ついに陽も落ちて宵を迎えた私達は、準備を整えて家の玄関前に立っていた。
薄暗い空の下、白髪と黒髪と金髪が決意を固めた眼差しで星を眺める。
「ついにこの時が来たね。」
「そうね、あの時の雪辱を果たすわ」
「絶対、姉さんを救ってみせる」
今宵、私達は夢幻館を切り裂く刃となる。
私は自衛、カメリアは私の為、夢月は姉を救う為。
それぞれの想いが反芻し、私達は夢幻館へ足を運び始めた。
夢幻館は博麗神社の裏山にある湖の中心、夢幻世界と現実世界の境界に存在している。
目的が違えば呑気なハイキングと変わりないのだが、今回はそんな和やかな状況ではない。
ところでこれは先程カメリアから聞いた話だが、カメリアは幻想郷に来て“月の神託”という魔術を習得したらしい。
なんでも、月光の下でのみ行使できる古の魔術で、使用している武器や術者自身にその恩恵を享受できるそうだ。
その魔術は淡い白光であるが質量が存在している為に汎用性が高く、様々な状況に応じて使い分ける事が可能との事。
流石カメリアと言うべきか、幻想郷に来て間も無いのにも関わらずこの世界に適応するのが非常に早い。
まぁカメリアはハーフヴァンパイアであるから、過去にそういった非科学的な力に触れていてもおかしくはないが。
「夢月、ここから夢幻館までどれくらい?」
「ここからなら七十五里くらいかな、大体だけど」
「それなりに離れてるのね」
「幻想郷の中心部からかなり外れた位置にあるから仕方ないよ」
下手したら夢幻館に辿り着くまでに体力を大分消耗してしまうかもしれない。
そこまで距離があるのであれば、夢幻館近くでキャンプ地を設営して叩きにいた方が良かっただろうか。
いや、今回相手取る奴らはかなりの強者揃い。
下手に近くでキャンプをして気配を探られてしまえば、寝込みを襲われて何の抵抗も出来ずに終わってしまう可能性がある。
それでは本末転倒だ。
と、ふとカメリアが操られていた時の事を思い出した。
夢月曰く、幻月とやらも正気を失っているらしいし、夢幻館の誰かが精神を操る能力か何かを持っている可能性がある。
これは妹紅にも言われた話だ、夢幻館までせっかく時間が有り余っているのだし少し聞いてみてもいいかもしれない。
「ねぇ夢月、夢幻館メンバーの能力について教えて欲しい。」
「あぁそうだ、教えておくべきだったね。とはいえ、能力を持ってるのは幽香と幻月姉さんだけなんだけどね」
「そうなの?」
夢月が言うには、夢幻館のメンバーは幽香と幻月しか能力を持っていないらしい。
門番であるエリーとくるみは能力を持っておらず、それぞれ独特な戦法で侵入者を払ってきたそうだ。
幽香の能力は前に説明された通り、花を操ることができる能力。
ただ、実は幻月が持つ能力がなかなかに厄介らしい。
「血を操る程度の能力」
「…血?」
「そう、血」
“血を操る程度の能力”、名だけ聞くとあまりイメージがパッとしない能力だ。
だが夢月が厄介だと言う以上、それなりには強力な力なのだろう。
「血を操る…この世に存在する全ての血を意のままに操れるってこと」
「血を操る…っていうのがよく分からない。」
「結晶化して剣にしたり…とかかしら?」
「カメリアの言うように結晶化するのもできるし、相手の傷口に触れて血流を止めることも出来る」
「血流を止める…って、確かにそれは厄介だね。」
人の血流が4〜5分止まると脳の細胞が死んでしまう。
彼女はそれを傷口に触れるだけでいとも容易く行ってしまうようだ。
それに、その理論だと自らの傷も簡単に止血することが可能なのだろう。
実質、不死の存在。
そんな厄介な相手を一人で請け負う夢月は流石と言うべきか、並々ならぬ覚悟と決意を宿しているのだろう。
「…そうなるとカメリアを操れそうなのは、幽香くらいか。」
「確かにそうね」
「植物を操る能力で?どして?」
血を操ることで他者の思考まで意のままにすることは考えにくい。
ならば植物を操る程度の能力を持つ幽香がカメリアを操っていたと見て間違いないだろう。
植物には様々な種類がある。
私の知っている中だけでも、幻覚症状などを引き起こす毒を持った植物はいくらか存在しているのだ。
おそらく幽香はそれを用いてカメリアを操ったのであろうと私は推理する。
「植物にも、色々あるのさ。」
「なるほどねぇ…」
納得したのか分かっていないのか定かでは無いが、夢月がなるほどと唸った事でその会話は一旦終わった。
それから私達は各々聞きたいことを夢月に聞いたり、適当な雑談をしながら急ぐこと無く夢幻館へ足を運んだのであった。