタオルで手を拭き、玄関に向かう。

アリスが扉を開けたその先には、私の見知った顔であり、店の常連客の姿があった。

 

 

 

「鈴仙、久しぶり。」

 

 

 

大きな鞄を持った鈴仙はうさ耳をピコピコっと反応させ、心配なような安心したような形容しがたい表情を私に向けた。

 

 

 

「灯音、身体は大丈夫?」

 

 

 

「大丈夫、アリスが助けてくれてさ。」

 

 

 

そう言うと、鈴仙は純粋な安心した表情に変わった。

ところで幻想郷に来てから数年経つけど、ここはホントに綺麗な子が多いよなぁとかふと思ったのは内緒。

もしそんなこと言おうものなら、私が誰にでも鼻の下を伸ばすようなビ○チだと思われてしまう。

 

 

 

「ひとまず治癒魔法をかけて、ある程度の栄養は摂らせたわ。」

 

 

 

ほんと、アリスにはご迷惑をおかけしました。

多分今から鈴仙にもご迷惑をおかけするのでしょう。

神よ、罪深い私をお許しください。別に信仰なんてしてないのだけれど。

 

…ホントしょうもないことしか考えないな私。

 

 

 

「わかった、あとは任せて。」

 

 

 

すると鈴仙は鞄の中からタバコケース程の箱を取り出し、私の腕にアルコール臭のする液体を塗った。

 

あ、これは嫌な予感。

 

 

 

「大丈夫、すぐ終わるから。」

 

 

 

そう言って鈴仙が箱から取り出したのは注射器。

キラリと輝く針の先端が、捕食寸前の獲物を見つめるように私を睨みつける。

 

 

 

「ひぃっ…」

 

 

 

たった一本の針、それが私には針山地獄のように見えて仕方なかった。

私は注射が苦手なのだ。昔から好き嫌い等しなかった私だが、注射だけはどうも苦手。っつか無理。

 

無理だし怖いしホントに無理。とにかく無理。

あまりにも嫌すぎて、私は力の入らない体で頑張って抵抗した。

 

 

 

「暴れちゃダメだよ、これは必要なの!」

 

 

 

「やっ…嫌だよっ…」

 

 

 

それでも暴れる私を白い腕がガッシリと捕らえる。

恐怖の表情で上を見上げると、そこにはニッコリと私を見下ろすアリスがいた。

 

 

 

「灯音、ダメよ。」

 

 

 

四面楚歌。

顔面蒼白で拘束された私の腕に、鈴仙が躊躇なく、それでいて慎重に針を刺す。

まるで首筋にナイフを当てられているような恐怖。

注射で死ぬはずがないのに、死の恐怖が身近に迫っているような錯覚を起こしていた。

要は気持ちの問題、注射は私が精神的に死ぬわけよ。

 

私の頬に一筋の雫。

この雫は何だったかなぁ…もう忘れちまったよ…

 

ははっ、走馬灯が走ってらぁ。

 

 

 

「嫌ァァァァァァァァァッッ!!!!」

 

 

 

プスリと針が刺さると同時に、魔法の森中に響き渡る私の断末魔。

その声で森中の鳥が羽ばたいたこの日、私は表の感情を取り戻したのだった。

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