東方空蝉録   作:Amaryllis___

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小傘於幻想里作之

カメリアが振り放った小傘於幻想里作之は、ピュンと甲高い音を響かせた。

カメリアは確かに畳を切りつけたはずだ。

しかし畳はビクともせず佇んでおり、打刀は振り抜いた先にて斜めに静止している。

その刃は、心做しか緋い光を放っていた。

 

 

 

「すり抜け…た?」

 

 

「確かに刃は畳を捉えてたはずだけど…」

 

 

 

驚きのあまり目を見開く私と夢月は、何が起こったか分からないといったように拙い言葉を紡ぐだけであった。

しかし驚いていた事に変わりはないが、長いこと刀と連れ添ってきた小傘は理解した様子で呟いた。

 

 

 

「あんな綺麗な斬撃は初めて見ました…」

 

 

「あれはやっぱり…捉えてたよね?」

 

 

「はい、あの打刀の特性に合った完璧な斬撃です」

 

 

 

やはりカメリアの斬撃は畳を捉えていたようである。

小傘が言うには薄くて重い刃は扱いが難しいらしく、カメリアのそれはもはや達人レベルの領域に達しているそうだ。

昔からカメリアは何事においてもセンスの塊だったからな…妬いちゃうよね。

 

しかし小傘が捉えたと言うのだから間違いは無いのだろうが、実際に畳は切りつける前と同じく完全無欠を貫いて佇んでいる。

カメリアは依然沈黙したまま畳に近づき、ピンと軽いデコピンを切りつけた畳に放った。

 

 

 

「えっ。」

 

 

「そんな事あるんだ…」

 

 

 

私と夢月は兎に角信じられないと言った様子で畳を見つめた。

事実、信じ難い現象が眼前では起こっていたのだ。

 

ほんの小さな、軽いデコピン。

それを食らった畳は突如斜めに分断し、下半分を残してドシャリと落下した。

切断面は完全な平面、幻想郷の文明には似つかわしくない寸分の凹凸もない完璧な平面がそこにはあった。

 

こんなの目を疑わない方が可笑しいとは思わないか?

 

 

 

「良い刀ね、灯音も試し斬りしてみたら?」

 

 

「したいな。お姉さん、私も試して平気?」

 

 

「どうぞ!きっと気に入って頂けますよっ。」

 

 

 

カメリアに促されて試し斬りをしていいか小傘に聞くと、小傘は自信満々といった様子で快諾してくれた。

…多分これ買うことになるんだろうなぁ、この打刀に関してはビジュアルもいいしな。

 

私はカメリアから打刀を受け取り、振った感じを軽く確かめる。

やはり薄い刃に反して重量感があり、扱い方を間違えれば己の身にまで刃が牙を剥く可能性もある。

 

どうやらこの打刀は、芯鉄に炭化タングステンを使用しているらしい。

タングステンカーバイドは鉄の二倍以上もの重量があるから、重いのも至極当然な事である。

 

ちなみに先程カメリアが振った後の刃が緋く光っているように見えたことだが、あれはどうやら気のせいではないらしい。

というのもこの打刀、皮鉄には緋緋色金(ヒヒイロカネ)という幻の金属を使用しているらしく、この金属は常温での驚異的な熱伝導を持っている上、微弱な熱で太陽のように緋い色を放つそうだ。

そのせいで先程、たったの一振りで刃が緋く光って見えたのだろう。

 

全く、尽く私のマニア心に突き刺さる刀である。

 

 

 

「さて、どんな按配かな。」

 

 

 

私は腰を深く落とすと、“小傘於幻想里作之”を肘を曲げ、両手で切っ先を前方に向けるように構えた。

それにしても呼びにくいなこの打刀、後で小傘に頼んで名前を簡略化してもらおう。

 

私は新たな試し斬り用の畳を、針のように細めた眼で睨みつけた。

更に腰を落とすと同時に、グッと腕を回転させながら切っ先を地に沿わせるように運びながら力を溜める。

 

少しの間を置き、溜め込んでいた全ての力を斜線を描くように解放した。

ビュッという空気を切り裂く音が響き渡る。

 

 

 

「…なるほど。」

 

 

 

振り抜いた瞬間に感じた最初の印象は、全ての抵抗を完全に無視している。といった感じだろうか。

空気抵抗、畳の摩擦、畳の硬度、重力……

振るまでは感じていた重力でさえ、振り抜く瞬間には全てが“無”と化した。

 

斜線に沿って半分に断裂し、一方のゆっくりと落下していく畳。

私はその畳に跳躍と同時に身体を回転させ、淡い緋色へと変化している刃を一振り。

そして着地後、その勢いに任せて片足を軸にもう一振り放つ。

 

 

 

「うわ、凄い動きするじゃん」

 

 

「ふふっ…夢月、灯音は凄いのよ?」

 

 

「なんでカメリアが得意気なの…。」

 

 

 

私の剣技に対してコメントをする夢月に何故かドヤ顔で自慢するカメリア。

貴女は私の保護者じゃないでしょ。

 

半分になっていた畳は更に三つに分断され、綺麗な切断面を露出させてそれぞれ落下する。

合計三回の斬撃によって、打刀の刀身は太陽の如き緋色に変化していた。

 

 

 

「…お姉さん。」

 

 

 

この刀は対人としては危険すぎる。

恐らく、力の無い者が軽く振っただけであらゆる物を容易に切り裂いてしまうだろう。

それに、一般の人間が使うには少々重量がネックだ。

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

心做しか暗い私の声に緊張した様子で反応する小傘。

小傘を呼んだはいいが、私はまだこの打刀についての整理が不完全であった。

 

人里で人気のある鍛冶屋の最高傑作とも呼べる究極の打刀、嘸かし良いお値段なのだろう。

基本的に私はお金を使いたくない…というよりなるべく貯めておきたいタイプなので、あまり高い物は買わないのだ。

まぁ値段に関してはこれから聞けばいいだろうが…私はここまで考え、値段関係なしに結論づけた。

 

私はじっと小傘を見つめ、打刀を布に包んで小傘に返しながら言った。

 

 

 

「これ、購入の手続きお願い!」

 

 

「!!…はいっ!」

 

 

私から打刀を受け取った小傘は最終調整と購入手続きの為、パタパタと奥の部屋へと駆け込んで行った。

 

正直これ使うのカメリアだし、一般人がどうこうみたいな理論は不要だよね。

値段に関しては正直どうでもいい。

今ここで一軒家買ったとしても私はまだまだお金に余裕があるし、そもそも武器マニアとして武器の購入にお金は渋りたくない。てか渋れない。

 

まぁつまるところ、新たな武器の誘惑には…勝てないよね!!

 

 

 

「考える体だけとって、最初から買う気だったんだろうね」

 

 

「私もそう思うわ、灯音は武器に関して全く妥協しないもの」

 

 

「否定できないのが悔しい…うぐ〜。」

 

 

「ちょっと!私の真似しないでよ!」

 

 

「夢月のこのセリフ結構好きなんだもん。」

 

 

「ちなみに私は灯音が大好きよ」

 

 

「いや聞いてないから!」

 

 

 

そんなこんなでギャーギャー騒ぎつつ、念願の“最も斬れ味の良い打刀”を購入した私達は家路についた。

 

小傘の最高傑作、銘“小傘於幻想里作之”は“緋焔刃(ひえんじん)”と命名され、新たに銘を刻み込んだのであった。

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