東方空蝉録   作:Amaryllis___

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姉妹喧嘩は意外と頻発する

色々な物が散乱した部屋にビリビリとした魔力が漂っていた。

幻月の魔力量は私より劣るが、肉体的な戦闘力は私を遥かに凌駕している。

私が強い魔力をぶつけようが、悲しいかな、幻月の高いフィジカルでそれは相殺されるのだ。

 

 

 

「姉さんは、幽香を許せるの?」

 

 

 

できる事なら戦いたくはない、もし説得して済むならこれ以上の事は無いのだ。

私は黒い刃を構えながら魔力を練り、その状態のまま幻月の説得を試みる。

 

幽香は私達の夢幻館を奪った。

生命というのは昔から武力を以て様々な権利を得るものであったし、負けた私達が住居を奪われるのもおかしくはない。

しかしそれに納得できるほど、私の姉さんへの愛は軽くないのだ。

 

 

 

「…幽香について行けば、私達は安泰だ」

 

 

「でも、ここは私達だけの夢幻館だったはずじゃん」

 

 

「悪魔がゴチャゴチャと理屈を捏ねるな、情けないぞ」

 

 

 

私達は負けた。

けれど命はあるし、奪われたといっても私達はここで暮らし続けることが出来ている。

きっと負け犬にしては上等な待遇なのだろう、しかしそれでも私は納得がいかない。

 

幽香が私達より強いからついて行く、それは違う。

私達は私達で歩むべきなのである、誰かについて行くなんて弱者のすることだ。

 

 

 

「負けたまま納得してる姉さんの方が情けないよ!」

 

 

「黙れ!夢月、お前はなんにも分かっちゃいない」

 

 

「…ッ」

 

 

 

突然怒鳴った幻月に、私はビクリと身体を震わせた。

姉さんは間違っている。私は絶対にそう思うのだが、やはり怒鳴られると少しばかり萎縮してしまう。

 

やはり説得は無駄なのだろうか。

幻月は昔から一度決めたことは曲げない性格であった。

姉さんの選択はいつだって正しかったし、だから私は姉さんの決めることに異存はなかった。

 

でも今回は違う。

私の納得がいく説明が無い限りは絶対に諦めない。

 

 

 

「私は、姉さんを越えるよ」

 

 

「やってみろ」

 

 

 

私は二本のブラックニンジャソードを握る手に力を込め、魔力を解放した。

私の体から迸った眩い紫電が散乱した室内を紫色に染め、バチバチと鳴き喚く。

 

幻月は私の魔力に驚いた表情を見せることなく、血液で出来た大剣を片手で構えた。

腰を低くして体の右方に刃を立てるような構えは、かつて深淵を歩いたと言われた騎士を彷彿とさせる。

 

 

 

「さぁ夢月、お前の力を見せてみろ」

 

 

「言われなくても…」

 

 

 

黒刃に紫電を纏わせた私は、両腕を横に広げて腰を深く落とした。

イメージするのは隼、隼の如く素早い動きで双刃の連撃をお見舞するつもりだ。

 

大剣を構えたままじっと動かない幻月に対し、私は足にありったけの力を込めて床を蹴り飛ばした。

 

 

 

「見せてあげるよッ!」

 

 

 

須臾に幻月の眼前に躍り出た私は、出せる限界の速度で両の手に携えた黒刃にて連撃を繰り出した。

紫電の弧が一秒と経たぬ間に大量に描かれる。

決して遅くは無い速度、消して弱くはない威力。

 

その斬撃に対し、避けようとも防ごうともしない幻月。

刃を振る度に幻月の体に一つまた一つと切傷が刻み込まれ、夥しい量の血飛沫を上げ続けた。

いくら悪魔の体が丈夫とはいえ、魔力を込めた斬撃を幾度も食らってしまえばひとたまりもないはず。

 

 

 

「姉さん…!なんで避けないの…ッ!」

 

 

「良い連撃だな、夢月」

 

 

 

室内には大量の血液が飛び散り、ついには壁や床、天井までもが真っ赤に染まってしまった。

動揺を隠せないながらも連撃を続ける私に、なんの回避行動もとっていなかった幻月が突然赤黒い大剣を振り下ろしてきた。

 

幻月の突然の攻撃に驚くも、私はその攻撃をバックステップで躱し、そのまま後退した。

 

 

 

「イタタ…体がビリビリするよ」

 

 

「刃に私の魔力が込められていた事に気づかない姉さんじゃないでしょ、なんで避けなかったの」

 

 

「妹の成長をこの身で感じ取りたかったから、たったそれだけだよ」

 

 

「…ッ」

 

 

 

心配を込めた私の質問にニコリとはにかんだ幻月。

そんな姉さんを見た私はつい目を伏せてしまう。

この期に及んでこの人は何を言っているのだろうか。

 

ニコリと口角を上げたまま、幻月は私に綺麗な赤い瞳を向けた。

 

