東方空蝉録   作:Amaryllis___

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夢幻編
覚醒は宵の刻、悪魔の作戦会議


眠りについたのが朝という事もあり、私は半円状の西日によって目を覚ました。

開眼と共に、橙色に染まった和室の天井が真っ先に目に入る。

 

隣を見ると、カメリアが未だ私の手を握ったままスヤスヤと寝息を立てていた。

カメリアはいつも私より先に起きるが、まだ起きていないということは相当疲れていたのだろう。

 

カメリアの手を握ったまま反対側を向いてみると、当然のようにいつも通りヨダレを垂らしながら気持ちよさそうに寝ている夢月が居ない。

 

……

 

 

 

「え?居ない?」

 

 

 

あまりにも意外だったので声を出してしまい、私はハッとした。

私の手を握るカメリアの手に力が入る。

カメリアの方を見ると、私の手を握っていない方の手で眠そうに目を擦っていた。

 

 

 

「…あら、寝過ぎちゃったみたい。おはよう、灯音」

 

 

「おはよう、カメリア。起こしちゃってごめん。」

 

 

「大丈夫よ、起こしてくれてありがとね」

 

 

 

カメリアは基本的に人より後に起きるのを嫌う。

しかし今日は安心したのか疲れていたのか、原因は分からないが起床時間はドンケツである。

 

私とカメリアは同時に起き上がり、布団の上に座った。

ここでようやく私の手を握ったままだった事に気づいたカメリアは、私の方を見て微笑んだ。

 

 

 

「ずっと繋いでてくれたのね」

 

 

「……たまたまだよ。」

 

 

「ふふっ…ありがと」

 

 

「…うん。」

 

 

 

小っ恥ずかしいのは今朝ので充分である。

ひとまず私達は繋いでいた手を離し、布団を畳むことにする。

 

もう日も沈みかけているので少し高所にある小障子を閉め、私達は煙草に火を灯しながら居間に向かった。

 

 

 

居間に着くと、炬燵の上に座って目を瞑っている夢月がいた。

寝ている…というよりは瞑想しているようである。

 

そんな夢月を見て、目を見合わせる私とカメリア。

 

 

 

「何してんの…?」

 

 

 

私の問いかけに対してなにか反応を示す様子も無く、夢月は腕を組んで目を瞑ったまま喋らない。

夢月の意図が掴めない私達はただただ困惑する。

 

 

 

「てか夢月、炬燵に乗らな「待ち侘びたぞ戦士達よ!」……。」

 

 

 

私の発言を遮るように突然大声を発する夢月。

炬燵の上に座るのが悪いことっていう認識はあるんだな、悪魔ってのは恐ろしい。

 

それにしても“戦士達”とは…、一体夢月はどうしたというのだろうか。

ごっこ遊びとかいう歳じゃなさそうだし、何かしらの用はあるんだろうけれど。

そんなことを思っていると、炬燵から降りた夢月が続けて口を開いた。

 

 

 

「夢幻館奪還ッ!作戦会議ッ!」

 

 

「あぁ…なるほど。」

 

 

「確かにそろそろ動かないとね」

 

 

 

夢幻館奪還作戦会議。

まぁつまるところ、いい加減攻撃を仕掛けに行こうということだ。

 

竹林では吸血少女、香霖堂では幽香。

既に二度襲撃を受けている訳だし、そろそろ動かないとこの本拠地の存在すら危うくなってくる可能性も否めない。

 

 

 

「だから今日はその作戦会議をしましょうね!」

 

 

「そうだね。」

 

 

「は〜い」

 

 

 

こうして夢月主導による夢幻館奪還作戦会議が始まった。

 

まず、夢月から夢幻館に乗り込む際の障害を説明される。

一番最初に壁となるのは吸血少女のくるみ。

彼女は以前、夜の竹林でカメリアを襲った妖怪であり、カメリアが目の敵にしている存在である。

 

カメリアは「彼女は月光を踏み躙ったわ」と言って、否が応でもくるみの相手をすると聞かなかった。

月光って何?どういうこと?

