東方空蝉録   作:Amaryllis___

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それは夕食か、朝食か

すっかり太陽も没落した夜、一般的には夕飯であろう朝飯の匂いが部屋中に漂っていた。

私は自分で料理を作るが、レパートリーは非常に少ない。

今日は鮭のムニエルと味噌汁、白米である。これこの前も作った気がするな。

 

単純にムニエルが好きだからそれ以外をあんま作らないだけなんだけどね。

 

ムニエルの下準備が終わり、味噌汁も温めるだけ、あとは白米が炊き上がるのを待つだけだ。

しかし白米が炊き上がるまではまだ時間がかかるので、私は一先ず居間に戻ることにした。

 

 

 

居間に戻ると、使いたい武器を書き終えたであろうカメリアと夢月が並んで仲良く煙を嗜んでいた。

夢月、君はもう喫煙者ってことでいいのかい?

 

取り敢えず私は二人が書いた紙をどれどれと覗いてみる。

まぁまぁ決して少なくはない武器の数々が連なっていた。

 

中には「これはカメリアだろうな。」とか、「これは夢月だな。」といった分かりやすい武器もあり、個性様々な一面となっていた。

 

一通り眺めた私は煙草を吸っている二人の横に並び、同じように煙草に火を灯す。

 

 

 

「もうすぐご飯できるから、食べたら準備始めよっか。」

 

 

「おけい」

 

 

「えぇ」

 

 

 

白米が炊けるまで、私達は静かに煙を煽っていた。

何を話すでもなく、開け放たれた窓に向かって、ボーッと。

 

これは後から近隣住民に聞いた話だが、黒髪白髪金髪が並んで煙を嗜む様は、まるで一枚の絵画のような芸術性を醸し出していたらしい。

 

勝手に部屋の中覗くな。

 

 

 

「頃合いかな。」

 

 

 

一服を終えた私は再び台所へ向かい、米を炊いていた釜を開け放った。

すると火傷しそうな程の湯気が顔を覆うと共に、食欲を煽る白米の匂いが台所に溢れかえる。

 

 

 

「水量完璧、最高のお米だね。」

 

 

 

私は軽く鼻歌を歌いながら味噌汁を温め、ムニエルの最終工程に入った。

台所に満ちる匂いが私の食欲を更に、また更に掻き立てていく。

 

 

 

「今日は上手くいきそうだ。」

 

 

 

完全なる成功を確信した私は勝利の一服を始める。

煙草に火を灯し、スゥ〜と煙を肺に充満させると、形容し難い幸福感、満足感、全能感、全てが私の五体を支配した。

あぁ~…たまらねぇぜ!と渋い声で叫ぶ私、もちろん心の中でだが。

 

神とは時にとんでもない物を生み出してしまうものだ。

御伽噺にてしばしば語られる“蓬莱の珠の枝”、“天叢雲剣”、“打出の小槌”などなど…

神が与え給うた数多の道具、私はその中に煙草すらも入っていると思う。

 

あらゆる“哀”を“喜”とし、あらゆる“怒”を“楽”と変容させる。

ありとあらゆるヒトの精神を瞬く間に癒し、覚醒させる素晴らしい道具なのだ。

私が一服の事を“人生する”と呼ぶように、煙草とは人生そのものであり、人生において確実に必要なもの。

 

ゆっくりと燃え上がり、害となる煙を排出しながらその身全てを遂に灰へと変化させ、地に堕ちる。

煙草が齎す事象も、煙草が見せる様も、全てが人生と言えるのだ。

 

 

 

……しまった、考えすぎたな。

フィルター近くまで燃え尽きた煙草を窯に投げ込み、グッと身体を伸ばす。

 

 

 

「さて、盛り付けて持っていくかな。」

 

 

 

私はムニエルを小型の長皿に、味噌汁をお椀に、白米をお茶碗に盛り付けた。

特段急いでいるわけでもないので、一人分ずつ丁寧に運んでいく。

相も変わらず良い匂いが私の鼻をスゥ〜と通ってゆき、再び私の食欲をそそった。

 

居間では夢月とカメリアが何やら楽しそうに談笑しており、私に気づくと「待ってました」と言わんばかりに二人仲良く料理を覗き込んできた。

 

 

 

「お待たせ、今日は最高の出来だよ。」

 

 

「あら、それは楽しみね」

 

 

「いぇーい」

 

 

 

まるで妹の料理を作る姉のような気分である。

 

 

 

私はひとまず残りの二往復を済ませ、三人で同時に手を合わせた。

 

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

そう、ジャパニーズ・イタダキマスだ。

夢月もジャパニーズ・ライフに慣れてきたのか、食事の際は毎回ジャパニーズ・挨拶であるジャパニーズ・イタダキマスをするようになった。

これで夢月も立派なジャパニーズ・デビルだ。

 

もうワケわからん。

 

それからは私も含めた三人がそれぞれ頬が緩む程のうま味(うまあじ)を堪能し、そのあまりの美味しさに一言も交わすことなく全員が完食した。

 

 

 

「ご馳走様でした、本当に美味しかったわ」

 

 

「ご馳走様、美味すぎて正直引いた」

 

 

「ふふふふふ、お粗末様でした。」

 

 

 

ここまで褒められてしまっては私も微笑みを隠せない。

自分で言うのもなんだが、マジで美味しかった。

これからも毎日これを続けていきたいものだ。

 

 

 

さて、食事を終えて食器の片付けも済ませた訳だが、ここからは大切な大仕事の時間だ。

そう、二人の希望した武器を全て召喚しなくてはならない。

 

私は居間の畳に座り込み、二人が書いた紙を元に幾つかの武器の召喚を始めた。

ここまで連続で武器を召喚するのは初めてなので、正直どれほど身体に負担がかかるのかは全く分からない。

下手したら頼まれた武器を召喚しただけで余力が無くなってしまう恐れすらあるわけだ。

 

 

 

「まぁ…」

 

 

 

私は煙草に火を灯し、片手で紙を眺めながら呟いたのだった。

 

 

 

「なんとかなるっしょ。」

 

 

 

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