 

 

「なんて、そんなわけないだろ?」

 

 

 

依然笑顔のままの幻月だが、突如その表情は狂気を多分に含んだものへと変容した。

幻月の赤い瞳がキラリと煌めいたと思ったその刹那、部屋中に飛び散った血液が鋭い棘に変化して全方向から私に襲いかかる。

 

そんな突然の事象に対し、ピクリとも動かずに目を伏せたままの私。

 

 

 

「姉さん……」

 

 

 

迫り来る無数の棘に刃を向けるわけでも、回避するわけでもなく、私は静かに幻月へ金色の瞳を向けた。

その瞬間に幻月が見た私の口角は、まるで悪魔のように吊り上がっていたことだろう。

 

 

 

「分かりやすすぎ」

 

 

 

その刹那、紫色の閃光と共にバァンという爆発音が室内に反響する。

部屋中を支配する紫色の光が、夥しい量の血液によって赤く染まった室内を紫色に塗り替えた。

その閃光によって、私を穿かんと伸びていた無数の棘は須臾に弾け、その性質を固体から液体へと変容させてボタボタと落下した。

 

 

 

「!?」

 

 

「驚いた?たったの数日で私の魔力はこんなにも純度を高めたんだよ」

 

 

 

有り得ないといった表情で私を見た幻月は、一秒足らずの一瞬の隙を作ってしまう。

本当に一瞬、しかしそれを見逃す私ではない。

 

私は両の手に携えたブラックニンジャソードを幻月に投げつけ、幻月の両腕を壁に固定させる。

穿かれた両腕は力を失い、右手から瀉血ノ劍(しゃけつのつるぎ)を落下させた。

 

 

 

「姉さん…一緒に、幽香を倒そ?」

 

 

「…幽香は、私達で勝てる相手じゃない…それは分かっているはずだろう?」

 

 

「私はこんなに強くなった、それに二人の仲間もいる…あとは幻月姉さんさえ来てくれれば百人力だよ?」

 

 

 

腕を固定されている幻月だが、きっと彼女には拘束を解く術も、反撃をする術も残されている。

しかし、彼女はこれ以上なにかアクションを起こす様子は無い。

 

私の力を認めたのか、それとも説得に応じる気になったのかは分からない。

もしかしたらそれ以外の何かがあるのかもしれない。

すると幻月は静かに俯き、ゆっくりと私に語りかけ始めた。

 

 

 

「私は…夢月を失うのが怖かったんだ」

 

 

「え…?」

 

 

 

幻月は何処か切なげな表情を浮かべ、私を見つめる。

純度の高い綺麗な赤い瞳、そこには先程のように狂気的なものは一切無い。

その瞳には涙が溜まっている…というわけではないが、唇を噛むような仕草からは涙を堪えているのだろうということが見て取れた。

 

 

 

「私と夢月は幽香に負け、夢幻館を奪われた。奪われたのは確かに癪だが、殺すことも出来ただろうに私達は生かされた。」

 

 

「…うん」

 

 

「けど、もし幽香にリベンジマッチを挑んで負けたら…次は殺されるかもしれない」

 

 

 

幻月は悔しいような悲しいような、名状し難い声色で淡々と語り続ける。

私達は負けた、しかしある意味で幽香に命を救われた…悔しいがそれは否めない。

 

 

 

「私が死ぬのは良い、だけど夢月が死ぬのは…怖いんだ」

 

 

「ってことは姉さん…洗脳されていたわけじゃ無かったの…?」

 

 

「私は昔から頑固だろ?洗脳なんて効かないさ…けど、萎縮していたのは確かだな」

 

 

 

幻月は能力で血液を操作し、両腕に刺さったブラックニンジャソードをゆっくりと抜いた。

固定を解かれたブラックニンジャソードは支えを失い、自由落下によって床とぶつかり合う。

 

拘束から解放された幻月は、落下した二本の黒刃を爪先で蹴り上げると、片手で纏めてキャッチした。

 

 

 

「ごめんな、私らしく無かった。要は勝てばいいだけだもんな」

 

 

「!じゃあ…!」

 

 

 

幻月は二本のブラックニンジャソードを片手で私に返し、ニコリとはにかんだ。

その笑顔からは先程のような裏の表情は一切感じ取れない。

そんな幻月を見た私はブラックニンジャソードをスカートの鞘に納刀し、返り血に染まった服で血塗れの幻月に抱きついた。

 

 

 

「幽香を…ぶっ飛ばすぞ!」

 

 

「ぶっ飛ばーすっ!」

 

 

 

こうやって姉さんに抱きつくのはいつぶりだろうか。

記憶を辿っても最早それは分からないが、私は久しい幸せに安堵し、満面の笑みで涙を零した。

 

幽香さえ倒せば、私達の幸せな日常は再来する。

幻月が能力で自らの傷を治した後、私達は二人と合流する為に血塗れの部屋をあとにしたのであった。

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