 

まぁきっとカメリアなら大丈夫だろう、これは慢心でも油断でもない。予感だ。

 

 

 

その次に壁となるのが第二の門番、エリー。

彼女は外刃の大鎌を携えている妖怪である。

第一の門番であるくるみが優秀なため、あまり戦い慣れていないらしい。

 

そのエリーとやらの相手は私がする事となった。

理由は簡単、エリーとくるみ以外に残っている相手は幻月と幽香だけなのだ。

幻月に関しては夢月が「正気に戻す」と言って聞かないし、幽香は私一人じゃ手に負えないのは確定的に明らか。

 

そうなると、三人の中で一番戦力の乏しい私が戦えるのはエリー以外に居ないのだ。

 

 

 

「…さて、問題は…」

 

 

「幽香だね…。」

 

 

「あの化け物にだけは勝てるビジョンが浮かばないわ」

 

 

 

幻月に関しては先程言ったように、夢月が相手をするということなので良いだろう。

問題はその後の幽香。

私とカメリアが戦いを早々に終えて夢月に加勢したとしても、上手くいくとは思えない。

 

やはり、夢月が幻月を正気に戻してくれることに期待するしか無いのだろうか。

 

 

 

「やっぱ霊夢に助けてもらうのは…?」

 

 

「博麗の巫女ね、アリだとは思うけれど…」

 

 

「勘弁してよ二人とも…」

 

 

 

私達としては霊夢の手を借りたい気持ちが大きいが、夢月にとってはやはり博麗の巫女である霊夢の手は借りたくないようだ。

 

かといって関係の無い者の力を借りる訳にもいかない。

霊夢は博麗の巫女であるし、絶対的な力を持っているからある程度の尽力はしてくれるだろう。

しかしその霊夢を呼べないとなると、やはりこの三人だけで事を済ますしかなさそうだ。

 

 

 

「…仕方ない、私たち三人でできる事をやろう。」

 

 

「とはいえ、何か作戦が無いと厳しいわよね」

 

 

「うぐ〜…何かあるかな」

 

 

 

夢月は魔術的な力のエキスパートであるし、カメリアはハーフヴァンパイアとしての強力な髄力がある。

しかしそれは相手も同じはずで、幻想郷で幅を利かせるつもりならば魔術的、非科学的な力は多様に修得しているだろう。

 

……ならば何故私の能力を求めるのだろうか。

 

どんな理由があるにしても、その中には“必要だから”という確実性の高い理由が存在しているはず。

非科学的な力に対抗するなら、敢えて科学的な力を活用するのもまたアリかもしれない。

そう考えた私は、考えた末の一つの結論をポロッと零した。

 

 

 

「私の能力で召喚出来うる限りの強力な物を使えば或いは……。」

 

 

「それは灯音の身体に負担がかかるんじゃ…」

 

 

 

その作戦に対し、不安そうな表情を浮かべるカメリア。

気持ちは嬉しいが、これは私によって生まれた戦い。

二人に比べて力の無い私が精一杯力を行使できるのなら、これ以上の事は無い。

 

夢月は少し考えた後、顎を指に乗せながら私を見つめる。

 

 

 

「確かに、幽香達は現世の力に慣れていない。それが魔法に劣る力だとして、しかし未知な力であることに変わりはないわ」

 

 

「なるほど…なら、やるしかないね。」

 

 

 

夢幻館の住人である夢月ですらそう言うのだ、きっとこれは有効なのだろう。

ならばやるしかない。

私の出せる限りの力を込めて、全身全霊で能力を行使する。

 

未だ不安そうな表情を浮かべるカメリアの頭に、私はポンと手を置いた。

 

 

 

「大丈夫、私を信じて。」

 

 

「っ……えぇ」

 

 

カメリアは驚いたように目を見開き、少しの間を置いてコクンと首を縦に降った。

そんなカメリアにふふっと微笑んだ私は、ひとまずカメリアと夢月に使いたい武器が無いか聞く事にする。

 

もし希望する武器があるなら、そこに力を注いだ後で全身全霊の力を込めたい。

力が無くなったあとで必要な物が出来ても召喚出来ないからだ。

 

 

 

「とりあえず、使いたい武器があればこの紙に書いていって。」

 

 

「わかったわ」

 

 

「おっけー」

 

 

 

紙とペンを炬燵の上に置き、私はその間に軽く夕食を作ろうと台所へ向かう。

私は煙草に火を灯すと、貯蓄の水を鍋に入れて火にかけた。

 

煙を煽りつつ、私は濃い味になりすぎないように細心の注意を払いながら料理を作るのであった。

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