止めどなく響く喧しい銃声の中、お互いの言葉を聞き取れずに叫び続ける妖怪と人間。
人間は手に持ったアサルトライフルを連射し続け、妖怪は極端に湾曲した大鎌で銃弾を弾いたり、妖怪ならではの凄まじい身のこなしで銃弾を回避している。
撃ち続けていたライフルの銃弾が遂に切れ、私は何個目かのアサルトライフルを投げ捨てた。
「はぁ…はぁ…もうおしまい?」
「はぁ…そんなまさか…はぁ…。」
息を切らしながら余裕を見せる二人。
その疲労は苛烈な戦いによるものではなく、きっと大声で叫び続けていた故のものだろう。
アサルトライフルの弾倉を枯らしてもエリーには傷一つ付かなかった。
仮にもう一度アサルトライフルを召喚して撃ち続けたとしても、恐らく結果は変わらないだろう。
別に傷をつける必要は無いのだ。
私は次なる作戦を決行する為、重量のある金属の筒を召喚した。
その筒には小さな持ち手が2つ付いており、先端にはロケットのような物が挿し込まれている。
その持ち手を両手それぞれで持ち、先端をエリーに向けて構えた。
「あら、それはなぁに?」
「七作目のロールプレイングゲーム。」
「……?」
私は人差し指を出っ張りに引っ掛け、静かに指を引く。
その瞬間、筒の先端に挿し込まれていたロケットのような弾頭がパシュッという音と共に放たれた。
「RPG-7。」
「なっ…!?」
RPG-7
かつてソ連によって開発された対戦車兵器であり、その歴史を辿るとベトナム戦争まで遡る。
現代では対戦車兵器としては旧いものとされている兵器であるが汎用性が高く、多岐にわたる用途に使用することが可能なので現在も多くの国で使われている代物だ。
2つの持ち手が付いた金属の筒にロケット弾頭を挿し込んだような風貌であり、トリガーを引くことで弾頭を放ち、その弾頭は着弾と同時に爆発する。
爆発の威力は現代のものと比べれば劣るが、旧式とはいえ対戦車用であったので充分な破壊力だ。
弾頭はドカーンと爆音を響かせて爆発し、大小様々な瓦礫を散乱させる。
その衝撃で夢幻館が鳴動し、壁の蝋燭に灯されていた蒼炎の殆どが消えた。
「きたねぇ花火だ。」
ペチータ!?
爆発の威力は凄まじく、それは本来のRPG-7では到底出せないものであった。
威力が充分とはいえ、妖怪相手では心許無かろう。
それならば最初からもっと威力の高い物を使えば良かったのだが、下手したら建物が崩壊する恐れもあるし、自分が爆発に巻き込まれる可能性があった。
まぁ、何よりも一番の理由は私がRPG-7を気に入っているからなのだが。
「芸術は爆発だね。」
私はこの弾頭を放つ前に、アサルトライフルを連射し続けていた。
しかしライフルの弾はエリーに弾かれ、躱され、その後どこへ行ったのか。
簡単な話だ、弾かれたり躱されたりした銃弾は床や天井、壁などに牙を剥く。
銃弾が牙を剥いたことによって破壊された天井、床、壁。
破壊されたことによって、着弾地点からは小さな欠片が無数に落下する。
落下した無数の欠片は積もってゆき、極繊細なものはまるで粉塵のように空間を漂っていた。
粒子が漂っているその空間に突如発生した、高い熱を孕んだ爆発。
───粉塵爆発。
空気中に漂う非常に繊細な粒子は、周囲に充分な酸素がある場合、燃焼に対し極めて敏感になる。
火気があれば爆発的な燃焼を起こすのだ。
粉塵爆発の威力は絶大、例え妖怪であろうと無傷ではいられないものである。
「はぁ…うぅ…な、なんて威力…なの…」
粉塵が晴れ、黒く焦げたタイルと満身創痍のエリーが現れた。
僅かに残された蒼炎によって仄かな明かりがエリーを照らす。
綺麗だった赤いドレスはボロボロになり、破れたスカート部分からは白い太腿を晒している。
こういったボロボロになって肌が露出している女性は筆者の趣味ではあるが、残念ながら私の趣味ではない。
「やっぱ妖怪なだけあるね。血だらけではあるけど、どこも捥げてない。」
私はRPG-7を消し、新たに別の武器を召喚する。
突く機能を必要としない為に先端が平たくなっている大剣、名をエクスキューショナー。
そう、私が先日夢月に紹介した武器である。
重量のあるその大剣は、受刑者の首を切断する為のもの。
「ッ…まっ、まだやるの?私、もう動けないわよ…っ!」
彼女は夢幻館の妖怪。
その言葉が嘘で、私が背を向けた瞬間に襲いかかってくるかもしれない。
仮に今動けないとして、妖怪の彼女は傷の治りが早いはず。
ならば確実に動きを止めさせてもらわなければならない。
気は進まないけどね。
