東方空蝉録   作:Amaryllis___

46 / 114
多々良の刀はよく斬れるらしい

生活リズムをなるべく崩さないように早めに眠りについた私達はしっかり翌朝目覚め、早々に朝食を済ませる。

起きてから外出までの間に色々な事件が起きた。

昨夜は完璧な食事を作れたのに、今朝は再びつまみのような濃い味になってしまったり…

夢月が突然ヤイサホーとか大声で歌い出したり…

カメリアが煙草3本吸いして部屋が煙くなったり…

 

とんでもねぇな。

 

そんなこんなで私達は支度を整え、昨晩に夢月が言っていた“多々良”へ足を運ぶのであった。

 

外に出ると空はどんよりとした雲で満ちており、雨が近いであろう事を予感させる。

そういえばカメリアはハーフヴァンパイアなのに雨も大丈夫なんだよな、そう考えるとなかなか役得な種族なのかもしれない。

…まぁ、そう簡単に言えるほど事情は単純じゃないんだけれどね。

 

 

 

「多々良は人里の外れにあるよ」

 

 

「うちも結構人里の中心部から外れてると思うんだけれど…。」

 

 

「灯音の家と真反対の辺りだね」

 

 

「結構遠そうね…」

 

 

 

それから私達は何気ない雑談を交えたり、小休憩がてら甘味処に立ち寄ったり、顔見知りとバッタリ会ったりなどして…

そんなこんなで私達は気が付けば目的地のすぐ目前まで辿り着いていた。

 

 

 

「あれが多々良、丁度なにか打ってるみたい」

 

 

「老舗って感じの風貌だね。」

 

 

「懐古的で良いわね」

 

 

 

少し寂れているようにも見えるその店からはカンカンと金属を叩く音が響き渡っており、小さな煙突から天高く昇る煙は雲と一体化していた。

 

店の中に立ち入ると他の客は一人としておらず、店の奥で瑞色の髪の少女が黙々と金属を打っていた。

彼女が多々良小傘なのだろう。

小傘の髪はレミリアを彷彿とさせる色であったが、レミリアと比べると若干髪が短く、少し大人びた雰囲気を漂わせている。

 

黙々と金属を打ち続ける小傘に夢月が声をかける。

 

 

 

「たのもー」

 

 

 

意外と通る夢月の声にビクッと肩を震わせた小傘は此方に気づき、叩いていた金属を冷やしてせかせかと走り寄ってきた。

 

 

 

「ごめんなさい、全然気づきませんでした。何かご用ですか?」

 

 

 

彼女の声は透き通るように美しく、また鍛冶業を営んでいるとは思えない細々とした腕を携えていた。

見た目だけで目測するならば、大体15,6歳くらいだろう。

この少女が、あの虎徹よりも斬れる刀を鍛えられるとは意外なものである。

 

 

 

「最も斬れる打刀が欲しいんだけど」

 

 

「最も斬れる打刀…う〜ん、ちょっと待っててください」

 

 

 

小傘は少し考える素振りを見せ、工房の奥の部屋に入っていった。

小傘を待っている間、店内を見渡す私達。

店内は玄関から入ってすぐにカウンターがあり、そこから先は広い工房が展開されている。

外見では分からなかったが、入ってみると意外と広いものである。世界って不思議だね。

 

 

 

「色々あるんだね。」

 

 

「でしょ?まぁビジュアルにおいてはそこまでじゃないと思うけど」

 

 

「失礼だけど、確かにそうかもなぁ…。」

 

 

「私としては、斬れれば何でも良いわよ」

 

 

工房の壁には数多もの刀が立て掛けてあり、打刀だけでなく脇差なども何本か製作しているようだった。

それらの見てくれだけを見ると、正直虎徹より劣るように感じる。

しかし見た目も大事だが、今一番必要なのは斬れ味なので見てくれは関係がない。

 

