東方空蝉録   作:Amaryllis___

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妖喰らいと呼ばれた女

一服を済ませた私達は、大廊下の扉を開ける。

すると扉の先には、先程までカメリアがいたエントランスのように広い空間が展開されていた。

 

その広間は確かにエントランスに酷似しているが、エントランスとは違った装飾がいくつか施されており、中央には扉、左右の二方向に分岐路を伸ばしていた。

 

 

 

「紅魔館程じゃないにしろ、広い建物ねぇ」

 

 

「ほんとだね、これが元々夢月と幻月の二人だけの館だったなんて思えないな。」

 

 

「掃除も大変だしねぇ」

 

 

 

そんな適当な感想を言いながら、さてどの道を選ぼうかと考えていると右方の道から二人分の足音が聞こえてきた。

私達はその足音に警戒を示し、それぞれの武器を構える。

 

やがて足音が近づいてきて、その主は姿を現した。

一人はもはや見慣れた存在、青いメイド服を纏った血塗れの悪魔、夢月。

その背には私が召喚した戦鎌が顔を覗かせている。

もう一人は夢月とよく似た顔をしてはいるものの、赤い衣服を纏った血塗れの見慣れぬ女性だ。

その背からは天使のような白い翼が顔を覗かせていた。

 

 

 

「夢月。」

 

 

「灯音、カメリア、無事で何よりだよ」

 

 

「夢月も無事で何より、その人はもしかして?」

 

 

「紹介するよ、()()()()()()()だよ」

 

 

 

私の幻月姉さん。

夢月はそう言うと、幻月の方を向いて微笑んだ。

普段私達には見せない“愛”に満ちた微笑みに少し心を奪われそうになるが、私にはそんな微笑みを向けてくれる半吸血鬼がいる。

 

幻月と呼ばれたその女性は一歩前に出ると、牙のはみ出た口を緩ませた。

 

 

 

「幻月だ。色々と迷惑をかけたようですまない、一緒に幽香を倒そう」

 

 

「私は灯音、よろしく。」

 

 

「カメリアよ、よろしくね」

 

 

 

赤い衣服に赤いリボンといった、赤のよく目立つ装いのその女性は意外にも男勝りな口調で自己紹介をした。

 

夢月曰く、幻月は操られていたわけではなかったらしい。

双子の妹である夢月の命を守るため、不本意ながら幽香に従っていたとのこと。

しかし純度の高まった夢月の力をその身に受け、それならばと幽香への反逆を決めたようだ。

 

いい姉じゃないか。

 

 

 

「さて、幽香は中庭にいるらしいから行こう」

 

 

「わかった、皆は平気?」

 

 

「ええ、大丈夫よ」

 

 

「いつでも平気だ」

 

 

「よし。」

 

 

 

その返事を確かに聞き、パァンと自分の顔を叩いて気合を入れる私。

普段は吸わないような見慣れぬ煙草に火を灯すカメリア。

背中の鎌を手に取り、軽く振り回してから肩に乗せる夢月。

確かな闘志を見せる瞳に魔力を宿す幻月。

 

それぞれがルーティンを見せ、私達は緊張を走らせながら中庭に向かったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢幻館の中庭。

不明瞭な色の空、蒼月が光を注いでいる。

多種多様な色を見せる花達は、今だけは月に倣った蒼い光によってその身を蒼く染めていた。

私はその可憐な花達を愛でながら、花達を刺激しないように静かに呟く。

 

 

 

「随分と騒がしいお客さんが来ているようね」

 

 

 

私は手に携えた日傘をクルクルと回しながら後方を振り返る。

 

そこには古ぼけた赤と黒の衣服を纏った女性が鉄塊のような大剣を肩に乗せて立っていた。

その瞳は澱んだ血のような紅と灼けた鉄のような赫がグラデーションになった風の色であり、閉じられた口からは鋭い牙が覗いている。

 

 

 

「……そう。」

 

 

「三人は私が相手するわ、貴女は…」

 

 

「灯音とやるわ。」

 

 

 

赫い瞳を鋭く光らせ、目にかかった黒い前髪を耳に掛ける彼女。

蒼月の光に晒されて全身を蒼色へと変容したその姿は、まるで人とも妖怪ともとれぬオーラを纏っていた。

 

その姿を見た私は口角を上げ、日傘を閉じる。

 

 

 

「“妖喰らい”の実力、楽しみにしているわよ…燻莉(くゆり)

 

 

「ふっ…ふふふっ…あはっ…あはははははっ!」

 

 

 

妖喰らい(スペクターイーター)

その名の通り、妖を喰らう者。

それは幻想郷では禁忌とされており、呪われた行為と認識されている。

妖喰らいは博麗によって幻想郷から追い出され、二度と博麗結界の内側に立ち入ることを許されない。

それほどの大罪なのだ。

 

すると、その女性…燻莉は狂ったように笑い出した。

空を仰ぎながらお腹を抱えて笑い続けた燻莉は、突然鉄塊のような大剣を私に振り下ろした。

刀身だけでも2メートルはあろうその大剣を、彼女はナイフでも扱うかのように軽々と振るうのだ。

 

突然の事象に驚きつつ、私はその攻撃を躱して燻莉の表情を探った。

彼女の表情に怒りは感じ取れない、それどころか優しげに微笑んでいるのだ。

微笑みつつも殺意の一撃を放つような、そんな行動と表情のミスマッチに困惑する私。

 

 

 

「私をまたその二つ名で呼ぶと、この庭に()()()()()()()()()ことになるけれど…貴女は彼岸花がお好き?」

 

 

「…彼岸花は好きだけれど、遠慮しておくわ」

 

 

「ふぅん、そう。」

 

 

 

言動を聞く限り、どうやら確かに憤りを感じているようだ。

しかし表情だけはどうもマッチせず、燻莉は依然微笑みを見せ続けている。

 

まるで狂人。

とても人とは思えない燻莉の様子に、大妖怪であるはずの私ですら少しばかり怯んでしまう。

 

 

 

「それにしても、久々に会うわねぇ」

 

 

 

そう言って燻莉は振り下ろした大剣を軽々と持ち上げ、蒼月の光に当てた。

蒼月の光に当てられた大剣は黒い刀身を仄かに蒼く染める。

 

燻莉の持つ独特な形状の大剣には名前が無いらしく、最早いつから使っているのかも定かではないそうだ。

その刀身は分厚く、太く、長い。

先端の丸い刃は左右に尖り、鋭角に屈折して直線をなぞっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

燻莉は先端の湾曲した部分から蒼月を見上げ、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

「灯音、きっと貴女なら…」

 

 

 

燻莉は掲げた大剣を再び肩に乗せ、口が裂けそうな程に口角を吊り上げた。

彼女は生物学上は人であるはずなのに、どこからどう見てもその表情は悪魔のようである。

きっとそれもまた、彼女の過去がそうさせるのだろう。

 

燻莉は口角を吊り上げたまま、静かに蒼月を仰ぐ。

その横顔には赫い雫が伝っていた。

 

 

 

 

 

()()娘になってくれるでしょう?」

 

 

 

 

 

赫い瞳から零れた赫い雫は庭の花に落下し、白い花を赫く染めた。

それは彼岸花よりも赫く、蝕む毒よりも恐ろしく……

 

 

 

…なによりも美しかった。

 

 

 




大剣は描こうと思ったんですけど、ちょっと難易度高かったんでイメージとして煙特貼らして頂きました。
人は歳をとると“妥協”という言葉を知ります、つまり私はたまたま歳をとっていただけなのでしょう。しらんけど
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