既に月が登り、私達はついに夢幻館の入口に辿り着いていた。
夢幻館は紅魔館程では無いにしろ非常に大きく、見る者すべてを圧倒するような存在感を醸し出していた。
「ついに…辿り着いたね。」
「そうね、少しだけ緊張するわ」
「幽香…ぶちのめす!」
いざ目的地に辿り着くと、固めていた決意も少しばかり崩れていきそうになる。
それは夢幻館の大きさによるものではなく、この館から漂う恐ろしい妖気によるものであろう。
少し当てられているだけで感じるこの恐怖、戦慄、嫌悪感。
これらが私の額に冷や汗を浮かばせていた。
「皆、準備は平気?」
「えぇ、いつでも平気よ」
「私も平気、気引き締めていこう」
頼り甲斐のある二人のセリフに安心感を覚える。
きっと私一人では対処しきれなかった問題だ、それなのにこの二人が協力してくれたおかげで今があるのだ。
二人に大きな感謝を胸に、私は夢幻館の大きな門に手を掛けた。
「よし…行こう!」
「えぇ」
「っしゃ!!」
ギギギギと低く鈍い金属音を響かせながら、その扉はゆっくりと開いた。
夢幻館の広大なエントランスからは外とは違った強い妖気が放たれており、私に一瞬のたじろぎを余儀なくする。
しかし、それでも私には二人の仲間がいる。
私を愛してくれているカメリア、姉を助ける為に協力してくれている夢月。
かけがえの無い、狂おしい最愛の仲間達。
ならば、私は前に進むしかない。
どれほどの恐怖、どれほどの力に呑まれようとも、私は絶対に退かない。
二人が私を守ってくれるなら、私は二人を守る盾になる。
場合によっては人柱となることも厭わない。
私は、意地でも夢幻館を制圧してみせる。
するとエントランスの奥から、その背丈よりも大きな漆黒の翼を拵えた少女が歩いてきた。
「おや夢月、幽香の命令を遂行してきた…ってわけじゃ無さそうだね?」
「くるみ、私は…」
姿を現して早々に夢月へ黒剣を向けたその少女、くるみは全て理解しているというように言った。
それに対しなんら驚く様子も無く、夢月は淡々と言い放つ。
「幽香を、倒す」
「へぇ…アンタじゃ無理だよ」
そう言い放ったと同時に床を蹴ったくるみは、黒剣を夢月に向けて振り下ろした。
しかしその黒剣は夢月には届かず、夢月の眼前で緋い刃と拮抗する。
驚いたように口笛を鳴らしたくるみは刃の主、カメリアを見て口角を上げた。
「丁度いいね…偶然の産物だったとはいえ、お前は私が殺りたいと思ってたんだよ」
「奇遇ね、私もそう思っていたところよ」
睨み合うカメリアとくるみ。
半吸血鬼と吸血少女の戦いが今ここに始まるのであった。