暗い石室にて展開される話し合いの場。
驚いた表情を見せるカメリアは何を返すわけでもなく、続きを静かに待った。
「間違っていたのは分かっていた、けれど紅魔の王としてのプライドを優先させてしまっていたわ」
哀愁漂う面持ちでレミリアはゆっくりと語り出した。
カメリアは尚も何も語らず、さらに続きを待つ。
「紅魔の王たるもの、カリスマに富んでなければならない。そう、考えていたわ。」
「カリスマ…」
カリスマと語るレミリアに少々訝しげな反応を返したカメリアはそれ以上何も言わず、また更に続きを待ち続ける。
レミリアは一言一言を噛み締めるように、自らの気持ちを悲痛な表情で語っていた。
「けれど…間違いを正してこそカリスマというもの」
ガタンと大きな音が地下室に響き渡る。
レミリアが突然イスから立ち上がったのだ。
突然の出来事に警戒したカメリアはいつでも立ち上がれる姿勢をとった。
それと同時に、私達も一斉に応戦できる構えをとる。
しかし、次に起こる出来事でそれら全てが不要なものである事がハッキリした。
「500年前から今まで姉様にとってきた態度、その全てをここで謝罪するわ……本当にごめんなさい」
バッと頭を下げるレミリア。
紅魔の王として500年歩みを進め続けた吸血鬼であるレミリアが頭を下げた。
その行為が間違っているとは決して思わないが、彼女にとって頭を下げるという行為は簡単にはし難いことだろう。
一方、カメリアはレミリアのその行為に対して目を見開いて驚愕していた。
それもそのはず、レミリアは五百年もの歴史を全て背負って謝罪したのだ。
レミリアは数分経っても未だじっと頭を下げ続けていた。
カメリアは静かに席を立ち、頭を下げ続けるレミリアの前まで歩いた。
「もういいわ、レミリア」
カメリアはレミリアの前にしゃがみ、レミリアの顔に両手を当てた。
その行為に対し、レミリアは驚いた表情でカメリアを見つめる。
「私…姉様を殺そうとしたのよ?自分勝手に王だカリスマだとか矜恃を語って…」
「いいのよ…貴女がそうやって謝ってくれたのなら、私は貴女を許すわ。」
カメリアは顔に当てていた両手を離し、腕部全体でレミリアの頭部を包み込んだ。
静かに、優しく、まるで子を宥める母親のように。
レミリアの頭をゆっくりと撫でながら、カメリアは続けた。
「また昔のように笑い合いましょ?……姉妹じゃない、私達」
「姉妹……っ」
レミリアの頬に一筋の雫が走る。
声を押し殺し、喘ぐことなく静かに涙を流すレミリア。
レミリアは涙を流しながらカメリアの背中に両腕を回し、抱きついた。
五百年の後悔と呵責から解放された喜びを噛み締めるように。
今だけは全ての責任から逃れ、レミリアは静かに涙を流し続けた。
「…ここにいるのは野暮か、行くよ夢月。」
「うん」
カメリアとレミリアの因果が消え失せたことに安堵した私は、夢月を連れて地下室を後にしたのであった。
〇
地下室を後にし、紅魔館の廊下を適当に歩く私と夢月。
夢月となんら会話を交わすわけでもなく、私は地下室での出来事を思い出していた。
五百年という、人にとってはあまりにも永い年月の中で肥え続けた因縁。
それほどまでに重い鎖を、レミリアの口頭での謝罪だけで取り払ったカメリア。
理由は単純、姉妹だから。
「姉妹…か。」
「…なに?」
「あぁごめん、なんでもない。」
無意識にポツリと呟いた私の一言に訝しげな反応を示す夢月。
独り言って気づいたら出てるもんなんだね。
そういえば暫く煙を摂っていなかった。
私は火の灯っていない煙草を口に咥えながら夢月に話しかける。
「
「じん…?あぁ煙草ね、私も着いてく」
私の“人生する”という表現に困惑しつつ、口に咥えた煙草を見て意味を理解した夢月。
私は夢月と一緒に紅魔館のバルコニーに向かって歩き出す。
「灯音」
「なに?」
「私も吸いたい」
「え。」
突然話しかけられ、何かと思えば煙草を吸いたいとのこと。
夢月が未成年であったなら速攻で断っていたが、夢月は悪魔。
悪魔の成人って何歳なんだろう、そもそも悪魔に成人なんてあるのかな?
そう悩んでいるうちにバルコニーに到着してしまい、私は「まぁいいか。」と諦めたのだった。
もしかしたら私は喫煙者を増やすという、業の深い選択をしてしまったのかもしれない。
「あ、あー、私は知らないー。」
「何言ってんの灯音…一本ちょーだい」
「はい。」
バルコニーの外は既に暗黒に包まれており、頭上には眩い星々が溢れんばかりに無数に煌めいていた。
視覚だけでなく、肌に吹き付ける冷風が更に夜の訪れを実感させる。
私は咥えていた煙草に火を灯してから夢月に煙草を一本手渡し、その煙草にも火を灯した。
「ありがと」
「吸ったことあるの?」
「うーん…何十年か前にね」
私達は同時に煙をフゥーと吐き出し、煙草を片手に雑談を始めた。
どうやら夢月は一時期喫煙者だったらしいが、その期間はとても短かったらしい。
人間にしても極めて短いとされる三日、まさに三日坊主である。
別に歴が長くてもメリットがあるわけではないが。
むしろデメリットしかない、百害あって一利なし。
まぁ、私にとっては人生なんだけれど。
冷たい夜風に吹かれ、私達は適当に雑談しながら煙を煽る。
バルコニーの柵に寄り掛かりながら煙草を吸う夢月の横顔はとても美しく、どこか妖艶な雰囲気を感じるのであった。