これから小傘が持ってくるであろう打刀がどのようなものなのか、それが最も興味深い。

すると小傘が奥から布に包まれた細長い物を抱えて現れた。

 

 

 

「お待たせしました、私が鍛えた中で一番斬れる打刀です。」

 

 

「おお、少し見てもいい?」

 

 

「どうぞどうぞ!」

 

 

 

小傘は太陽のように眩い笑顔でそれを私に手渡した。

明るい子だ、私とは正反対かもしれない。

きっとこういう子は友達も多いんだろうな。

 

…そんな事を考えつつ、私は丁寧に巻かれた布を解き、刀身を観察してみた。

第一印象はかなり重い、打刀の重量は本来650~1500g程度と言われているが、妖怪等が蔓延る幻想郷だからか、この打刀は刀身だけで3kgは優に越えているだろう。

 

茎を見てみると“小傘於幻想里作之”と銘が打ってあり、柄を嵌めれば見えなくなるはずの銘でさえ非常に丁寧に仕上げてあった。

 

それにしても、“小傘於幻想里作之”か。

昨日言った多々良長幸も同じような銘の打ち方をしていたのだ。

確か有名な物だと“長幸於摂津国作之”。

小傘の仕事は銘といい丹念さといい、まるで長幸の子孫ではないかとも思えてしまう。

やっぱり関係ないって事は無いんだろうなぁ。

 

そして私は漸く鎺下を越えて上身へと目線を運んだ。

鏡のように磨き上げられた美しい刀身、荒波のように激しい刃紋、狼の目のように鋭く研ぎ澄まされた切先。

その全てが完全無欠であり、私の細胞全てを活性化させる程の風貌を兼ね備えていた。

私は堪え切れぬ笑いを必死で抑えながら小傘に打刀を返した。

 

 

 

「試し斬りとか出来る?」

 

 

「は、はい、出来ますよ!」

 

 

「うわ、顔やばいよ灯音」

 

 

 

必死で笑いを堪えていたからか、酷く恐ろしい形相と化した私に苦言を申す夢月。

小傘も困惑していたようだし、相当酷い顔だったんだろうなぁ…。

 

 

 

「柄を嵌めないといけないので、少し待っててくださいね」

 

 

「はいよー。」

 

 

 

小傘はそう言うと半円柱状の木材を二つ取り出し、工房で嵌める作業に入った。

先程の笑顔とは打って変わって真剣な顔付きで作業を始める小傘。

虫も殺せないような朗らかな笑顔を浮かべる少女が、目に映る物全てを射抜かんほどの鋭い表情を浮かべるとは、生物とは全く以て不思議なものである。

 

小傘は寸分のズレも許さないといったような繊細な手つきで柄を嵌め、目を細めて360度全ての角度から出来を確認する。

 

真剣な眼差しで暫く柄を凝視していた小傘は「よし」と一言置き、再び朗らかな笑顔に戻って聖柄の打刀を布でくるんで私に手渡した。

 

渡しだけにね!ガハハ!

馬鹿じゃないの。

 

 

 

「お待たせしました!試し斬り用の畳が此方にあるので、着いてきてください!」

 

 

「ありがとう、行くよ二人共。」

 

 

「「は〜い」」

 

 

 

私はカメリアと夢月を連れ、小傘に案内されて店の外へ出る。

空は未だ分厚い雲に覆われていたが、微かに見える太陽の位置からして時刻は大体正午くらいだろう。

私は布に包まれた打刀をカメリアに渡し、念の為数歩離れた位置からカメリアを見守る。

 

非常にワクワクした様子で布を解いたカメリアは聖柄の打刀を構え、筒状に丸められた試し斬り用の畳に斬りかかった。

 

 

 

「「「ッ!!」」」

 

 

 

その瞬間、カメリアを除いた私達三人はあまりの衝撃に思わず息を呑んだ。

 

鍛冶屋“多々良”の屋根からは、数羽の小鳥が飛び去って行ったのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。