私はボロボロになり、へたり込んでいる彼女を蹴り倒した。
蹴り倒された彼女は仰向けに倒れ、恐怖の瞳で私を見上げている。
「これはさぁ…人の首を切断する為の大剣なのさ…。」
「……ッ」
私はエクスキューショナーを肩に乗せ、廊下の奥を眺めながら淡々と言葉を紡いでいった。
廊下の奥では、先程の爆発で生き残った蒼炎がゆらゆらと揺れている。
まるで俺は爆発に勝利したんだとでも言わんばかりに。
「今はそんな事、倫理的にできるわけないじゃん…?だからさぁ…。」
私はリボルバーを召喚し、廊下の奥に向けて引き金を引いた。
ゆらゆら揺れていた蒼炎が銃声と共にフッと消える。
大廊下が暗くなると共に、私は口角を上げてエリーを見下ろした。
「貴女で試させてよ…ねぇ、エリー…?」
「ッ!?そんなっ…死んじゃうじゃないっ!やめてよっ!」
恐怖の表情を見せながら力無く暴れ回るエリー。
こんなに暴れられたら狙ったところを切断できないじゃないか。
私は旧式の刺股を二本召喚し、ドレスが破けて露出している左足に突き刺した。
一本目は太腿に、二本目は足首に。
「あぁっ…!痛いぃ……っ!」
「大袈裟だなー、タンスの角に足の小指をぶつけたくらいのもんでしょ。」
完全に固定されたエリーの左足。
流石に首を切断したら本当に死んでしまうので、今回は足だけを貰っていこうと思う。
刺股が刺さった事で流血した
「じゃあ、いくよー。」
「や、やめっ…」
私がここで時間をかけている間に、夢幻やカメリアが危険な目に遭っていたら大変だ。
サクッと終わらせる為、私はエクスキューショナーを構え、エリーの左足に向けて全力で振り下ろした。
ゴリッ
「イヤァァァァァァァッ!!!!!」
白い皮膚から入り、柔らかい血肉、そして骨。
全てを切断する完食が、たったの一振りにして連続する。
断末魔のような絶叫をあげたエリーは大粒の涙を流しながら気絶した。
それを確認した私はエクスキューショナーと足に刺していた刺股を抜き、使っていた全ての武器を消す。
膝の少し上から切断された足を拾い、まじまじと見つめる私。
大剣によって独立してしまった白い足は、白い肌に紅い血液が掛かることによって美しく彩られていた。
「これもある種の芸術かもしれないね。」
私は持っていた足を投げ捨て、煙草に火を灯した。
一仕事終えた後の一服は格別なのだ。
ゴンッ
なのだが、足を投げ捨てた先から不自然な衝突音が聞こえたきた。
もしかしてこの大廊下で残業?
めんどくさいなとか思いながら振り返ると、そこには私の大切な……いや、見慣れた顔があった。
「カメリア、無事?」
「私は無事よ、灯音も無事なようで何よりだわ」
腰に緋焔刃を差し、右手に十文字槍を持った白髪のハーフヴァンパイア、カメリアである。
夢幻館に来るまで新品同様だった十文字槍には無数の傷が刻まれており、先程まで苛烈な戦いをしていたのであろうことを予測させた。
「ところで…」とカメリアが一言。
「趣味を否定するつもりは無いけれど、人に投げつけちゃ駄目よ」
「ごめ…ん?趣味?」
私が先程投げたエリーの足を持ってヒラヒラと揺らすカメリア。
恐らく頭に当たったのだろう、切断された足の血がカメリアの髪に付着し、白髪に赤のメッシュカラーを入れていた。
一瞬カメリアの言っている事が理解できなかったが、私は数秒置いてカメリアの言葉の意味を理解した。
「いや、趣味はスプラッタじゃないから。」
「隠さなくてもいいわ、返り血が雄弁に語っているわよ」
「いや、語ってないわ。殺したくないから足を切断して…って分かってて言ってんでしょ。」
「あら、バレた?」
「笑い堪えてんのバレてる。」
「ふふふっ、よく見てるのね」
「うるさいな…馬鹿。」
全く、夢幻館に来てまでイチャイチャする羽目になるとは思わなかった。
カメリアと一緒に居ると、なんか調子を狂わされるのだ。
でも、それと同時に安心感と安らぎを感じられるんだけれどね。
尤も、私達がこんなのんびりしているのは一服しているからなのだが。
「とりあえず、吸いながら進もっか。」
「えぇ。灯音、帰ったらハグしていいかしら?」
「…考えとく。」
「ふふっ、ありがと」
「どういたしまして…。」
歯切れの悪い返事をした私は、煙草を吸いながらカメリアと共に歩き出した。
エリーが塞いでいた、大廊下の奥の扉へ。
本当に、調子が狂う。
なんだかまた不安になってきてしまった。
不安になるのは、調子を狂わされるからなのだろうか。
…いや、きっと違う。
失うのが、怖いからだ。