時刻はだいたい午後三時頃だろうか。
人里の大通りをご機嫌に歩いていた私達は目的的の定食屋、“花澄”に到着した。
外観は幻想郷ならではの古き良き木造建築で、遠い昔に江戸村だかなんだかで見たようなそんな風貌である。
「さて君達、準備はいいかい。」
「はーい!」
「当たり前田のクラッカーよ!」
おじさんのようなギャグをニコニコと言い放つ夢月にツッコミを入れることも無く、私は「よし。」と一言置いて定食屋の扉に手をかける。
カランカランと鈴の音を響かせながら開いた扉の先には既に何名かの先客が席に着いてそれぞれ食事を楽しんでいた。
鈴の音で私達の来店に気づいた店員が小走りで私達に近付き、愛想の良い笑顔で「いらっしゃいませ」と歓迎の言葉を贈ってくれた。
「三名様ですね、席までご案内致します!」
「うん、ありがとう。」
「よきにはからえ」
こういう時の夢月は妙にテンションが高い。
そう言ってふふんと腰に手を置いて胸を張った夢月の胸は、囁かな膨らみがより強調されていた。
これ本人に言ったらぶん殴られそうだな。
店員に案内されて席に着いた私達は、渡されたメニューを三人で眺め始めた。
「オススメは日替わり定食だよ。」
「私は灯音と同じものにするわ」
「私はこの“悪魔的だァ…キンキンに冷えてやがるぜハイボール”と“デビルメイクラムチャウダー”にする!」
「え、そんなのあんの?」
私とカメリアは日替わり定食、夢月は“悪魔的だァ…キンキンに冷えてやがるぜハイボール”と“デビルメイクラムチャウダー”を頼むことにした。
そんな前衛的なネーミングの品目あったのは初めて知ったよ私。
常連だと思っていたけれど、これじゃあまだまだ自分の事を常連とは言えないな。
ていうか二つとも悪魔繋がりじゃん、自分が悪魔であるというアイデンティティをしっかりとアピールしていくじゃん夢月。
私達は店員が冷水を三杯運んできてくれたタイミングでそれぞれの注文を済ませ、料理を待つ間適当な雑談をして時間を潰すことにした。
「灯音、用意できた武器はまだ緋焔刃だけ?」
「そうだね、今日帰ったら残りの奴全部召喚しちゃうよ。」
「武器といえば、灯音って武器マニアなんでしょ?一番好きな武器はなんなの?」
「あっ、夢月それは…」
「ほう、一番好きな武器か。」
夢月の質問を、少し焦ったように止めようとするカメリア。
しかしもう遅い、その内容になったからには私の話は止まらなくなるぞ夢月。
とはいえ一番好きな武器…正直好きな武器があまりにもあり過ぎてどれが一番なのかと聞かれると少し、いやかなり悩んでしまう。
そうだな…銃器で選んだり、古来の武器で選んだりとか結構絞らないと難しいかもしれない。
「それは銃器とか?それとも剣とか昔の武器?」
「ん〜…じゃあ敢えて昔の武器で!」
「これは暫く止まらなさそうね…」
なるほど昔の武器か。
扱いが得意かどうかは置いておいて、私は大きな刀剣が結構好きだ。
まぁこれは単純に作者の趣味でもあるんだけれど、そうだな…。
「よし、じゃあ取り敢えず好きな武器をどんどんあげていくね。」
「うん!」
夢月の元気な返事を境に、私の好きな武器に関する話は息継ぎをする暇も無いほどに止めどなく続いた。
まず最初に話した好きな武器はエクスキューショナー。
エクスキューショナーとはexecutioner(処刑人)の事であり、その名の通り処刑用に使われていた大剣だ。
特徴としては剣先が尖っておらず、長い長方形の刃が斬首刑の執行を行っていた。
斬首刑として最も有名であるギロチンが開発されるまでの間は広く使われていた大剣であるが、ギロチンが開発されてからは急速に使用されなくなった。
私としてはあの“処刑の為だけに作られた形状”が非常に癖に突き刺さり、数多の好きな武器の中でもかなり上位の方にランクインしている。
もちろん私の中で、の話だが。
その次に話した武器は大太刀と呼ばれる非常に巨大な刀だ。
実践には不向きともとれるその巨大な刀はしばしば創作の中でのみ存在すると言われているが、何とこれは古来の日本において実際に使用されていた武器なのだ。
文献上は全長3m近くの大太刀も存在するようで、なんとその中でも2m越えの大太刀は未だ現存されている。
実際に私はそれを見に行ったことがあるが、とてもじゃないが人が扱うには向いていない巨大な刀であった。
私はこの武器も盛大に推している、私達灯音ファミリーは大太刀を応援しています。
灯音ファミリーって何。
「一つの武器にかける時間が長くない?」
「これでも短くしてる方だよ?」
「う〜んこの武器オタク」
「じゃあ少し趣向を変えてみよっか。」
既に紹介した二つは主に大きい武器を選んで話した訳だが、次はちょっとサイズを落とした物を選んでみよう。
そして最初に思い浮かんだのは“スプリング式トリプルダガー”だ。
短めな一本の剣に見えるビジュアルであるが、実はメインの刀身に二枚の刃が重なってできている剣なのである。
この武器の好きな点、それは変形するところにある。
実はこの武器、刀身にボタンが付いており、そのボタンが押されると重なっていた二枚の刃が二方向へ飛び出すのだ。
使い所は簡単、敵にこの刃を突き刺したとしよう。
その時にこのボタンを押すとどうなるだろうか。
もうお分かりだろう、傷口から更に抉るように二つの切り傷を与えるのだ。
こんな恐ろしい武器が過去に実在していたと思うと、私は震えて涎が出そうな思いである。
…と、そんな事を語っていた訳だが。
「…ってこと。ね、夢月?」
「zzz…」
「寝ちゃったわよ」
「…そっかぁ…。」
どうやら夢月は私の長い話に付き合っているうちに眠りについてしまったようだ。
軽い気持ちで聞いたら、まさか私がこんなに長い話をすると思わずにさぞ驚いたことであろう。
私、この話してる時すごい楽しいんだけどなぁ……。
「私の話って…つまんない?」
「私は好きよ、貴女がね」
「………ありがと。」
別に私自身のことを聞いたわけじゃないのだが、なんとなく少し励まされた気がしたので素直にお礼を言う私。
武器の話になると止まらなくなる癖、どうにかしないといけないな。
そんな私の思いなど露知らず、夢月はスヤスヤと気持ちよさそうな寝顔を晒していたのであった。